性差別的大学権力構造との闘い 「かけはし」1999.6.28号より

キャンパス・セクシュアル・ハラスメントめぐる三つの判決

人権回復と加害者制裁へ形成され始めた水路

仙台地裁の二つの勝利判決

 この間、キャンパス・セクシュアル・ハラスメントに関する注目すべき裁判判決が続いている。
 五月二十四日、元東北大学大学院生の女性が指導教官であった同大男性助教授(四五歳)のセクシュアル・ハラスメントに対して損害賠償請求を行っていた裁判で、仙台地裁は助教授に対して七百五十万円の支払いを命じた。
 助教授は、九四年九月から女性院生が修士課程に在学中、修士論文の指導と審査を担当し、博士課程に進んでからは指導教官になった。論文指導時からセクシュアル・ハラスメントを繰り返し、女性が「距離を置いてほしい」と抗議すると、論文の書き直しを命じるなどのいやがらせを続けた。
 判決は、助教授側の「自由意思に基づく恋愛関係だった」という主張に対して「両者に教育上の支配従属関係があった」ことを利用し、「女性が指導を放棄されることを恐れて強く拒絶できないことを利用した不法行為」と批判した。
 さらに仙台地裁は、六月三日に東北生活文化大学の元女性職員が五十歳代の男性教授のセクシュアル・ハラスメントに対して行っていた損害賠償請求裁判で教授に対して七百万円の支払いを命じた。
 教授は、九六年八月、学生時代の指導教官で上司であった立場から女性職員に対して車で迎えにくるよう呼び出し、「お前が大学で働けるのは、おれが推薦してやったからだぞ」と怒鳴って性暴力を加えた。女性は、一週間後に警察に被害届けを出したが、「先生、本当にごめんなさい」とメモを教授に渡し、周囲の圧力によって告訴を取り下げた。しかし、女性は、ショックと大きな打撃を引きずりながらも自己回復をかけて教授に対する謝罪と損害賠償を求め、裁判闘争に入っていった。
 裁判では女性のメモの存在が一つの争点となったが、判決は「女性は混乱した精神状態で書いた」とし、「自らを責め、自分が謝りさえすればすべて収まると考えて書いたという、女性の法廷での証言は十分理解できる」とした。この認定は、強かん被害者が「私が悪かったんだ」と自分を追い込んだりする心理的後遺症であるレイプ・トラウマ・シンドロームについて受け入れたと言えよう。
 さらにこのメモの存在によって教授側は、「合意に基づく性的関係だった」と論陣を張ったが、判決は「教授はこれを利用して、女性の両親らに合意があったように装い、女性を孤立化させてさらなる苦痛を与えており、極めて悪質だ」と批判した。
 この二つの勝利判決の特徴のひとつは、損害賠償額が七百五十万円、七百万円という額でわかるように、これまでのセクシュアル・ハラスメント裁判の判決の中でも最高額の賠償命令だったことだ。過去において横浜セクシュアル・ハラスメント裁判(東京高裁判決九七年十一月二十一日 加害者の男と会社に対して二百七十五万円の支払いを命令)や宇都宮セクシュアル・ハラスメント裁判(宇都宮地裁九七年十二月二十六日 「元上司と会社が連帯して三百万円の紛争解決金を支払う」という和解勧告を行い、受け入れた)などがあった。
 すでに米国では、九八年六月に米国三菱自動車が米雇用機会均等委員会とのセクシュアル・ハラスメント訴訟で約四十九億円の和解金を支払うことで合意している。この和解によって女性従業員約三百人に対して一人あたり最高四千三百万円の賠償をする予定だ。米国並みの水準にほど遠いが、両裁判の勝訴は大きな一歩を踏み出したと言える。
 今回の判決は、助教授や教授の女性に対するセクシュアル・ハラスメント、その後の女性差別対応に対しても明確に批判し、加害者の賠償責任を認めたのである。加害者に対する制裁を強めていくためにも、このような額が出たのは当然である。
 セクシュアル・ハラスメントを受けた精神的肉体的打撃、就労支障など大きな損害に対して今回のような判決は、多くのセクシュアル・ハラスメントの被害者や反対運動に取り組む女性たちに励ましを与え、あらためてセクシュアル・ハラスメントを許してしまう環境を温存し続けてきたキャンパス・職場権力機構と男たちを厳しく問うものである。
 両訴訟の原告代理人を務めた角田由紀子弁護士は、「どちらも、大学の指導教官が自分の権力をかさに着て、無理やり性的関係を迫った。大学院が、指導教官が支配するタコツボ構造になっていること自体が問題なんです」と批判し、キャンパス・セクシュアル・ハラスメントの構造的問題に対するメスを早急に入れていくことが求められていることを強調している。

東京高裁のジェンダー的偏見

 九八年十二月の秋田セクシュアル・ハラスメント裁判(秋田県立農業短大研究補助員の女性が、上司の教授のセクシュアル・ハラスメントに対して行った損害賠償裁判。秋田地裁では棄却だったが、高裁で加害者の教授に対して百五十万円の支払い命令)の勝利判決に続いて今回の東北大セクシュアル・ハラスメント裁判と東北生活文化大学セクシュアル・ハラスメント裁判の勝訴が続いた。
 ところが裁判所もようやくセクシュアル・ハラスメントに対する一定の「理解」を深めてきたという流れと逆行する判決を六月八日、東京高裁は出したのである。東京高裁は、神奈川県立外語短大の男性教授(六八歳)が「セクシュアル・ハラスメントをしたという事実無根の投書で、名誉を傷つけられた」として元同大の女性講師を名誉毀損で訴えていたが、一審の請求を退けた横浜地裁川崎支部判決を取り消し、女性講師に対して六十万円の支払いを命じる不当判決を出した。
 女性講師は、九三年四月、県教育長宛に「教授は九一年四月の歓送迎会で女子職員二人の胸をつかんだ。注意するとwこうすると女は喜ぶんだxなどと暴言を吐いた」と告発した。しかし、県教育委員会はこの告発を受け入れなかった。そして速やかに調査を開始するどころか、大学からの追放をねらった報復人事として専門外の学科を担当させようとしたり、大学当局と一体となって中傷を繰り返し続けた。
 そして、「上司の命令に従わなかった」として県教育委は、九五年七月講師を解雇処分するという暴挙に出たのであった。講師は、不当解雇処分の取り消しを求めて横浜地裁川崎支部に提訴したが敗訴し、現在、東京高裁に控訴している。
 この間、教授は、名誉毀損で講師を横浜地裁川崎支部に訴え、一審で教授側が敗訴したが、今回、東京高裁はこの一審判決を取り消したのであった。判決は、彼女の「証言には変遷があり、セクハラがあったとされる日時や態様が一致しない。男性教授は一貫して否認しており、セクハラを認める的確な証拠はない」などと教授側の主張を全面的に受け入れた。
 この判決は、明らかに女性講師に対するジェンダー的偏見に貫かれたものだ。教授のセクシュアル・ハラスメントは繰り返され、大学当局の女性差別体質の環境の上に行なわれていたものである。教授と大学の体面防衛の立場から次々と証言が補強されていったのである。
 また、判決は、具体的なセクシュアル・ハラスメントの被害と打撃こそ重要な事実であるにもかかわらず、このことを意図的に軽視するために日時の変遷云々を強調し、信憑性がないと決めつけているのだ。これまで裁判所は、このような手法をもってセクシュアル・ハラスメントの被害女性を何度も打ちのめしてきた。今回の判決は、ジェンダー的偏見に貫かれた最悪の手法を踏襲し、一連のセクシュアル・ハラスメントの勝利判決の流れに敵対するものでしかない。
 文部省は、この三月に「文部省におけるセクシュアル・ハラスメントの防止等に関する規定」を明らかにした。この規定をまとめた理由は、四月からの男女雇用機会均等法の施行にともない国家公務員についても人事院規則が施行され、各省庁で諸措置を採らなければならなかったからだ。
 規定内容を見てみると、実質的に人事院が出したセクシュアル・ハラスメント防止策を引き写したものにすぎない。したがって、キャンパス・セクシュアル・ハラスメントが再発する各学校・大学の性差別権力機構を改革していく立場の弱さ、人権侵害の観点が不明確、相談活動やケア活動の軽視など、多々問題点があるものとなっている。官僚が四月の均等法施行前にあわてて作文化したものにすぎない。
 このような作文であっても、この規定を土台にしながら、各学校・大学においてキャンパス・セクシュアル・ハラスメント防止のためのガイドライン、諸措置が強化されなければならない。
 日経連は、二月に経営者・管理者用のwセクハラ教則本「セクハラ防止ガイドブック」xを発行したとん、次々と予約が殺到し約六万部を売り上げたと言う。この数字を見てわかるように資本は、長年にわたってNO!セクシュアル・ハラスメントの取り組みを行ってきた女性たちの主張を無視してきたが、セクシュアル・ハラスメント問題について人事管理・運営の立場から駆けこみ的に取り組みはじめようとしている。また経営者は、セクシュアル・ハラスメント裁判によって企業管理責任問題や損害賠償請求によって経営上の損害を出さないために位置づけて行っていることは明白だ。
 このような文部省官僚や経営者・管理者たちのアリバイ的な取り組みを許さず、NO!セクシュアル・ハラスメントの取り組みを強化していこう。        (遠山裕樹)