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    かけはし2018年10月29日号

労働者の命と健康が大事


「裁量労働制」を復活させるな!

長時間労働・「過労死」促進やめろ


際限ない長時間
労働も自己責任
 安倍政権は、資本が要求する労働者への搾取強化にむけた「働き方改革関連法」を制定(六月)したが、ずさんなデータ(残業時間が一週間よりも一カ月の方が短いなど多数の調査結果)の発覚によって改悪労働基準法案の中から裁量労働制について撤回せざるをえなかった。裁量労働制法案の復活に向けて厚労省は有識者会議(九月二〇日)の初会合を強行したが、その序盤から三菱電機の長時間労働・労災多発によって裁量労働制を廃止していたことが明らかとなり、あらためて裁量労働制問題が社会的に焦点化しつつある。
 資本の意図とは真逆な流れが起きているにもかかわらず安倍政権は、働き方改革実行計画を推し進めるために「第1回働き方改革フォローアップ会合」(一〇月一五日)を行い、「働き方改革関連法が成立し、長時間労働の是正や同一労働同一賃金の実現など、労働基準法の制定以来七〇年ぶりの大改革が実現した」などと長時間労働・過労死を促進する法律の制定を自画自賛し、「新制度の円滑な施行に向け、政府一丸となって取り組んでいかなければなりません」と強調する有様だ。
 経団連の中西宏明会長は「長時間労働につながる商慣行の是正に取り組んでいる」と述べ、裁量労働制復活に向けて圧力をかけているにもかかわらず経団連副会長が三菱電機の山西健一郎・元社長(現特別顧問)であり、三菱電機事件のこともあり、弱々しくポーズをとらざるをえないのだ。
 それと連動して厚生労働省は労働政策審議会労働条件分科会(一〇月一五日)を開き、一九年四月施行の働き方改革関連法に盛り込まれた高収入(一〇七五万円)の一部専門職を労働時間の規制から外す「脱時間給制度(高度プロフェッショナル制度)」の具体化に向けた議論を開始した。
 資本は、高プロ制を突破口にして残業代、休日労働の割増賃金を一切払わず、労働者を上限なく働かせることをねらっている。しかも労働時間規制がないため「過労死」しても労災認定されず、資本の責任は問われず、労働者の自己責任として処理されてしまう。長時間労働と過労死の温床となる悪法だ。

情報を分析し
素早い反撃へ
分科会の議事録がまだ配信されていないが審議は、@決議の届け出の方法A労働者の同意の方法B対象業務C職務の合意D年収要件の算定方法及び額E健康管理時間から除くことができる時間及び健康管理時間を把握する……などを議論していくとしている。
報道によれば、労働組合から「年収一〇七五万円以上とするのは安すぎる」、「給与が高くても入社間もない人は企業側との交渉力がないのではないか」といった意見に対して、経済団体からは「国会でも年収一〇七五万円以上という要件で議論されていたので、そのままの要件にするのが自然な考え方だ」などの発言が紹介されている。
厚生労働省は、年収が一〇七五万円以上の証券アナリストや医薬品開発の研究者、経営コンサルタントなどを想定していると言っているが、省令事項だから法改正することもなく対象となる収入額・対象業務を厚労相の判断だけで変更することも可能だ。分科会の論議を見るだけでも派遣法の対象業務が拡大していったように同様のプロセスを踏み込んでいこうとしている。
派遣法制定(一九八六年)施行当初は一三業種だったが、政府は資本の要請に応えて次々と改悪を繰り返し、適用対象業務を原則自由化(一九九九年)にしてしまった。派遣法は法律を改悪するため国会審議が必要だが、働き方改革法の具体化に向けては、一九年三月までに省令を定めるだけでいいのだ。必然的に審議は拙速となり、実質的に分科会論議は労働者否定の中身で加速化する。
「働き方改革実行計画」の具体化に向けて労働政策審議会の労働条件分科会、安全衛生分科会、職業安定分科会、障害者雇用分科会、雇用環境・均等分科会、勤労者生活分科会、人材開発分科会で論議される。傍聴行動へ。さらに事後的に厚労省HPで議事録が明らかになる。反労働者政策を許さないために随時チェックし、反撃を準備しよう。        (遠山裕樹)

読書案内

久原穏/集英社新書/840円+税

『「働き方改革」の嘘』

様々な資料で資本の動向を分析

 「働き方改革関連法」は、@長時間労働を強制する「過労死促進法」、A正社員と非正規の待遇格差のままの努力目標としての「同一労働同一賃金」、B労働時間の規制から外す「脱時間給制度(高度プロフェッショナル制度)」などを柱にしている。改革法〈@労働時間に関する制度の見直し(大企業が一九年四月一日、中小企業が二〇年四月一日、自動車運転業務、建設業、医師が二四年四月一日施行)A勤務時間インターバル制度の普及促進B産業医・産業保健機能の強化C高度プロフェッショナル制度の導入D同一労働同一賃金(大企業が二〇年四月、中小企業が二一年四月一日施行)〉が一九年四月から施行が始まる。
 反撃陣地を構築していくためにも理論武装を強化しなければならない。「働き方改革」法制定に至る過程を丁寧に取材してきた久原穏(東京新聞)が、一つの批判本としてまとめたのが本書(@裁量労働制をめぐる欺瞞A高度プロフェッショナル制度の罠B働き方改革の実相C日本的雇用の真の問題は何か)である。
 久原は、「誰が、何のために『改革』を言い出したのかを明らかにする。なぜ労働問題を所管する厚労省ではなく、経営者サイドに立つ経産省主導で進んできたのか。問題の多い『高プロ』にこだわる理由は何か。副業やクラウドワークを推奨し、雇用システムを流動化させようとする狙いとは?……」などの問題意識からシャープに切り込んでいる。
 とりわけ注目すべきところは、「働き方改革とは、財界による財界のための『働かせ方改革』にほかならないことがわかる。政府は、働き方改革の目玉を『長時間労働の是正』と『同一労働同一賃金』だと強調する。しかし、真の目玉は、財界が望み、下絵まで描いた高プロ創設や裁量労働制の対象拡大といった労働時間制度の規制緩和なのである」という評価から、「長谷川ペーパー」という「陰の指針」をクローズアップしているところだ。

「資本のビジョン」
ねらいは何か?
産業競争力会議で雇用人材分科会主査を務めた長谷川閑史(経済同友会代表幹事)は、「個人と企業の成長のための新たな働き方−多様で柔軟性ある労働時間制度・透明性ある雇用関係の実現に向けて」(二〇一四年四月)というタイトルで「働き方改革」法に向けて「長谷川ペーパー」を提起した。
要するに「世界トップレベルの雇用環境の実現」に向けて「今後の中核となる政策として▼高プロの創設や裁量労働制拡大など労働時間制度の見直し▼ジョブ型正社員の普及・拡大▼予見可能性の高い紛争解決システムの創設」を掲げた。
資本が展望する今後のビジョンとするのが「職務は明確に定められ、昇給や雇用保障は必ずしも約束されない欧米流の正社員(ジョブ型)へ置き換え」ることだ。「紛争解決システムの創設」とは、「不当解雇された労働者へ支払う解決金を明確化するものであり、いわゆる『金銭解雇』の導入である」など労働者の人権・待遇向上を無視し、資本のカネ儲けの拡大に向けた手前勝手な政策でしかない。
安倍政権は、この長谷川ペーパーを土台に、財界の要求に忠実に応えるために「働き方改革法」を準備し、強行制定したのである。「働き方改革法」制定以降の安倍政権の野望は、ペーパーの「政府として、雇用改革を成長戦略の重要な柱として位置づけ、経済政策と雇用政策を一体的・整合的に捉えた総理主導の政策の基本方針を策定する会議を設け、雇用・労働市場改革に取り組む」ことであり、安倍政権・官邸はその通りに「働き方改革」法の具体化に向けて着手しているのが現在なのである。
この局面について久原は「労働者代表を排除し官邸主導で雇用改革の方針を決める会議の設置や、『失業なき円滑な労働移動』を掲げて雇用流動を強く求める記述が目立つことも非常に重要である」と指摘する。つまり、雇用流動と称して資本は、不当解雇を拡大していくために「金銭解雇」を導入していくことを獲得目標にしている。リストラにとって強力な武器となり、解雇コストの可視化が狙いだと厳しく批判している。「金銭解雇の動向は、働く人自身が注意して推移を見守らなければならない」と警鐘乱打する。

闘い方を考える
豊富なデータ
なお本書は、連合幹部による安倍政権との妥協の立ち振るまいや取り込まれる状況も紹介されている。だが、「働き方改革法」反対を取り組んできた全労協、全労連、地域ユニオンなどによる国会闘争、争議なども含めた闘いなどが描かれていない。だから共有化すべき課題と成果を踏まえて実践的に今後の方向性に向けた方針の組み立てへとつなげていくのが厳しいかもしれない。そういった面を差し引いても、資料として読んでおくことを薦める。
(遠山裕樹)

コラム

教育勅語にまつわる話

 新しく文科相になった柴山昌彦が就任記者会見で、「教育勅語を現代的にアレンジして使ったらどうか」と発言し、各界から批判が沸き起こった。田舎に帰省することがあったので、戦中世代の母親(91歳)に教育勅語の話を聞いた。
 「教育勅語は年に四回、暗唱した。それは一月一日、紀元節、天皇誕生日、明治節だ」という。「奉安殿に、『御真影』とともに、教育勅語が安置されているものを出してきた」。私はもっと頻繁にやられていると思っていたので拍子抜けした。
 さらに、教育勅語を読む時を「ハナをすする日」と子どもたちの間では言われていたというのだ。寒い日が多かったのか、校長の話を、下を向いて聞いていると、ハナが出てしまい、それをすすっていたと言うのだ。笑いながら話す母の顔を見て、私も思わず噴き出した。そして、母は教育勅語が何を言っているのか分からなかったとも。普通は奉安殿に隠してあったが、戦争が激しくなってから暗記しろと言われ、修身の時間に校長が教えた。
 もう一つすごい話があった。教育問題に詳しいKさんがFBで流していた情報。文科相・柴山の出身校でもある武蔵高校・中学の前身である七年制の旧制武蔵高校は文部省再三の指導や軍人の干渉を無視して、ついに奉安殿を設置しなかった。
 武蔵高校の創立者である東武グループ総帥・根津嘉一郎という人はもちろん、リベラルでも反戦主義者でもない。非常に権威主義的でスパルタ教育を推進し、生徒からは嫌われていたらしい。ところがこの人が後にどんどん「反軍化」する。きっかけは二・二六事件。殺された渡辺錠太郎教育総監の息子が武蔵生だった。配属将校との間で起こったトラブルを、渡辺錠太郎が仲介して解決してくれたことがあり、山本良吉校長は非常に恩義を感じていた。その渡辺が殺されたことで軍の専横に対する怒りを募らせる。
 文部省の視学官が陸軍の担当者とともに「視察」に訪れ奉安殿の場所を問われたが、「本校にはいまだ奉安殿はありません」。陸軍が怒って、「けしからん。直ちに奉安殿を立てて御真影をお迎えしなくてはならん」というのに対し山本は「一軍人のあなたに命令される筋合いではない」と言い放った。
「自分は一軍人であるが、自分の言うことはすなわちお上の命である!」。これに対する山本の対応がすごい。「ホウ、すると永田鉄山を殺した相沢三郎もお上の命でやったということですか?」。 山本自身の武勇伝ではなく、同行していた教頭が書き残している。
 教育勅語が天皇の臣民として命を投げ出し、侵略戦争を遂行するために極めて重要な役割を果したのは歴史的事実である。決して、教育勅語の復活を許してはならない。(滝)


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