もどる

    かけはし2017.年1月16日号

真に進歩的な提起は社会運動と独立左翼から


米国

生き延びるために反攻を

公然たる反抗と大衆行動こそが
トランプ現象の脅迫を打ち破る

「アゲンスト・ザ・カレント」

危機的時代の危険な大統領


 昨年一一月八日、一億三五〇〇万人の米有権者は、この国の近代史上もっとも人気の低い二人の資本主義政党候補者の間で選択を行った。彼らは二七〇万票近い差――確実に、圧倒的多数という形でカリフォルニアとニューヨークに集中した――をもって、ほとんど熱気はなかったとしても、より恐ろしくはないように見えた選択を望んだ。しかし彼女が選挙に勝利することはなかった。選挙人制という名をもつ奴隷制時代の連邦制という遺物によって、また中西部の戦場州における辛勝によって、ドナルド・トランプが選出された大統領として現れた。
幅広い形で予測された結果に代わって、とはいえその予測は進歩的な希望にとっては十分に陰鬱なもの――ヒラリー・クリントン政権のよどんだ新自由主義――になると思われたのだが、自ら進んで勝ち得た恐ろしげな世評を抱えた、あらゆる責任ある公職を保つには類のないほどにふさわしくない、一人の詐欺師が今や、おそらく史上もっともののしられた後任大統領として、一月二〇日権力を握ることになる。選挙から発した衝撃波は反響し続けている。それどころかそれは、閣僚と高位のホワイトハウス指名職に対する獣じみた配列、および米最高裁に対する予想される右翼の詰め込みによって、強化されている。
沼地を干すだと? 実際にはトランプは今、ウォールストリート―軍―企業の汚水だめをより深く掘り進めている。一人の指名が多くのことを代表するとすればそれは、教育省長官への、百万長者の女性相続人、ベッツィ・デボスとなるだろう。彼女はバウチャー・チャータースクール(米国で公立学校の代わりとしてキャンペーンされている私立学校:訳者)推進のロビーストかつ悲惨な破綻を見せているチャータースクールのミシガン帝国の企画者だが、彼女の場合、公教育と教育に関する専門性との唯一の関わりは、その両者を破壊するという彼女の公約だけなのだ。
共和党は、その消滅という早まったかつ表層的な予言とは逆に、大統領職と議会両院を支配することになる。これは新しい時代への前兆として、何を表しているのだろうか? その時代とは、事実上両企業政党とも自身を低レベルの内戦の中に見出し、地域的戦争が世界中で吹き荒れ続け、そして、付帯的な地球的打撃として端緒的な大量絶滅を伴って、資本が自然そのものと戦争状態にある、そういう時代なのだ。

民主党を軸とした反攻は不可能


まず起きたことは何だろうか? この結果は一部まぐれだが、しかし国際的な――ブレグジットおよび多くの欧州諸国における右翼民族主義の上げ潮を含む――、また米国内双方における、一定の諸傾向の頂点でもある。二%近くの僅かの実質的な差だけ有権者がトランプよりクリントンを好んだとしても、民主党は、クリントン―オバマ―ペロシが自らを張りつけた、新自由主義的、自由貿易の「新経済秩序」に反対する反乱によって、彼らがかつて優勢だった地域で打ち倒され水没させられることになった。
第二に、より詳細に見た場合、今回の選挙をある種の「ポピュリスト的な労働者階級の反乱」と呼ぶことは大いにいかがわしい。本誌本号のキム・ムーディの分析が示すように、それはむしろはるかに、裕福な層の蜂起だった(本号での他の選挙関連記事をも参照)。
しかしそうであっても、今回の選挙人結果を生み出した接戦戦場州では、全体的な労働者階級票の縮小と白人労働者の一定の態度変更が決定的要素だった。ニューヨークタイムス紙(NYT)の事後分析は、ヒラリー・クリントンの民主党がどのようにして負けることになったのかに、下記のように簡潔だが注意をそらさなかった。
つまり「埃が静まる中で民主党は、クリントン夫人の傷を負った立候補にはらまれた中心的な二つの問題を認めた。すなわち、ワシントンにいた彼女の数十年、そして金融機関で彼女が行った報酬付きの講演は、彼女が反エスタブリッシュメントと反ウォールストリートの怒りに線をつなぐことを不可能なままにした。そして彼女は、一九九二年にはクリントン氏を支援した白人労働者階級有権者を引き渡した。彼女はこうした人口統計的部分を勝ち取ることは決してないと思われたが、彼女の夫は、これらの有権者に基づくトランプの支持をさえぎろうと挑む上で、彼女のキャンペーンへの援助材は多くの働きをすると力説した。これらの有権者たちは、もっと暮らし向きがいい彼女は大学教育がある郊外の有権者に標的を定め続ける、と合理的に推論し、引き下がった……」(アミー・チョツィック、「クリントンキャンペーンの希望と失策」、NYT選挙特別号一ページ、二〇一六年一一月一〇日付)と。
加えるべき一点がある。民主党の新自由主義者が労働者階級の多く――白人、黒人、あるいはラティーノ――に語りかける必要をまったく理解していなかったという事実を超えて、真実であることは、彼らは、労働者たちに、産業の逃避や悪化する賃金、また職の不安定化によって彼らの職や共同体や愛する者たちが打撃を受けてきた者たちに、語るべきものをまったくもっていない、ということなのだ。しかしドナルド・トランプは、彼らに語る何かをもっていた。つまり、「悪い貿易取引」を取り消し、あのメキシコ人たちを外にとどめるために「大きく、美しい壁」を築き上げることによって、われわれは職を戻すだろう、と。
それはもちろんレイシズムであると共に偽のポピュリズムだった。これらの約束は、インディアナ州の空調機器メーカー、キャリア社の数百の職を大規模な税免除付きで「救い出すこと」をめぐる騒音と憤激にもかかわらず、維持不可能で、また維持されることはない、「巨大な」詐欺だ。トランプ/共和党のゲームプランはこれらの人々に、彼らの本当の生活が停滞し続ける中にあってさえ、あらためて白人であることで「偉大だ」と感じさせることなのだ。
彼らの諸々の期待が裏切られる時彼らがどのように反応するか――やはり詐欺師だとしてトランプに背を向けることによってか、それとももっと毒気をはらんだ民族主義者やレイシストになることによってか――は、この新しい時期がはらむ大きな白紙の問題の一つだ。
オルタナティブの提起は、独立した左翼と社会運動に課されている。まさに労働者階級の心配事に対する民主党の放棄が、今回の選挙で完成にいたった諸傾向の主要なものの一つであるがゆえだ。

右翼は山積みの反動攻撃を準備

 この選挙を経て両党とも自らを整理中だ。オバマ―クリントン―ペロシの民主的「中央」は、バーニー・サンダース運動指導部の多くが民主党を「人民の党」へと転換させるという、永久的なこれまで敗北し続けている十字軍を引き受けている中、民主党全国委員会の支配を求める進歩派の挑戦を交わそうと決起しつつある。
共和党の側では、内部的な亀裂は実際にはもっと大きい。そして何と言っても、トランプの敵対的乗っ取りの余波を受けて危機に入り込む、と思われたのは共和党なのだ。「トランプ党」と共和党エスタブリッシュメント間の関係は、緊張したままとなるだろう。しかし権力が授ける利点が、少なくとも一時期はそれらに橋をかける助けになるだろう。これこそが、政府に付随する諸責任がこの党の強硬右翼的角を「穏健化する」はずという、慰め的で型にはまった決まり文句が今度の件では、抜本的に間違いとなることがむしろありそうな理由だ。
なるほど、オバマケアを「置き換える」、あるいは単純に「オバマケアを無効にし」ないという戦術的な必要性は、おそらくこのケア法がすべていっぺんに消えることはないだろう、ということを意味している。しかし全体として見れば、共和党員たちは漸進主義者ではない。一連の重なり合う反動的な設定課題が、それらがたとえ部分的には対立していても、権力の座にあるイデオローグたちがそれらを最後まで打ち固める機会は次の二、三年だけかもしれないと分かっているからには、なおのことの偏狭さをもって遂行されるだろう。共和党連合のこうした共通性を欠いた諸要素――ウォールストリートと大企業、宗教的右翼、そしてレイシスト・民族主義者という諸部分――は、新たな配分から彼らの各々が何かを得つつあると感じている間だけ、結集を保つことができる。
富裕層を利する巨額減税に実効性を与え、社会保障と医療ケアのほとんどの財源を枯渇させ一掃する、というポール・ライアン(共和党下院議員団長)の計画は、トランプがこうした計画には手を出さないと約束したとしても、はっきりとテーブルに載っている。約束された軍事支出の巨額増額には何も言わないとしても、そうした減税政策が財政赤字を膨らませるであろうこと、そして最終的には社会的惨害に加えて経済的打撃を引き起こすであろうこと、こうしたことは、いつか将来――おそらくは、新自由主義の民主党が次を引き継ぐ際に、通常の交代パターンにしたがって――一掃されるべき問題だ。全国的な「働く権利」の猛攻(労働組合による労働条件規制を排除する攻撃:訳者)もまた係争中だ。
こうした諸方策がトランプ自身の労働者階級支持者のいくらかに打撃を加える中で、共和党はその間、永続的に黒人とラティーノの有権者に敵対的に目盛りを傾けることにより、二〇一六年選挙で彼らが得た優良資産を打ち固める必要がある。司法長官に対するジェフ・セッションの指名は、司法省が投票権法に敵対することを意味し、そしてその法が、選挙の大窃盗的有権者抑圧、および右翼諸州議会で成果を上げているゲリマンダーテクニックといったものすべてを通じて、実質的に解体される可能性がある、ということを意味している。
同じことは、妊娠中絶に対する諸州の猛攻が今や連邦政府によって、さらに最終的には極めてありそうなこととして最高裁によってけしかけられると見られる中で、女性の選択権に対しても進む。非常な程度で軍事化された警察諸力――ジョージ・W・ブッシュとオバマの両政権の一産物――は、抗議活動への攻撃と市民を人種的に分類記録することに関し、さらに大胆さを許されるだろう。この選挙結果はまた、ミシガン大学でのできごとに関するアンゲラ・ディラード(アフロアメリカンとアフリカを研究するアール・ルイス大学の教授)の議論が示すように、過激なレイシストである「オルタライト」が穴から現れることを励ますことにもなっている。
ムスリム住民を「登録する」という考えにはまさしく、古典的なファシストのテクニックという匂いがある。移民の共同体を貫いて広がる恐怖の波は、職場に対する大量捜索や追放が具体化するかどうかに関わりなく強まるだろう。
一つの希望を与える合図は、こうした非道への協力に対する、いくつかの大都市市政機関による拒否という公然たる諸声明――原則的行為として、またそれらの経済の防衛としての双方から――だ。ちなみにその経済(特にニューヨークの場合)はすでに、人々が萎縮し支出を止める中で脅かされている。

世界戦略の不透明さと矛盾


世界的な戦略はもっと詐術的だ。そこには帝国の諸々の二律背反、本物のリスク、現実に反攻可能な敵対者との潜在的対立が伴われているからだ。「ISISを打ち砕き彼らの石油を取り上げる」(あたかもその石油が「彼らのもの」であるか、取り上げるべき「われわれのもの」であるかのように)というトランプの自慢たらたらの誓約は、オバマ大統領のドローンプラス特殊部隊戦略の継続とほとんど変わらないものしか生み出さなくなりそうだ。新大統領のウラジミール・プーチンという同類との特有の選択的類似点はある種のジョーカーであり、それがより新孤立主義的アメリカ第一主義タイプと十分に適合的であるがゆえにむしろ、何人かの軍事主義的保守派を悩ませている。パレスチナ民衆にとっては、オバマの大統領任期が同じように悪いと分かったのだが、トランプと右翼の支配権はさらに悪いものになるだろう。米国の選挙結果は、ネタニエフ政権を、またもっと過激なクー・クラックス・クランタイプのイスラエル入植者諸勢力をも、大胆にすることになった。
回答が白紙の諸問題がある。トランプは、米国の主要な戦略的同盟者――英国、フランス、ドイツ――を承知の上で妨害し、イラン政権を防衛的なロシアとの抱擁に追い込みつつ、イランとの決定的に重要な核取引を本当に「破り捨てる」のだろうか?  米国のビジネスの利害によって圧力を受けることがあっても彼は、イランにおける商業的な航空産業の売却機会を(あるいはちなみにそのことなら、キューバとの間ですでに有望な機会を)台無しにしたいと思うのだろうか?
いずれにしてもドナルド・トランプがこれらの課題のすべてに関し実際に信じていること、あるいは彼が駆り立てられるのは利益によってか、それともイデオロギーによってか、それを知っている者は一人もいない。当座は、オバマ大統領がジョージ・W・ブッシュから引き継いだあらゆる戦争と彼が入り込んだ新たな戦争が新政権の下で吹き荒れるだろうと言うことを除けば、これ以上の賭を避けることが最良かもしれない。

前政権の有害な働きの直視必要

 大統領、ドナルド、トランプといったものが表わすものの意味を理解することは、依然難しく、しばらくの間そのまま続くだろう。今回は選挙人という古めかしく異様な制度が特にたちの悪いトリックを演じた。そしてわれわれは、何年も反響することになる政治的大変動のど真ん中にいる。この現実が米国資本にとって問題含みであると明らかになるかどうかをわれわれがまだ知ることはできないとしても、それは確かなこととして、労働者階級、被抑圧層と移民共同体、女性、また市民権にとっては残酷なものになるだろう。
抵抗が決定的だ。そしてそれは進行中だ。「家族計画」(妊娠中絶、避妊処方、性病治療などを行っているNGO:訳者)や「米国市民的自由連合」に向けた寄付の洪水、社会主義諸グループに対し登録申込をする人々の急増(多くはサンダースの盛り上がりから)、スタンディング・ロック(米先住民による石油パイプライン阻止闘争の現場、現在一時的な勝利を勝ち取っている:訳者)に向かう活動家のボランティアの洪水、これらすべては中でも前向きな印だ。
しかし、トランプに関する恐怖のど真ん中で、反動に道を清めるという点で現政権が果たした有害な役割を見過ごすことは、怠慢になると思われる。八年前にバラク・オバマが政権に着いた時、そしてそれからまさに多くの夢が壊されたのだが、彼が彼の最初の日に閉鎖されるだろうと公表したグアンタナモ収容所がそのまま残るだろうと、そしてその結果、共和党の大統領がその拡張を計画でき、水責めの「またもっと悪質な」拷問を復活できるなどと、誰が考えただろうか?
次いでオバマの追放諸方策が、新大統領がそれらに対抗するために強圧的になるほど巨大になる、などと誰が想像しただろうか? あるいは、アフガニスタンでの一五年を経て、さらにイラク侵攻から一三年、米軍が両地に、視野に終わりがまったく見えないまま、深く絡まされたままとどまるなどと、誰が想像しただろうか?
オバマ大統領期に対する適切な評価には独自の扱いが必要になる。しかしわれわれが高まる反動と対決の一時期に向かっている以上、それに関しては過度に後ろを振り返らないことが賢明だろう。いずれにしろ後戻りはあり得ない。ドナルド・トランプが表現する本当に悪意のある脅迫は、公然たる反抗と大衆行動によって、死にゆく民主党の新自由主義によってではなく、街頭の諸運動によって、さらに活気に満ちた真に進歩的な政治的課題設定によって、打ち破られるだろう。(「インターナショナルビューポイント」二〇一七年一月号) 



もどる

Back