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    かけはし2018年8月13日号

権力犯罪への追及忘れずに


映画案内

監督:金 聖雄 製作・配給:Kimoon Film

「獄 友」(ごくとも)

冤罪被害者たちの友情、切なく描く


反差別運動の
協力ベースに
 六月二一日夜。東京・荒川区のムーブ町屋ホールで、映画「獄友(ごくとも)」の上映会が開催され、一五〇人を超える参加者が集った。主催は部落解放荒川区民共闘会議。足立、墨田、江東区からも、反差別運動を担う仲間が駆けつけた。
 「獄友」は袴田、狭山、足利、布川事件で冤罪の当事者になった五人の今を描いたドキュメンタリー作品。今年三月下旬、東中野で公開されてから全国で上映会が行われている。監督の金聖雄さんはこれまで、『SAYAMA 見えない手錠を外すまで』(二〇一三年)、『袴田巌 夢の間の世の中』(二〇一六年)を製作してきた。冤罪シリーズは本作で三作目になる。
 会場は駅の真上の連絡ビル内にある多目的ホール。映画の上映をはじめ、コンサートや講演会などに広く利用されている。アクセスが良く、地域の市民運動でも頻繁に使われている。

何が真実かを
見極めるため
午後六時三〇分、主催者を代表して坂本繁夫さんからあいさつがあった。
「昨年一一月、この会議の発足人でもあり、長く議長を務め地域の運動を担ってきた森谷新さん(社民党荒川支部長)が逝去した。自宅には狭山裁判のポスターが貼ってあった」。「荒川では『SAYAMA 見えない手錠を外すまで』の上映会も開いた。先の袴田さんの再審請求を棄却した東京高裁の判決に憤っている」。「情報があふれる社会で何が真実かを見極めていくことが重要だ。それを考えるきっかけになる映画だと思う」。坂本さんは語り、映画が始まった。
狭山事件の石川一雄さんと袴田事件の袴田巌さんは、東京拘置所で六年間、同じ時間を過ごした。石川さんと足利事件の菅谷利和さんは、千葉刑務所で一緒だった。巌さんは二〇一四年の静岡地裁再審決定判決で、四八年間の獄中生活から解放された。現在は浜松市で姉の秀子さんと暮らしている。
重度の拘禁症を患っている巌さんは、部屋の中を行ったり来たり。自分の殻に閉じこもっているという。それでも買い物に出る。訪れる人と将棋を指す。指し終われば満足そうに笑う。カメラはそんなほほえましいシーンを追っている。

家族の暖かい
きずなが支え
巌さんは貧しい家庭環境で育った。学校でいじめに遭えば、弟を守るのは姉の秀子さんの役割だった。「巌をできるだけ外に出すのは、警察に対する抵抗なんです。拘禁症はなかなか治らない。でも今は巌がみんなと一緒に笑ったりできる。それだけで十分ですよ」。秀子さんは気丈に語る。
石川一雄さんと佐智子さん夫妻は、私たちの一番身近にいる。再審開始を求める集会で全国を回り、長年にわたる支援運動との交流があるからだ。
一雄さんは強い信念を持っている。「無罪を勝ち取るまで、両親の墓参りをしない」と心に決めている。「そうじゃなくて、『これからも頑張るから』とご両親に誓いをたてに行った方がいい」。佐智子さんは諭す。墓参は彼女が代行している。一雄さんは再審開始まで身体を鍛え続け、七九歳とは思えない肉体を維持している。いつも自分に厳しい試練を課しているようだ。

孤独な人々を
えん罪の罠に
布川事件で再審無罪となった桜井昌司さんは、映画では一番明るいキャラクターとして描かれている。同じく無罪を勝ち取った杉山卓男さんは二〇一五年に他界した。作中では昌司さんが事件当時、二人で一緒にいた中野のアパートを訪れたり、千葉刑務所の矯正展に出かけるシーンがある。昌司さんはカメラに向かって積極的に言葉を発し、自分の気持ちを前面に出している。音楽好きで念願のCDを作り、地元で開かれたコンサートで熱唱。昌司さんは「冤罪でよかった」と明言し、卓男さんは「捕まってよかった」と口にする。「刑務所に入っていなければヤクザの親分になっていた」と卓男さんは笑う。
足利事件の菅谷利和さんも存在感を増している。人が好く優しい性格で、厳しい取り調べに耐えられず「自白」した。いつも一人で友だち付き合いがなかった。刑事たちは往々にして、孤独な人々を無実の罪に陥れていく。現在は地元で暮らす。土手の上で遠くを眺める利和さんだが、すぐ先にある事件現場には視線を向けようとしない。そんなトラウマを抱えている。

えん罪被害者
それぞれの思い
映画では、冤罪被害者たちが同窓会のように集まって、楽しそうにワイワイやっている。獄中生活の思い出話が次々と飛び出し、観る者を飽きさせない。
佐智子さんは独身の利和さんに、しきりに結婚を勧めている。利和さんと昌司さんは無罪が確定したが、一雄さんと巌さんは再審請求中だ。パートナーがいて家庭を持っていること。闘いの途上かどうかでも、四人の立場は異なっている。物語が進むにつれ、そんな微妙さも感じ取れる。昌司さんは無罪確定後に結婚し補償金で家を建てた。残りの人生を存分に謳歌しているようにも見えるが、はたしてそうなのか。妻は「冤罪で人生を破壊された」と話す。
上映後、金監督のトークがあった(要旨別掲)。
私は、涙が止まらないような作品だと想像していた。しかし見終わってみれば、悲しいシーンはなく、逆に明るく前向きな当事者たちの姿ばかりが印象に残った。

権力犯罪への
追及忘れずに
冤罪は、絶対に許されない国家権力による犯罪である。それは、無実の人間に犯罪者のレッテルを貼り、人間関係を破壊して拘束するだけではなく、真犯人を逃してしまうという二重の悪質さを持っている。冤罪被害者たちの裁判で捜査は中断し、真実の追求が止まる。時間が長く過ぎればそれだけ真相に近づくことは困難になる。
だから私は、映画に登場する人々の和やかさや明るさに、違和感が拭えなかった。無罪確定後、順風満帆に見える昌司さんの言葉は、本心からなのかという疑問。そして一雄さんの心中の複雑さもひしひしと伝わってきた。仲間たちが汚名を返上しても、一雄さんの闘いは終わっていないからだ。
本作がそうしたある種の不完全さや曖昧さを内包しつつも、冤罪当事者が、人間性回復のための長いリハビリの途上にあり、彼らの青春を過ごした貴重な時間を、友と一緒になって検証していく過程こそ、その本当の姿こそ、見所といえるだろう。支援者らだけではなく、むしろ事件を知らない人々にこそ観てほしい作品である。
最後に、共闘会議の小野崎佳代さんが発言した。「彼ら彼女らの闘いをしっかりと受け止めてあきらめない。笑いながらがんばっていく。一日も早く石川さんの事実調べと再審を勝ち取っていきたい」。観客は大きな拍手で、この決意を確認した。   (佐藤隆)

金 聖雄監督のトークから

「今が幸せ」は最高の権力批判

「どん底」からはい上がった苦闘


石川一雄さんが完全無罪を勝ち取ったら、ぜひ政治家になってほしい。まさに「ムショ族(無所属)」の立候補だ。一雄さんはシャバに出て青春を取り戻そうとしている。
袴田さんは静岡地裁の画期的な判決によって保釈された。最初の半年間は無表情だったが、それが最近変わってきた。私は将棋では全敗している。巌さんは自分の世界の中で闘っている。自分が権力を取って冤罪をなくすということだ。高裁判決に私が沈んでいると、秀子さんに元気づけられた。本当は秀子さんが一番しんどいはずだ。
昨今の政治で言えば「森友か獄友か」だ。権力によって落とされたどん底から、彼らは這い上がってきている。不運だけど不幸ではない。「今が幸せ」であることは、最高の権力批判だ。
冤罪が幸福であるはずがない。私は映画で伝えていく。話題作りのために「万引き家族」のライバル作品も作りたい。ウソが本当に、本当がウソにならないように、私たちは一つ一つていねいに生きていく。この作品は全国で上映している。東京でも八月―九月にリバイバル上映する。
〈「獄友」――監督・金聖雄(キムソンウン)ドキュメンタリー・一一五分・二〇一八年度作品〉

コラム

暑い夏はグリーン車で

 うだるような猛暑が続いている。つい先日は、埼玉県の熊谷で体温をはるかに超える四一度を記録した。全国各地で毎日、最高気温が更新され、気象庁はこの暑さを災害とまで称しているほどだ。聞くところによるといまエアコンを注文しても工事が行われるのは一カ月も先になるとのこと。熱中症で救急搬送される人が続出するのも頷ける。これでは、高齢者、子ども、幼児はひとたまりもないのに違いない。
 さて、そんな週末は冷房を効かして家に閉じこもるか、涼しい所に避難するか二者選択を迫られる。しかし、前にも書いたようにアウトドア派のそんなボクは、家にいることもできず、避暑地を上野東京ラインの熱海行普通グリーン車に求めることに決めた。別に熱海に何があるわけではない。目的もない。ただ、青春18切符と七八○円のグリーン券を使えば始発から終点まで四時間はゆったり車窓を楽しみながら涼しく読書三昧の時間を過ごせるからだ。
 思い立ったら吉日とベッドから飛び起き、早々にシャワーを浴び、旅支度がいつも詰まっている鞄に一冊の本を放り込んでいざ出発と相成った。
 駅につき電車の発車時刻まで間があるので構内のコーヒーショップでアメリカンを一杯所望し、しばしくつろぐことにした。しかしである。ほっとしたのもつかの間、新聞を広げると腹だたしいニュースが目に飛び込んできた。西日本豪雨の前夜、防災対策を人任せにしに、アベ首相を囲んだ酒席「赤坂自民亭」とやらの集まりを自慢げにツイートしたという片山さつき議員の記事。また、LGBTは生産性がないという差別的な文章を「新潮45」に寄稿した確信犯杉田水脈議員の記事。これには憤りを通り過ぎて、呆れてしまった。その後二階俊博幹事長は、その差別的発言を「人それぞれの人生観」「右からリベラルまで幅広くいるのが自民党」と不問に付したというから怒りが込み上げてくる。
 また、後日となるが自民党の保守本流ハト派と呼ばれる宏池会の岸田文雄会長は、「冷や飯を食わすぞ」という恫喝に屈し、自民党総裁選への出馬をあきらめアベ一派の軍門に帰順したから情けない。どこが幅広い自民党か聞いて笑える。まさにネトウヨの本家本元、悪の巣窟ここに極まりという状況だ。この猛暑をさらに暑くする悪行と思うのはボクだけではないだろう。
 そうこうしているうちに時間は、電車の入線時刻に。始発のグリーン車はさすがに空いていたが、都心にだんだんと近づくにつれ満席に近い状況になった。極めつけは東京から乗車した熱海へ一泊旅行に行くと思われる元気いっぱいの高齢者の一群。これが賑やかさを通り越して「うるさい」の一言である。人様のことは言えないが、群集心理とは恐ろしい。一人ではできないことも複数なら怖いものなしだ。「こんなに話をしていたら旅館での話がなくなるね」というフレーズには思わず笑ってしまった。
 さらに聴き耳をたてていると今度は、アベ首相の悪口を盛んにまくしたて始めた。「今の政治は、年寄りに死ねというんかい」「年金だけじゃ食べていけないよ」云々。ぜひ、旅館でも自民党批判を酒の肴にして盛り上がってほしいと願ったボクであった(もちろんボクもこの集団のアベ首相批判を肴に熱海で一杯いただきました)。    (雨)


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