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    かけはし2018年7月9日号

東アジア民衆の共同の闘いで真の平和の実現へ


6・12米朝会談は歴史的転換の始まり

トランプと金正恩の思惑超える展開も

無条件で日朝対話を再開せよ 

予想を超える進展と
リベラル系メディアの醜悪な論評


 四月二八日の板門店における南北首脳会談と六月一二日のシンガポールにおける米朝首脳会談の成功によって朝鮮半島をめぐる情勢は一変した。
 この間に期待、不信、敵意の混ざったさまざまな分析と予想が語られてきたが、ともかく会談は成功した。共同声明においては南北首脳会談の板門店宣言を支持し、米朝の新たな関係を確立することが合意された。その前提の下で北朝鮮は(朝鮮半島の)非核化への努力、米国は北朝鮮の「安全の保証」を約束した。さらに、北朝鮮は核開発中止の具体的な動きを示し、トランプは米韓合同軍事演習の中止の意向を明らかにした。記者会見の中でトランプは米韓合同軍事演習をカネのかかる「ウォーゲーム」であり、「挑発的」であるとまで言い切った。
 韓国では一連の首脳会談を八〇パーセント以上の人々が支持していると伝えられている。朝鮮民主主義人民共和国(以下、「北朝鮮」)の世論は確認できないが、軍事的・経済的圧力の緩和への期待が高まっていることは想像できる。
 一方、米国と日本では「無内容な合意」、「実行の保証がない」という論評が保守派だけでなくリベラル系メディア(「ワシントンポスト」、「ニューヨークタイムズ」、「朝日」、「毎日」など)をも覆っている。朝鮮半島の分断に対する日本と米国の歴史的責任を自覚しない両国のオピニオン・リーダーたちのシニカルな論評は偏見に満ち、宗主国意識丸出しであり、醜悪である。
 和平に向けた動きは中国、ロシアの積極的関与の表明を含めて予想以上のテンポで進んでいる。当面は朝鮮戦争の終戦協定締結を通じた米朝および南北朝鮮の敵対関係の終結に向け、信頼醸成のための措置が次々と発表されるだろう。並行して非核化に関する合意と制裁解除に向けた高官レベルでの調整が進められるだろう。この点でトランプ政権が「非核化には時間がかかる」という現実を認め、段階的な非核化を受け入れたことは大きな前進である。
 日本の保守派や財界の間でもこの流れに乗り遅れてはならないという危機感が強まっている。安倍政権も圧力政策からの転換、日朝対話への水面下の動きを始めている(本稿では「日朝対話」と「朝日対話」の表記を交互に使っているが区別しているわけではない)。これが安倍首相の三選戦略の一環として、急速に動き出す可能性もある。

米朝それぞれの事情と韓国キャン
ドル革命の偶然的な組み合わせ

 一九七一年七月のニクソン米国大統領による電撃的な訪中発表と七二年二月のニクソン訪中を思い起こすまでもなく、歴史的な転換は突然訪れ、予想しなかった動きが連鎖的に起こる。今、そのような局面が始まっているかも知れない。われわれにとって重要なことは、過度の期待を煽ることなく、しかし冷戦時代からの惰性的な思考と決別して、この歴史的転換の背景を可能な限り多角的に分析し、われわれ自身がこの歴史的変化の主体として、この変化をどの方向へ進めるべきかを明確にすることである。本稿はそのための議論を喚起することを意図しており、相当に主観的な分析であることをあらかじめお断りしておく。
米朝首脳会談の成功は歴史的転換の第一歩であるが、それがただちに朝鮮半島の平和や東アジアの平和につながると考えるべきではない。トランプが突然平和主義者になったわけではないし、米国が東アジアの平和を目指しているわけでもない。トランプ政権の下でイスラエル大使館のエルサレム移転、気候変動問題でのパリ協定からの離脱、最近では「不法入国者」とされる人たちの強制収容と家族の引き離し、国連人権理事会からの脱退という異次元の暴走が加速している。一方、北朝鮮の金正恩体制にとって最大の関心が自らの独裁権力の継続にあることに何の変りもない。メディアへの露出によってイメージの転換に成功したとはいえ、政敵を次々と粛清してきた経過から考えれば、彼にとって自らの権力とこの国の運命は一体なのである。
米朝首脳会談の成功はトランプと金正恩のそれぞれの事情と、韓国におけるキャンドル革命に後押しされた文在寅政権の優れた外交能力の三つの条件の組み合わせによる「偶然的」なものである。その限りでトランプも金正恩も本気であり、特にトランプにとっては一一月の中間選挙に向けて劣勢挽回のための大きな賭けである。
したがって米朝の合意それ自体は米朝の敵対関係を解消するという限定的なものであり、東アジアにおける平和が射程に入っているわけではない。東アジアにおける米国(および日本)と中国の間の軍事的緊張は当面高まるだろうし、米中の間の経済的・政治的力関係の変化に対応した新しい均衡に到達するまでは、偶発的衝突を含む緊張が継続するだろう。その中での朝鮮半島の地政学的位置は大きく変化するだろう。しかし米国が核抑止力戦略を放棄し、先制不使用を確約しない限り、核の脅威は解消されず、完全な非核化とはならない。
米朝共同声明から朝鮮半島の平和と東アジアの平和までには、さまざまな紆余曲折があるだろうし、中途で頓挫する可能性は小さくない。上記の事情から考えれば、このプロセスが中途で挫折した時には非常に危険な事態が起こる可能性が大きい。
以上の指摘は、始まった歴史的転換を真に朝鮮半島の平和、東アジアの平和へと発展させるためには、両国の為政者の思惑を超えて進まなければならないし、その可能性に主体的に関わっていくべきであることを強調するためであり、米朝会談の歴史的意義を貶め、韓国・朝鮮の人々の平和への期待を冷笑する議論に組するものではない。

米国の世界戦略とトランプの事情

 米朝首脳会談の背景として、まず、トランプ政権の事情を見ておこう。
トランプは一六年の大統領選に向けた政策の中で「アメリカ第一」を掲げ、「世界の警察官」の役割をやめ、無益な軍事介入をやめると宣言した。その上でNATOや日本・韓国に応分の負担を求める姿勢を打ち出した。
ブッシュ政権の下のネオコン主導の米国一極支配の世界戦略はイラク、アフガン戦争の失敗によって破綻し、米国の国際的地位を低下させ、莫大な財政負担をもたらしてきた。トランプ政権はこのネオコン戦略を手直しし、ロシアとの協調(力による均衡)を軸に現存する秩序の安定を目指そうとした。これはブッシュ・オバマ両政権が恥知らずにも掲げてきた西側の「価値観同盟」からの大きな転換である。
しかし、大統領選挙で敗北した民主党クリントン陣営からの執拗なロシア・ゲート問題の追及によってこの戦略は封じ込められてきた。また、ネオコン派の抵抗と政権内の対立も顕在化した。トランプは今年四月にはシリア政府軍による化学兵器の使用(証拠は示されていない)を口実として、英仏と共同で同国ダマスカス近郊に空爆を行ったが、これはロシアとイランに支援されたアサド政権の優位に危機感を強めるネオコン派の支持を確保するための「パフォーマンス」だったと思われる(限定的作戦であることを事前にプーチンに知らせていたと言われている)。
二〇一七年後半から一八年初頭にかけて、国防総省は米国の覇権を脅かすまでに強大化した中国と、プーチンの下で復活したロシアに対する優位を維持するために「新たな冷戦」戦略を打ち出し、防衛予算が一七年の六〇〇〇億ドルから一八年は七〇〇〇億ドルに増額された。この戦略では核兵器の先制使用を想定した「使用可能な核兵器」の開発に重点が置かれている。ブッシュ政権の「テロとの戦争」、オバマ政権の「アジアへの旋回」を軌道修正して、中露との対抗を正面に据え、核戦争の脅しを最大限に活用した抑止力戦略を目指している。
米国の世界戦略は必ずしも論理的一貫性があるわけではなく、軍を始めとする政府諸機関やさまざまな政治傾向を代表する民間シンクタンクがそれぞれ異なるシナリオを研究し、時々の事情に応じてそれらのシナリオが組み合わされている。朝鮮半島問題については、体制変更オプション(核攻撃や金正恩の殺害を含む)とソフト・ランディング・オプションのさまざまなバージョンが検討されてきた。体制変更オプションは人的・物的コストがかかりすぎるから採用されていないだけである(米国にとっての人的・物的コストを受容可能なレベルまで引き下げることが可能と判断すれば、躊躇なくこのオプションが採用されていただろう)。
ブッシュ政権およびオバマ政権の下では、軍事・経済的圧力を通じて北朝鮮の体制を崩壊させる政策が続けられた。しかし、この政策は効果を上げず、行き詰まりが明らかとなっていた。オバマ政権の末期から政策の転換が検討されている。詳しくはATTAC関西グループのブログに掲載されているアン・ライト「北朝鮮問題で前に進む道とは」(一七年三月)を参照されたい。
六者協議の米国担当大使だったジョセフ・デトラニによると、彼は数年前から政府の要請で秘密裏に北朝鮮高官と接触を重ね、米国に対話の意思があることを伝えてきた。トランプ政権は昨年五月からCIA内に「朝鮮ミッション・センター」を設けて、「政府を挙げて北朝鮮問題に取り組む体制になっていた」(「朝日」、六月一三日付)。当時のCIA長官がポンペオであり、トランプが今年四月にポンペオを国務長官に任命した時点では水面下の折衝がかなり進んでいたと推測される。
トランプの目的は明確かつ単純である。国内において軍事・外交戦略に関する大統領のトップダウン的な主導権を回復することと、中間選挙に向けた劣勢挽回の機会とすることがすべてである。その点においてのみ彼は「本気」である。冬期オリンピックを契機に南北和解の動きが一挙に現実化したが、この段階で段階的な非核化と「体制保証」が相互に合意されていたと考えられる(後述するように「体制保証」という用語は不正確で、問題が多い)。国内のネオコン派の抵抗と日本(安倍政権)への配慮で、落としどころを小出しにしてきたが、ネオコン派のボルトン大統領補佐官の挑発が不発に終わったことで実務レベルの動きが加速した。彼は金正恩を挑発して対話プロセスをぶち壊すことを狙ったが、南北首脳の不退転の決意と中国の後押しがそのような策動を封じ込めたのである。
共同宣言は北朝鮮の主張を丸呑みした形になっているが、現実には米国は何も譲歩したわけではない。米国は何の見返りもなく「体制保証」を提供したという論評は欺瞞である。「体制保証」(共同宣言では「北朝鮮の安全を保証する」)がそもそも誤った印象を与える。米国は北朝鮮の政権転覆を目指さないことを約束しただけである。過去に米国が敵対的とみなした政権に対して干渉し、軍事的手段で打倒してきた数多くの事例がなければ、わざわざ約束するまでもない当たり前のことである。
北朝鮮との国交の確立と経済協力は米国ブルジョワジーにとって大きな利益となりうるのであり、現体制のままで中国やベトナムのように改革開放へ誘導し、資本主義市場に取り組むことは可能であり、むしろ中国への牽制になるという判断もありうる。
筆者はシンガポールでの会談の映像から、金正恩には尊大さは見られず、むしろトランプに恭順を表し、トランプがそれに満足したという印象を受けた。もちろんこれは印象以上のものではないが。

北朝鮮の事情


北朝鮮側の事情について、「先軍政治」から経済重視への転換、経済制裁の影響、特に中国の制裁によってもたらされた打撃、核開発の一定レベルへの到達という観点から多くの論評が行われており、金正恩体制への評価に関わりなく概ね一致した認識となっているようである。限られた情報、特に脱北者からの情報に専ら依拠する認識によって形成された印象、つまり「国民は飢餓に苦しみ、体制は崩壊寸前」、「金正恩との対話はあり得ない」という印象が修正され、政治的立場は別として冷静な分析が紹介されるようになっているのは大きな変化である。
全世界のメディアへのリアルタイムでの露出を通じて、金正恩は「ネアカで社交的なリーダー」というイメージを演出することに成功した。特に韓国と米国で金正恩に対する印象が劇的に変化したと言われている。
この間の事態は、金正恩が核開発・ミサイル発射によって極限的な緊張状態に突き進んだ後に、突然、対話路線へと転換したかのような経過をたどっているが、突然の心変わりでないことは明らかである。金正恩体制が米国との軍事的緊張と過酷な経済制裁の長期にわたる継続に耐えられないことは想像に難くないし、金正恩体制が長期的、安定的な国内支配を展望しようとするなら、核開発の負担からの「名誉ある撤退」と制裁解除を必要としていたと推測するのが妥当だろう。問題はタイミングと見返りだった。
韓国における文政権の発足、トランプ政権との水面下での折衝を背景に、金正恩委員長の指示の下で南北および米朝の対話に向けた準備が周到に計画され、平昌オリンピックを契機に一挙に進められた。トランプ政権側から何らかの見返りが提示されたことは間違いないだろう。金正恩委員長にとって、対等の立場での交渉が演出されたことは、核保有国としての地位を確立するというこれまでの路線の正当性を証明するものであり、それ自体が大きな見返りだった。米国が北朝鮮を攻撃しないと約束したこと、その証として米韓軍事演習の中止を早々と発表したことは、もはやこのタイミングを逃す選択はないと決意させるに十分だっただろう。
憶測に憶測を重ねるのは気が咎めるが、共同声明が抽象的内容にとどまっているのは準備不足や両首脳の思惑の違いのためというよりも、むしろ具体的な合意内容を発表した場合に予想される米国議会の民主党や日本政府の反発に配慮したと考える方が現実的だろう。対話プロセスからの撤退の余地を残しつつ、小出しに国内の反応を見ながら進めるというやり方である。制裁解除のタイミングについても同様の配慮が必要とされるだろうし、北朝鮮側はそのことに理解を示したと思われる。

米国リベラル派の抵抗が最大の障害


いずれにせよ早いタイミングで成果を誇示する必要に迫られているのはトランプの側であり、米国内における民主党の右からの抵抗が最大の難関である。民主党の議員団は「北朝鮮の完全非核化」が確認されるまで制裁解除してはならないという主張を強めている。その主張は非現実的な条件をつけることで和平を失敗させ、トランプを追いこむことを意図している。民主党が一一月中間選挙で勝利した場合にはトランプ弾劾の攻勢をかけ、その中で和平プロセスを頓挫させるという可能性も考えられる。米国内では反戦運動の活動家や民主党の草の根の活動家の中でこのような同党議員団の多数派の態度に反対し、始まった和平プロセスを前進させようという声が広がりつつある。しかし全体として左派の関心は高くないようである。そこには朝鮮半島で米国が果たしてきた役割に関する無知、米国における人権の二重基準についての無自覚が反映されている。
この米国内の状況、特にリベラル派の頑迷な反応が和平プロセスの前進への最大の障害となるかも知れない。

文在寅政権の役割と
左派の二重の課題

 この間の和平プロセスの中で韓国の文在寅政権が果たしてきた役割については多くのことが語られており、キャンドル革命を背景とした民衆の圧倒的な期待を背景としている点で、今回の和平プロセスを推進する最大の希望である。
文在寅政権のイニシアチブが成功している一つの要因として、文在寅政権が親米路線を維持していることに注目しておく必要がある。文在寅大統領は南北対話が米国の利益を脅かすことはないことをトランプに確信させるため、またトランプの面目を立てるために慎重な根回しを行った。その一方で金正恩に対しても最大の敬意を表すことで核開発からの名誉ある撤退の道筋を準備した。見事な仲裁能力と言うほかない。
文在寅のこの慎重なイニシアチブはキャンドル革命に表現された大衆運動の側の変化にも対応している。つまり大衆運動の新しい世代の中に反帝国主義的性格、あるいは左派の存在が希薄になっており、文在寅政権の親米路線(正確には米国との対立を意識的に避けるというスタイル)と南北和平が齟齬を起こさない状況になっていると考えられる。本紙の「韓国はいま」欄や日韓連帯ツアー報告(六月一八日号)などで紹介されているように文在寅政権は労働政策や脱原発公約などで後退しているが、それでも和平プロセスへの広範な支持によって安定を維持している。
進歩的外交政策と保守的な国内政策の「ねじれ」に左派がどのように対応するかが注目される。和平プロセスを支持し推進することと、社会問題において政府の反動的政策と対決するという二重の課題を同時に追求するという新しい経験である。これは冷戦構造の終焉とトランプ政権が意図する「新冷戦」の始まりの中で、今後さまざまな場面で、日本においても問われる課題となるだろう。

朝日対話を朝鮮植民地支配の
歴史への反省と賠償の一歩に

 米朝会談の成功を受けて安倍政権は圧力政策の手直しを開始した。日朝対話への水面下の動きが始まっている。朝鮮戦争の終結と南北の経済交流がもたらす新たな有望市場を前に、日本の財界は焦りを隠していない。安倍は支持率回復と三選戦略に結び付けるというごく不純な動機ではあるが日朝対話を本気で模索している。拉致被害者家族会の同意さえ確保できれば、一気に進むだろう。
六月二二日にロシアのガルージン駐日大使は、九月にウラジオストクで開かれる東方経済フォーラムに合わせて日朝首脳会談が行われる可能性に言及した。
われわれはトランプと金正恩の思惑を超えて東アジアの真の平和をめざす独自の立場から朝日対話の無条件での再開を要求するべきであり、それを朝鮮植民地支配の歴史への反省と賠償の一歩にするために奮闘しなければならない。安倍政権に反対し、安倍政権を打倒するために闘うことと、日朝対話の無条件での再開を要求することを対立的にとらえるべきではない。むしろこの問題をめぐって予想される保守派・右派の分裂をチャンスととらえるべきである。朝鮮戦争の終結は当然にも沖縄の基地を含む米日同盟のあり方、改憲をめぐる攻防の枠組みにも大きな変化をもたらすだろう。われわれ自身が「蚊帳の外」の状態を克服し、この状況に主体的に関わっていかなければならない。
大阪では七月二七日に「朝鮮戦争休戦六五周年、東アジアに平和を!」キャンドル・アクションが呼びかけられ、準備が始まっている。全国で議論を活性化させ、韓国キャンドル革命が切り開いた新しい時代の開始を確実な流れにしよう(小林秀史、六月二七日)。



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