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    かけはし2019年8月12日号

左翼は欧州ビジョンを必要としている


EU議会選

EUの正統性喪失さらに進行

異なった欧州の建設を正面にすえ
急進左翼の任務の再確定不可欠に

ミゲル・ウルバン・クレスポ 

 以下は、今回のEU議会選結果が示すEUの危機と混迷に対する分析と左翼が直面している課題についての論考。EU諸機構(特にEU委員会と欧州中央銀行)人事に関わるEUエリート間の暗闘に関する部分は紙面の関係上割愛している。(「かけはし」編集部)
 EUの将来を定める闘いは、極右と自由主義センター間で二極化しようとしている。しかし、左翼はある種の文化戦争に荷担することでは勝利できない。つまり左翼は、ブリュッセルの新自由主義的コンセンサスに挑む自らの構想を必要としているのだ。
 今回のEU議会選は、この大陸における支配的な政治秩序内にある断片化に関する最新の証拠を提供した。EU議会史上初めて、社会民主主義派とキリスト教民主主義派のグループ(各々、S&DおよびEPP)が議席の多数派を失った。それでも、緊縮がおよぼす進行中の諸作用が古い政党ブロック解体で鍵を握る力となっていた中で、今年のEU議会選は同時に、急進左翼支持者の士気阻喪をも示した。投票はその代わりに、EU構想に対する自由主義者と緑の支持者、そして極右、この間での高まる一方の二極化を示した。
 ウニドス・ポデモスのEU議員、ミゲル・ウルバン・クレスポが論じるように、ブリュッセルの議会における断片化は、EUがむき出しの崩壊に向かっていることを意味するわけではない。以下に再録するミゲルの「EU議会選に関する一〇のテーゼ」で彼が論じているように、おそらく緑諸党と自由主義派を含む新たな中道派ブロックの形成が、少なくとも二、三年以上、ブリュッセルコンセンサスを引き延ばすかもしれない。
 それでも、市民がEU諸機構からかつて以上に疎外されるようになり、極右がじわじわと前進する中で、欧州レベルでそれ自身のオルタナティブを提供する左翼に求められる必要性は、かつて以上に急を要するものになっている。

1.EUの正統性の危機

 今日はっきりしていることは、EUがEU全域の社会諸層内で、高まる一方の正統性喪失から苦しみ続けている、ということだ。民主主義、進歩、幸福、人権といったEUの価値と想定されたものとそれを関連づけることは、むしろもっと犠牲が大きい。
われわれは、言葉の完全なグラムシ的意味で、ポストマースリヒト条約モデルの原因と結果双方の、いわば有機的危機を目撃中なのだ。このモデルは、一つの新自由主義的な拘束衣、つまり緊縮、自由貿易、略奪的債務、そして不安定かつ低賃金の労働の、当代の金融化された資本主義のDNAを構成する死にいたる組み合わせにすぎないものになっていた。
EUは制度としてこの正統性と統治能力の危機を、表面上の改良によって抑えようと試みてきた。そこには、それ以外では欠けている自由主義と民主主義の信頼性に対する、一定の外套を添えるという期待が込められていた。こうした方法で、EUによる統治の枠組みは、EU議会選と一致する形で五年周期で刷新されている。それは、ヘゲモニーをふるうベルリンーパリ枢軸に沿って一列に配置された、諸国家間の力関係として階層的に構造化された官僚的機構 というイメージを曇らせる一つのもくろみだ。

2.市民の不満と投票率の逆転

 EUが抱える正統性の危機は、EU制度に対するその市民の高まる一方の不満の兆候として、選挙毎に上昇する棄権率として自らをあらわにしてきた。この傾向は、今年五月二六日の最新選挙では逆転した。この時投票率は、システムの再正統化として、ブリュッセルによる大々的で派手な誇示で祝われた一つの結果、つまり五〇・五%に達したのだ。
しかしこれらの投票率は、われわれがEU官僚の陶酔感を一端取り除けば、EU的広がりの選挙と同時期に行われた地方・地域選挙との一致効果として理解され得る。スペインの事例は、選挙日程がEU議会選投票率をどのようにして六四・三%まで押し上げたのか、を示す上で十分に典型的だ。それは、以前の二〇一四年選挙より一〇%以上も高くなった。他の極端としてわれわれは、われわれの隣国であるポルトガルが、三一・四%を上回ることができなかった、という事例を見ている。この事例は、全EUの最低投票率記録を破るものだったのだ。

3.伝統的二党支配の崩壊


おそらくこの選挙から発信された最大のニュースは、二党支配の崩壊、あるいは少なくともその議会支配の崩壊だ。欧州人民党(EPP)と社会主義者・民主派進歩連合(S&D)は、EU議会史上初めて絶対多数を得ることができなかった。EPPは、約一八〇議席で何とか勝利を得たが、二〇一四年比で得票率五%と四一議席を失った。その相方であるS&Dは、四五議席減、得票率六%減の、一四五人の議員獲得をもって、再度二位になった。
これらの結果は、われわれの時代の首尾一貫した傾向、すなわち第二次世界大戦以来権力を保持してきた伝統的諸政党の危機、を確証しているように見える。その上これは、一国に局所化されるのではなく、欧州的広がりをもつ現象になっているように見える。それは、一つの大連立としてEUを統治した極度に集権化された中心部、の強まる内部破裂を示すひとつの象徴だ。そして数ある諸要素の中でもそれが、選挙の分野で高まる断片化を生み出し続けている。
このすべてにもかかわらず、われわれは今もって、政治的、経済的、さらに文化的分野における欧州的広がりの形勢再形成では初期局面にいるように見える。その局面は始まったばかりに過ぎない。

4.新たな政治的連携の模索

 二党ヘゲモニーの崩壊は必ずしも、EUの新自由主義的統治のレベルにおける不安定性に導くわけではない。あるいはそれは、ブリュッセルにおける一つの大きなブロックを構成する自由主義者と緑諸党のおかげで、少なくとも抑制されるだろう。この後者二グループは、今回の選挙で最大の成長をを遂げ、EU議会内では三番目と四番目の議席数配分を受けている。
欧州のための自由主義者・民主派連合(ALDE)は、エマニュエル・マクロンフランス大統領の欧州ルネサンス提案を後押し、今年得票を倍化し、議員数を二〇一四年の六七から一〇九まで増大させた。そして緑諸党は彼らとして、その支持を三〇%引き上げ、議員数を六九、二〇一四年比で一九増とした。
緑諸党と自由主義者の成長は、二党ヘゲモニー崩壊の上で、EUを統治するための新たな連携創出に向けたシナリオに機会を開いている。そしてその連携は、最大の明白さをもって新EU委員会の選出に、そしてすべての中でもっとも重要なこととして、その委員長選出に映し出されるだろう。

5.初のEU委員会女性委員
  長誕生?
――省略――

6.常勝のドイツ
――省略――

7.EPPグループ内の緊張

 マンフレット・ウェーバー(ドイツキリスト教社会同盟)のEU委員長立候補は、EPP議員グループの心臓部における内部二グループ双方における諸対立を悪化させている。その二グループの一つは、より穏健な翼だが、EPPの外国人排撃の諸言明を批判してきた。もう一つは右翼過激派であり、ヴィクトル・オルバンハンガリー大統領のフィデス党(ハンガリー市民同盟)が率いている。そしてオルバンは明けっぴろげに、ウェーバー支持を何度も何度も繰り返してきた。
フィデスとの公然とした対立は、EPP内部の単一の最大懸念であるかもしれないが、理由のないことではない。何といってもオルバンの党は、このグループに入る議員数では唯一ドイツ人の後を追っているのだ。フィデスはハンガリーで五二%の得票率に達し、二〇一四年比で上積みの議席を獲得した。
しかしフィデスはこの三月以来、EPP内の指導部の地位を凍結されてきた。そこには、オルバンの党をEPP一家にとどめつつも、ハンガリーにおける法の支配に対する変わることのない攻撃に対決するものとして、強硬路線の採用を誇示することを意図した選挙戦術があった。
そしてEPPは、ウェーバーの立候補に対する自由主義者からの支持を誘い込む目的で、フィデスを孤立させるという難しい任務を抱え込む一方、一つの危険を犯しているのだ。その危険とは、イタリアの強硬右翼、北部同盟の副首相マッテオ・サルヴィニ、およびフランスの国民戦線指導者のマリーヌ・ルペンに、新しい議会グループという形でオルバンが加わるという危険だ。ちなみにこの新グループは、EPPの隊列をさらに弱める形で、欧州の極右の結集を狙っている。

8.極右は成長し続けている


EU極右は、五月二六日にホロ苦い結果を刈り取った。彼らは一方で、EU議会のほぼ二五%までその代表性を高めた。しかしながら、EUの決定作成の見地から彼らが期待していた、重みをもつ一つの少数派ブロック形勢に必要な数には届かなかった。この失敗はブリュッセルで歓喜で迎えられた。しかし、極右のこの結果をもっとありのままに読み取れば、それはわれわれを、祝うべきものは皆無であり、われわれを懸念させるものがもっと多い、との確信に導くのだ。
第一に極右は、最強力な四ヵ国(EU議会議席数はそこにより多く配分されている)のうち三ヵ国、フランス、イタリア、英国で、最大の票を得た。そしてそれはEU議会では、ブレグジットが決着するまで表現され続けるだろう。
同時に極右の結果は、この大陸を貫く彼らの成長を示している。彼らはそこで、これまでは選出された極右の代表を一度ももったことのないスペインのような国でも、初めて議席を得たのだ。彼らの結果は各国レベルで、むしろもっと印象的であり、彼らは見ただけでそれと分かるメディアの有名人を抱え、彼らの組織はますます多くの地域で牽引力を得続けている。
極右が例外的な結果を記録したEU内有力国(ドイツ、フランス、英国、イタリア)の先で、東部のヴィシェグラード・グループ(チェコ、ポーランド、ハンガリー、スロバキアで構成:訳者)の精査も重要だ。たとえばポーランドの法と正義党は七議席、四五・三%を獲得した。その上にわれわれは、EU議会選と平行して行われたベルギーの地域選挙を特記しなければならない。そこでは、ブラームス・ベランク(フランドルの利益)のウルトラ右翼支持者が彼らの支持票を三倍化し、全体としての二番目に着けた。
極右の主要な問題は、様々な議会グループへの継続的な分散だ。サルヴィニはキャンペーンを通じて、欧州の極右に言い寄ろうと努め、オルバンをハンガリー国境のフェンスに連れ出し、右翼過激派の指導的人物の過半数を彼が集めたミラノ集会で、彼の強さを見せびらかした。しかしすべてのことは、少なくともブレグジットのミステリーが解決されるまで、そしてEU議会内で形勢再形成が起こる可能性が生まれるまで、さらに欧州極右の原子化は続くだろう、と示唆している。

9.再度ブレグジットが問題に


ブレグジットがEUの現在と将来の政治に影を投げかけ続けている。新たな延長を経て英国は最後の瞬間にEU議会選に参加した。しかし千日手の交渉が保守党首相のテレサ・メイを、また一定程度、この大陸でもっとも安定した政治システムを苦しめてきた。EU議会選は、二回目のブレグジット国民投票を呼びかける可能性に関するある種の国民投票と見られた。
驚くことではないが、勝者はナイジェル・ファラージと彼の創立二ヵ月しか経っていないブレグジット党だった。そしてこの党は、得票率三二%、二〇一四年にUKIP(英国独立党)が得た議席を五議席上回る議席獲得で、この選挙に勝利を収めた。保守党は、八・九%を得たにすぎず、労働党が一三%に達する中で、緑の党(一一%)と自民党(一九%)に追い越された。つまり概していえばこれも、英国における伝統的な政治陣営の分解というもう一つの事例だ。
これらの結果は、英国の制度的危機と政府危機を一層ひどくしつつ、ブレグジットの終端に光を見るどころか、EU内の永続的な緊張の根源にとどまるかもしれない、そうした一つの迷宮にわれわれが入り込もうとしている、と暗示している。

10.若者と緑諸党の伸長


選挙を前にした金曜日、「未来を求める金曜日」運動は欧州中の一六〇〇都市で、選挙キャンペーンに気候の緊急性というそのメッセージを差し込む試みとして、新たな学生ストライキを呼びかけた。この運動――スウェーデン議会の外で毎金曜日、自分自身で抗議を始めた一六歳のグレタ・トゥーンベリが始めた――は、二、三ヵ月の進行を通じて、環境運動の主要な動員力を秘めた諸行動の一つになった。スウェーデン、ドイツ、オーストリア、ベルギー、フランス、スイスといった諸国では、金曜日毎のストライキと抗議行動が、いくつかの場で前例のない増加を獲得しつつ、何カ月もの間大衆的な規模で続いてきた。
選挙結果の分析は、次のことをわれわれが理解することを可能にする。それは、「未来を求める金曜日」の決起がまさに起きたEUの中心的諸国では、市民の、基本的には若者の重要な部分が、気候変動を、移民や安全保障といった大きな動員課題になるはずと想定された他の諸課題に代えて、政治的課題設定の突出した部分にしたいと思っていた、ということだ。
これは、緑諸党に向かう壮観な結果を駆り立て、それらのEU議会議席数を五〇から七〇以上に持ち上げた。ドイツでは得票率二〇・五%をもって緑の党が二位の位置を占め、社会民主党に先んじてゴールインした。フランスでは、緑の党が五年前を七議席上回る一二議席を得、三位に着けた。ベルギーではこの勢力が、得票率一五%、三議席となった。
これらの結果を考慮した時、また「未来を求める金曜日」の決起が夏休み後も後退しないならば、気候変動に反対し、新しいエネルギーモデルを求める闘争は何の曖昧さもなく、この新議会での大課題になるかもしれない。

本質的な戦略論争の開始を

 スペインにおけるウニドス・ポデモスの貧弱な結果は、不幸なことだが、EUいたるところで例外にはならず、一四議席の喪失という、左翼が大敗北を喫した選挙における標準状態だった。真実は、左翼がその多数の場合、社会自由主義とは識別される一つの戦略を明確に主張することができていない、そしていくつかの場合、急速に高まる反移民のレトリックの罠に落ちてさえいる、ということだ。
唯一の例外はポルトガルの左翼ブロックだった。それは大きな尺度で、ポルトガルの社会党政府との関係における明確な立場、および気候変動の切迫性とブリュッセルから脅かされている社会的諸権利、に光を当てたキャンペーンのおかげによっている。
EUにおける新しい制度的なサイクルの始まりは、左翼が直面している情勢に関する徹底したバランスシートを作成するようわれわれを導いている。われわれは、自らを再組織し、本質的な戦略論争を始めなければならない。新しいEUの連携は、緑諸党、自由主義者、また社会党勢力を伴う社会自由主義ブロックの再構成として理解されなければならない。それは、ブリュッセルコンセンサスの情け容赦のない統治を再確認するブロックだ。
この新たなEU統治ブロックへの対応は、左翼に対し基本的な立法作業の挑戦を提起するだろう。そして左翼は、票数の尻尾になることを早急に放棄しなければならない。おそらく欧州左翼が立ち向かわなければならない第二の挑戦は、われわれがEU議会内の最小ブロックである中でのふるまい方だ。これは、われわれ自身を議会政治にというよりも、新たに登場する社会運動と民衆諸階級に再結合することに方向付けることを意味している。
市民の利益から遠ざけられた諸機構にとって緊縮が唯一の政治的/社会的選択肢になっているときに、それゆえ現実に存在するEUは、社会的多数から見て一つの問題となるだろう。異なったEUの建設は、われわれがその中で今生きている目的不在に対する唯一の回答として浮上するだろう。
ユーロ圏の外部域を含む新自由主義のEU統合は、EU的広がりのレベルにおける力関係の実質的変化、当座見ることが可能な視野を超えている変化、がなければ逆転があり得ない点に到達した。左翼の役割を定めることには、欧州規模で自らを再イメージすることを含めなければならない。

▼筆者はスペインのアンティカピタリスタスの指導的メンバー、ポデモスリストでEU議員に選出された。(「インターナショナルビューポイント」二〇一九年六月号)   


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