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    かけはし2019年3月18日号

合意なき米朝首脳会談


2・27〜28

「ディール外交」終った

今こそ問われる日韓民衆連帯

安倍政権の敵対を許さない

「小さな成果」はいらない

 二月二七〜二八日にベトナムのハノイで行われた二回目の米朝首脳会談は、何ひとつ合意されることなく幕を閉じた。当初、今回の会談には同行しないと表明していたネオコンで対北朝鮮強硬派のボルトン大統領補佐官(安全保障担当)の拡大会議への出席は、今回の結末を暗示していた。
 中間選挙を終えた米国政治は、すでに来年夏から本格化する次期大統領選に向かって動き出している。現在のトランプの最大の関心は大統領再選である。もちろん対北朝鮮政策もその一環だということができる。そして再選のための最大の難関が、ロシア疑惑を始めとした自身にかけられた数々の疑惑追及を無難にかわし切ることができるのか否かということだ。
 下院で多数派を握る民主党は、今回の米朝首脳会談に日程をぶつける格好で下院監視・政府改革委員会の公聴会を開き、前回の大統領選期間を含む一〇年間以上にわたってトランプの側近であり顧問弁護士であったコーエン被告に証言をさせた。コーエンの証言内容は、選挙資金法違反にかかわる「不倫問題もみ消し疑惑」と、ロシア当局との接触にかかわる「モスクワにトランプタワーを建設する計画」についてであった。コーエンは冒頭で「彼の不法行為の隠蔽に加わったことを恥じている。彼は人種差別主義者で、詐欺師で、ペテン師だ」とトランプをこき下ろした。そして「トランプ氏は米国でなく自分のブランドを偉大にするため出馬した」「トランプ陣営がロシアと共謀していたことを示す直接の証拠は知らないが、疑いは持っている」などと証言した。
 トランプはこの公聴会をハノイのホテルのテレビで見せられる羽目になった。証言内容はあらかた予想していたであろうが、時差も含めてその夜は一睡もできなかったことだろう。トランプにとって米朝首脳会談での「小さな成果」は、もはや何の魅力もないものになってしまったのである。

重くのしかかる制裁

 今回の米朝首脳会談を前にして多くの専門家は、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の「核実験とミサイル発射の停止措置」を前提として、朝鮮の核開発・製造の最大拠点である寧辺(ニョンビョン)施設廃棄の提案に対して米国は、人道支援や南北経済交流の一部で経済制裁を緩和するのではないかと予想していた。また韓国政府が強く提案していた朝鮮戦争の終戦宣言を上げていた専門家もいたが、これに対しては朝鮮の側が興味を示してこなかった。
会談内容は米朝両国の発表で若干の違いはあるが、それは最初から合意を前提とする内容ではなかった。ハノイで記者会見した朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は「国連制裁の一部(民需経済・人民生活に関連する一六〜一七年に採択された五件)を解除すれば、寧辺のすべての核物質生産施設を米国の専門家らの立会いの下で完全に廃棄する」また、「核実験や長距離ミサイル実験を永久に中止するという確約も文書で出す用意がある」ことを明らかにした。そして合意できなかったのは「米国が準備できていなかった」からだとした。
一方、米国務省高官は朝鮮側が「寧辺核施設の一部を閉鎖するので、兵器関連を除く一六年三月以降に実施されたすべての国連制裁の解除を要求した」と明らかにした。またトランプもFOXニュースのインタビューで「金正恩はある一定分野の非核化を提示したが、私はすべての非核化を要求した」「彼らは準備ができていなかった。それもよく理解できる」と述べた。
朝鮮側が解除を求めた一六年以降の国連制裁は、朝鮮が核実験やミサイル発射実験を実施するたびに追加されてきたものだった。その内容は、一六年一一月―石炭の禁輸(輸出総額の三八%)中国も賛成。一七年六月―金融機関などの資産凍結、渡航禁止。八月―鉄鉱、鉛、海産物の禁輸、国外就労の禁止。九月―石油供給の上限設定、繊維製品の禁輸、国外労働許可の発給禁止。そして米国全土が射程となったICBM発射実験に対して一二月―資産凍結の拡大、石油供給の制限強化、禁輸品目の大幅拡大(銅、ニッケル、アルミ、亜鉛、すずなどの金属・機械、電気機器、鉄道関連、航空、船舶などの機械類・そして果実、ナッツ、野菜、飼料、塩、木材・・・)、国外労働者の二年以内の追放というものだった。ここに制裁破りに対して制裁をするとする一七年九月の米国独自制裁も加わることになる。
朝鮮への経済制裁は徹底したものである。国境が接する中国やロシアなどとの闇経済による流通や、瀬取りによる石油取引などが行われてきたとはいえ、二年以上続く制裁によって朝鮮人民の生活は、食料や日用品やエネルギーなどの不足によって相当、疲弊しているに違いない。「制裁が解除するまで耐える」人民が、今回の米朝会談に期待した思いは相当なものであったろう。しかし金正恩はその期待に応えることができなかったのであった。トランプと金正恩との個人的な関係は維持されるものの、今後これまで以上に国内問題と通商問題に時間を取られることになるトランプとのディール外交は終わったとみていいだろう。「制裁解除をどうするのか」その宿題は金正恩にこれまで以上に重たくのしかかったのである。

敵対続ける安倍政権

 そもそも金正恩体制によって進められてきた朝鮮の核・ミサイル開発は、軍事外交的というよりも国内新体制の権威固めのための政治的な手段という側面がはるかに強かった。すでに韓国とは不可侵協定が結ばれているし、恒常的な軍事・経済の連絡態勢も敷かれ、非武装地帯(DMZ)での地雷撤去作業や南北間の鉄道・道路連結事業の着工式も行われている。韓国は今年の「国防白書」で朝鮮を「敵規定」から除去した。三〜四月に予定されている米韓合同軍事演習の規模縮小も二年続けて正式に発表された。張成沢(チャン・ソンテク)の処刑や金正男(キム・ジョンナム)の暗殺などによって険悪化していた中朝関係も昨年一年間で安定化したし、露朝首脳会談の動きも始まっていて、今春にも東シベリアで開かれようとしている。朝鮮をめぐる政治環境は良い方に向かっていると言える。今後、韓国、中国、ロシアの様々な働きかけによる「朝鮮半島非核化」と「経済制裁解除」の比重が高まっていくことになるだろう。
しかし「蚊帳の外」にいる安倍政権だけが、露骨な朝鮮敵視政策を継続している。今回の米朝首脳会談に当たって、安倍政権は米国に「ただちに経済協力や人道支援を行うのは時期尚早だ」と釘を刺し、また国連世界食糧計画(WFP)や国連児童基金(ユニセフ)などに対しても「日本の拠出金を使うことは認めない」と通告している。こうしたスタンスは日本国内での朝鮮高校の無償化排除のそれと同じである。このような国際的な「恥さらし政権」は早々にも打倒されなければならない。そして「蚊帳の中」に入れる政権を誕生させることが、日朝国交正常化への正しい道なのだ。

文在寅の「反日」政治


昨年の秋から様々な問題をめぐって日韓両国関係がぎくしゃくしている。それは南北・日韓・米朝・米韓の政治関係を見据える文在寅政権によって意識的に作られたものだ。そして同時にそれは、朝鮮半島の南北和解と平和共存政策に対して一貫して敵対し続けてきた安倍政権に対する文在寅政権の不信表明でもある。
一七年の年末から一八年の年初にかけても、文在寅政権による同様の「反日政治」が行われた。「慰安婦」問題での日韓合意から二年目にあたる一七年一二月二八日、文在寅は「声明」を発表し「日韓合意は重大な欠陥があった。この合意では慰安婦問題は解決されない」とする立場を明らかにした。これに対して、元「慰安婦」へのお詫びの手紙について検討する考えは「毛頭ない」と国会発言して、韓国民から猛反発を受けていた安倍は「決めたことは守れ」と息巻いたのであった。この時の韓国世論は七割が「再交渉すべき」であるとして、文在寅を支持したのであった。
年が明けて一月一日、金正恩は「新年の辞」で、南北対話の再開と平昌五輪参加の意思表示を行ったのであった。これは事前に韓国側に打診していたのは明らかである。そしてトランプは、文在寅政権が要請していた五輪期間中に予定していた米韓合同軍事演習の延期を受け入れたのである。
当時のトランプ政権にとっては、朝鮮の核・ミサイル問題と中国の脅威を背景とするなかでの日韓対立は「頭の痛い問題」だった。文在寅政権は反日政治を作り出すことによってトランプから譲歩を引き出そうとしたのであった。
そのように考えると、今回の流れは二月二七〜二八日に開かれることになった二回目の米朝首脳会談を射程に入れたものだと言うことができる。昨年九月一八日に平壌で行われた三回目の南北首脳会談の後、同月二四日の国連総会で行われた米韓首脳会談でトランプは「二回目の米朝首脳会談を近く開く」ことを明らかにした。

経済制裁が足かせに

 その後、文在寅政権による最初の「反日」アクションは、昨年の一〇月一一日に韓国の済州島で予定されていた国際観艦式への参加をめぐってであった。韓国軍は八月三一日に参加一四カ国に対して「国旗と韓国旗をマストに掲げる」ルールを通知し、さらに一〇月三日になってから「艦首と艦尾に旗を掲げないように」と追加通知をした。これに対して空母化する「いずも」の派遣を準備していた海自は、自衛艦旗である旭日旗の掲揚自粛は受け入れられないと参加を辞退したのであった。しかし観艦式の当日、日本以外はすべて参加して国旗と軍艦旗が異なる七カ国全部が軍艦旗を掲揚した。また韓国軍は豊臣秀吉の朝鮮出兵軍を破った李舜臣(イ・スンシン)将軍の旗を掲げたのであった。日本は完全に狙い撃ちにされたのであった。
その後も反日・対日強硬の動きが連続することになった。一〇月三〇日には、韓国の最高裁が日本企業に対して元徴用工の賠償請求を認める初の確定判決を出した。一一月二〇日には、日本海の大和堆付近で日本のイカ釣り漁船をめぐって、韓国海警の警備艦と海保の巡視船が対抗した。一一月二一日には、韓国の女性家族省が「民意を反映しての結論」だとして、「慰安婦」問題で日韓合意によって設立された「和解・癒やし財団」の解散手続きに入ることを発表した(今年一月二一日に正式に解散した)。一二月二〇日には、日本海で朝鮮漁船の救助に立ち会っていた韓国海軍の駆逐艦が、接近した海自のP1哨戒機に火器管制レーダーを照射するというアクシデントが発生した。そして二月一二日には、韓国国会議長が「慰安婦」問題で「天皇謝罪発言」を行い安倍政権を挑発したのであった。
こうした日韓関係をめぐる緊張は、元徴用工などへの賠償請求に基づいた日本企業資産の差し押さえや売却といった新たな対立も伴ってエスカレートして行くことになるだろう。文在寅はこうした対日強硬政策による日韓対立を作り出しながらトランプを揺さぶり、朝鮮戦争の終戦による米朝和解や、南北経済交流に対する制裁の緩和などを引き出そうとしているのである。
しかし今回の米朝首脳会談では文在寅の思惑通りにはことが進まなかった。すでに南北の政治・軍事的課題は見通しを立ててきたものの、南北経済交流に関しては、核問題をめぐる朝鮮への経済制裁が足かせとなっていた。「南北は特例に」と手前勝手なことも考えていたようだが、それでは中露が納得するはずがない。今後は「トランプ頼み」ではことが進まないことは明らかである。 
昨年の一〇月三〇日に韓国の最高裁が日本企業に対して、元徴用工の賠償請求を認める初の確定判決を出してから、一一月二九日にも二件の同様の確定判決が出された。現在、韓国では七〇社以上の日本企業を相手取って同様の訴訟が起きている。
そして興味深いのは今回の韓国最高裁の判決内容である。安倍政権の対応は一九六五年の日韓基本条約と日韓請求権・経済協力協定で「完全かつ最終的に解決した」とする立場から、河野外相は「一〇〇%韓国側の責任」「判決は両国関係の法的基盤を根本から覆すもの」と非難している。安倍首相も「国際法に照らせばあり得ない判断」だとして、国際司法裁判所(ICJ)への提訴も辞さない考えを示した。

日韓併合は不法だった


一〇月三〇日の韓国最高裁の判決は、判事一三人の内の七人の多数意見だった。その内容は「原告が求める損害賠償は未払い賃金や補償金ではなく、『日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地支配などに直結する日本企業の反人道的不法行為を前提として請求する慰謝料』と指摘。日韓請求協定の協議過程で、日本政府が植民地支配の不法性を認めていないことを根拠に『原告が求める慰謝料請求権は請求権協定の適用対象に含まれていたとみるのは難しい』と結論づけた」(一八年一〇月三一日・毎日新聞)。
韓国最高裁のこの判決内容は、〇五年に当時の廬武鉉(ノ・ムヒョン)政権が元徴用工訴訟で示していた「解決済み」とする政治判断への見直しを迫ったものである。それは日韓基本条約で曖昧化された「日韓併合条約は合法だったのか、それとも不法だったのか」ということに対する新たな回答である。「不法だったのだから賠償請求は有効」としたのである。文在寅政権は三権分立があるのだから当然にも「司法の判断を尊重する」としている。徴用工問題は韓国内ではあまり関心が高くないと言われているが、一月の世論調査では対日政策について「もっと強硬に」が四五・六%「適切」が三七・六%「自制すべき」が一二・五%だった。今回も文在寅は世論の圧倒的な支持を受けたのである。
帝国主義的な植民地支配は不法・不当行為である。朝鮮民族は日帝の植民地支配によって人間としての尊厳を奪われて、差別されて屈辱を受け、略奪と収奪・搾取によって生命と生存権を脅かされた。
われわれは今回の韓国最高裁判決を真摯に受け止めて、訴訟のための証拠を持つ元徴用工や元「慰安婦」ばかりではなく、より広い範囲で謝罪と賠償を行うことを要求していかなければならない。また何よりも朝鮮植民地支配の現代版ともいえる、朝鮮高校への無償化排除を許してはならない。そしてそれができる政府を一日も早く成立させることが求められている。安倍政権では足を引っ張ることはできても、課題を一ミリたりとも前に進めることはできないからだ。(高松竜二)



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