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NHK「薬害エイズ16年目の真実」 かけはし1999.7.19号

自浄能力の絶望的欠如

行政責任も犠牲者への心の痛みも感じない厚生省・郡司元課長

 責任を一切認めようとしないどころか、感じてさえいない。汚染された非加熱製剤を使用させれてエイズに感染した2000人もの被害者、500人以上の死者に対して、何の心の痛みも感じていない。NHKで7月4日放映された「薬害エイズ16年目の真実--川田龍平が郡司元課長に聞く」は、厚生省と日本の医学界の恐るべき感性と自浄能力の完全な欠如を、あらためて無残な形で見せつけた。
 言うまでもなく川田龍平(23)さんは輸入血液製剤で感染させられた薬害エイズ被害者であり、郡司篤晃は83年6月、エイズウィルスに汚染された血液製剤がアメリカ・トラベノール社から輸入され同社が自主回収していたことが判明した当時、厚生省生物製剤課長として血液製剤供給の責任者だった人物である。


 この83年、アメリカでは安全な加熱製剤に切り換え、ヨーロッパもそれにならった。そして同年、こうした事態を知った日本の血友病患者団体は、厚生省に加熱製剤の輸入を求める要請を提出している。海外からのおびただしい情報で非加熱製剤の危険性を熟知していた郡司は、83年6月の厚生省エイズ研究班の設置、国内の少人数の献血から作るクリオ製剤への転換の検討など、薬害エイズの広がりを食い止めるか否かをめぐる問題すべてに直接かかわった。しかし、アメリカやヨーロッパで血液製剤の加熱処理をし始めてから2年4カ月もの間、日本では汚染された非加熱製剤が血友病患者に投与され続け、2000人もの感染者、500人以上の死者を出すという空前の薬害事件となったのである。 川田さんは「毒が入っているとわかっていたのに、なぜ輸入禁止にしなかったんですか」と追及する。郡司は言う。「厚生省は素人集団なんですよ。責任を押しつけても仕方がない」。あまりにも無責任な発言にただあきれて果てるしかない。
 クリオ製剤を使うなど他の方法もあったのではないかという川田さんの問いに対しては、「当時の最高レベルの治療を中止させることはできなかった」と言い逃れようとする。その「最高レベルの治療」のために、すでに500人以上が殺されたのだ。
 厚生省が作成した非加熱製剤の在庫報告書には、40何億円かの金額が記されていた。郡司は「40億円というのは企業にとって大きな財産でしょう。企業にはもうけも保障されるべきだという論理も認められますよね」と、川田さんに驚くべき「同意」を求める始末。
 川田さんは唇を噛み、涙をこらえながら「それでは僕らは在庫処理させられたっていうことなんですね」と問う。郡司は、まさにミドリ十字をはじめとする製薬企業の利益のために、2000人以上が感染させられたという薬害エイズの構造を、自ら明らかにしてしまった。

 郡司が安部英エイズ研究班長らに、米国製血液製剤の輸入禁止を働きかけていたことはすでに明らかになっている。しかしミドリ十字などとゆ着し、多額の献金を受けていた安部らの反対にあって、被害拡大を防ぐ道をそれ以上、追求しようとはしなかった。行政の最高責任者としての責任を放棄し、薬害エイズが広がるにまかせたのである。
 自らの行政責任を省みようとしない郡司は最後に平然と言った。「医学界は何も反省してませんよ。また(同じようなことが)起こりますよ」。あまりの暴言に、涙ぐんで聞いていた川田さんは頭をかかえ、言葉もなくテーブルに伏してしまった。
 郡司は、放映に先立つ7月4日、同番組の放映中止を求める仮処分を東京地裁に申し立てた。その理由は、対談は一方的で公正中立を欠き「放映されれば、(郡司元課長が)薬害エイズ被害について非難されるべき人間との誤った印象を多数の視聴者に抱かせる結果となる」というものだった。しかし、さわぎたてて注目を集めるとかえって損だと思ったのか、ただちにこの恥ずべき申し立てを取り下げている。
 郡司も言うように、たしかに「医学界は何も反省していない」。薬害エイズというまれに見る悲劇を引き起こし、何百人もの命を奪った行政側の責任者であるこの郡司という人物を、日本医学界のトップエリートを育成する東大医学部が教授として迎え入れているのだから。

 細菌戦と人体実験の731部隊にかかわった当時の日本日本医学界のトップ集団は、研究成果を米軍に売り渡すことで戦争責任を免がれ、第二次大戦後、東大、京大、阪大などに舞い戻り、全国各大学の医学部教授、医学部長、日本医師会長、国立予防衛生研究所の歴代所長などの要職に就任し、日本学術会議会員に選出されるなどして、戦後日本医学界に君臨してきた。周知のように、ミドリ十字も731部隊の中心人物が設立したものである。薬害エイズ事件は、恐るべき戦争犯罪を「何も反省せず」戦争責任を一切取ろうとしなかった日本医学界の腐敗が引き起こしたものなのだ。
 薬害エイズで命を奪われる人々の苦しみや悲しみを一切理解することができず、自らの責任についても平然と開き直り、人権感覚のひとかけらもない郡司東大医学部教授の態度は、日本の医学界に自浄能力が全くないことをあらためて見せつけるものだった。
 徹底した告発と大衆的追及、監視によってしか患者の人権を守ることはできない。「薬害エイズ十六年目の真実」は、このことを明らかにした。   (I)

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