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    かけはし2020年1月1日号

 COP25の失敗とクライメート・ジャスティス運動(上)


脱石炭・脱原発・反緊縮を結合した社会運動の発展をかちとるために



 スペイン・マドリードで開かれていたCOP25(国連気候変動枠組条約締約国会議)は、会期を二日間延長して交渉を続けたが、辛うじて形式的な合意を確認しただけで一五日に閉会した。しかし、COP25が「空虚なおしゃべり」に終始して事実上の失敗に終わった中でも、日本も含めて世界中で頻発する「異常気象」が、気候変動というよりは気候危機・気候破局の様相を呈しはじめている状況に変わりはない。「未来が保障されていないのなら、未来のために勉強することに意味があるのか」「いまは行動のときだ」という若者たちの問いかけに応える下からの行動、とりわけ脱化石燃料、脱原発、反緊縮を結びつけた運動の発展こそが求められている。

COP25 何が問われていたか


 COP25は、もともとチリで開催予定だったが、チリのセバスチャン・ピネラ政権がチリ人民の生活防衛・政府打倒の闘いを前にして開催を返上したため、スペインが代替開催を引き受けたものだった。これについては、スペインとヨーロッパの社会運動団体は『気候のための社会サミット・マドリード』への参加呼びかけの中で、「チリやラテン・アメリカの社会運動が何カ月もかけて準備してきたことを無視して、チリで予定されていたCOP25の開催をキャンセルした」とチリ政府を非難し、「チリにおける人権侵害を強く非難し、ただちにやめるよう要求する。チリ人民に対する政府の戦争宣言は、民主主義に対する攻撃であり、社会的公正を求める闘いへの攻撃である。われわれは、この弾圧に責任がある者たちを処罰することを要求する」と呼びかけた。COP25のスペイン開催によって、三年連続でヨーロッパにおいてCOPが開催されることとなるが(COP26はイギリス開催予定のため、それも合わせると四年連続となる)、この点についても「明白なヨーロッパ中心主義の現われ」だと批判している。
 このCOP25における主要な獲得目標は、「国別の温室効果ガス削減目標を引き上げる機運の醸成」と「市場メカニズムによる排出量取引のルール作り(パリ協定第六条の具体化)」の二つだとされていた。後者は、COP24で大筋合意されたパリ協定のルールブック(実施指針)の中で積み残しになった部分の一つであり、合意はCOP26に先送りされた(このこと自体は歓迎すべきことである)(注)。
 しかし、温暖化の影響を最も受ける国々の政府や環境NGOがもっとも重要と考えていたのは前者であり、二〇二一年から開始されるパリ協定の根幹をなす温室効果ガスの国別削減目標(NDC)の大幅な引き上げにつながる議論だった。というのは、地球温暖化による気候危機は未来のことではなく、現実の問題であり、さらに現在の削減目標を完全に実現できたとしても、今世紀中には三・二℃の気温上昇が予測され、まさに気候破局を招くからである。
(注)市場メカニズムによる排出量取引への批判は後述する。同様に積み残しになっていてCOP25で議論されたものには、各国が国連に提出する削減目標の共通の時間枠(第四条一〇項)、透明性を確保するための報告フォーマット(第一三条)などがあった。

COP25の結果が意味するもの

 しかしながら、COP25は、国別削減目標の大幅な引き上げを明確に義務化することはできなかった。全会一致で合意された最終文書では、「各国の削減目標はそれぞれの国の事情に応じて現在よりも前進させ、可能なかぎり高い野心を示す」「気候変動の緊急性を踏まえ、来年を一つの機会として温暖化対策を可能なかぎり強化することを促す」(NHKニュースWEB)などとされ、「各国の事情に応じて」とか「可能な限り」とかの表現を用いて、削減目標の引き上げを事実上回避できる内容となった。その意味では、COP25は明らかに失敗したのであり、最終合意はそれを糊塗するためにだけ合意されたと言われても仕方がない。
この合意内容に対しては、環境NGOや社会運動だけでなく、現実に温暖化による気候危機に直面している島嶼諸国や途上国の代表からも強い批判が浴びせられている。この合意案が議長であるチリ環境相から示されたとき、「憂慮する科学者同盟」のオールデン・マイヤーは「気候関連の会議で、科学と世界の人々が求めている内容とここまでかけ離れたものが出されようとしているのは見たことがない」と語ったという(AFP電子版)。
COP25の失敗は、パリ協定の中に表現されている、不十分ではあるが一定前進した温暖化対策の地平すら、交渉の場では実現の方向性を打ち出せないという現実を改めて突きつけたものだった。パリ協定における「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて二℃より十分低く保つとともに、一・五℃に抑える努力を追求すること」という合意も、地球温暖化を食い止めるために、各国政府や国際機関に有効な対策を講じるように求める国際的な草の根からの運動と動員抜きにはあり得なかった。気候危機との闘いにおいては、COPを牛耳る多国籍企業や巨大排出国の政府の善意をあてにするのではなく、若者たちの運動も含めた、下からの、広範で持続的な運動と動員こそが重要であり、必要であることが再々度明らかになった。

気候変動から気候危機・破局へ


日本も含めた世界中で頻発する「異常気象」は、気候変動というよりは気候危機・気候破局の様相を呈しはじめている。「一〇〇年に一回」と言われるような異常気象が立て続けに起こっており、もはや「異常」気象とは呼べない状況にある。
いくつかの例を見てみよう。『地球の記録 アース・カタスロフ・レビュー』というサイトを見ると、世界中で起こった異常気象が網羅されている。最近の記事を見ると、「南フランスのコートダジュール全域で歴史的な洪水が発生。氾濫河川の水位は過去一〇〇年で最大に」「温暖な米サンフランシスコを超寒波が襲い、一二三年前の最低気温記録が更新される」「ロシア東部で一一月としては異例のマイナス五四℃が記録される」など、枚挙にいとまがないほど異常気象の事例が並んでいる。
また、ニュースサイト『WIRED』の記事(七月一八日付)は、「この夏の異常気象は、気候が『予測不能』な段階にきたことを象徴している。南フランスでは四五℃の熱波を記録し、スペインでは高温で山火事が発生。米中西部のミシシッピ川流域では未曽有の大洪水が発生し、メキシコでは異常な量の雹(ひょう)が一メートル近く積もった。もはや『異常』であることが当たり前になり、新たな『普通』など見つけるべくもない。そして過去のデータに基づく気候予測は成立しなくなっている」として、多くの例を挙げている。
では、日本はどうか。COP25を前にして、ドイツのシンクタンク「ジャーマンウオッチ」が公表した気象災害の影響が大きかった国ランキングでは、日本がワースト一位にランクされた。「昨年(二〇一八年)は西日本豪雨などで甚大な被害を受けた日本がワースト一位になり、担当者は『温暖化は、途上国だけでなく、日本のような先進国にも深刻な被害をもたらすようになっている』と指摘する。分析は、台風や洪水、熱波、寒波など気象災害による被害が対象。犠牲者数や直接的な損失額などを基に気候災害による影響を国ごとに分析し、一八一カ国を順位付けした。年間の損失額は合計三五八億三八〇〇万ドル(約三兆九〇〇〇億円)に上った」(毎日新聞一二月五日付)。このように、日本を含む世界中で、気候がもたらす危機に日常的に直面する時代に入っているのである。

気候危機の原因は地球温暖化


こうした異常気象とそれがもたらす気候危機の原因が、産業革命以降における温室効果ガス排出の加速度的な増加にあることは、多くの科学的知見によって立証されているし、トランプやボルソナロのような人物は別にして、広くシェアされている知見であることは言うまでもない。
たとえば、朝日新聞デジタル版九月一五日付記事では、「相次ぐ異常気象は、温暖化なしには起こりえない。そんな科学的な研究結果が相次いで発表されている」として、欧州の研究機関や日本の気象研究所による調査を紹介している。「欧州の研究機関は、西ヨーロッパ各地で四〇度を超えた七月の熱波について、温暖化がどの程度影響したか、スーパーコンピューターを使った最新の確率的な手法を用いて調べた。フランスやオランダでは、現在の気候でも五〇〜一五〇年に一度、熱波が起こるが、温暖化がないと千年に一度以下しか起こらず、ほぼあり得ないという結果になった。英国やドイツでは、一〇〜三〇年に一度起きているのが、数十年から三〇〇年に一度になるという。日本でも気象庁気象研究所などが同様の手法を用い、昨夏の記録的な猛暑は、温暖化がないと起こる可能性はほぼゼロだと推定した。また、同研究所の川瀬宏明主任研究官らが、記録的な降雨だった昨年の西日本豪雨について計算したところ、温暖化がないと、降水量が実際より約七%少なかった可能性があった」。

IPCC特別報告が示すもの

 昨年、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は二つの特別報告書を発表し、地球温暖化の進行とそれがもたらす危機について警告した。八月に発表された『気候変動と土地に関する特別報告書』によれば、「農業、林業及びその他土地利用は、二〇〇七〜二〇一六年の世界全体の人為的活動に起因する正味のCO2排出量の約一三%、メタンの約四四%、及び一酸化窒素の約八二%を占め、温室効果ガスの人為起源の総排出量の約二三%に相当した」(環境省HP)とされ、「人間による土地利用のあり方が気候危機をさらに悪化させている事実や、気候変動によって土地がより一層劣化している現状に警鐘を鳴らしている」(気候ネット・プレスリリース)のである。
九月の『海洋・雪氷圏特別報告書』では、海の温暖化は一九七〇年から続き、気候システムに加えられた過剰な熱の九〇パーセント超を海が吸収していること、世界の平均海面水位が、グリーンランドや南極の氷床の溶解速度の増大、氷河の消失、海洋の熱膨張により、最近数十年にわたって加速的に上昇していることを指摘している。
海面上昇の度合いは、最も高い排出を想定したシナリオでは、二一〇〇年に〇・八四メートルの上昇が予測され、平均気温上昇を二℃未満に抑えたシナリオにおいても、二一〇〇年に〇・四三メートルの上昇が予測されている。
こうした海水温上昇や海面上昇、さらには海洋酸性化や酸素の減少、海氷面積の減少などによって、海洋の生物量の減少、漁獲量の減少、生態系・生物多様性への影響がおこると予測し、同時に沿岸部の人々はサイクロン、高潮による浸水、熱波などの被害をこうむる可能性が増大すると指摘している。つまり、気候変動が海洋環境にもたらす影響がすでに深刻な状況にまで及んでおり、海洋生態系や沿岸コミュニティは危機に瀕していることが明らかになったのである。

COP25をめぐる各国政府の動き


一方、こうした地球温暖化を引き起こしている温室効果ガスの排出は、パリ協定の合意にもかかわらず、世界的に見ると増加傾向に歯止めがかかっていない。一一月に発表された世界気象機関(WMO)の『温室効果ガス年報第一五号』によると、「二酸化炭素について、二〇一八年の世界平均濃度が四〇七・八ppmに達し、過去最高」「一七年度より二・三ppm増加」「一八年のCO2濃度の上昇幅は、過去十年間の年間平均二・二六ppmとほぼ同程度。産業革命前の水準(約二七八ppm)と比べると約一・五倍に達し、より温室効果の強いメタンも約二・六倍に増えた」(毎日新聞一一月二六日付)。
また、国連環境計画(UNEP)の報告書『エミッション・ギャップ・レポート』においても、人間の活動による温室効果ガスはこの十年平均で年一・五%ずつ増え、二〇一八年の排出量は五五三億トン(二酸化炭素換算)になり過去最大となったと指摘されている。パリ協定での各国の排出量削減目標では、二〇三〇年時点の排出量は五六〇億トンだが、すでにこれを超える勢いになっている。
報告書の中では、日本は、この削減目標すら達成できそうにないG20の中での七カ国の一つに挙げられている(他の六カ国は、オーストラリア、ブラジル、カナダ、韓国、南アフリカ、アメリカ合衆国)。
報告書は、このままでは今世紀末に気温が三・四〜三・九度も上がってしまい、破壊的な影響が生じる恐れがあると指摘する。こうした破壊的影響は、地球上のすべての人々に「平等に」与えられる訳ではない。「環境上の不平等は、社会的、人種的、ジェンダー的不平等をさらに深刻化させる。富裕層が地球を破壊すれば、気候の惨害からもっとも苦しめられるのは、もっとも汚染された地域で生きるのは、飲料水の不足と農地の劣化から苦しむのは、労働者諸階級、南の民衆、人種的に差別された人々、女性なのだ」(第四インターナショナル・ビューロー声明、本紙二五九三号)。

COP25をめぐる各国政府の動き

 一二月二日から始まったCOP25を前に、一一月四日、トランプはアメリカ合衆国のパリ協定からの離脱を国連に正式に通告した。これによって、一年後には離脱が確定することになるが、この日は大統領選挙投票日の翌日に当たる。トランプは、ブラジルのボルソナロとともに、最悪の気候温暖化否定論者である。
先住民が生活する熱帯雨林の破壊を奨励しているボルソナロは、アマゾンの大火災について、「環境団体への政府補助金を削減したことへの腹いせに、NGOがアマゾンで放火している」と示唆(実際には、大土地所有者やアグリビジネスが、牧畜のために森林を燃やしているのだが)していた。それに加えて、ブラジルの捜査当局は、一一月二六日、火災の消火に協力していたNGOの事務所を武装警官によって強制捜査させ、四人のボランティア消防士を逮捕した。その理由は、「NGOが寄付金目当てに放火した」という途方もないものである。
また、日本政府は、国内での石炭火力発電所の新増設を進める一方で、途上国への石炭火力発電所設備の輸出を積極的に推進している。中国政府もこの間、国内では石炭火力発電所新設を抑制したり、炭鉱を閉鎖したりする一方で、アフリカを中心として石炭火力発電所の輸出を加速させている。
その一方で、EUの欧州議会は、一一月二八日、「気候非常事態」を宣言した。同時に採択された関連決議の中では、二〇三〇年までに温室効果ガス排出を一九九〇年比で五五%削減し、遅くとも二〇五〇年までには「実質ゼロ」とする必要があるとしている。この宣言は、賛成四二九で採択されたが、反対も二二五(棄権一九)あり、全会一致というわけにはいかなかった。明らかに昨年来大きく高揚した若者たちを中心とする「気候変動NO!」をかかげた学校ストライキやデモの波に影響を受けたものであったが、EU加盟国への法的な強制力は持っていない。
こうした温室効果ガス排出量を「実質ゼロ」にするという政府レベルでのとりくみは、既に「実質ゼロ」を法律で決めたデンマークやスウェーデン、フィンランドなどに次いで、ニュージーランドでも一一月に「ゼロカーボン」法が制定(二〇五〇年までに、生物由来のメタンガスを除く温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする枠組みを定めた)されるなど、一定の広がりを示している。しかし、この「実質ゼロ」には、後述するように大きな罠が潜んでいる。
グレタ・トゥーンベリさんも「最近、ごくわずかな先進国が温室効果ガス排出量を減らし、何年もかけて実質排出ゼロにすることを約束しました。これは一見素晴らしいことのように見えるかもしれません。でも、目指すものはいいとしても、それはリーダーシップとは言えません。ミスリードです。なぜならこういった排出削減の約束の中に、国際航空や船舶、輸出入される製品・消費からの排出は含まれていません。でも、他の国で排出を相殺する可能性は含んでいます。これらの約束は、豊かな国がすぐに削減することを想定していません」(COP25関連イベントでのスピーチ)と述べている。 (つづく)
(大森敏三)

 



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