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    かけはし2018年6月11日号

朝鮮半島の平和実現への一歩を


米朝首脳会談をめぐる駆け引き

民衆自身による統一のために

 ここに掲載する高松竜二同志の米朝会談に関する論文は、六月一二日にシンガポールで開催の予定だった米朝首脳会談を「延期する」とトランプが金正恩委員長に書簡を送った直後に書かれたものである。その後トランプは再び、当初の予定通り会談を行う方向に再転換した。高松論文はトランプのそうした再転換の以前に書かれたものだが、米朝会談をめぐる双方の思惑を分析する上で有益なものであり、加筆することなくそのまま掲載する。(編集部)

「会談中止」発表したトランプ

 トランプ米大統領は五月二四日、シンガポールで六月一二日に開催することが予定されていた米朝首脳会談の中止を発表した。会談の中止はトランプが金正恩朝鮮労働党委員長に宛てた「書簡」の公表として明らかにされた。
 トランプはこの書簡のなかで首脳会談中止の理由としてあげていることは「直近のあなた方の声明で示された敵対心や怒りに鑑みると、私は今、計画通りに会談することが適切だとは思わない」として「シンガポールでの首脳会談は中止になるとお知らせする。あなたは核戦力について語るが、米国が保有する核戦力は非常に威力があり強力だ。私はそれが決して使われないように神に祈っている」という考えを示した。
 また書簡のなかでは朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)で拘束されていた米国人三人の解放に対して感謝の意を表し「いつの日かあなたと会えることを楽しみにしている」「もしあなたがこの最も重要な首脳会談について心を入れ替えたならば、遠慮なく私に連絡をするか、書簡を送ってほしい」と米朝対話と交渉の継続の意思を明らかにした。米朝首脳会談はこのまま中止になってしまうのか、それとも一度仕切り直しされてから延期となるのか、あるいは六月一二日に予定通りに開かれるのか様々な憶測が飛び交っている。いずれにせよ米朝間の水面下での交渉は継続されていることだけは確かである。

米韓合同軍事演習めぐって


 予定されていた米朝首脳会談について「改めて考慮せざるを得ない」と、最初に「中止の可能性」を示唆したのは五月一六日の金桂冠(キムゲグァン)第一外務次官による談話発表だった。金桂冠はその談話のなかで「先完全核放棄」の「リビア方式」に固執するネオコンのボルトン大統領補佐官を厳しく批判して「米国の朝鮮敵視政策と核による威嚇を終わらせることが先決条件だ」「一方的な核放棄だけを強要しようとするなら、我々はそのような対話にはもはや興味を持たないだろう」と、米朝首脳会談中止の可能性について触れたのだった。
 また同日、朝鮮は五月一一日から二五日まで米軍のステルス戦闘機やB52戦略爆撃機など約一〇〇機が参加する米韓合同軍事演習「マックス・サンダー」実施を非難して、その日に予定されていた南北閣僚級会談の無期限延期を韓国統一省に通知した。この件に関して「朝鮮中央通信」は「板門店宣言のインクが乾く前にわが国に反対する大規模な訓練をし、我々が示した平和愛好的なすべての努力に無礼、非道な挑発で応えた」と韓国文在寅政権を非難した。この朝鮮側からの非難は、四月二七日の南北首脳会談で「板門店宣言」として確認された第二項の「軍事的緊張状態を緩和し、戦争の危機を実質的に解消するために共同で努力」するとした宣言の精神と、その第二項の@「相手方に対する一連の敵対行為を全面的に中止する」とした確認に、韓国側が「米韓合同軍事演習に参加した」ことによって違反したと非難しているのである。翌一七日には祖国平和統一委員会の李善権(リソングォン)委員長も米韓合同軍事演習に触れて、文在寅政権と「たやすく再び向かい合うことはない」として、文政権を「無知無能集団」だとこき下ろした。
 在韓米軍と米韓軍事同盟に関連して、韓国では南北首脳会談直後から「平和協定の締結」と矛盾し合うのではないかという声が上がっていた。文正仁(ムンジョンイン)外交安保特別補佐官は四月三〇日に米国の外交専門誌に「朝鮮半島の平和に向けた真の道」と題する文章を寄稿して、そのなかで「平和協定が締結されたら、在韓米軍を正当化するのは難しくなり、文政権は政治的ジレンマに直面する」と指摘している。
 文在寅はこれに対して「在韓米軍(二八五〇〇人が駐留)は米韓同盟の問題であり、平和協定とは関係ない」という見解を示した。しかし平和協定の締結にともなって解散する国連軍(実態は米軍)司令部と、米軍が作戦統制権を握る米韓連合軍司令部の戦力は一体的に運用されてきたのではないか。そしてそもそも朝鮮半島での外国軍の駐留は「停戦協定」にすら違反しているのである。
 平和協定問題と在韓米軍の縮小と撤退問題は必然的に連動しているだろうし、それは同時に南北交流の積み重ねと経済的発展にともなった「独裁と情報政治に反対して人民の自由と権利を擁護、保障する民主的な社会制度を発展させる」(「高麗民主連邦共和国構想―金日成 施政方針一〇項目のA)ことによって、朝鮮における民主化とも連動してこそ、朝鮮半島における南北の人民自身による平和統一に道を開くものとなるだろう。

米政権内部の綱引き

 トランプは一七日の金桂冠による批判と「中止の可能性」の示唆に対して直ちに反応して「『リビア方式』は我々が検討しているモデルではない」と明言して、改めて「非核化に応じれば体制を保障する」考えを示した。そして「会談の予定に変わりはない」と言い切ったのであった。そして翌一八日、中国はこのトランプ発言を歓迎した。
しかしこうしたトランプの発言に危機感を持ったのがボルトンであり、福音派(キリスト教原理主義派であり米人口の二五%以上を占めるトランプの最大支持基盤)のペンス副大統領らであった。彼らは「成果ほしさに前のめりになってこのまま会談に臨めば、米朝首脳会談がトランプ政権にとって『政治的屈辱』に終わりかねない」と、二二日に予定されていた米韓首脳会談を前にしてトランプをゴリゴリと「説得」した。こうした状況を二〇日付のニューヨークタイムズは、トランプはこのまま会談の準備を進めるべきか「側近を質問攻めにしている」と報じた。
そして二一日、ペンスはFOXニュースで朝鮮に対して「トランプ大統領をもてあそぶことができると考えるのは大きな間違いだ」。非核化に応じなければ「リビアの二の舞となるだろう」と、挑発したのであった。
翌二二日に行われた米韓首脳会談でのトランプには、いつものようなふてぶてしさがなかった。そして終始動揺を隠すことはできなかった。会談冒頭でトランプは「首脳会談は実現しない可能性が相当ある」「いくつかの条件が満たされなければ会談はない」「後日に延期されることもある」などと発言した。またその一方で、朝鮮半島の非核化は「金正恩も真剣に望んでいると思う」「彼の安全を保障する」と、非核化に応じれば体制は保障するというこれまでの考えを繰り返した。

米中韓朝の思惑

 こうしてグラグラになったトランプに対して、はしごを掛けたのは金正恩だった。英語が堪能な女性外務次官の崔善姫(チェソニ)は二四日、FOXニュースでのペンスによる挑発発言に関連して「許容できない、厚かましい発言」だと激しく批判した。その上で談話を発表して「米国が我々の善意を冒とくし、非道に振る舞い続けるなら、朝米首脳会談を再考する問題を最高首脳部(金正恩朝鮮労働党委員長)に提起する」ことを明らかにしたのであった。
金正恩はこの談話のなかでトランプに対して「大統領の考えはよくわかった。政権内部の調整にまだ時間が必要なのでしょう。六月一二日の首脳会談の中止と延期を受け入れる」というシグナルを送ったのだった。そしてトランプはこの談話を受けて予定していた米朝首脳会談の中止を発表したのであった。
会談の中止によって、会談の仲介役を自任してきた文在寅はその役割を果たすことができずに、鼻っ柱をへし折られるほどの外交的大打撃を受けることになった。米国、中国、そして朝鮮に対して行おうとしてきた文在寅のニコポン外交は、足元を見られて完全な機能不全におちいっている。朝鮮はすでにポンペオ国務長官をパイプ役とするトランプとの外交ルートを確保しており、文在寅政権に対しては「板門店宣言」の完全履行を要求し続けるだろう。また中国はTHAADミサイルの韓国配備に反対して韓国への圧力を維持するだろう。米国も「板門店宣言」を妨害するかたちで、韓国による独自の対朝鮮政策に圧力をかけ続けるだろう。文在寅政権は今後どこかで政治的な決断が確実に迫られることになる。

「会談」妨害する安倍政権


安倍政権はと言えば、相変わらずの「蚊帳の外」である。ボルトンやペンスらと一緒になって朝鮮敵視の圧力一辺倒の外交では、もはやひとりの日本人拉致被害者を救い出すこともできないだろう。そもそも安倍にその気があるのかすら疑わしい。五月一二日の朝鮮中央通信は、日本人拉致問題については「解決済み」と発表した上で「過去の清算のみが日本の未来を保証する」と主張している。拉致問題に限らず南北分断を強いられてきた朝鮮半島にかかわる数多くの問題は、その解決のためには朝鮮半島の緊張緩和と平和の実現が必要である。日本政府は本来であれば過去の植民地支配と、韓国・朝鮮人に対して行われてきた非道な差別を猛反省して、朝鮮半島の平和のために全力をつくすべきなのである。
五月二四日、予定されていた朝鮮北東部の豊渓里(プンゲリ)の地下核実験場坑道入口が爆破により封鎖された。放射能汚染の実態を隠蔽するために報道陣から線量計を没収するなどの問題点もあったが、米英中露韓の三〇人の報道陣が立ち会った。ドカーンと響いた爆発音は、三月から南北・米朝・中朝とめまぐるしく展開された外交戦のハーフタイムを知らせるものとなったようだ。
米朝首脳会談はトランプも金正恩も絶対に開催したいと考えている。そこでの合意内容がどのようなものになるのか予想するのは難しいが、会談は秋までに必ず開かれることになるだろう。反戦・平和、九条改憲反対などの闘いを推し進めながら、朝鮮半島の平和を妨害する安倍政権を打倒しよう。
(五月二五日/高松竜二)




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