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北朝鮮核実験がもたらすものは何か           かけはし2006.10.30号

金正日独裁体制による北朝鮮人民の体制的虐殺を許さない



 十月九日の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が行った核実験の暴挙は微量の放射性物質が検出されたことによって「既成事実」となった。ことここに及んで金正日国防委員長の狙いは一体何なのか、という論議がかまびすしい。「得るものと失うものを考えれば………」「中韓を含む包囲網が形成されれば………」という正攻法の分析が相も変わらず続いている。だが振り返ってみれば、一九九四年の米朝枠組み合意、二〇〇〇年の南北首脳会談、〇二年の拉致・工作船事件の自白、二〇〇四年の六カ国協議発足などなど、これらのどれ一つとして予測したアナリストがいたという話は聞いたことがない。今回は「俗論」と「眉唾物」に与した視点から北朝鮮核実験の意味を探ってみたい。

核は誰に向けられているか

 今頃、北朝鮮軍首脳部は日米の直対応とメディアの大騒ぎにきっとご満悦のことと思う。意図したとおりの反応を頼もしくさえ思っているだろう。そして「朝鮮危機」のレベルアップのためにさらなる核開発、核実験へと向かうだろう。だがそこには思わぬ落とし穴が潜んでいる。それは米帝ブッシュの逆襲でも、中国の牽制圧力でもない。核開発のエスカレーションは核惨事惹起の確率に比例する。
 一昨年四月の北朝鮮・竜川(リョンチョン)での火薬類を満載した列車の大爆発事故は記憶に新しい。爆発の規模はTNT火薬相当で二十六キロトン、広島型原爆(20キロトン)を上回り半径五百メートル以内の建物は全壊した。死者百六十余人、負傷者一千三百余人、行方不明者は調査中(当時の北朝鮮メディアが伝えたもの)という大惨事となった。死傷者の多くは現場近くの小学生たちだった。この大惨事は徹底した報道統制下の北朝鮮で公になった異例の事件でもあった。
 その後も人道支援のNGOなどを通して他にも大事故発生の情報が伝えられている。今年四月には軍人を満載した列車事故で数百人規模の死者が出たとの情報があり、北朝鮮当局は事故を否定するわけでもなく黙殺している。主要交通手段を軍が半ば独占しているためか軍関連の大事故が多い。
 あれだけの核関連施設があり、核(放射能)物質の国内移動が頻繁であるとするなら、「次は核惨事か?!」という危機感と憤りこそ、私たちの側で共有されなければならない。そして犠牲者となるのは北朝鮮の人民自身だということも。
 今回の「核実験」でも直前に中国側に伝えていた実験規模よりもはるかに小規模のものであり、失敗ないし事故の可能性が大であること、七月のミサイル実験でも弾道ミサイルは打ち上げ直後に分解・飛散し基地からわずか二キロメートルの地上に落下・散乱しており「完全な失敗」(防衛庁幹部)だったことが明らかになっている。こうした杜撰で無謀きわまりない実験の連続がこの地の人々の被曝・被災に直結することは一目瞭然だ。
 「ウランの廃水処理をしていた。設備の故障が多くウランの液体が工場の通路に流れたり、風でホコリと一緒に舞い上がったりしていた。白血球が減少したり脱毛症になる人がいた」。九四年当時に韓国に脱北・亡命し、このように語っていた北朝鮮のウラン加工工場の副工場長だった金大虎(キム・デホ)氏は今回の核実験直後にメディアに次のように証言している。「核施設での作業は科学者や技術者は違うだろうが一般作業員はまともな防護服もなかった。脱毛や歯茎からの出血を訴える人が多く、白血病や肝臓病になる人もいた」。
 こうした現実に向き合うなら、北朝鮮のミサイルが米日に飛来するなどという荒唐無稽な「危機アジリ」はためにする論議以外のなにものでもない。金正日の核兵器は誰に向けられているか? 米日に向けられているなどとはブッシュも安倍も毛頭考えていない。金正日の核兵器は、北朝鮮の地に生まれ生活を営む人々の頭上にふりそそぐ災いであり人災だ。われわれの言葉で言おう! 金正日による北朝鮮人民の体制的虐殺を許すな!

中国は今後どう出るか


 中国は間違いなく「国益」(徹底的に一国主義的な)をかけた対応に出る。それは強弱の度合いではなく、駆け引き抜きの一方的な「通告」「警告」という外交スタンスに転じるということになるだろう。理由は二つ。北朝鮮の核惨事(放射能飛散)まで「共有」させられてはたまらないという絶対的「国益」、そして北朝鮮核保有が台湾の核開発・保有の衝動を加速させるという「国益に係わる危機感」から発している。
 北朝鮮の主要な核実験関連施設やミサイル発射基地群はほとんどが中朝国境近辺に所在する。中朝は国境警備強化で脱北者増加を防止することはできても、放射能の拡散(流入・流出)防止は百パーセント不可能だ。中国はこうした事態を絶対に看過できない。すでに中国は中朝国境近辺での麻薬流入の実態調査と対策に着手しており、また米国の対北朝鮮「金融制裁」についてもそれに根拠があることを認めているからこそ「一国二制度」で管轄するマカオでの銀行制裁を容認している。中国はかつて日本帝国主義による麻薬流通や偽札(当時の中国紙幣)による経済破壊の危機に直面した経緯もあり、対応は厳格であり処罰も峻厳だ。ちなみに今年に入って北朝鮮は麻薬密輸や偽札造りに対する取り締まりを徹底することを明らかにしたが、その中では「職位の如何を問わずに厳罰に処す」旨の明記事項が関心を引く。うがった見方をすれば、労働党や軍の幹部や実力者がこうしたネットワークに絡んでいることを示唆してあまりある。
 十月十九日の唐国務委員と金正日国防委員長の会談では中国側から一方的に「六カ国協議への無条件復帰」要求が突きつけられたとみるべきだ。金正日による「核実験再開凍結」などという空約束で、中国が引き下がるというレベルの外交ではない。すでに始まっている中国による送金停止、輸出入制限などの措置はこの要求が実行されるまでは続くだろう。
 そしてロシアも中国と同様の方針転換に動くだろう。北朝鮮の核実験強行の翌日には沿海州地方ウラジオストクの学生たちが、北朝鮮出先機関前に押し寄せて北朝鮮の核実験に抗議の声を上げた。チェルノブイリの核惨事を思い知るロシアの若者たちの決起は感動的ですらある。

大国の核独占とNPTの破綻

 今回の核実験強行は、70年に発効した核不拡散条約(NPT)体制の根本的破綻を突きつけるものとなった。今回の実験についてピョンヤン市民の誰もが「誇らしく思う」とし、九八年のインド、パキスタンの相次ぐ核実験強行の際も両国の人々が実験成功を熱烈に歓迎している様子が報じられた。こうした素朴な感情を持つ人々に作為はない。大国による核独占が人々をそうした感情へと追い込んでいるのも事実だ。
 「米露英仏中の核保有・核独占は善であり、他の諸国が核保有することは悪そのものであり絶対に許さない」などという傲慢な論理は最初から破綻の危機を内包していた。今日では、仮に各国が核保有を試みた場合、それが技術レベル的に不可能だという国の方がむしろ少数だろう。国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長自身が「核保有国は北朝を含めて九カ国で終わるのではなく、他にも二十から三十の国が極めて近いうちに核兵器開発の能力を持つ可能性がある」と嘆いてNTP体制の破綻を認めている。
 興味深い事実がある。九七年に韓国に亡命し現在では韓国保守派の論客の一人となっているファン・ジャンヨプ(元北朝鮮労働党書記)、そして昨年六月にホワイトハウスに招かれてブッシュと対談しブッシュにその「勇気」を称賛された脱北亡命者のカン・チョルファン(現在は韓国メディアの記者)の両氏がともに核大国アメリカによる北朝鮮核開発批判には説得力がないこと、アメリカが北朝鮮核開発を批判すればするほど北朝鮮は核保有の衝動を深めることは当然だから、そういう批判はやめて人権問題での批判を徹底すべきだということを以前から主張し続けている。
 核を持たない日韓の反核運動こそが北朝鮮核実験を許さない闘い、そして両国で高まるであろう核武装論に反対する闘いの先頭に立たなければならない。

北朝鮮外務省声明を読む

 北朝鮮外務省は十月十七日に「米国の対朝鮮敵対視政策の産物である国連安保理決議を断固として糾弾し全面排撃する」とする声明を発表した。声明では「米国による国家と民族への侵害」「われわれを核実験にまで追いつめた米国」「米国の核の脅威・恐喝と戦争挑発」「わが共和国に対する宣戦布告」とトーンを上げた末に「我々は対話を望む」「今後米国の動向を注視する」と結論している。
 米国への異様なまでの「対決姿勢」と「話し合い願望」の共存。ベトナムもフィリピンもモンゴルも北朝鮮核実験に反対している。だが北朝鮮・金正日は決してアジアを、北東アジアを語ろうとしない。アジアの民衆を友とするのではなく、ただただ米国との「サシの対決と話し合い」が全てだとする一貫した論理。これ程あからさまな親米事大主義は他にない。金正日が六カ国協議ではなく、米朝二国間協議にどこまでも拘泥するのは「サシの密談」でなければ持ち出せない交渉プログラムを準備しているからであり、中ロの裏をかく外交戦術を用意しているからでは、と読み解くこともできる。だが今回の核実験強行で自らその芽を摘んでしまった。核実験でおどされて対話を受け入れる国などない。
 当面は中国による対北「警告外交」と韓国による「説得外交」が続き、その裏ではニューヨークチャンネルに依拠した金正日の対米機密接触の試みが同時並行で進むとみる。十六日のピョンヤンでの記念報告会で金永南最高人民会議常任委員長は、「歴史的な反米対決戦で最後の勝利を収めなければならない」と強調したと伝えられている。核実験強行後のこの局面で「最後の勝利」とは「最後の着地点」を探っているということだろう。
 本当の意味での「朝鮮危機」のバロメータは米朝対決エスカレートにあるのではない。金正日の「本気度」が核実験強行にあるわけでもない。金正日が「6・15南北共同宣言」、そして「ピョンヤン宣言」に手を着けるか否かが「本気度」観測のバロメータだ。両「宣言」はともに莫大な対北朝鮮経済支援を約束しており、金正日は王朝延命に未来があると信じる限りこの二つの「宣言」には手を着けないだろう。

北朝鮮人民の声を聞く

 最後に石丸次郎さん(アジアプレス・インターナショナル)が、携帯電話取材した中朝国境近辺(咸鏡北道)での北朝鮮の人々の核実験強行についての感想を紹介する。
 「秋になって電気事情が悪くて停電続き。核実験をしたことも、テレビもラジオも聴けなくて当日の晩に遅くなって知らされた。電気もない社会で何のための核実験なのかと思った……中国も怒って封鎖するだろうからまた暮らしがしんどくなる」「上官も部下も核のことはよく分からないしあまり関心もない。いつまでこんな生活を続けなければならないのか皆不満たらたらだ。今回の核実験を機会にこそこそうごめく上の連中を国際社会が取り除いてくれたらいいのに」(国境警備隊の中隊長)。
 「われわれはずっと政府と上の連中にだまされてきたという思いが強い。核実験をやったと騒ぐのも人民と国際社会を欺くためのウソではないか、そんな思いがどうしても先立つ。国民が願っているのは中国のように国を開いて豊かになること。核実験が本物だとしてもそれは改革開放に逆行することだからほとんどの人民は失望していると思う」(大学教授)。
 「中国も経済制裁に参加するならコメやガソリンの値が上がる。特権を持った連中はそれを見越して売り惜しみなどして金儲けを企むだろう。私も物不足に備えて動かないと」(茂山郡の鉱山労働者)。(荒沢 峻)


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