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    かけはし2019年11月4日号

原発を退場させよう


「アトムズ・フォー・ピース」

世界に逆行する日本の原発政策

くどう ひろし

中曽根と正力

 アイゼンハワーが、原子力の平和利用を打ち出したのは一九五三年一二月の国連総会、「原爆投下という暗い背景を持つ米国としては力の誇示のみではなく、平和への願望と期待を示したい」と。
 正力松太郎は中曽根康弘と二人三脚で原発導入。「正力は戦前警察官僚として共産党員の一斉摘発を指揮したこともある。原発による経済発展で共産主義の拡大を防ぐ思想も持っていた。米国は正力が米国の専門家を招いて原子力をアピールした原子力平和使節団や読売新聞主催の原子力平和利用博覧会に協力した」(朝日2011年7月18日)。
 全国一一都市を回り、計二七〇万人を動員、日本人の原子力アレルギーをやわらげた。

劣悪な国策

 初代原子力委員会、正力松太郎の強い働きかけで、湯川秀樹博士は、五人の原子力委員の一人に名を連ねた。
だが、就任当初から米国の技術を輸入して五年で原発を実現したいと意気込む正力に対し、「輸入技術への過度の依存は自主性を妨げる」と強い懸念を示し、就任からわずか一年余りで委員を辞任。
朝永振一郎博士も「外国の秘密のデータを教わって、物もついでにもらってやれば早道かも知れませんが、それは限られた範囲のなかでの早道で、日本全体の進歩というのではない」と語っている。(安西巧「さらば国策産業」164頁)。
〇六年東芝がウェスチングハウス社を買収、傘下に収めたというものの、新型炉の開発など原発分野の重要なイノベーション(技術革新)は、今でも米国の企業や研究機関が発信源になっている。
「自前の技術がなければ、イノベーションもない。さらにイノベーションを競う環境がなければ、研究者も技術者も育たない。安全神話にどっぷりと浸かり、リスクに鈍感な土壌が日本の“原子力ムラ”に巣くった背景には、湯川が警鐘を鳴らした“輸入技術への過度の依存”で彩られた歴史がある」(同前、165頁)。
加えて、「原発は核とセットになっている。必要になれば短期間に核兵器をつくり装備できる。日本は核兵器と弾道ミサイルを装備した国々にかこまれている……原発をへらすのはいいが、やめるのはまずい」(2011年8月16日ニュースステーション、石破茂)。
保守層の底流に根強い、この手の帝国主義的な考えがある。

 悪戦苦闘の
 菅首相


原発事故が起こった時の首相菅直人は、数年後のインタビューで、こう振り返った。
福島には計一〇基の原子炉がある。もしすべて制御できなくなったら、チェルノブイリの何十倍もの放射性物質が放出される。東京まで来たらどうするか、と考えた。しかし口に出せない。対策がないのに言えばそれこそ大事です。
そこで原子力委員長、近藤駿介に避難地域のシミュレーションを依頼、三月二五日官邸に届けられた報告書は、最悪のケースを想定した場合、避難対象は東京都を含む半径二五〇キロに及ぶというものだった。
菅は恐れた、居住する約五〇〇〇万人が避難するとなると地獄絵です。
現実には菅が書いたように偶然が重なったのかもしれない。2号機の格納容器の圧力がなぜか急低下した。4号機の使用済み燃料プールに奇跡的に水があった。それでなんとか最悪のケースにまで被害が拡大することだけは免れた。
しみじみと菅は言った。事故の対処に人間も頑張ったけど、頑張ったの積み重ねだけで止まったとは思えない。正直あの時だけは神の御加護だと思ったのです。(朝日2018年12月14日)
参考までに、米国のルース駐日大使は三月一七日福島第一原発から半径五〇マイル(約80キロ)以内に居住する米国人に避難を勧告している。

「神の御加護を!」


信仰者のような記述が頭の中に残った、と朝日の記者は記しているが、人間が困りはて、無力を痛感したときの心情とすれば、そこまで追い詰めたのは福島原発を過酷事故におとし入れた東電の失態、俗にいわれる原子力村の体たらくをおいて他にない。いいかえれば歴代自民党の原発の何たるかを自覚できない無能があらわになったのである。
“将来は原発がなくともきちんとやっていける社会を実現する”(2011年7月)、菅首相の見識は明快であり、ドイツ・メルケル首相と前後して脱原発の方針を打ち出した。
“人が制御できない原発はなくすべきだ”(中沢啓治さん、「はだしのゲン」の作者)、中沢さんは、首相が脱原発、核兵器廃絶に、もっと踏み込んでほしかったと訴えている。
それらの訴えは、簡単にいって、自民党、財界の野次にかき消された。

原発退場、学者の眼
―吉岡斉


日米の原発を有り体に理解するには、もう一人の科学技術史、専門家、吉岡斉さんに語ってもらうのがわかりやすい。なお、吉岡さんは政府の事故調査検証委員であった。
原発は自前の技術ではないし、安全基準も米国の翻訳でしかない。科学者や技術者の責任をいう以前に、能力がない。つまり専門家がいない、と手きびしい。
「日本の原子力関係者は、いわばゼネラリストの集団です。機械、電気、化学、物理学を広く薄く学ぶ、全部中途半端で専門性が育たない。研究者も原子炉設計などの中核分野ではなく、核融合や安全解析など周辺的なテーマを選ぶ人が多い。「産」に比べ、「学」の存在感が希薄で、実際の技術開発を主導できるような学者がいない」(朝日12年2月29日)。
三・一一の事故が原子力政策の転換点になると指摘した上で、「事故が起こる前から原子力は優れた技術ではなかった。再処理すれば原発コストは安くないし、ささいな事故や事件で止まる。コストの面でも、安定供給の面でも割に合わない。今回の事故で劣っている部分が露骨な形で出た。……安全規制機関は自ら調査・検証する能力がなく、事業者のいいなりだった。独立性をもって国民の安全を守る姿勢が欠けていて、原子力発電の推進を円滑に行うという考えに染まっていた。
……新しい規制当局が、新しい考えに基づき、二度と過酷事故をおこさないための安全基準を再構築しなければならない。ドイツでは、政府ができないと判断したので、原発をやめることにした」(朝日2012年3月15日)。
ドイツ 二〇一一年六月国内すべての原発廃止を決定
スイス 二〇一一年五月 同前
ベルギー 二〇一一月一〇月 同前
依存度を減らす方針、イタリア、クウェート、イスラエル、インドネシア、台湾、ベネズエラ
東電の福島原発が起した過酷事故に、東京地裁は全員無罪の判決を下した。
国会事故調は“原発事故は人災”の判断を下しているのに、無罪判決は国民をあざむき事故を転機に実質国有となった“東電”(劣悪資本)を守る以外ではない。
政策の無能、無茶に司法も同調した姿だ。
関西電力をめぐる黒い金の授受は退廃、堕落のきわみ、世界的な原発ばなれに鈍感、無知な輩にふさわしい幕切れ。

10.6

鈴木宣弘さん講演からB

犠牲にされる日本農業

日米FTAにNO!

 

 農協の
 株式会社化

 

 米国から迫られ、画策されている全農の株式会社化は、共同販売・共同購入のシステムを崩し、農産物の安値買い取りと生産資材ビジネスを拡大すること以外に、もうひとつの目的がある。米国は日本人向け小麦にGM小麦を導入しようとしている。そこで邪魔になるのが、全農の傘下にある株式会社・全農グレインの存在だ。全農グレインは、ニューオーリンズに保有する世界最大級の穀物船積施設で、非GM穀物を分別管理・輸送している。モンサント社などには、これが不愉快で仕方がないのだ。
 全農グレインは株式会社だが、その親組織である全農が共同組合であるため、組合に加入する資格のない米国サイドは、手のうちようがない。そこで農協の経済機能を司る全農を株式会社化し丸ごと買収し、日本の食糧流通の最大のパイプを握るのが、可能性の高いシナリオとみられている。米国の要求を聞く日米合同委員会で「農協解体の目玉項目に全農の株式会社化をいれろ」と指令が出た。
 全農はすでに巨大穀物商社であり、取り扱う穀物の四割しか日本に供給していない。全農が商社として生き残るためにカーギル(米国ミネソタ州に本社を置く穀物メジャー)になる選択肢もある。その場合、日本の農業・農家に貢献するという使命は消え、日本に十分に食用・飼料用穀物が入ってこなくなる可能性があるが、全農は使命を放棄するわけにはいかないと思う。

種子法廃止


 一九五二年五月一日に成立施行された日本の主要農作物種子法は、二〇一八年四月一日に廃止された。グローバル種子企業の日本への攻勢も強まっている。これらの企業の世界戦略は、世界の種を握り、買わないと生産・消費できないようにすること。それには、公共種子が一番じゃま。これをやめてもらい、開発した種子はもらう。さらに、自家採種を禁じて種を買わせる。在来の種は勝手に登録し、農家を特許侵害で訴える。これに完璧に対応した法廃止・改定が行われた。
 優良品種を安く普及させるために国が予算措置してきた根拠法がなくなれば、都道府県による優良品種の安価供給ができなくなる。命の要である主要食料のその源である種は、良いものを安く提供するためには、民間に任せず国が責任を持つべきだという判断が放棄された。種子価格の高騰は当然の帰結だ。
 種子の九割が外国の圃場で生産されている野菜。その種子価格は相対的に高い。早くも、グローバル種子企業がもうけられる下地を農研機構や都道府県が準備するように国が指示している。
 モンサント社は二〇〇三年までの六年間、愛知県農業試験場とコメ品種「祭り晴れ」のGM化の共同研究を行っていたが、五八万人に及ぶ反対署名で断念した経緯がある。M(モンサント)社【GM種子と農薬販売】とB(バイエル)社【人の薬販売】の合併で米麦もGM化され、種の独占が進み、病気になった人をバイエル社の薬で治す需要が増えるのを見込んだ「新しいビジネスモデル」だという見方さえでている。

諸外国の動き


 インド・中南米・中国・ロシアなどは、国をあげてグローバル種子企業を排除し始めた。従順な日本が世界で唯一・最大の餌食にされつつある。輸入農産物が安い、安いと言っているうちに、エストロゲンなどの成長ホルモン、ラクトパミン、GM、グルサホート、イマザリルと、これだけ見てもリスク満載。日本で、安い所得でも奮闘して、安心・安全な農水産物を供給してくれる生産者をみんなで支えていくことこそが、自分たちの命を守ること、食の安さを追求することは命を削ること、孫・子の世代に責任を持てるのかどうかということだ。
 日本の農業は買い叩かれている。酪農における農協・メーカー・スーパー間の力関係(取引交渉力)を計算してみたら、スーパー:メーカーの七:三でスーパー優位。酪農協:メーカーは一:九で生産サイドが押されている。二〇〇八年餌危機の時、餌代がキログラム当たり二〇円も上がって生産者が何とかしてくれと言ったが、小売り大手がダメだと言って、酪農家がバタバタ倒れた。他の国では、小売価格が三カ月の間に三〇円も上がったが、みんなが大事な食料を守るシステムが動いて危機を救った。このシステムが動かなかったのが日本だ。
 真に強い農業とは、本物を提供する生産者とそれを支える消費者との絆だ。「今だけ・金だけ・自分だけ」の三だけ主義を「三方よし」主義にしなくてはいけない。水田にはオタマジャクシが棲める生物多様性、ダムの代わりに貯水できる洪水防止機能、水を濾過してくれる機能、こうした機能に国民はお世話になっているが、それをコメの値段に反映しているか。ただ乗りしてはいけない。
 米国でもコメの消費者価格は一袋四〇〇〇円だが農家は一二〇〇〇円受け取る。その差額は政府が支払っている。農業補助金はスイス一一二%、フランス六五%、ドイツ七二%、英八二%だが、日本は四〇%だ。農産品にはいろいろの価値が含まれているからだ。
 オーストリアのパーカー教授の「生産者と消費者は、地産地消では同じ意思決定主体ゆえ、分けて考える必要がない」という言葉には重みがある。(おわり)



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