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    かけはし2020年10月5日号

「入門:気候危機に立ち向かう
      エコロジー社会主義」



9.11

アジア連帯講座:公開講座

気候破局へのラディカルな挑戦

 九月一一日、アジア連帯講座は、「入門:気候危機に立ち向かうエコロジー社会主義」をテーマに公開講座を行った。
 寺本さんは、八月に出版された『エコロジー社会主義  気候破局へのラディカルな挑戦』著者:ミシェル・レヴィー/柘植書房新社)の翻訳を行った。ミシェル・レヴィーのアプローチをバネにクライメート・ジャスティス(気候正義)運動、「システム・チェンジ」を目標としたエコ社会主義(社会主義とエコロジーを結合させた新たな社会の展望)の取り組みを提起している。
 講座は、@気候変動から気候危機・気候破局へ A温暖化否定論者は何を言っているのか? B気候危機と地球温暖化 Cパンデミックが映し出す気候危機の本質 Dシステムを変えよう!気候を変えるのではなく!を柱に提起した。集約として、エコロジー社会主義を実践的に具体化し、共有化していく作業を共に担っていくことを確認した。
          (Y)

寺本勉さんの報告要旨(上)

気候ではなくシステム変えろ

危機的現実直視し変革の道歩もう

 COP21(二〇一五パリ)、COP23(二〇一七ボン)の対抗アクションに参加してみて、「システムを変えろ・気候を変えるな」というスローガンが、とりわけヨーロッパの気候変動に対する闘いの中で定着していることを目の当たりにした。このスローガンは、二〇〇九年のコペンハーゲンでのCOP以来、大きな基軸として掲げられてきたものである。それではシステムを変えるというとき、変えた先にあるものは何か、未来の社会のイメージがないと先に進めないのではないかと考えた。その中でミシェル・レヴィーの「エコ・ソーシャリズム」という本を翻訳してみようと思い、このたび『エコロジー社会主義 気候破局へのラディカルな挑戦』として、柘植書房新社より出版されることになった。
目次を見てほしい。序章の「二一世紀の大洪水」は、昨年、ミシェル・レヴィーがフランス語版の改訂版に書き下ろしたもので、昨年の国連の気候行動サミットでのグレタ・トゥーンベリの演説なども網羅している。それ以外は、二〇〇〇年〜二〇一〇年代にかけて彼が書いたものだ。第5章の「マルクス・エンゲルス・エコロジー」は、斉藤幸平さんの論文にも言及がある。レヴィーは、彼の立場とは違うという形で書いている。七、八章は、レヴィーはもともとブラジルの出身なのでラテン・アメリカの先住民の運動に大きな関心と力点を置いている。

オルタナティ
ブ見出す努力


現在、世界は、@ 気候危機 A コロナ・パンデミック危機 B 政治・経済・社会的危機が同時に進行している。
例えば、アメリカが発火点となったブラック・ライブズ・マターは、その背景に深く制度の中に組み込まれた人種差別の問題がある。黒人のマルクス主義者の中では、人種資本主義という概念が広く使われている。人種差別とは、資本主義の中に制度的に深く組み込まれているという議論がされている。
三つの危機の根源は、現在の「システム」にある。では、そのオルタナティブは何か?について問題提起していきたい。

1.気候変動から気候危機・気候破局へ

 世界中で「異常気象」が「日常化」している。例えば、モスクワの二〇二〇年一月の平均気温は約〇℃(観測史上最高)で平年より九・三度高く、これまでの最高記録を一・五℃上回った。一月の積雪量は七センチ(平年三二センチ)だった。
南極半島のアルゼンチン基地では史上最高温度一八・三℃を記録し、過去五〇年で約三℃上昇した。南極半島西岸にある氷河は過去五〇年で八七%失われた。産業革命以降、すでに約一度の気温上昇があるが、南極圏・北極圏の気温上昇が激しい。
シベリアのサハ共和国ベルホヤンスクで、六月三〇日に三八℃を記録している。永久凍土が溶けていくと、その中に閉じ込められた大量のメタン、二酸化炭素が一挙に放出される。ますます地球温暖化に拍車がかかる。
さらに永久凍土の中に、例えば、マンモスの死骸とか、動物の死骸とかが閉じ込められている。それが溶けることによって、その中で生き残っているウイルスが出てくる。シベリアで二〇一六年、永久凍土の中にあった動物の死骸から出てきた炭疽菌で死亡者が出た。未知の、一万年前のウイルスがさらに出てくるかもしれない。

「異常気象」の
「日常化」進行


こうした異常気象では、もはや「異常」であることが当たり前になり、新たな「普通」など見つけるべくもなくなっていて、過去のデータに基づく気候予測は成立しなくなっている。日本でも地球温暖化の影響は現実のものとなっている。「一〇〇年に一度」の異常気象が日常化している。今年夏の「猛暑」では、八月の平均気温は平年比で、東日本で二・一℃、西日本で一・七℃高く、過去最高だ。岡山県高梁市は、二四日連続で三五℃以上を記録している。浜松市は、四一・一℃の最高気温だった。だから人々の間では、気候温暖化という知見は共有化されているのではないか。
集中的・局地的豪雨、巨大台風は、日本近海の海水温上昇による水蒸気量増加が原因で、台風が日本近くで発生し、日本を直撃するようになっている。二〇一八年九月四日の台風で関西国際空港は水没した。
オーストラリア森林大火災は、ニューサウスウェールズ州で二四〇日以上森林火災が続き、五四〇万haが焼失(例年の一八倍)した。結果として、二月六日から豪雨によって鎮火した。極端から極端にふれるのが異常気象の特徴だと言える。
森林火災が起こる「主犯」は地球温暖化にある。二〇一九年のオーストラリアの平均気温は観測史上最高で、平年より一・五二℃上回った。年平均降雨量は平年より四割減っていた。つまり、地球温暖化により乾燥地域が拡大している。
現在のカリフォルニアの火事は、八一万haにまで広がっている。東京都の三・七倍だ。その原因には、ドライライトニング現象がある。雨が降っていないのに、雷が鳴る。晴れているところに、いきなり雷が落ちてくるわけだ。カリフォルニアだけで一二〇〇カ所にドライライトニングによる雷が落ち、火災が一気に広がった。ロサンゼルスでは、九月六日、四九・四℃を記録している。
オーストラリアの場合は、昨年から年末の間に「インド洋ダイボールモード現象」の影響があると言われている。インド洋の西側海面の温度上昇によってアフリカ東部は豪雨となり、東側海面の温度低下でインドネシア、オーストラリアで少雨、乾燥となった。ただ、地球温暖化で温度上昇や低下の度合いが大きくなっている。このダイボールモード現象によって、オーストラリアでは森林火災、アフリカではサバクトビバッタが大量発生した。アフリカ東部の豪雨によって繁殖に適した環境になった。
いまや気候変動ではなく、気候危機・気候破局の段階に入っている。日本政府の「環境白書」二〇二〇年度版でも気候危機とはじめて表現された。このような気候危機・気候破局は、ある段階を超えると、気候システムが不可逆的に暴走し、地球温暖化に歯止めがかからなくなると多くの科学者が指摘している。その限界点には私たちが考えているよりもずっと早く到達するかもしれない。ミシェル・レヴィーも『エコロジー社会主義』でその点を強調している。

2.温暖化否定論者は何を言っているのか?


ボルソナロ・ブラジル大統領は、パリ協定からの離脱を示唆し、先住民を追い出して、アマゾン開発を促進している。三人の息子は「パリ協定は国際的な陰謀」「温暖化はウソ」「気候変動は左派のアジェンダ」と主張している。
トランプ米大統領は、「地球温暖化という概念は、もともとアメリカ製造業の競争力をそぐために中国によって中国のために作り出されたものだ」(2012年)と言っていた。
ただ注意しなければならないのは、ボルソナロやトランプの温暖化否定論とコロナ・パンデミックでの立場が共通しているところだ。温暖化否定は、こういう人たちだけではなく、世界的に日本でも、かつて一部のエコロジスト、反原発を掲げた人たちの中でそういう論議が行われていた。「地球温暖化は原発推進のためのデマ、推進するための陰謀だ」という人がいた。
ミシェル・レヴィーは、『エコロジー社会主義』の序章で「アメリカ航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙研究所前所長のジェイムズ・ハンセン」に触れている。この人は気候変動の専門家で警鐘を鳴らしている人だが、熱心な原発推進論者でもある。気候変動、地球温暖化を防ぐためには、原発を推進しなければいけないと主張している。こういう人がいることが、温暖化デマ説につながっているのかもしれない。

3.気候危機と地球温暖化


なぜ温暖化が起きるのか。地球のエネルギー収支は一致している。入ってくるエネルギーと出ていくエネルギーはイコールになっている。イコールでなかったら地球は、際限なく暑くなってしまう。温室効果ガスは、赤外線を吸収し再び放出する性質を持つ。地球の外に向かう赤外線の多くが、温室効果ガスに吸収され(熱として大気に蓄積)、放出されて地球の表面に戻り、地表付近の大気を暖めることによって地球温暖化となる。エネルギーが地球の表面にとどまることによって温暖化が促進される。
世界気象機関は、現在の状況を「氷河時代」だとしている。南極、グリーンランド、ヒマラヤなどに氷河がある。氷河時代は氷期と間氷期が繰り返される。二五八万年前に始まった氷河時代のCO2の濃度は、一八〇〜二八〇PPMで推移している。
しかし、現在のCO2の濃度は、過去数十万年にわたる自然変動の域を超えている。だから温室効果ガスによって温暖化が進んでいることが科学的に立証されている。二〇一五年から二〇一六年のCO2濃度の増加は、三・三PPMでこれまでの最高だ。明らかに人為的な温室効果ガスの排出が原因だ。
温室効果ガスはどこから排出されているのか。温室効果ガスの七六%が二酸化炭素(CO2)で、六五%が化石燃料に由来している(CO2換算で)。
国連によればCO2排出量の国別順位(二〇一六年)では、一位が中国、二位がアメリカ、三位インド、四位ロシア、五位日本となっている。しかし、一人当たりの排出量はアメリカが突出して多い。アフリカ諸国は、総排出量でも、一人当たり排出量でも、非常に低い数字となっている。
ドイツのCOP23対抗アクションのフォーラムに参加して、工業的農業から排出される温室効果ガスが多いことを知り、大変驚いた。食肉・乳製品製造のトップ二〇社が排出する温室効果ガスの量は、ドイツが排出する量を上回っている。二〇一六年のデータでは、温室効果ガスの全排出量の一四%が食肉・乳製品製造によって占められている。その中には、加工・製造・輸送などで発生するものも含まれている。今後も今のような食生活を続けるならば、いくら他でCO2を削減しても、大きな排出が残ってしまう。
(つづく)

読書案内

著:ミシェル・レヴィー/訳:寺本勉 柘植書房新社/2800円+税

『エコロジー社会主義』

システム変革の具体的内容

 本書を読み始めてまず気が付いたのは、読みやすいことである。翻訳物はしばしば日本語として不自然で読み解くのに苦労するが、本書は読みやすい。しかも訳注が丁寧で、内容の理解を助けてくれる。訳者の知識の深さと、多くの日本語読者に伝えたいという強い意志が感じられる。訳者あとがきは、本書の格好の案内文にもなっているので、最初に読むのも良い方法と思われる。
 本書には多数の人々やその著作物の紹介があり、内容の検証や更なる知識の深化に十分応える論文となっているが、まずはその辺は斜め読みをして、全体に目を通すことをお勧めする。あるいは、まず序章を読んで、その後は特に興味深いタイトルの章から読み始めても、各章は独立した論文のため大丈夫である。
 内容は多岐にわたるが、化石燃料が原因で起きつつある気候破局を見据え、資本主義社会との決別が急がれることが全体に共通するテーマとなっている。そのため、エコロジーの問題により明らかとなった、マルクス・エンゲルスの書き残した思想の不十分性や修正が必要な部分を論ずる。とりわけ「生産力主義」からの決別がテーマとなり、「生産力」の破壊的側面が強調される。この時にはしばしばヴェルター・ベンヤミン(1892〜1940 私はこの本で初めてその存在を知った)が引用される。特に第6章では彼の主張を中心に取り上げ、気候破局と人類社会の破局を前にして、革命という急ブレーキが必要とされていることを訴える。
 第4章ではエコ社会主義の倫理的な問題を取り上げ、ヒューマニズムを喚起させる。私事になるが、母は、エコロジーと社会の話になると、資本主義社会が袋小路に陥って抜け出せない現状から、「もう人類は滅びるしかない」というのが結論であった。「革命は怖い」とも言っていた。われわれは無血革命を実現するためにできるだけの努力をするべきだろう。そのヒントもまた、第4章の中に、民主主義の倫理として提案されているように感じる。
 ヒューマニズムと、トランプに代表される「……ファースト」の考えとは根本的に相いれない。気候破局という「不都合な真実」から目を逸らし、強引に否定し、経済成長を求める為政者は、今後も反省することはないだろう。昨年の国連気候行動サミットで、スエーデンの若い反逆者、グレタ・トゥーンベリは居並ぶ政府代表の前で「私たちは大量絶滅の始まりにいるのです。なのに、あなた方が話すことは、お金のことや、永遠に続く経済成長というおとぎ話ばかり。『よくそんなことが言えますね』」と主張した。これが世界のトップリーダーたちの現実である。
 本書は、すでに始まりつつある気候破局を直視し、回避する方法を模索するすべての人たちに読んでほしい一冊である。(谷野草路)


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