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    かけはし2018年6月25日号

東アジアの民衆運動こそ平和の保証だ


米朝首脳会談とわれわれの課題

今こそ安倍改憲をつぶすとき

反核・民主主義・人権のための共同戦線を


米朝共同声明をどう読むか

 六月一二日、当初から予定されていた通りにシンガポールにおいて史上初の米朝首脳会談が行われた。会談後に「米朝共同声明」が発表されたが、その内容は極めて包括的で抽象的な内容となった。それは、互いがどこをどの程度まで妥協できるのか、水面下で続けられた事前交渉でその一致点を詰め切れないままに会談が開催されたことを明らかにするものとなった。
 「共同声明」では「トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証を提供することを約束し、金委員長は朝鮮半島の完全な非核化への、確固として揺るぎのない約束を再確認した。……相互の信頼醸成によって朝鮮半島の非核化を推進することができると確認」した上で、四点について確認した。
 @新たな米朝関係を樹立することを約束するA朝鮮半島において持続的で安定した平和体制を構築するために共に努力するB南北の「板門店宣言」を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けて努力することを約束するC(朝鮮戦争における米国人の)身元特定済み遺骨の即時送還を含め、捕虜や行方不明兵の遺骨収集を約束する。
 そして続けて「共同声明に明記された事項を、全面的かつ迅速に履行することを約束する……ポンペオ米国務長官と北朝鮮の担当高官が主導」することを約束した。
 またトランプ米大統領は「共同声明」のなかで明らかにされていないいくつかの点を記者会見で補足した。その内容は@北朝鮮との協議がうまくいっている間は、米韓合同軍事演習を中断するA北朝鮮はミサイルのエンジン試験場の封鎖に言及したB完全な非核化まで長い時間がかかる。検証作業には多くの人員が投入されることになるC非核化の費用負担は韓国と日本がすることになるだろうD北朝鮮への経済制裁は核による脅威がなくなれば解除されるE適切な時期に平壌を訪問する。金委員長をホワイトハウスに招待する、などであった。

トランプ政権の内部対立


 今回の米朝首脳会談では、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)非核化のためのロードマップや、朝鮮戦争の終結と平和協定問題や、ICBMを含む弾道ミサイル問題などがどうなったのか明らかにされることはなかった。やはりトランプが言うように「時間がなかった」のと同時に、トランプ政権内部の対立にトランプ自身が決着をつけて会談を準備できなかったからであった。トランプは「歴史的な首脳会談をまずは実現する」ことを最大の獲得目標として、そしてそれを開催することによって政権内部の対立を抑え込もうとしたのであった。そして何よりもトランプは、臆面もなく米帝国主義に軍事的挑発を繰り返してきた三〇代そこそこの「若き独裁者」に興味があり、一度会って話がしてみたかったのであろう。
 米朝首脳会談は五月二四日にトランプによって発表された金正恩朝鮮労働党委員長に宛てた「書簡」によって中止されることになっていた。トランプが中止することを判断した理由は、トランプ政権内で「会談の開催そのものに反対」し「先非核化・後制裁解除のリビア方式」を強力に主張するネオコンのボルトン大統領補佐官と福音派(右翼キリスト教原理主義派)のペンス副大統領、それに反発する朝鮮の側との非和解的な対立が強まり、それに対してトランプが判断停止状態におちいってしまったからだった。しかし同時に米朝対話と交渉継続の意思があることは表明していた。
 このトランプの会談中止発表に対して最初に動いたのが金正恩だった。金正恩は翌二五日にホットラインを使って韓国の文在寅に緊急の南北首脳会談を要請した。そして会談は二六日に朝鮮側の「統一閣」で行われた。文在寅には米朝の「仲介役」としての面子もあったし、六月一二日の翌日にあたる一三日には韓国の統一地方選と全国一二カ所の国会議員補選があり、米朝首脳会談が中止された場合、政治スケジュールが崩れてピンチになりかねないという危機感があった。南北首脳会談の議題は@「板門店宣言」の履行A米朝会談の成功だった。
 会談翌日の二七日、文在寅は記者会見で「金委員長は非核化の意思を改めて明らかにし、米朝首脳会談を成功させる意思を示した」と報告した。また同日付の朝鮮中央通信も「米朝首脳会談は六月一二日に予定」として、予定に変更がないことを強調した。

会談開催への最終調整


 朝鮮の側にとって一番に厄介だったのは、米朝首脳会談の開催そのものを「阻止」しようとするボルトン大統領補佐官とペンス副大統領の存在だった。彼らをトランプから引きはがし、再び主導権をトランプに取らせるためには「仕切り直し」をさせる必要があった。ここにトランプと金正恩との「合意」があったのかはわからないが、トランプは米朝首脳会談以前に「金正恩と話をしたことがある」ことは明らかにしている。また朝鮮にとっては金大中―廬武鉉政権の「太陽政策」を引き継ぐ文在寅政権の安定が必要であった。
 二六日に文在寅から南北首脳会談の報告を受けていたトランプは、翌二七日から行動を開始した。トランプはソン・キムを平壌入りさせ、朝鮮側の崔善姫外務次官と板門店での協議を開始させた。ソン・キム(現フィリピン大使)は元駐韓大使で今年の二月まで国務省の北朝鮮担当特別代表をしていた。また彼は〇八年の五月に訪朝して、朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議での合意にもとづいて、朝鮮側から核施設に関する申告書類を受け取った人物でもある。またトランプは同日、首脳会談準備のための先遣チームをシンガポールに派遣して、二九日から朝鮮側の担当者との協議を開始させた。そして仕上げは金英哲副委員長とポンペオ国務長官による最終調整だった。
 五月三〇日、トランプに渡す金正恩からの「親書」を手にして金英哲がニューヨーク入りした。朝鮮政府高官の訪米は一八年ぶりのことであった。三一日までの会談のなかで朝鮮側が要求したのは「経済支援よりも体制保証」であり、将来的な約束以上の「物理的な見返り措置」であった。この「物理的な見返り措置」とは「米韓合同軍事演習の中止」である。この部分が米朝首脳会談の当日まで決められなかった最大の懸案だったと考えられる。最終的には「朝鮮戦争の終結宣言」の棚上げと、朝鮮のミサイルのエンジン試験場の封鎖を条件にトランプが受け入れることになったのだろう。

トランプの方針転換

 こうしてトランプは六月一日にホワイトハウスで金英哲と会談後に「米朝首脳会談を当初の予定通りに六月一二日にシンガポールで開催する」と表明した。そのなかでトランプは「複数回の会談が必要になる」「今後、最大限の圧力という言葉は使いたくない」「非核化には時間をかけても構わない」などと発言した。こうした発言の背景には「トランプが非核化の手順の複雑さを理解したためだ」とする見方も出ているが、これは明らかな方針転換である。米朝首脳会談とその後の米朝関係作りが失敗するという事態が訪れない限り、ボルトンやペンスが介入する余地はなくなったと言える。ちなみに米朝首脳会談での拡大会談にボルトンを出席させたのは、トランプが強硬派を黙らせるためだった。
金正恩も軍内部の強硬派を抑え込むために、朝鮮人民軍の最高幹部三人(軍総政治局長・人民武力相・軍総参謀長)を一斉に交代させた。米朝首脳会談での昼食会に出席して、トランプに敬礼をして話題となっている努光鉄(ノグァンチョル)人民武力相は軍内部の穏健派として知られている人物だ。

取り残された安倍政権

 米朝首脳会談を前後して様々な動きやけん制も始まっている。五月三一日にはロシアのラブロフ外相が、金正恩体制になってから初めて訪朝した。ラブロフは金正恩の訪露を招請するプーチン大統領からの「親書」を渡した。それによると九月にウラジオストクで開かれる東方経済フォーラムが露朝首脳会談の候補とされている。ロシアは朝鮮半島非核化のための六カ国協議の再開を求めている。
日本人拉致問題をトランプにお願いしても「蚊帳の外」状態から抜け出せないということにようやく気がついた安倍政権は、八月一〜四日にシンガポールで開催されるASEAN地域フォーラム閣僚会議にあわせて、日朝外相会談の検討に入った。また六月一一日には超党派の日朝国交正常化推進議員連盟の総会が一〇年ぶりに開かれて、三〇人ほどが出席した。しかし朝鮮への超敵視政策と超差別政策を遂行してきた安倍政権は、心からの謝罪と明確な政策転換を示さない限り、朝鮮政府から相手にされることはないであろう。安倍にそれができるのか。絶対にできない。それをやれば安倍政権ではなくなってしまうからだ。安倍政権の打倒なくして拉致被害者救出のための政治環境は作れない。
六月一三日、ポンペオは朝鮮の非核化の大部分は「二年半程度で達成できる」とする考えを示した。それはトランプの一期目の任期が終わるまでに「成果」をものにしたいということだ。IAEA(国際原子力機関)もすでに朝鮮に対する核施設の査察・検証のための専門チームを設置しており、いつでも実施できる準備ができている。またトランプ政権は毎年八月下旬に実施してきた米韓合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」(韓国軍五万人、米軍二万人規模で朝鮮との全面戦争も想定し、作戦計画の実戦や危機管理手続きの演習)の中止を本気で検討し始めている。
朝鮮半島の非核化のための作業と、朝鮮戦争の終結宣言―平和協定の締結・米朝国交正常化に向かう第二ラウンドのゴングが鳴らされた。しかし朝鮮半島の非核化と平和で民主主義的な政治環境の構築は「アメリカファースト」のトランプや独裁者の金正恩を「応援」することではない。日本と韓国などの民衆による反戦・平和運動がそれを強制する力をつけなければ、真の意味での平和も民主主義も勝ち取ることはできないだろう。そのためにもまずは安倍政権の打倒を本気で実現しようではないか。
(高松竜二)

 

 




 


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