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    かけはし2018年5月21日号

支配者たちの思惑を超える民衆連帯の確実な一歩を!


米朝首脳会談の開催にあたって

日程と場所が確定

 五月一〇日、トランプは米朝首脳会談を六月一二日にシンガポールで開催すると発表した。日程的には六月八〜九日にカナダで開かれるG7サミット後ということになるのだが、朝鮮半島の完全な非核化にむけた具体的な措置に関して米朝間で合意点をつめていくためにはまだまだ時間が必要だということなのだろう。トランプ政権内部ではネオコンのボルトン大統領補佐官に代表される「リビア方式」絶対堅持派が強固であり、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の完全な非核化実現なしに米国はひとつも「妥協すべきでない」という立場だ。したがって金正恩が打ち出している「段階的な非核化」などはまったく「話にならないもの」であって、水面下での交渉が進まなければ中止あるいは延期すべきだというのがこの最強硬派の本音である。
 しかしトランプにしてみれば一一月に予定されている連邦議会選挙前に、何らかの「明るい成果」を手にしたいのである。しかもそれが歴代大統領の誰も成しとげられなかった「箔」のついた、できれば「ノーベル平和賞」につながり次期大統領選挙勝利のための好材料になるようなものだ。トランプは大統領就任後「アメリカ・ファースト」という公約の実践として、地球温暖化対策の「パリ協定」や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱、中国をはじめとした貿易相手国との摩擦の強化、移民締め出しと壁の建設、イスラエル大使館のエルサレム移転、そして今月八日に発表したイラン核合意からの離脱などを行ってきたが、そのどれもが国内外から強い批判と反発を受けてきた。そう考えると今のトランプにしてみると、朝鮮半島問題は絶対に「物にしたい」ほとんど唯一の好材料だということになる。

日中韓会談と思惑の違い


 米朝首脳会談の決定発表前の数日間は大連、平壌、東京でめまぐるしい動きがあった。東京で開かれた日中韓首脳会談は、南北首脳会談を受けて開くことが予定されていたものであった。ここでは「朝鮮の完全な非核化と安保理決議の履行・朝鮮半島完全非核化の板門店宣言を評価する」などの基本合意はなされたが、非核化のプロセスや経済制裁の緩和をめぐっては各国の考え方の違いが明らかになった。その意味では「三カ国の違いを確認した」首脳会談だったということができる。
 五月七〜八日に大連で行われた習近平と金正恩との中朝トップ会談と、九日に平壌で行われた金正恩とポンペオ米国務長官との会談は、米朝首脳会談の確定に向けて完全に連動するものだった。
 金正恩は七日、政府専用機で大連に向かった。朝鮮のトップが撃墜されて暗殺されるリスクが高い航空機を使って外遊するのは、今回が初めてのケースではないかと思われる。それはシンガポールに行くための予行演習も兼ねたものだったといえる。金正恩訪中の目的は、米朝首脳会談の日時と場所が決まったことを報告することと、米朝交渉の内容の報告と対策・対応について中国側との意見交換と要請を行おうとするものだった。
 会談のなかで金正恩は朝鮮の側が提示してきた「段階的な非核化に向けたプロセス」をトランプ政権側が承認しないために、米国主導の経済制裁の緩和に見通しが立たないこと、さらに「イラン核合意」からの離脱など、合意したことをいとも簡単に破棄し続けるトランプ政権への不信感などを表明したようだ。その上で中国独自の経済制裁緩和を要請し、トランプ政権に対する政治・軍事的な「後ろ盾」としての中国の位置を確認した。会談後に習近平はトランプと電話協議をし、そのなかで「朝鮮半島の非核化について中国が積極的な役割を引き続き果たしていく。朝鮮側の安全への懸念を考慮するよう」求めた。
 五月八日、イラン核合意からの離脱を表明したトランプは記者会見でポンペオが朝鮮に向かっていること、首脳会談の時期も開催地も決まったことを明らかにした。九日に平壌入りしたポンペオの任務は、米朝首脳会談の条件として米側が要求していた朝鮮で拘束されている韓国系米国人三人の解放の実現だった。そしてトランプは一〇日、ワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地で得意げに三人を出迎えたのであった。

安倍の「本音」は和平反対

 日程と場所が決まったが米朝首脳会談ははたして実現されるのだろうか。最大のネックとなるのはトランプ政権内での調整だ。会談が決定してから「非核化」だけではなくて「朝鮮の大量破壊兵器の廃棄」という言葉が使われ始めている。これはボルトンをはじめとしたトランプ政権内の最強硬派が会談のハードルをさらに高めることによって、米朝首脳会談の開催そのものを困難にさせようとする動きである。
五月九日の日中韓首脳会談においても安倍が「北朝鮮のすべての大量破壊兵器と弾道ミサイル計画の完全かつ検証可能で不可逆的な方法での廃棄へ取り組みを進めるべきだ」と発言しているのはそうした動きを反映している。ここに安倍の本音がある。安倍は南北首脳会談にも米朝首脳会談にも反対しているということだ。要するに日本人拉致問題に真剣に取り組む気持ちなど「さらさらない」ということであり、米中韓の首脳に「お願い」する程度のことをしていればよいという考えなのだ。そして朝鮮半島の平和にもまたネオコン同様に反対しているということである。

「イラン核合意離脱」と朝鮮


公約通りにイラン核合意から離脱はしてみたもののトランプは、抜け道が見えないほどに混沌とする中東にかかわり続けなければならない。今回の離脱は今月一四日のイスラエル建国七〇周年記念日を前にして発表された。そしてその日にイスラエルの米国大使館がエルサレムに移転されて、記念式典にはトランプの長女のイバンカ大統領補佐官が出席する。
イラン核合意からの離脱はイスラエルとサウジが歓迎している。そしてすでにイスラエルとイランとの軍事的な衝突が始まっている。イランが本格的にウラン濃縮に乗り出せば、イスラエルは確実にその施設を徹底的に空爆するだろう。一方で今月の六日に行われたレバノンの国民議会選挙では、イランが支援するシーア派のヒズボラが躍進した(レバノンではイスラム教勢力とキリスト教勢力が同数になるように議席配分されている)。今月一二日に予定されているイラクの連邦議会選挙でもシーア派が躍進する可能性も高い。内戦の続くシリアに限らず、中東全体が入り乱れた戦争状態におちいる危険性が高まった。
またトランプは合意離脱にともなって、イランと取引を続ける企業に対して期限を設けて制裁措置をとることを発表した。この措置が実行されれば一五年の合意後にイランに大規模投資してきた欧州・中国・韓国・インドなどの企業には大打撃となるだろう。こうしてトランプは中国とばかりではなく、いまや全世界を相手にして貿易戦争の「宣戦布告」を行おうとしているのである。
またトランプの「アメリカファースト」は軍事面においては「他国のためにアメリカ人が無駄な血を流す必要はない」という論理となる。したがって戦術においては犠牲になりやすい地上軍による介入は極力避けて、シリアでそうしたようにミサイルや無人攻撃機と戦闘機などの「飛び道具」による軍事介入に止めようとするものになるだろう。それでも「中東問題」はトランプ政権に重くのしかかり続ける。そしてここでの「成果」はまったく期待できないのである。
こうして朝鮮半島の非核化問題だけがトランプ次第でどうにでも「成果」にできる課題となった。トランプが米朝首脳会談でサプライズを準備する可能性も十分にありうる。金正恩は「体制保証(平和協定の締結)すれば核とICBMを放棄する」準備があるわけだから、トランプにしてみれば次のような方法も選択肢としてはありうるだろう。「私の任期中に核とICBMを完全に廃棄することを確約すれば、今ここで平和協定に調印してもよい。ただし核の完全な廃棄まで経済制裁は解除しない」という提案である。そして金正恩はこの提案に合意することになるだろう。いずれにせよ最大のネックはトランプ政権内での調整ということになる。 (高松竜二)



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