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    かけはし2018年6月11日号

レイシズム移民政策政権の打倒へ


イギリス

内相辞任

メイ政権に最大限の圧力を

 日本ではほとんど伝えられていないが、本紙四月三〇日号で紹介した英国の同志による分析にもあるように、英国のメイ政権は大きな内部的な危機に苦しんでいる。その新たな現れの一つが、以下で論じられている移民政策をめぐって余儀なくされた内相の辞任だ。問題となった政策には内相としての前任者であったメイ首相に大きな責任がある以上、この辞任は否応なくメイ自身の正統性をも掘り崩している。他の政策的行き詰まりも加えて、英国政治は今後急展開を見せる可能性があり、注目が必要だ。なお、日本の現状との対比として、ラッドの辞任には、国会に嘘を伝えたことへの責任も含まれていることをつけ加えたい。(「かけはし」編集部)

【解説】

 英内務省のアンベル・ラッドは、議会とメディアに一定数の言明を行い、後でその杜撰さが判明した大騒ぎの一時期を経て、四月二九日夜辞任を余儀なくされた。これらのことは移民政策と国外追放に関係したものであり、元の英領カリブ海諸島出身で長期に英国で暮らしてきた人々へのスキャンダルに満ちた扱いに関する、「ガーディアン」紙が先頭に立ったマスメディアによる暴露を受けたものだった。ラッドはサジド・ジャヴィドで置き換えられたが、サジドはこのポストを占める初めてのBAME(黒人、アジア人、中東人)だ。
「ウィンドラッシュ世代」(一九四八年ジャマイカから英国へ軍人を運んだ英軍艦のウィンドラッシュに由来する言葉)は、一九四八年から一九七一年の間に、特に英国の公共サービス、交通、医療サービスで働くために英国に渡ったカリブ海地域の人びとを指す用語だ。彼らは、英国市民、また英連邦市民として英国内で働き、暮らす権利をもってやって来たが、現首相のテレサ・メイが内相であった時期につくり出した、移民に対する「敵対的環境」によって強い影響を受けている。(「インターナショナルビューポイント」)

政権の正統性
揺るがす辞任

 内務相としてのアンベル・ラッドの辞任はおそらく、レイシズムを理由とする閣僚辞任では、エノック・パウエル(注一)以後で最も重大なものだ。彼女は、レイシズム的な国外追放政策を監督しつつも、それが実際に行われ続けていた、と認めることを拒否した。これは、その任を務めた彼女の前任者で現首相のテレサ・メイから身を守る楯を取り去ることになった。
これは、ラッドに対する労働党影の大臣であるダイアン・アボット、およびデイヴィッド・ラミー(注二)にとっては非常に重要な勝利だ。そして、「ソーシャリスト・レジスタンス」読者の多くが、労働党党首としてのコービン選出以来ガーディアンに猛烈な怒りを示してきたと思われるとしても(ガーディアン紙の姿勢が露骨な反コービンであることに関係していると思われる:訳者)、その記者であるアメリア・ジェントルマンは、このスキャンダルに大衆的な注意を向ける点では絶対的に確固としていた。

レイシズムに
今こそ異議を

 「ウィンドラッシュ世代」(「解説」参照)の子や孫の人びとに対する扱いについては、ますます多くの恐ろしい話が現れている。人びとは逮捕され、収容所に置かれ、職から解雇され、海外での一族の行事から戻る際にはこの国への入国を拒否され、NHS(税による全国民対象の医療サービス提供:訳者)の利用に対する否認があり、各種の手当も取り上げられた。
このすべては、英国市民としてここに来た人びとに恐怖の空気をつくり出した。そしてそれは、テレサ・メイが先導した二〇一四年移民法に基づき導入された諸々の規則の結果だ。そしてこの法が証拠書類提出という現在の新しい体制を導入した。この同じ法は、英国内で長期に暮らしてきた人々、しかしまだ「確固とした地位」に達していない人びとから保護を取り除いた。これは、特に追放目標の設定が彼らを「たやすい摘み取り」対象と見られるように導いた中で、ウィンドラッシュ移民のようなグループを脆弱なままに取り残した。
そしてウィンドラッシュ移民は、この移民体制の下で非人間的で受け容れがたい扱いを受けてきたという点では、唯一の集団というにはほど遠い。われわれは、「よい移民」と「悪い移民」といった考え方を拒否し、たとえば、移民収容所にいる子どもを含む何千人もがこうむっている恐ろしいものごとを指摘する。
ウィンドラッシュスキャンダルをめぐって生み出されてきた憤激は、ブレグジット国民投票後に増大しているレイシストの攻撃についての懸念、そしてわれわれの公共サービスにおける決定的な役割を引き受けるために世界中から来続けている人びとの能力も加えて、英国での移民統制の心臓部にあるレイシズムに異議を突きつけるために利用されなければならない。

労働党現指導部
の一貫した反対


二〇一五年の総選挙に向けた助走の中で英国の街頭に移民取締官の車両を送り込んだメイは、「敵対的環境」という路線の創造者だ(注三)。二〇一七年一〇月、「ガーディアン」は「移民取締官により引き止められ尋問された五人に一人は英国市民」と報じた(注四)。弁護士と議員たちは、これは「違法なレイシズム的情報収集」になっている、と懸念する声をあげた。これはまた、初めて示された懸念でもなかった。ジェレミー・コービンは、平等人権委員会から内務省への手紙にしたがって、二〇一三年の公共交通諸々の集中個所における移民手入れの問題を後ろの席から提起していた(注五)。
コービン、影の内相のダイアン・アボット、労働党の前面席を占める他の議員たちには、この問題を取り上げることに関して長い実績――労働党が政権にあった時期を含め――がある。そしてラッドに対するもっとも一貫した批判者の一人、トッテンハム選出のデイヴィッド・ラミーは、自身がこの選挙区では初めての黒人議員であったバーニー・グラントの価値ある継承者――彼が最初に選出された時に左翼のほとんどが疑いをもったこと――であることを証明した。
労働党政権時代の元の内務相であるデイヴィッド・ブランケットが、アンベル・ラッドは辞任すべきではない、とメディアに話したことは何の驚きでもなかった。それこそ、ダイアン・アボットが四月三〇日の「トゥデイ・プログラム」(注六)で、労働党は新しい路線の下にある、と指摘した理由だ。

あいまいさない
政策是正追求へ


ラミー、アボット、また他の者たちは、ウィンドラッシュ世代に対するラッドの約束には詳細がはなはだしく欠けていた、と一貫して指摘してきた。新たに指名された内相のサジド・ジャヴィドは、どのような補償が与えられるのか、また諸手当や諸サービスの権利の円滑な回復がどのような形で確保されるか、をはっきり証明するよう、まさに圧力の下に置かれるだろう。そして、メイによる可能な限り早期の下院演説という要求が支持されなければならない。
さらに解決が必要な問題が他にもある。たとえば、労働党のステファン・ドウティーは四月三〇日の「トゥデイ・プログラム」で、司法支援の削減が移民に関する諸決定に異議を申し立てる必要がある人びとに大きな影響を与えた、とそのやり口を指摘した。
もっとも重要なこととして、「削減に反対して立ち上がる黒人活動家」スポークスパーソンのジタ・ホルボーンはソーシャル・メディア上で、木曜日以後いつでもジャマイカに向け英国を飛び立てるよう計画されたチャーター飛行便がある、と指摘し続けている。ホルボーンは、現在ヤールスウッド収容所にいる一人の女性に対する移送予告を見たのだった。

分断支配のワナ
自覚的警戒必須


ホルボーンは、「よい移民」と「悪い移民」という分断支配のワナに落ち込まないよう警告する。彼女はそれを以下のように提起している。
「これらの飛行便に含められている人びとは、彼らの移民の地位に関する定義によって罪があるとされた人びとだ。それは、もし英国人であれば、微罪で服役しても社会復帰を可能にされ暮らしを続けることができると思われるのに、その代わりに処罰と彼らが知らない国への追放という二重の措置に直面している人びとだ。そこには若い人びとが、何人かは一〇代の者が含まれている。彼らは、制度的なレイシズムが理由で、立ち止まらされ度を過ぎた尋問を受け、そうしたことの回数のせいで、一度も逮捕されたことがなくても、罪がある、法違反を犯しているらしいとされ、起訴され、法廷に出され、何らかの罪を見つけ出されることを運命づけられている。そうであれば、あなたが問題は『ウィンドラッシュだけ』と言いたい時でもあなたの子どもたちがそうなり得るということを、また移送され続けている子どもや孫は、彼らの親族が英連邦諸国からいわゆる母国へやって来た世代の一部でなかったら、そもそも英国にはいなかったはずだということを、心にとどめよう。そしてこの世代の多くは、戦後の英国における基本的な職務での仕事のために来るようここに招かれたのだ……」と(注七)

メイの居すわり
許さない闘いへ

 ラッドの辞任は、英国の多くの地域における地方選が予定された週のはじめに起きている。この選挙は、コービン指揮下の労働党がかなりの結果を得ると予想されている選挙だ。昨年、メイが前倒しの総選挙を意表を突いて打ち出す中で、多くの選挙運動活動家に対するスローガンは、「六月をメイの終わりにしよう」だった。ものすごい努力とあらゆる者の予想を超えた好成績にもかかわらず、コービンはそのスローガンを完全には実現できなかった。
一一カ月後、保守党はもっと大きいと言っていい混乱の中にある。コービンの友とはとうてい言えない「テレグラフ」は、サッチャー主義者であり元銀行家であるジャヴィドの指名が確定することとして、「サジド・ジャヴィドは新内相として『公正な』移民政策を約束しているが、テレサ・メイに対する圧力は積み重なる」と伝えている。
メイは、ラッドの辞任は議会への正しさを欠いた情報提供をめぐるものだ、と強調してきた――政策課題それ自身から注意をそらそうとしつつも失敗して――(注八)。メイが責任をとらなければならず、有害な「敵対的環境」政策は終わるべき、と双方を要求したダイアン・アボットは絶対に正しい。
メイと企業・技術革新・技術相から内務の閣僚へ降格したジャヴィドは、これまで何度も首相と衝突してきた。彼は国民投票の中で残留を支持したが、彼はそれまでEUを敵視していると見られてきたためにこれは何ほどかの驚きだった。評論家たちは今、ジャヴィドの指名とラッドの辞任が彼女が提案する混合関税協定の障害となりそうに見える中で、メイは今週の閣議でさらなる問題を抱えそうだ、と予測している。
このすべてが意味することは、メイと彼女の脆弱な内閣に対する圧力を維持する必要が最高度になっている、ということだ。

▼筆者は英国ソーシャリスト・レジスタンスの指導的メンバー。

(注一)エノック・パウエルは保守党の政治家だったが、「血の海」演説として言及される、深くレイシズム的な演説で移民に対する彼の攻撃を深刻化した翌日の一九六八年四月二一日に、保守党党首のエドワード・ヒースにより影の国防相としての任を解かれた。
(注二)ラミーは二〇〇〇年からロンドン北部のトッテンハム選挙区の労働党議員になった。ギアナ人の両親から生まれたこの黒人議員は、二〇一五年に労働党指導部としてジェレミー・コービンを指名した。しかしコービン支持者とは見られていない。
(注三)ガーディアン二〇一八年四月二二日、「あなたが敵対的環境を作り出しているとすれば、それが敵対的だとあなたが驚くことはないはずだ」。
(注四)ガーディアン二〇一七年一〇月二八日、「移民取締官が引き止める五人に一人は英国市民、数字が示す」。
(注五)ガーディアン二〇一三年八月三日、「移民抜き打ち検査はレイシズムではない、内務省語る」。
(注六)「トゥデイ・プログラム」は、主なBBCラジオチャンネルでウィークデイの毎朝三時間放送される、ニュースおよび見解を伝える影響力のある番組。(注七)Change.org「ジャマイカおよび他の英連邦諸国への国外追放チャーター飛行便すべてを止めろ」。
(注八)ガーディアン二〇一八年四月三〇日、「テレサ・メイ、ラッドの辞任はメイ自身の政策決定をめぐるもの、との示唆を拒否」。(「インターナショナルビューポイント」二〇一八年五月号) 




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