もどる

国家レベルで吹き荒れる攻撃               かけはし2006.4.17号

「ジェンダーフリー」バッシングにどう反撃するか

「ジェンダー」概念を話し合うシンポ
圧力と排除をはねかえし研究・実践活動の相互連携を

人権講座に対す
る都教委の圧力

 三月二十五日、港区男女平等センターで「『ジェンダー』概念を話し合うシンポジウム」(主催・実行委)を行い、二百五十人が参加した。イメージ&ジェンダー研究会と日本女性学会が共催。
 二〇○五年八月、東京都国分寺市が都の人権教育事業の一つとして、市民参画で企画していた「人権に関する講座」(講師が上野千鶴子さん〈東大大学院教授〉)が都教育委員会の介入によって中止に追い込まれた。教育基本法改悪を先取りした新自由主義的教育改革、「日の丸・君が代」強制など新国家主義を押し進める都教委は、講師が上野さんだと「ジェンダーフリーという用語が使われる可能性があるなら実施できない」と中止圧力を行ってきた。結局、○五年八月十七日に国分寺市は講座の申請を取り下げてしまった。
 上野さんは、「公的機関が介入するなんて、まったくの言論統制であり許すことができません。民間の自主規制と違って官がやれば、権力行使です。『ジェンダーフリー(社会的・文化的に形成された性別に縛られず、一人ひとりの個性と能力の発揮を支えるいう考え方)という言葉を使うかもしれない』でダメだったら、女性学研究者はすべての都の社会教育事業にかかわれなくなりますよ。その内容に触れることさえ不可というならば、思想統制にもなります」と批判し、都と国分寺市に対する公開質問状、抗議文を出していった。
 上野さんの取り組みがさまざまなネットワークに伝わり、講座中止問題に対する抗議運動が始まった。○六年一月二十七日には、石原都知事や教育長らに対して抗議文と千八百八人の署名を提出した。石原は、定例記者会見で「都はそういう規制を加えた覚えはない。『ジェンダーフリー』という言葉そのものがいいかげんで、あいまい。日本人なんだから英語を使うことはないんだよ」と居直った。
 このような経過からジェンダー研究者、フェミニズム運動、市民運動の間で、「これまで、ジェンダー概念についての意見交流が、市民、研究者、行政、メディア相互の間で不十分ではなかったか?」という論議が起こり、都に対する抗議運動の継続とともに、「ジェンダー概念」の豊富化をめざしてシンポジウムを開催することになった。

バッシングの実
態告発する報告

 シンポジウムは、主催者あいさつ、趣旨説明後、次々と問題提起が続いた。
 江原由美子さん(都立大)は、「ジェンダー概念の有効性について」というテーマから、ジェンダー概念の潜在的問題、使用の実際と誤解について指摘した。そのうえで、「ジェンダー視点によって、これまでの人権・市民権・公共性・福祉・労働論・階級論などの理論的枠組みの偏向性が見える」有効性について提起した。
 そして、「『性差がある』『性差がない』という問いは、近代社会においては一貫して男女を平等に扱うべきかどうかという政治的問いと強制的に重ねあわされてきた。問題は『生物学的性差の有無』という問いに対する立場の相違にあるのではなく、この問いがこのような政治的意味を持つ問いとしておかれ続けているということだ」と強調した。
 井上輝子さんは、歴史的に「ジェンダー」「ジェンダー・フリー」の使い方、使われ方を分析した。「ジェンダー・フリー」とは、「性差別の撤廃を意味するのであり、『画一的に男女の違いをなくし人間の中性化を目指す』ことを意味しない。各自の個人差や個性を尊重することを意味する。生活態度や生き方の選択肢の幅を広げることであって、ある特定の生活態度や生き方を強制することではない。目標達成の手段ないし教育方法としての区別は必要がある」と解説した。
 さらに、「性差別がなく、多様な個性が尊重され、区別が差別につながらないような『ジェンダー・フリーな社会』を実現するために、ジェンダーの視点を入れた。かつジェンダーに敏感な運動・教育・行政が必要だ」と結論づけた。
 若桑みどりさんは、「バッククラッシュの流れ なぜ『ジェンダー』が狙われるのか」と問題設定し、バックラッシュの歴史的流れを紹介した。
 「右派勢力によって二○○三年は、性教育バッシングが地方議会において活発化した。○四年は、ジェンダーフリー教育に集中的な包囲網が作られていった。その結果が都教委の『ジェンダー・フリー』使用禁止、男女混合名簿作成禁止通知であった。また、自民党に『過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクト』を設置し、バッシングが強化されていった」が、その推進主体が「改憲と戦争を賛美する日本会議、新しい教科書をつくる会、神道政治連盟、統一協会」であることを暴き出し、「すでに国家レベルでバッシングが展開されるまでになっている」ことを怒りをにじませて提起した。
 また、ジェンダーが狙われる理由として、「それは『慣習、通念、慣行』、政治、社会の政策展開のみならず文化(心性)におよぶパラダイム転換、すなわち『家父長制の脱構築』であるからだ。いまの閉塞状況を抜け出すには『ジェンダー』理論と実践が必要だ」と力説した。
 次に、二人の教育労働者が「ジェンダー・フリーバッシング」の実態を告発し、労働組合として反撃の陣形を作り出そうと奮闘していることを報告した。またもう一人の仲間は、性教育の困難性を報告し、ともに現場の実態を理解し、実践的に行っていくことを訴えた。
 続いて、丹羽雅代さんが@セクシュアル・ハラスメントの経過と現状A学校現場での性差別状況B都女性情報センター問題と後退C国分寺市問題の実態と課題について行政との関連性からアプローチした。
 加藤秀一さんは、今後の「ジェンダー研究の課題と方向性」について問題提起し、「ジェンダー概念の多様性があるなかで、実践的な取り組みと同時に、研究活動もこだわりながら豊富化していく努力が必要だ」と強調した。
 金井淑子さんがが主催者として集約し、「ジェンダー」概念と「ジェンダー・フリー」への圧力をはね返していける全国ネットワークを強化していこうと呼びかけた。

シンポが問いか
けた課題は何か

 シンポジウムに参加しての感想。第一は、若桑さんの「ジェンダーフリーバッシングが地方レベルから国家レベル、すなわち小泉政権レベルでバッシングしている」という意見に対して、その認識を一致することができたことである。そのうえで「確信犯としての敵の密集度は高い。これに対抗するカウンタームーブメントを目的意識的に作っていかなければならない」ことを全体で確認することができた。
 第二は、政府が推進してきた「男女共同参画事業」路線に介入し、奮闘してきた仲間たちから「ジェンダーフリー問題を通して、圧力、排除が強まっている」ことが次々と報告された。つまり、若桑提起と参加者の現場報告を通して、ともに問題点を明らかにし、次のステップのバネとなる「怒り」を共有化することができたのである。
 第三は、「ジェンダー」視点から政府・行政の諸政策、労働、各現場などについての分析・評価・課題を導き出していくことを継続し、意識的に研究していくことが求められている。同時に、この分析は、運動主体、組織分析までつらぬかれなければならない。つまり、フェミニゼーションの課題が、どれだけ到達しているのかとしてシビアに点検、検証していくことが問われている。この回路があたりまえのあり方として定着させていかなければならないと痛感した。(Y)


「田をつくる」ミニシンポジウム
三里塚現地から「世直し」に向けた論議と交流を

各地各人の問題
意識持ち寄って

四月一日、成田市の国際文化会館で地域交流グループ「田をつくる」と三里塚の「地球的課題の実験村」が共催で、これからの世直し運動にむけた「『田をつくる』ミニシンポジウム」を行った。
 「田をつくる」は、花崎皋平さんや村田久さんなどが中心になり地域運動の交流活動を進めているグループだ。大野 和興さんと 柳川 秀夫さんが代表の実験村は、「北総大地夕立計画」「農と食」などのプロジェクト活動を三里塚で展開している。この二つのグループが、三里塚現地から「世直し」に向けた論議と交流を新たに作りだしていこうとミニシンポを開催した。
 シンポは、司会の大野さんが、「各地、各人の問題意識や運動を持ち寄って、この世の中をどうするのかを問い、考え、討論する場にできればと考えます」と発言し、始まった。
 開会あいさつを柳川さんが行い、「長年、空港問題に関わり、その中で『地球的課題の実験村』が生まれた。資本のグローバリゼーションによって市場競争が激しく、これまでの社会が破壊されていくスピードが速くなっている。このような流れに抗して、新しい社会を創る必要がますます求められている。団塊世代のリタイアが話題になっているが、色々苦労と経験してきた団塊世代こそが社会のあり方を変えていく担い手にならなければならない」と強調した。

「ピープルネス」と
「サブシステンス」

 花崎さんの問題提起に移り、新著『ピープルの思想を紡ぐ』(七つ森書館)を刊行したことを紹介した。本書は、「現代日本のナショナリズムと宗教」「反グローバリゼーションの哲学」「 『田を作る』―地域に根ざした抵抗と創造のつながりを」「アイヌ民族史」などをテーマにして論じている。
 さらに花崎さんは、「同時代で共通の課題とビジョン」を発している例の一つとして、南米ペルー・アンデスで活動している農業技術者の実践を紹介した。「大学で西欧型の農業技術を学び、それを実践したが失敗してしまった。だが彼らは、アンデスのインディオの伝統的農法、自然と人間の協同・対話関係に立ち戻ることによって再生していった。先住民の世界では、こういう関係性は共通したあり方であった。つまり、自分たちの文化を自己主張をしていくことによって生き延びてきたということだ。アンデス世界には、一つの解放思想があり、現在を考えていくヒントがあるのではないか」と問いかけた。そして、花崎思想のキーワードである「ピープルネス」、「サブシステンス」などについて掘り下げていった。

自治自律の民主
主義を追求して

 次に、三里塚・東峰地区住民である樋ケ守男さんは、「人々の総有と民主主義 思想としての三里塚」というテーマで、勝利した東峰神社裁判と農業生活を紹介しながら「入会いとその民主主義」を軸に問題提起した。
 「入会いは、どの私を欠いても成り立たないみんなのものである。それを成立たせる民主主義は、私が『納得制民主主義』と呼んでいる。多数のうち誰一人を欠いても成り立たない全員一致制、自治自律の民主主義である。自律が成り立つのは自分が私であると同時に公であるからだ。人は自らの中の公性をもって私の限りない欲望を律していく。それを日本の民衆は何百年とかかって武家政権に抗してつくりあげ、近代天皇制国家の中にも残し続けてきたのだ」と述べ、今後の思想的方向性の一つをアプローチした。
 討論に入って、各地からの運動の報告と交流を深めた。その後、木の根のペンションで懇親会。そして、二日は、実験村の「年次寄り合い」を行い、実験村運動の各プロジェクトの取り組みを具体化していった。(Y)


もどる

Back