もどる

    かけはし2018年7月23日号

平和のか細い希望生む


朝鮮半島

金・トランプ会談

持続妨げる要素も多々

ピエール・ルッセ

緊張の引き下げ
第一の評価基準

 ワシントン、平壌間関係は、二〇一八年六月一二日のシンガポールサミットの中で根本的に変えられた。そしてそれはグッドニュースだ。「まじめな」米国と英国の報道および英語による地域報道の支配的調子は、完全に違っている。前者にとっては、それは惨害、まったくのところトランプ側の「反逆」だった。後者にとっては、ものごとの予期せぬ展開だった。すなわち、戦争の脅威は、半島における長続きする平和の可能性を残しつつ、棚上げされた。
 好戦的な自慢屋、場合によっては左翼と思われている者たちよりも、直接に影響を受ける人びと、つまり朝鮮の人びとの声をよく聞く方がより良い。確かにシャンパンを開けるのは早過ぎる。しかし安堵は明らかだ。文在寅韓国大統領は、「心のこもった祝賀」を表し、「歴史的な北朝鮮―米国サミットの成功」を称えた。地方選と自治体選(国会議員補欠選挙と共に)がサミットの最中に行われた。そして、与党が圧倒的な勝利を記録し、他方野党の、文の平和主義的政策をののしってきた極右と軍国主義者は、完敗を喫した。
 二〇一七年後半、朝鮮半島の緊張には極端なものがあり、死を呼ぶ、まさに核を使った衝突に向かう漂流もまったく除外できなかった。絶対的に急を要したことは緊張のエスカレーションの引き下げを始めることだった。そしてこれは、当時想定され得たと思われることを超えて、行われた。シンガポールサミットは第一に、この点で判定されなければならない。

イニシアチブは
ソウル―平壌に


 緊張のエスカレーション引き下げは、二〇一八年一月から、ワシントンをあわてさせたソウル―平壌の二人三脚に基づき始まった。文はそれ以前は金から無視された対話の申し出を何度も繰り返し、それが南で開催された冬季オリンピックへの華々しい平壌の参加を引き出した。
 その間に金は、ミサイル発射の停止から核実験場の破壊にいたる一連の措置を実行した。二つの政権間の関係正常化に向けた意志は、四月二七日の南北境界線における板門店サミットではっきりと明らかにされた。
 トランプはこの動きと北朝鮮で進行中の変化に気付かないまま、国際的経済制裁と軍事圧力が金を屈服させるものと確信して、長い間強硬路線を推し進めた。つまり交渉ゼロ、降伏、という路線、急速で完全、かつ検証可能な非核化、諸文書の破壊ないしワシントンへの引き渡し、そして結果として核のノウハウ自身が根絶されるための科学者の国外移動、といった路線だ! 目標は鮮明だった。つまり、体制変革であり、ノックアウト的勝利だ。

大方向転換は
ともかく現実


 制裁の強化と軍事的脅しはおそらく、金正恩の政治的決定に強力な重しとして働いてきた。しかし彼を屈服させる点までにはいたっていないか、彼のイニシアチブ能力を破壊していない。彼は、習近平と会談し中国との協力条件を再確立するために、北京への個人的訪問を行い、次いでロシア外相のセルゲイ・ラヴロフと会談した。彼は、非核化の問題を交渉する用意があると請け合い、政権の大物である金英哲をワシントンに派遣した。
 シンガポールサミットでドナルド・トランプは事実上、金正恩が提案した枠組み、前もってのいかなる体制変革も条件としない平和条約(朝鮮戦争が終わった一九五三年以来、存在してこなかった)の署名を目標に置く、半島(そして単に北朝鮮だけでない)の非核化に関する交渉プロセス、を受け容れた。トランプはまた、記者会見の中で、北朝鮮の海岸から遠く離れてワシントンとソウルが定期的に実行してきた、共同軍事演習の「挑発的」性格をも――通常平壌が使っている用語を取り上げて――認めた。
 サミットの出し物の公開は、二人の国家首脳を平等な足場に置く注意深い上演の場だった。同数の国旗が表示され、互いに歩み寄る中で、首脳たちの歩数も同数だった。金はここでもまた、彼の目標、国際舞台における公式認知を獲得した。
 トランプはなぜこうしたやり方で彼の調子を変えたのだろうか? 彼の動機は確かに多くある。そしてトランプ個人を細々と探るトランポロジストしかそれらを解くことはできない。その上われわれは、進行中の交渉に含まれる秘密の部分もまだ分かっていない。
 われわれが地政学の論理的解釈を追求するのであれば、われわれが言える応答は次のようなことだ。つまり、朝鮮半島の軍事的エスカレーション低下を求める国際的圧力が非常に強かったがゆえに、あるいは、米国の軍事ヘゲモニーが北太平洋に再確立されたがゆえに、あるいは、今後この地域における緊張の主要な現場が台湾と南シナ海であるがゆえに、と。

平和の推進力の
起動こそ出発点


 北朝鮮の体制は、疑いなく、残酷な王朝的独裁としてとどまっている。そして、人権と社会的かつ民主的諸権利という重大な問題は無視できない。しかし、一九五三年以来この国に及ぼされた永続的な戦争の脅威は、潜在的な反対派すべてに対する、さらに住民に対する永続的な抑圧状態の維持を正当化する上で、平壌を助けてきた。
 そのような問題は帝国主義者の介入によっては解決できない。それは、和平プロセスの開始とエスカレーション引き下げに向けた必要条件とはならない。ドナルド・トランプを批判している民主党員は平和主義者どころではないということを忘れるべきではない。バラク・オバマとヒラリー・クリントンは特に、朝鮮戦線で特別に攻撃的な政策に取りかかっていた。そしてトランプはその後それを長引かせ、拡大したのだ。
 人権と社会的かつ民主的諸権利の問題は、朝鮮半島の特別な脈絡、北と南、そして現地の民衆的諸動員間の相互作用、の中ではじめて取り組みが可能になる。シンガポールサミットは、軍事的脅威の位置を引き下げることにより、先の空間を生み出すことに貢献できる。
 朝鮮情勢においては具体的に、平和の推進力を起動させることが、半島における基本的な自由を求める闘いの必要条件であり、その反対ではない。

 しかしながらわれわれは、極めて予想不可能なままのプロセスの、ほんのはじめの段階にいるにすぎない。平壌の体制はもはや、昨日までの「世捨て人王国」ではない。大目に見られてきた市場経済の発展は、「正常化」を熱望するある種の社会的エリートをつくり出してきた。そしてもし可能ならばとして、新たな資本主義に向かう「中国型の」移行が日程に上っている――金に平和を交渉する理由をさらに大いに与えつつ――。しかしながら、大きな危機なしにそうした移行があり得る、ということを保証するものは何もない。
中国とロシアは、交渉の方向に圧力を及ぼそうと、また彼ら自身の特定の利益を守ろうと試みるだろう。現在まで日本は、平和よりもむしろ戦争状態を好み、安倍首相が彼の軍国主義的で超民族主義的な政策を続けることを可能にしてきた。ソウルはこのプロセスを支持している。しかし、トランプが、空海の韓米共同演習を凍結する彼の決定に先立って、それを知らせる必要を感じてこなかった、と気をもんでいる。
交渉には、ワシントンと平壌という、二つの部分だけが参加している。それらがどのように展開するかにしたがって、彼らは、遠心力学に、また同じく求心力学にも軸心を置くことができる。金は、北京あるいはモスクワとの協力を双方とも強化でき、彼の強力な隣人との関係でその独立性を高めることができる。
シンガポールサミットは直接的に、習近平がイニシアチブを失うことになった緊張の長い時期を経て、彼が外交ゲームに復帰する好機となった。それは、ドナルド・トランプとの会談の一週間後、二〇一八年六月一九日に金正恩がおこなった北京訪問で示された。
南北の朝鮮の政権は、容赦のない統一という「ドイツ」モデルを拒否し、非常に漸進的な和解政策に扉を開いた。それは和平の推力を固めるために声を合わせて行動し続けるよう彼らを助ける可能性がある。しかしながら、半島の非核化に含まれた意味合いに関する文在寅の立場は不明瞭なままにとどまっている。実際、THAAD弾道ミサイル防御システム、あるいは済州島の海軍基地の米第七艦隊による使用という問題には、爆発的性格がある。金は、ソウルが願うことの先まで進むトランプとの取引を交渉する点で、単独で行動するよう誘惑にかられるかもしれない。
二〇一七年後半、金は、大陸間弾道ミサイルに実用的に搭載するに十分なまで弾頭を小型化することにより、それが本当に実戦的になる直前、彼の核計画を中断した(それは未解決の技術的な問題がいくつかあることを表している可能性がある)。彼は今、どの程度まで、また何を交換条件に、北を非核化する用意があるのだろうか? 今のところシンガポール宣言は、この問題では極めて曖昧のままになっている。
多くの疑問符がある! そして朝鮮半島の地政学には世界的重要性がある。それゆえ今後共追跡が必要だ……。(「インターナショナルビューポイント」二〇一八年六月号) 

米国

シンガポールを経て

支配階級に託す危険は明白

ディヴィッド・フィンケル

世界は少しだけ
安全になったが

 ドナルド・トランプのツイートワールドでは、「小さなロケットマン」は今や「非常な才能に恵まれた彼の人民を愛する賢明な指導者」になっている。もっとよいこととして、金正恩が話す時「彼の人民は立ち上がり、じっと聞く。ここでもそうであればと私は願う」。何ということか。
 公平に言って、シンガポールサミット後に北朝鮮をめぐる論争が帯びた歪んだ形態に対する責任は、トランプだけにあるのではない。「北朝鮮の核の脅し」は終わったと彼が主張する一方で、指導的な民主党員は、より近いジョン・ボルトンに関心を向けているように見え、平壌からの確実な譲歩を得ることなく、金に社会的地位を与え、挑発的な戦争ゲーム(確かに、まさしくその通り)を凍結したとして、トランプを強く非難している。
 まずもっとも重要な事実を述べよう。確かに、朝鮮半島における主な破局の脅威が後退したがゆえに、シンガポールを経て世界は少しばかりより安全になっている。その脅威は、ボルトンが主張したように米国が、北朝鮮に一つの攻撃を発動するかもしれないという直接の危険、あるいは、あまりにもうまく演出された米国の攻撃演習を北朝鮮の軍部が、計算不可能な結末を伴う本物と誤解するかもしれないという危険だ。米国がもっとも危険な潜在的侵略者だということはもちろん、ポストサミットの専門家の中では触れられないままだ。
 サミットそれ自身について言えば、両首脳が各々望んだものを得た。つまり金正恩は、ある程度の国際的認知、制裁緩和に関する暗黙の約束――ほとんど確実に、中国とロシアは制裁執行を緩めていることになるだろう――を得、他方トランプは、彼の大げさな写真撮影の機会と記者会見を得た(そしておそらく長期的には、トランプタワーと伝説的な渚のリゾートに対する夢)。
 その後については前述のことよりはっきりしていない。北朝鮮は今、事実上明らかな核武装国家であり、問題は、明らかに公式ではないとしても、米国がその現実を事実上受け容れることになるのかどうかだ。「完全で、検証可能な、非可逆的な非核化」という思い違いは、さらなる不安定化という含みを抱える可能性しかないある種のおとぎ話だ(ポスト第二次世界大戦における半島分断に関するいくつかの歴史的背景と脈絡に関しては、前掲論考参照)。

より危険な動き
がイランで進行


 一方で、もっとと言えるほど危険なシナリオが、米政権がイランとの多国間核合意で残っているものを破壊しようとしている中で、展開中にある。それは、オバマ大統領が交渉した取引に対する民主党の防衛がむしろ弱々しくなっているとはいえ、欧州の米国のもっとも親密な連携相手や世界の世論の圧倒的多数、さらに簡単な常識にも対立する位置にトランプ政権を置く作戦だ。それは事実上、米国が北朝鮮との間で得ることを期待できるどんなものよりも、はるかに「よい」取引だったのだ。
 オバマ政権の下で核取引が交渉されて以後、イランでは親米の民衆的感情の波が生まれてきた。それは、生活の改善に対する人びとの望みがくじかれるにつれ、今から変化するだろう。さらにトランプの動きは無自覚な形で直接、イランの流血をはらんだ内部的確執において、改良志向の穏健なハサン・ロウハニ大統領支持者を犠牲にして、もっとも反動的な勢力の利益になるように作用する。
 弁護士のナスリン・ソトウデーのような女性と人権の擁護者に対する新たな逮捕と抑圧的弾圧は、司法を支配する宗教的原理主義者が大胆になっていることを示している。イランに対する厳しい米国の制裁はまた、それらがイランの経済と普通の人びとを大いに傷付ける一方、革命防衛隊の指導的部分が密輸と制裁破り組織を通じて、自らを富ませることをも可能にするのだ。

トランプを探る
より運動建設を


 トランプの第一手はまた、米国による大損害を与える二次的制裁と金融制裁が原因となり、欧州の諸企業がイランでの投資から撤退するよう強要することも狙いとしている。それは、ユーロ圏とEUそれ自身さえもの将来を危うくしかねない諸々の危機によってEUが深刻に弱められている時に、さらにEU諸国と米国が相互に傷付けあう関税と対抗関税という応酬に封じ込められるかもしれないという時にあわせて、行われようとしている。
 主なEU諸国は米国の金融的脅迫に対し彼らの企業を守るつもりだと言ってきたとはいえ、彼らが有効にそうできるかどうかには疑問点が極めて多い。中国の投資が、その溝を部分的に埋めるために一歩踏み出すことになるだろう。
 この取引がもし完全に崩壊するならば、イランはウラン濃縮を再開することになり、世界は、トランプのもっとも親密な中東の連携相手であるイスラエルとサウジアラビアが公然と主張する戦争へと、一歩近づくことになるだろう。
 トランプ一派は、欧州の弱みを利用しつつ、イランを粉砕し、世界に対する米国の支配を取り戻すという期待の下に、イスラエルとサウジアラビアと歩をそろえようとしている。イエメンの国民はすでに、米国がサウジと湾岸首長国連邦によるこの国の破壊を可能にしているがゆえに、「付帯的な損害」を受けている。
 最初に起きる可能性があるのは何か? もう一つの忌まわしい中東戦争か、あるいは世界市場を破砕する全面的な米中貿易戦争か?われわれの望みは本当のところ、事態を突き止めたいということなのか? もしそうでないのであれば、われわれは、この何十年かわれわれが見たことのない規模での新たな反戦運動、そして社会的公正を求める運動を必要としている。(二〇一八年六月二二日)(「インターナショナルビューポイント」二〇一八年六月号)  


もどる

Back