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    かけはし2018年11月26日号

社会主義者の前には多くの任務


カナダ・ケベック

選挙に大揺れ起きる

アラン・サヴァール


 世界的地政学のカオス化は、各国政治体制の不安定化、不透明化と同時並行的に進んでいる。そこには、各国で深まる社会的貧困化の中で、既成政治諸勢力に対する深い不信の突きつけに加え、それを右翼ポピュリストが他に責任を転化することで利用するという、似た特徴も指摘できる。以下では、日本で伝えられることがほとんどないカナダのケベックの政治的動揺が論じられている。(「かけはし」編集部)

伝統的既成政党
が地滑り的敗北


 ケベックの政治的光景は一九七二年以後初めて、一〇月一〇日に根底的に変わった。急進的左翼政党が避けがたい政治勢力として登場し、新たな右翼ポピュリスト政党が権力を取り、かつての主流諸政党は歴史的敗北を喫した。
 ケベック自由党――過去一五〇年のうち八一年権力の座にあり、一八六七年以来資本家階級の主要な政党――は、彼らとしては前代未聞の最低結果である二五%しか得票できなかった。
 過去五〇年間自由主義者と共に権力を共にしてきたもう一つの唯一の党、ケベック党(PQ)は、さらに厳しい打撃を受けた。その得票率が一七%――これもまた前代未聞の低さ――という貧弱なものに縮んだだけではなく、この党はさらに、定員一二五議席の内僅か九議席を得たにすぎず、州議会では四番目の政党になった。
 伝統的な既成政党のこの敗北はホロ苦いものだ。それは、両党が処方した緊縮政策、およびそれらが公教育システムと医療サービスに残した惨めな状態に対する、民衆多数の本物の怒りを表現している。

消極的支持受け
右翼が政権党に

 しかし、変化を求めるほとんどの人々は、新たな右翼陣形を当てにすると決めた。その陣形とは、元のビジネスマンであり百万長者のフランソア・レガルトに率いられている、未来のケベック連合(CAQ)だ。
CAQは、この一〇〇年の中では二番目に低い投票率となった選挙での得票率三七%をテコに、弱々しい委任を受けている。変化への切望は明白だが、しかし新党に対する熱は低い。
それでもカナダの完全小選挙区制のおかげで、CAQは今立法院議席の絶対多数を確保している。そして破滅的な諸方策への縛りが解かれそうに見える。
CAQは、ドナルド・トランプの共和党とオンタリオのドグフォードの保守党両者が共有する二つの危険な特徴をもつ政党だ。つまりそれは、イスラム排撃と反移民の嘘を押し通し、新自由主義的切り下げと富裕層に対する減税の遂行を熱望している。
多くの新たなポピュリスト政党とは逆に、CAQは、これらを鋭角的な課題設定として利用することはなかった。彼らは、彼らの人気が彼らの政策に対する大衆的な支持というよりも、既成エリートたちに対する抗議票である、ということを分かっていた。したがって彼らは、ある種中道的なすべてを包み込む政党としてキャンペーンを展開した。
しかし多くは、彼らはいったん権力に就くや、彼らの右翼の基盤を満足させようと、移民の諸権利に攻撃を加え、イスラム排撃の政策を採用することになるのでは、と恐れている。

左翼が得た
選挙の結果


今回の選挙結果模様の他の一端では、急進的な根をもつ幅広い左翼政党、ケベック連帯(QS)が、驚くべき勝利をいくつか得た。一〇の選挙区、あるいは地域区で勝利したQSは今、立法院では最大の左翼政党であり、その民族主義のライバルであるPQを追い抜いた。QSはさらに、その歴史上初めて、モントリオール地域の外でも複数の議席を勝ち取ることができた。したがってQSは、その全体得票率は依然一五%という低いものだとはいえ、新政権に対する左翼反対派の主な触媒という好位置にいる。
多くの観測者はこうした脈絡の中で今回の選挙を、独立問題が支持を分ける主な問題にはならなかったという点で、一九七〇年代以後では初めてのものだった、と見た(フランス語を話す住民が多いケベック州では、長期に独立要求がくすぶっている:訳者)。
しかし、ケベック独立問題は、二〇〇〇年代はじめ以後はほとんど脇に置かれてきた、と言う方が正確だろう。主権要求に対する支持は過去二〇年間、特に若者世代の中で下がり続けてきたのだ。
この現実に立ち向かうことを迫られたPQは、選挙キャンペーンの中では独立問題を意識的に避けた。PQは、この目標では依然引くに引けない立場にあったが、力を保つ上ではこの問題を控えめに扱うことが最良の方法である、と実感していたのだ。
PQは、政治的不満に乗ずる目的で、自由主義者に対する唯一のオルタナティブとしての独占権を保とうとした。これは、左翼的見せかけを維持する点で党を助けた。そして党は、労働運動や学生ストライキや共同体の集団活動が抱える穏健な諸要求を取り上げた。
しかし同時にPQの民族主義的な戦略は、ケベック独立への支持を高める新たな道を探し続けていた。彼らは二〇〇七年この方、ゆっくりとイスラム排撃のレトリックへと向きを変え、移民をケベックの文化と諸価値に対する主な脅威と描いた。
この戦略は結局のところ、今回の選挙では期待に反する結果となった。PQは何とかケベックの保守的な民族主義潮流に加わることができた。しかしこの民族主義はもはや独立を求めてはいないのだ。可能だったことは、憲法上の現状を維持する中で民族主義的で外国人排撃の政策を提案することだった。そしてそれこそ、CAQが明確に提案したものだったのだ。
PQからCAQへのスイッチ切り替えはそれゆえ、多くにとっては自然だった。独立はこの二〇年、選挙の主な問題ではなくなっている。それゆえ今回の選挙は、この点で際立っているのではなく、むしろ、二党間、すなわち自由党とPQ間の戦闘に限られ続けたケベック政治の終わりを特徴としている。

活動的左翼への
新たな幕開け?


今回の選挙は、右翼政党による権力奪取という暗い結果にもかかわらず、左翼に対し前進に向けた道を開くだろう。
低投票率、既成二政党の敗北、さらにCAQに対するか細い委任は、シニシズムと混じり合った形で、変化への切望をはっきりと示している。ケベック住民の多数は、ものごとは変わる必要がある――経済的不平等と気候変動は今世紀の主な脅威である――との感情を抱いている。しかし彼らはまだ前に向かう道を知ってはいない。彼らはCAQに機会を与えているが、しかし失望を味わうことになると思われる。
QSがこの失望に道を付けることがもしあれば、二〇二二年の次期選挙の後、この州における急進左翼政権という実のある可能性がある。この可能性は小さいが、それでも存在し、そしてそれは天恵であると共に災いにもなる。
QSは幅広い政党であり、二〇〇〇年代以後反新自由主義、反緊縮、反グローバリゼーションの社会運動に深く根を下ろし、改良主義的綱領を擁護している。その指導部と議会の翼は、労働組合、学生運動、フェミニスト諸組織、そして共同体グループと環境グループを出自とする活動家や元のオルガナイザーから構成されている。
しかしこうした起源と構成は、QSを選挙ゲームの圧力から守ることはない。主流としての社会的地位に達する近道を取る目的で、メディア界によっても押されて、中道リベラル的な「常識」を受け容れ、その主張を穏健化することは、党指導部にとっては極めて魅力的となるだろう。
この圧力は選挙政治においては常に存在し、これまでQSはほとんど、その当初の諸原則に対する密着を維持できてきた。しかし、急速で短期の成長に向けた好機は、この圧力をとてつもないほどまで高めるだろう。
その上、万が一QSが四年の内に権力を取るようなことがある場合、その綱領の実行に向けて党がどれほど準備できているかは明確でない。敗北に馴染んできた左翼であることのゆえに、党が権力の座に万が一就いた場合何が起こることになるかについて、これまで深い考えや論争があったことはないのだ。
エコソーシャリストネットワーク――この党内で活動している小さなマルクス主義グループ――は、すべての左翼政権が遭遇するさまざまな障害、すなわち資本家階級からの抵抗、悪質な報道、投資ストライキ、その他について、対話に火をつけようと試みてきた。
しかしこれらの考えは今なお、党員と指導部内部では周辺的だ。QSは、堅固な計画を欠いたまま、数多くの社会民主主義政党が権力を取った後に犯している、同じ種類の裏切りを繰り返すように見える。
それまでは、おそらく新たな右翼政権が、近年の歴史ではもっとも新自由主義的でレイシズム的な攻撃のいくつかを解き放つだろう。その最悪なものを食い止める上では、社会運動の集中が必要になるだろう。
選挙の舞台に合わせて抵抗を先延ばしにする、という誘惑を避けることが決定的になるだろう。大衆的な規模で強力で階級的な意識形成に達するのは、諸々の共同体に深くいかりを降ろした直接的な闘争を通じてのみ可能になるのだ。
これからの年月はケベックで重大なものになると思われる。左翼にとって諸々の可能性は開かれつつある。しかしまた深刻な脅威もある。
社会主義者は前途に多くの任務を抱えるだろう。それはすなわち、社会運動に率先関与すること、日々の直接的抵抗を組織すること、QS内内部民主主義を求めて闘うこと、QSをその綱領に忠実なままに維持すること、さらに権力を取った場合の計画を確実にQSにもたせることだ。(「ニューソーシャリスト」より)

▼筆者はケベックを本拠とする社会主義者。(「インターナショナルビューポイント」二〇一八年一〇月号)   


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