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    かけはし2019年6月17日号

人権侵害・差別をなくす社会へ


「女性活躍推進法等改正」にあたって

セクハラ禁止規定を明記せず

企業の人事管理を優先

「改正法」の中身を問う


 安倍政権が提出した女性活躍推進法等改正法が成立した(女性活躍・ハラスメント規制法/四・二五衆/五・二九参)。自民、公明、立民、国民、維新、社民党などが賛成し、共産党は反対した。
 また、付帯決議の「女性の活躍を一層推進する観点から、積極的改善措置について、その実施状況を確認し、必要な措置を講ずるものとすること」や「本法の施行後三年の見直しに併せて、男女雇用機会均等法の改正について検討を進めるものとすること」など一七項目を全会一致で採択した。過日の財務省・福田淳一前次官セクハラ事件、パワハラ・セクシュアルハラスメントなどの増加傾向によって安倍政権のグローバル派兵国家建設の一環である「成長戦略」にもとづく女性活躍推進法における「改善」がポーズでしかないことが暴露され、新たな改正法として形にせざるをえなかった。

罰則伴う禁止を回避

 改正法は、「女性活躍推進」とともに「ハラスメント対策の強化」を柱の一つとして、国の施策に「職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決の促進」(ハラスメント対策)を明記した。防止対策として@事業主に対して、パワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置義務(相談体制の整備等)を新設Aパワハラに関する労使紛争について、都道府県労働局長による紛争解決援助、紛争調整委員会による調停の対象とするとともに、措置義務等について履行確保のための規定を整備するとした。二〇二〇年四月から対策が義務化される。
厚労省はパワハラになり得る行為として、@暴力などの「身体的な攻撃」A人格否定などの「精神的な攻撃」B無視など「人間関係からの切り離し」などを示しているが、具体的にどんな行為が業務上の適正な範囲なのかなど明確化していない。いわゆる「グレーゾーン」を残したままの見切り発車なのだ。だから企業の「(パワハラが)適正な指導との境界が曖昧だ」という主張を受入れ、罰則を伴う行為自体の禁止規定の明記を避けてしまった。
セクシュアルハラスメント(マタニティハラスメント含む)の防止対策でも@「セクシュアルハラスメント等に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務」として(一一条の二において)「職場において行われる性的な言動に対する対応により労働者に不利益を与える行為又は労働者の就業環境を害する当該言動を行ってはならない」という曖昧な規定に止めた。セクハラの定義とともに具体的なケースを明示することもせず「禁止」と規定しなかった。
労働者が求めていたセクハラ禁止規定の要求に対して根本匠厚労相は「事業主に、被害者への配慮、行為者への措置を適正に行うこととされている」と根拠不明なまま答弁し、あくまでも資本が求める人事管理の防衛を優先したのである。また、国連の女性差別撤廃委員会による日本に対するセクハラ禁止規定勧告に対しても「(国連の)勧告を受けているが、法的拘束力はない」と日本の不誠実な姿勢を居直った。

「努力義務」に止まる

 問われていることは明白だ。これまでのセクハラ事件で明らかなように「禁止」規定がなかったため行政が違法行為だと認定ができず、行為者と事業主に対して実効力ある措置をとれないできた。だからこそセクハラ禁止規定を設けることによって行為者と事業主の責任を追及し、罰則措置の適用などによってセクハラ温存構造の解体へと踏み出すべきなのだ。
「男女雇用機会均等法」(一九八五年成立、九七年改正)以降、事業主にセクハラ防止義務が進められてきた。セクハラが権力関係の存在によって繰り返される性格を持っており、顧客や取引先、第三者などでの被害が広がっている実態も明らかになっていた。だから改正法は社外での被害の対策も掲げ、事業主は自社の労働者が取引先などでセクハラをした場合、被害者側の事業主から事実確認を求められたりしたら協力せよとしたが、「努力義務」のレベルにしてしまった。罰則なき「努力義務」のままでは事業主は「余計なコスト」がかかることを理由に放置したままで逃げきることも可能なのだ。その延長で客などによるカスタマーハラスメント、就活生へのセクハラに関しても「相談体制の整備」と明示しているが、やはりザル法だから事業主がどこまでまじめに着手するのかわからない。

残された「隠ぺい」の構造

 国際労働機関(ILO)は、「仕事の世界における暴力とハラスメント」を「一回限りの出来事か繰り返されるものかを問わず、心身に対する危害あるいは性的・経済的に危害を与えることを目的とするか、そのような危害に帰する、あるいは帰する可能性が高い、一連の許容できない行動様式及び行為またはその脅威と理解されるもの(性差に基づく暴力とハラスメントを含む)」と定義している。第一〇七回総会(二〇一八年六月)では「仕事の世界における暴力とハラスメント」基準設定委員会の報告を採択し、「暴力とハラスメント」について@身体的、精神的、性的または経済的危害を引き起こす許容しがたい行為A「加害者および被害者」には取引先や顧客などの第三者を明記した。今年の六月総会では「労働の世界における暴力とハラスメントの除去に関する条約」の採択を予定している。安倍政権のセクハラ対応は、この国際レベルからも大きく後退している。
また改正法は、「労働者が事業主にセクシュアルハラスメント等の相談をしたこと等を理由とする事業主による不利益取扱いを禁止する」とした。だが多くのケースでは自社のセクハラ相談室に申し入れること自体、被害者にとってはプライバシー侵害の危険性や行為者に対する甘い対応で「決着」せざるをえないとか、管理責任まで厳しく罰することをしないで隠ぺいされてしまうなどによって「沈黙」したまま耐え続けることに追い込まれてしまっている。
さらに立証責任の重圧、二次被害によって休職や退職へと追い込まれていくケースも多発している。都道府県労働局は、二〇一七年度のセクハラ相談件数は約七〇〇〇件だったが、「紛争解決の援助の申し立て」が一〇一件、「調停申請」が三四件、セクハラで企業名が公表されたのはゼロであることの数字によって、被害者の告発の困難性を現わしている。

差別を許さない社会へ

 付帯決議の「十三 本法の施行に当たっては、その実効性を確保するため、労働者又は企業からの相談等に迅速かつ的確に対応できる体制の強化を図るものとすること」と、ここでも努力目標を前提にしている。繰り返すがセクハラ禁止規定を明確化させ、被害者の申し立てによって速やかに調査に入る第三者機関や権利回復のための救済機関の設置の起ち上げを具体的に明記すべきなのだ。当然、行政機関への予算措置増、調査・救済機関への人員配置の増員が必要だ。
なおハラスメント規制法はLGBTに対するハラスメントを含んではいない。この限界性を含めて、さらなるハラスメント禁止法改正が求められている。人権侵害と差別禁止の社会を構築していこう。
(遠山裕樹) 

資料

「立憲野党4党1会派の政策
に対する市民連合の要望書」

 七月参院選に向けて、一人区での立憲野党共闘候補一本化の作業がほぼ完了した。この中で、安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合は、13項目の要望書を提出して、改憲阻止の大枠にとどまらず、辺野古新基地反対、朝鮮半島の非核化、自衛隊軍拡反対、反原発、最賃1500円、消費税引き上げ反対、女性差別反対などの政策についての要望書を提出した。安倍政権と正面から対決するこの要望書は重要な意味がある。野党共闘の前進のために紹介する。(本紙編集部)

1 安倍政権が進めようとしている憲法「改定」とりわけ第9条「改定」に反対し、改憲発議そのものをさせないために全力を尽くすこと。
2 安保法制、共謀罪法など安倍政権が成立させた立憲主義に反する諸法律を廃止すること。
3 膨張する防衛予算、防衛装備について憲法9条の理念に照らして精査し、国民生活の安全という観点から他の政策の財源に振り向けること。
4 沖縄県名護市辺野古における新基地建設を直ちに中止し、環境の回復を行うこと。さらに、普天間基地の早期返還を実現し、撤去を進めること。日米地位協定を改定し、沖縄県民の人権を守ること。また、国の補助金を使った沖縄県下の自治体に対する操作、分断 を止めること。
5 東アジアにおける平和の創出と非核化の推進のために努力し、日朝平壌宣言に基づき 北朝鮮との国交正常化、拉致問題解決、核・ミサイル開発阻止向けた対話を再開すること。
6 福島第一原発事故の検証や、実効性のある避難計画の策定、地元合意などのないままの原発再稼働を認めず、再生可能エネルギーを中心とした新しいエネルギー政策の確立と地域社会再生により、原発ゼロ実現を目指すこと。
7 毎月勤労統計調査の虚偽など、行政における情報の操作、捏造の全体像を究明すると ともに、高度プロフェッショナル制度など虚偽のデータに基づいて作られた法律を廃止すること。
8 2019年10月に予定されている消費税率引き上げを中止し、所得、資産、法人の各分野における総合的な税制の公平化を図ること。
9 この国のすべての子ども、若者が、健やかに育ち、学び、働くことを可能とするための保育、教育、雇用に関する予算を飛躍的に拡充すること。
10 地域間の大きな格差を是正しつつ最低賃金「1500円」を目指し、8時間働けば暮らせ る働くルールを実現し、生活を底上げする経済、社会保障政策を確立し、貧困・格差を解 消すること。また、これから家族を形成しようとする若い人々が安心して生活できるように公営住宅を拡充すること。
11 LGBTsに対する差別解消施策、女性に対する雇用差別や賃金格差を撤廃し、選択的夫婦別姓や議員間男女同数化(パリテ)を実現すること。
12 森友学園・加計学園及び南スーダン日報隠蔽の疑惑を徹底究明し、透明性が高く公平な行政を確立すること。幹部公務員の人事に対する内閣の関与の仕方を点検し、内閣人事局の在り方を再検討すること。
13 国民の知る権利を確保するという観点から、報道の自由を徹底するため、放送事業者 の監督を総務省から切り離し、独立行政委員会で行う新たな放送法制を構築すること。

 【訂正】本紙前号(6月10日付)5面「福島原発過労死裁判」記事1段2行目「五月一九日」を「五月二三日」に、同写真説明の日付(5・19)を(5・23)に、3段小見出し「心のこもった多くの激励も」から1行目「公判後に開催された集会」を「五月一九日に開催された支援集会」に訂正します。
       



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