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「かけはし」1999.6.28号より

「小さな学校を救って下さい」

教育部の統廃合方針に地域社会が反旗

 「青い青い山はきれいだな。青い山の入り口には雲もいっぱい浮かぶ……」。緑もすっかり深まった山に囲まれた校庭に明るい子どもたちの歌声が響き渡る。暖かい陽の光と気持ちのいい山からの風が調和した田舎の学校の風景は、そのまま一幅の絵のようだ。
 6月4日午前、京畿道華城郡発安面の郷南初等学校。校庭の一角で野外授業をしていた3年生8人が隊列を組んで教室に向かった。子どもらの後について入った廊下には、この学校の6年生の子どもたちの「きょう」と「あす」が画用紙に描かれて一方の壁に張られている。子どもたちが自分を木に見立てて描いた絵だ。
 木の枝にあたる部分には「アナウンサー」、「科学者」、「警察官」など、子どもらの夢が木の実のようにブランブランとぶら下がっている。「いまの私に育ててくれた人物や事柄」を描いた木の「根っこ」には父母、お兄さん、先生らとともに、都会の子どもたちには想像もしがたい「小犬」や「にわとり」などの動物たちもしっかり陣取っており目を引く。あらためて呼びとめて聞かなくとも、小さな田舎の学校の子どもたちの心根が、そのまま胸に伝わってくる。
 この学校の児童総数は84人。一学年10人余りだ。幾人にもならない子どもらが6年間、顔をつき合わせ毎日を過ごすとなると、飽きはしないのだろうか。「飽きますよ。でも面白いですよ。お互いに性格が分かるから、からかうのもいいんです」。休み時間に跳び出してきた子どもの話は、あっさりしたものだった。
 「都会の学校の子どもらとは大分、違います。何よりも人性の違いが大きいです。児童数の多い都会の学校では薄汚れていたり能力がいささか劣る子どもたちをいじめる現象が例外なしに生じています。けれども田舎にはそういったことはありません」。廊下で会った二年担任のハ・ヨンスク教師(37)は待っていたかのように田舎の学校の自慢を開陳する。最近、子どもらのさまざまな逸脱行為が社会問題化するにつれ、人性教育の重要性が強調されているが、真の人性教育の現場は身近な所にあるのであって、まさに田舎の「小さな学校」がそれだ、という話だ。
 だが同教師は、すぐさま「最近とても気がかりです」と言葉を返した。他の多くの田舎の学校同様に、教育部(文部省)の小規模学校統廃合の基準である児童数百人に充たない郷南初等学校も遠からず門を閉ざさなければならないからだ。「教育部は、いったい何を考えているのか……」。
 教育部と直接担当する教育庁が「小さな学校」をなくすことに本格的に乗り出したのはこの三月、小規模学校の統廃合計画の確定してからだ。この計画が施行されれば児童数100人以下の学校のうち一面(ミョン、行政単位、日本の村に担当)一校の原則に伴う学校と、奥地・僻地など特殊地域の学校を除く千八百二十四校が来る2002年までに消えてゆく。学校総数の16.7%に該当する数字だ。しかも初年度の今年八月までに初等学校一千余カ所を含む1135校が統廃合される。
 このような統廃合の規模や速度は、これまでには想像さえできなかった水準だ。ちなみに82〜98年の17年間に3562校が統廃合されたが、今年、教育部が推進している統廃合は、この17年間の年平均値の四倍以上だ。
 統廃合の対象が何よりも余りにも多いので反発もまた広範囲に起きている。郷南初等学校はもちろん、京畿・金浦、安城、忠南・牙山、天安など全国的には百余の初等学校で統廃合反対運動が繰り広げられている。
 5月29日には統廃合に反対する全国の20余校の児童の父母たちが参加し「小さな学校を守る人々」(会長チャン・ホスン順天郷大教授)という組織を結成した。組織が作られてからわずか一週間のうちに十余校が新たに加入した。独自的に統廃合反対運動をしている親たちが加勢するなら参加学校の数はさらに増えるだろう、というのが「小さな学校を守る人々」の側の話だ。
 このように統廃合の対象各校の反発が拡大の一途である理由は何なのだろうか。教育専門家たちは統廃合の対象校が余りにも多いというせいでもあるが、何よりも教育部の学校統廃合の理由が説得力を発揮できていないからだと指摘する。
 教育部は統廃合の背景を次のように説明する。「一部地域の学校は児童数の不足による複式授業によって教育環境が深刻なほどに劣悪になっており、教育の質を改善するための過小規模校の統廃合が避けられない」。
 けれども、このような論理は統廃合の対象校の父母や教師、地域住民たちには「納得できない口実」だ。児童数が不足して教育環境が劣悪だと教育部は言うけれども、別の角度から見れば学級当たりの人員数が10〜17人の水準の農漁村の各校は、教育部が目指す「開かれた授業」が可能な所でもある。
 もちろん教育部の統廃合の方針にすべての学校が反発しているわけではない。全校生が20人にもならない「超ミニ学校」の場合、父母や教育団体から、さしたる異論が表明されてはいない。これらの学校では「正常な教育が達成されがたい」という教育部の主張が、そのまま説得力を発揮するからだ。
 けれども一学年の児童数が10人を超える学校の場合は事情が異なる。教育部は、このような学校は分校へと改編するにすぎないと説明するが、分校化についての心配も大きい。分校になると校長、教監(教頭)はもちろん、教科の専任教師もなくなり、各種施設への投資も事実上、凍結され、教育の質が改善されるのを期待するのは難しい。
 そのため児童の父母たちは「分校化の方針」は廃校に至る手順だと語る。京畿・金浦市月串面の開谷初等学校の父母であるイム・ソンヨン氏(44)は「教育庁は、分校に改編するのだから心配するなというけれど、教育環境の悪化によって転校するという事態が相次ぐ」だろうし、「結局、学校は長くとも数年のうちに門を閉じざるをえなだろう」と見通した。
 そのうえ、農漁村の学校は住民たちにとって単純な学校以上の意味を持っている。それで父母たちは教育部の統廃合の方針が農村の現実を考慮せずに経済の論理だけを押し立てた机上のプランにすぎないと批判する。
 牙山YMCAのチョン・ソンファン幹事は「農漁村の学校は教育空間であるばかりではなく、村の唯一の集まりの場であり文化の空間」なのであって「学校の統廃合は村の精神的求心点を奪い農村の空洞化を一層あおり立てるだろう」と指摘した。特に彼は「統廃合反対に乗り出した積極的な父母たちの相当数が帰農した人々だ。地域住民の求心体である田舎の学校をなくしておいて農村をよみがえらせようという話は『語不成説(理屈に合わない)』だ」と言葉をはき捨てた。
 教育部の学校統廃合の推進は教育の論理と農漁村の実像を無視したものであり、教員政策の失敗によって生じた教師不足を農漁村での教育の犠牲を通じて解決しようとの発想だ、と統廃合の対象各校の関係者や多くの教育専門家たちは指摘する。
 これに対して教育部は重苦しい反応を見せている。教育部のウ・ヒョンシク学校政策総括課長は「小規模学校の統廃合によって5848億ウォンの財政節減効果が発生する」し「これを農漁村の学校に再投資すれば遥かによい教育環境を作ることができる」と説明した。また統廃合の対象校がすべて廃校されるというわけでもなく、児童数20人以上、100人以下の各校は相当数が分校に変わるだけで、教育空間自体がなくなってしまうのではないという事実を繰り返し強調している。
 けれども、このような教育部の説明にもかかわらず多くの父母や専門家たちの批判は一向に収まらない。小規模学校の統廃合がさまざな地域の事情を考慮しないまま、画一的に施行され、得るものより失うものが大きいというのだ。実際に一線の教育庁は児童数の基準である百人から数人欠けても、およそ例外なしに統廃合の対象校に選定している。そのため郷南初等学校等一部の学校は干拓事業や宅地開発事業などによって人口の増加が確実視されるのに分校化の対象校に選定されている。
 工原大イ・ジョンガク教授(教育学)は「現在の統廃合の規模や推進方式は教育界を混乱に陥れるもの」であって「該当地域の住民に参与権と選択権を与えるべきで、廃校よりは小さな学校がよみがえることができるようにする方案を準備しなければならない」と指摘した。
 あぜ道をたどって登校し、授業が終われば小川で魚を追う子どもたち、先生や友達と一つ家の家族のように睦み合い笑い転げながら勉強をする子どもたちに競争や差別という単語は存在しない。もしかしたら教育官僚組織の性急さが教師たちの自律性はもちろん、小さな学校の美しさまで損ねることはなりはしないのか、との心配が広がっている。(「ハンギョレ21」第262号、99年6月17日、ヤン・サンウ記者、パク・ヨンヒョン記者)


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