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    かけはし2020年10月12日号

階級的独立の路線で対抗強化へ


ブラジル

犯罪的・破滅的政権の継続

野党の弱点克服が急務

ジョアン・マチャド

 

ボルソナロの
破壊性は明白

 ブラジルのボルソナロ政権は、新型コロナウイルスのパンデミックに直面した際の無力さ、悲惨な国際関係、意図的な反環境路線、民主的な制度・人権・(不安定な)文明の進歩への攻撃など、巨大な災厄であり、危険な脅威である。先住民に対するその政策は、本質的には大量虐殺である。
 パンデミック以前でさえ、その経済政策は失敗に終わっていた。ブラジルは、新型コロナウイルスの感染者数と死者数で、世界で二番目に多くの被害を受けた国であり、すでに一二万五〇〇〇人以上が死亡し、それはアメリカに次いで二番目に多い。状況はさらに悪化する可能性があるが、ボルソナロは裁判所の判決によって自分の路線を押し通すことができなくなっている。
 厳密な法的な観点から見ても、政府は犯罪を犯している。ボルソナロの行動のいくつかは犯罪であり、彼の家族は国内の「主流派」組織犯罪、特にリオデジャネイロ州のいわゆる「民兵」と密接な(そしてよく知られた)つながりを持っている。したがって、ボルソナロが政権から辞任することが緊急に必要とされている。六月までは、物事は彼の辞任に向かっているように見えた。しかし、状況は一変した。

危機に直面し
反腐敗を放棄


 世論調査によると、ボルソナロはまだ人口の約三分の一の支持を得ていたが、特にパンデミックが始まってからは、ボルソナロへの拒否反応が高まっていた。ボルソナロ一族とそのもっとも忠実な同盟者である「ブラジルのための同盟」が全面的に主導する新党の結成計画は失敗に終わった。
 六月まで、民主的権利と人権に対して繰り返しおこなわれた脅しは、ボルソナロが議会や最高裁判所、州知事や市長と対決するというギャンブルによって複雑化していた。彼のギャンブルは、彼の政策を実行できないことへの苛立ちと、彼を脅かす(フェイクニュースの流布や当局への脅迫など、彼の支持者、武装集団、彼の息子たちによって犯された犯罪に対する)さまざまな犯罪捜査に動機づけられたものである。
 ボルソナロ支持の活動家は、最高裁判所、議会、報道機関、その他の政府機関を攻撃(時には直接脅迫)するために、主に首都ブラジリアで毎週の抗議デモを組織し、ボルソナロはそれに何度も出席していた(これはすでに大統領職から解任されるのに十分な法的理由となっていた)。
 『ピアウイ』誌の記事(ボルソナロはこの記事の内容を否定していない)によれば、ボルソナロの攻撃の頂点は五月二二日、「大統領の権限回復」を目的に、最高裁判所の裁判官を交代させるために介入することを決定したときである。同誌によると、この計画は、ボルソナロ自身の軍人閣僚が実現不可能だと説得したために実行されなかったという。
 すべてが示唆していたのは、それまでのボルソナロの対立路線が続けば、ボルソナロは辞任に追い込まれるだろうということだった。しかし、ボルソナロは路線を変え始めた。彼は選挙運動のテーマであった汚職との闘いを放棄したのである。これにより、彼はもっとも汚れた国会議員であるセントラオと呼ばれる右翼議員のグループとともに、議会での支持の基盤を形成し始めることができた。セントラオは文字通り自分たちの支持を売り物にしたため、選挙運動中にボルソナロによって激しく攻撃されていたのだった。

ブルジョア主流
ボルソナロ擁護


 六月一八日、ボルソナロの親友(であり共犯者)であるファブリシオ・ケイロスが逮捕された。彼は汚職で告発されている(ボルソナロの息子の一人フラビオとの関連で、そしておそらくはボルソナロ自身とその妻ミシェルとの関連で)。ボルソナロは、自分が直接捜査に巻き込まれ、有罪判決を受ける危険性があることを理解していた。
 その日以来、彼は最高裁判所と議会に対する抗議行動に参加することをやめた。そしてすぐにボルソナル支持者はそれらを組織することをやめた。彼の息子たち(彼の支持者の極右翼の一部である)の政治的関与は激減した。
 ブラジルでは、共和国大統領の弾劾裁判の開廷を決めるのは下院議長である。現職のロドリゴ・マイア下院議長は、五〇回以上もこの手続きの開始要請を受けたにもかかわらず、それに従わなかった。八月初旬、テレビのインタビューで、ついに[弾劾裁判に]反対を表明した。彼は、ボルソナロが弾劾を正当化するような犯罪を犯していないと考えていると述べた。
 マイアの発言が意味するのは、ブルジョアジーの有力な立場を反映したブラジルの「政治階級」の大部分が、ボルソナロを政権にとどめておくことを選択したということだ。これは、ボルソナロを「コントロールできる」という(疑わしいどころではない)考えによって、あるいは、この階級が政府のより非民主的で大量虐殺的な側面に憤慨していないという事実によって説明することができる。
 さらに、ボルソナロは、ブルジョアジーが彼に期待するような不人気な施策のほとんどをまだ提供できていないにもかかわらず、ブルジョアジーは彼がまだ役に立つと期待しているのだ。同様に、ブラジルの主流メディアは、ボルソナロに対する批判的な立場を維持していても、それを相対化してきた。

「緊急援助」実施
政権の救世主に


 八月一四日の世論調査によれば、政府の支持率は前回(六月)に比べて三二%から三七%に上昇し、不支持率は四四%から三四%に低下した。政府の支持率が低下する傾向が逆転した。政府への敵意がもっとも沈静化しているのは、もっとも貧しい有権者の間においてであり、国の北東部(これまでのところルーラへの最大の支持基盤)においてである。おそらくもっとも驚くべき変化は、世論調査では四七%の人がボルソナロはパンデミックによる死亡者には責任がないと考えていることである。四一%は彼には何らかの責任があると考えており、彼が主犯だと考えているのは一一%に過ぎない。
 この政府にとって好ましい変化の主な理由は、四月以降、パンデミックによる経済の収縮を補うための「緊急援助」 を国民の多くが受けとったためであると推論するのは難しいことではない。
 政府は二〇〇レアルの支援を提案した。しかし、議会は政府にこの援助を六〇〇レアル(現在の為替レートで一〇〇ユーロ弱)、あるいは一部のケースでは一二〇〇レアルに増額させた。この措置の経済的影響は予想をはるかに超え、きわめて大きかった。それによって、(人口二億一〇〇〇万人のうち)六五〇〇万人以上が恩恵を受けた。これとともに、非常に深刻な経済危機(第二四半期のGDPは九・七%減少)にもかかわらず、パンデミックの期間中に、ブラジル国民の最貧層の所得は増加した。
 ブラジルでもっとも貧しい地域である北東部では平均所得が二六%増加し、北部でも二四%増加した。もっとも裕福な地域である南東部でさえも、平均所得は八%増加した。認証された雇用権を持つ被雇用者の割合は三八〇〇万人以下で、緊急援助を受けている人々の半分強である。
 もう一つの非常に関連性の高い比較がある。ルーラが政権についているときに受けた選挙での支持の多くを担った「家族の財布」プログラムは、現在、一四〇〇万世帯以上に届いているが、このプログラムから受け取っているのは平均で月二〇〇レアル以下である。つまり、緊急援助はより多くの人々に、より高い金額で届いているということだ。正確な数は不明だが、緊急援助の月々の費用は家族手当の約二〇倍だ。
 ボルソナロは、自分が提案しなかった社会プログラムから利益を得たのである。同様に、パンデミックに直面しての彼の一連の行動が司法と議会によって禁止されているという事実は、彼が「パンデミックの責任は知事と市長にある」と言うのをより容易にしている。彼がこれまでに受けた最大の挫折と最大の脅威――ケイロズの逮捕――は、ブラジル国家の主要機関との関係で、彼が行動を(部分的に)変える原因となり、それによってブルジョアジーが再び彼と協力できるようになったのである。

ボルソナロが
左傾化した?

 最近まで、ボルソナロは労働党(PT)政府によって制定された社会プログラムに批判的であった。ボルソナロは、その姿勢を大きく変え、現在では場合によって、これらのプログラムの拡大に関与している。そして、それらの名前を変更して、自分の焼印を押した。「マイハウス、マイライフ」と呼ばれた住宅プログラムは、いくつかの変更を経て、現在では「緑と黄色の家」と呼ばれている(これらはブラジル国旗の色である)。家族手当プログラムは拡大され、「レンダ・ブラジル」と呼ばれるようになるだろう。パンデミック期間中の緊急援助は二〇二〇年末まで延長されたが、最後の四ヶ月間は支給額が半分に減らされた。
ボルソナロとウルトラ新自由主義者パウロ・ゲデス(経済相)との同盟は、決して信念にもとづいたものではない。それは常に現実的なものだった。しかし今、ボルソナロは、彼の大臣や彼が代表するブルジョアジーの諸部門と衝突し始めている。完全に不条理な人物評価がおこなわれ始めた。企業ニュースサイトの『ブルームバーグ』は、ボルソナロの「内部左翼主義が再浮上した」とする記事を掲載し、ブラジルのマスコミで取り上げられている。サンパウロの新聞『フォルハ』は「ジャイル・ルセフ」[訳注:ジャイル・ボルソナロと労働党のジルマ・ルセフ元大統領をかけあわせている]という見出しで、ジャイル・ボルソナロと退陣した大統領を結びつけたひどい論説を掲載した。
ボルソナロがまったく「左翼」になっていないことは明らかである。社会扶助政策は、たとえ拡大されているとしても「左翼」ではない。さらに、労働党政府においては、こうした政策は予算をほとんど使っていないため、世界銀行や他の同様の機関によって賞賛されていた。
「緊急援助」にはもっと多くのコストがかかるが、パンデミックという状況の中で支配階級に支持されてきたに過ぎない。パンデミック後の時期には、ブルジョアジーはゲデスの公約であった超正統的な緊縮財政の再開を推し進めるだろう。福祉政策に関して敵対者から熱心な推進者になったボルソナロは、すでに政権内での未来が不確かになったゲデスに反発し始めている。

より一貫性ある
反対派強化が鍵


ボルソナロは、いくつかの非常に重大なリスク、とりわけ彼や親族に対するさまざまな調査に直面し続けているが、より強力になった。彼が集めた最近の支持(セントラオによる支持のような)は確固たるものではない。ブルジョアジーのほとんどが彼のために慈悲深い寛容さを持っていることもまた確実なものではない。加えて、セルジオ・モロ元判事のような彼の選挙での勝利に責任のある人々の中には、彼の敵になっている者もいる。政府に対する大衆の拒否は弱まっているが、社会の多くは強い反対の立場を維持している。パンデミックの状況下でさえ、政府に反対する動員はあったし、今もある。
もう一方では、ボルソナロの立場は、ブルジョアジーの寛容さと右翼政党の共謀によって支持されているだけではない。それはまた、根本的な問題では政府と協力する野党の弱点を利用している。たとえば、労働党と「ブラジルの共産党」の知事[訳注:四州で労働党の知事、一州でブラジルの共産党の知事がいる]は、連邦レベルで承認されたものと同様の「社会保障改革」を各州で強行し、反対派運動を弾圧してきた。より一貫性のある反対派を強化するという課題は、民衆運動および労働党の左に位置し、階級的独立路線を守っている政党にとって未解決のままである。
(ジョアン・マチャドは、PSOL内の内部潮流であるコムニアのメンバーで、PSOLの創立メンバーでもある)
(『インターナショナル・ビューポイント』九月二〇日)


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