もどる

    かけはし2020年1月1日号

 生活と権利と社会の全側面的立て直しへ


労働運動 直面する課題

独自の闘いの堅持を基点に
殻破る連携の大胆な展開を


今や鮮明なトリクルダウンの嘘


 実質賃金が一〇年以上継続的に下落した上に(OECD統計では、二〇一八年賃金が二〇〇七年比でマイナス八・二%)、消費税が一〇%に引き上げられ、労働者民衆の購買力が確実に大きく削られる中、20春闘を迎えようとしている。
 他方で、労働者派遣法の改悪、長時間労働の是正と言いつつ過労死水準の時間外労働を容認した上での労働時間規制のない高度プロフェッショナル制度の導入、権利保障がまったく不十分なまま単に人手不足対策のみを目的とした粗雑極まりない新たな外国人労働者受け容れ制度(特定技能制度)新設、さらに教員に対する実質時短皆無の変形労働時間制の押しつけなど、安倍政権の下で、労働者の権利に対する攻撃も次々に強行されてきた。医療、介護、生活保護、年金など、公共サービスや社会保障でも、さまざまな給付引き下げやサービス切り下げが押しつけられた。その上に今、「税と社会保障の一体改革」と銘打った負担増・サービス切り下げの策動が、お手盛りの諮問会議を通じて進められようとしている。
 労働者民衆の生活と権利はまさに多方面からの破壊攻撃にさらされている。その正当化論拠はただ「経済成長」であり、それが今なお暗黙に前提とする論理は、成長がトリクルダウンとして自動的に生活の改善に帰結するという、今ではその嘘がはっきりしている「物語り」にすぎない。
 事実、「経済成長」を大言壮語してきた安倍政権がつくり出したものは、無権利・低賃金非正規労働者数の高止まり(総務省労働力調査で、二〇〇二年一四五一万人、二〇一八年二一二〇万人)や「子ども食堂」の全国的広がりが端的に象徴する貧困の拡大であり、その対極としての、大企業内部留保の激増(金融・保険業を除く資本金一〇億円以上企業、二〇一八年度三六八・六兆円、二〇〇七年度比一・六倍)、そして株式配当大幅増と株式市場への大量のマネー注入を通じた株価引き上げによる資産家への利益供与だった。
 失業率低下と有効求人倍率改善、人手不足、が生活改善の証拠として唯一宣伝されている。しかしそれも大きくは団塊世代の大量退職を背景にしたものであり、労働力投資の増大とは到底言えない。したがってその改善も、正規労働者数の改善や実質賃金回復に結びついてはいないのだ。
 加えて、今や労働者の人権そのものが職場でずたずたにされていることをも強調しなければならない。過労死・過労自死と長時間労働は今なお絶える兆しがない。その背景に職場に蔓延するパワハラやセクハラなど、労働者の尊厳を歯牙にもかけない労務管理があることも、多くの労働相談関係者から指摘され、今や労働相談の七〇%がハラスメントと関連した長時間労働、との報告もある。
 三菱電機におけるパワハラによる新入社員自死では、上司が自殺教唆容疑で書類送検されたことが発覚している。しかも三菱電機とその子会社では二〇一二年以降、何と八件もの労災認定(五人の自死を含む)が続いていた(朝日、一二月七日)。楽天でも、上司による暴行におよぶパワハラが明るみに出、労災認定されている。高橋まつりさんの過労自死で刑事訴追された電通が、今年に入り再び時間外労働規制違反で行政指導されたことも報じられた。日本を代表する大企業の職場がこのすさみ方なのだ。技能実習労働者に対する虐待を含め、これが氷山の一角にすぎないことは想像に難くない。

闘争による要求実現、今こそ


 まさにトリクルダウンなどかけらもないのであり、僅かばかりの経済成長があったとしても、その果実は丸ごと大企業に吸い取られている。しかも世界の現実は、経済成長回復を金看板とした一九七〇年代末以来四〇年の新自由主義路線の結末として、世界的な成長停滞と貧困・格差拡大が明瞭であり、その経済成長の看板自体、ほとんど非現実的な願望であることを、あるいはむしろ多国籍大資本に富を集中させるための虚偽の看板であることを、時を経る毎にくっきりと示している。安倍政権七年の成長施策と称されたものの乱発と依然として続く低成長というその惨めな結末も、成長願望の非現実性と虚構性の明かしと言って良い。
 そして、今や誰もが意識せざるを得ない環境の制約がそこに加わっている。その中での成長へのしがみつき、およびそれに急かされ焦りの籠もった無理筋の政策強行(原発や石炭火力やリニア、さらに乱開発と言うべき都市再開発など)はむしろ、社会的混乱と民衆生活の一層の破壊、そして職場における労働者の尊厳の破壊をさらに深刻にするものにしかならないだろう。
 われわれはあらためて、生活改善をもっぱら成長に預ける固定観念をきっぱりとふりほどくことが求められている。成長依存は見てきたように、現在では結局のところ、労働者民衆の生活改善の可能性とは無縁であり、資本や政府との正面切った闘いの必要性をあらかじめ封じ込めるための口実としてしか機能していない。
 成長があろうがなかろうが、自らの連帯を力とした労働者民衆の闘いによって資本と政府を力づくで追い詰めない限り、生活改善も尊厳ある労働も実現できない、これが特に安倍政権の七年がわれわれにあらためて突きつけている現実にほかならない。そしてそうであればなおのこと、職場における労働者の尊厳の回復のためばかりではなく、その闘いの武器としても、不服従の貫徹として労働者の権利を行使し、事実としてそれを回復させることが決定的に重要な課題になっている。
 20春闘、さらにその先に続く闘いは、先に見た現実を正面から受けとめ、資本と政府に対する大衆的闘争による要求実現、という姿勢をまずあらためて基軸に据えて進められなければならない。そして要求実現を求めるストライキを始めとした積極果敢な行動を率先して具体的に組織する中で幅広く共同を追求し、闘いの存在を広く見えるものにすることが必要だ。多くの労働者が闘うことから切り離されている現在、闘うことの可能性、また連帯が抵抗を支える力となること、を広く知らせることも、闘いを広げ資本と政府を追い詰める上で決定的に求められている。
 同時に、労働運動の旧来的な枠を自ら打ち破り、社会運動団体との主体性を尊重した水平的な連携を積極的に広げ、社会保障、公共サービスの再建を含めてまさに全側面的な生活と権利の立て直しをめざすことが必要だ。そしてその要求を資本に強要できる幅広い共同を基礎にした、強力な社会的な闘いを築き上げる道を切り開こう。

最賃と「働き方改革」めぐる対決

 その上で、労働者にとって二〇二〇年に特に重要になると思われる闘争課題を四点に絞って共に確認したい。
まず第一は、賃金闘争の再構築だ。すでに確認したように賃金破壊と格差の拡大への反撃を何としても進めなければならない。「八時間働けば暮らせる社会」の要求をしっかりと打ち立て、それに値する賃金の実現に全力を挙げよう。
そこにおいて特に重要になるのが最低賃金の問題だ。今では特に中小企業労働者や非正規労働者の賃金が法定最賃に限りなく近づけられている現実がある。結果として、たとえば最賃引き上げが労働者の一三・八%にも影響を及ぼす、とのデータもある。
しかしその日本における最低賃金水準が、生計の維持にほど遠く、国際的に見ても恐ろしいほど低いのだ。しかも、全国四ランクとしての格差は、最低と最高の間で時給二二三円にまで広がっている。これはもはや生存権差別であり、とうてい容認できるものではない。最低賃金の全国一律化とその抜本的引き上げは、労働者の生存権の問題としてもはやゆるがせにできない課題になっている。
労働者こそが先頭に立って、春闘を含めて、全国一律時給一五〇〇円の要求を掲げた社会運動に率先して踏み出さなければならない。昨年に引き続き、共同の全国キャンペーンを強化し、その共同戦線のさらなる拡大を追求しよう。そしてその一部として、たとえばコンビニなど焦点を絞った、すでに試み始められている具体的な対資本追及行動をさらに強化しよう。
第二はいわゆる「働き方改革」の問題。三六条協定を使った厳格な時間外労働規制、および職場に「高度プロフェッショナル制度」を入れさせない闘争を徹底しつつ、まず政府と大資本があらためて持ち込もうとしている裁量労働制の拡張を何としても阻止しよう。
この裁量労働制の拡張は、「高度プロフェッショナル制度」の使い勝手の悪さ(現に適用された対象者は僅か)から、ただ働き強要と労働時間管理責任逃れのツールとして、資本が元々強く望んでいたものだった。しかし労働者の抵抗に加えデータ偽装の発覚によって、「働き方改革」法案では政府が削除せざるを得なかった制度だ。その限りで先の「働き方改革」法案反対闘争は一定の成果を上げたと言える。しかし資本と政府は再調査の上それをあらためて持ち込もうと今準備を進めている。それを許さない社会的包囲の闘いを再度大きく作り上げなければならない。
さらに「雇用類似の働き方」という名称で雇用責任放棄、自己責任、の世界をつくり出そうとの策動が着々と進められている。この動きには、たとえばウーバー運転手の闘いなど、世界的な反撃が始まっている。日本でもそれらに意識的につながる形の反撃を今から準備する必要がある。
一方で見直し規定を使った派遣法再改訂の検討も労政審で進められているが、そこで政府・資本が狙っているのは派遣規制のさらなる骨抜きにほかならない。特に日雇い派遣規制の緩和がその焦点になると報じられている。その他「働き方改革」にかこつけた権利に対する攻撃はいくつも準備されている。それらに対する断固とした緩むことのない反撃を作り上げよう。

職場に人権を、関生弾圧許すな

 第三はハラスメント防止。見てきたような職場内外に広がる労働者の人権無視は決して放置できないレベルにある。この事態に、さすがに政府与党も重い腰を上げ、企業にハラスメント防止措置を義務づける法改正(通称、パワハラ防止法改正)が実現した。
しかしその改正は極めて不十分であり、加えてその措置の具体化に向けて厚労省が示した「パワハラ・セクハラ指針案」もひどいものだった。労政審での労働者側からの強い批判を受け一部修正されたものの、労政審で強引にとりまとめられた最終案では、たとえばパワハラの定義に関し「適正な業務指示や指導は該当しない」との文言が加えられるなど、パワハラの正当化や言い訳に余地を与えている。
この現状に日本労働弁護団は一二月一〇日、「パワハラを許容し助長しかねない危険性を有する」、衆参両院での付帯決議の内容が十分に反映されていない、として、抜本的見直しを求める意見書を公表した。ILOが六月に採択したハラスメント禁止条約は、顧客や取引先などの第三者によるハラスメントをも対象にし、フリーランスにも保護の範囲を広げているが、今回の案がその水準に遠くおよばないことも指摘したい。
労働者の尊厳を真に守ることのできる規制を求める運動を社会的に広げると共に、職場内外でハラスメントに具体的に反撃する闘いを率先して推進し、尊厳ある職場を実現すること、が今や不可欠の課題になっていることをはっきりと確認しよう。
第四は、全日建関西生コン支部に対する攻撃への全力を挙げた反撃だ。すでに本紙上でも繰り返し訴えてきたように、この闘いの重要性は繰り返すまでもない。労働者の団結権、交渉権、争議権を丸ごと否定する攻撃であり、さらに協同組合運動弾圧の要素まで加わり、それらでは裁判所までが攻撃の当事者になっている。絶対に許してはならない。
この攻撃で使われている、労働組合を暴力団と同一視する権力側のこじつけは、かつて世界で労働組合を弾圧する際に常套手段に使われた口実と何一つ変わらない。いわば歴史が一〇〇年後戻りしている。しかしそのような卑劣な攻撃を断固とした闘争によって粉みじんにしてきたのが労働運動の歴史なのだ。権力者にはその歴史を思い知らせなければならない。当該の生コン支部とその組合員の仲間を支えつつ、労働運動の総力をあげた反撃を作り上げ、歴史の教訓をかえりみない権力側の傲慢不遜なもくろみを徹底的に打ち砕こう。

旧来的な枠踏み越える運動へ


以上に加えて、暴虐極まりない辺野古の米軍基地建設反対の全県的闘争を断固として貫徹している沖縄民衆との確固とした連帯の組織化、また憲法と民主主義を破壊しわれわれの生活に襲いかかる安倍政権打倒の幅広い共闘の一翼を率先して担う任務が、一貫して重要な課題であることは言うまでもない。
その上で、これらに取り組むに当たって避けることのできない問題が突きつけられていることをあらためて確認したい。つまり、現在の労働運動が多くの問題、困難を抱えているというはっきりした現実だ。
端的に多くの労働者が労働組合に距離を置き、労働組合の役割にも大きな不信が投げかけられている。その距離感や不信が、本来労働組合を最も必要としている若者、女性、非正規労働者に特に強い、ということも深刻な事実だ。たとえば現に、気候変動をめぐって始まっている若者の決起やフラワーデモに決起している女性たちと労働運動の断絶は明確だ。それは、一貫して低落を続けている組織率に端的に表現されている。
われわれは労働運動がその歴史的使命を終えたとはまったく考えない。むしろ世界のこの一年は、労働者の組織と運動が各地の民衆的決起の中で極めて重要な役割を果たしている、という事実を示している。そうであるからこそ、先の困難をどのように克服するか、それが多くの労働運動活動家が直面し自覚している大問題になっている。さまざまな議論と模索が続いているが、少なくとも労働運動の側からその克服に挑まなければならないこと、ははっきりしていると思われる。そしてそこでは、まず先の課題に積極的に取り組み労働者自らの大衆的な闘いを率先して進めることが、人々の不信に応える最低限の出発点であることも明確だろう。
同時に、多くの議論が指摘するように、企業の壁を越えることを始めとして運動の固定観念と殻を自ら破る踏み出しが必要とされている。おそらく、生活と権利の全側面的立て直しに向け、幅広い連携に挑戦することはそこに多くのヒントを与えると思われる。その実践を通じて自覚的に先の模索と議論を発展させ、新しい労働者の闘いのあり方を探り出すことが、結論的に、この歴史的一時期の労働運動にとっては最も重要な課題になる。
この課題には、たとえば第四インターナショナル一七回大会の重要論点であったことを含め、世界的な共通性があること、その意味で、世界の多様な経験に対する注視が必要であることも指摘したい。この確認に立ってわれわれ自身突きつけられている模索と議論に共に加わろう。(神谷)



もどる

Back