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    かけはし2020年11月16日号

エコロジー社会主義への挑戦を


菅政権のカーボンニュートラル宣言≠フまやかし

石炭火発反対・原発やめろ

エコロジーに背を向けて


 一〇月二六日開会の二〇三国会で、菅首相は就任後初めての所信表明演説を行い、「我が国は、二〇五〇年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち二〇五〇年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」と、カーボンニュートラル宣言≠行った。
 日本は中米印露に次ぐ五番目の排出国。ゼロ宣言は一二二カ国目と報じられている。
 所信表明は八つのセクションで構成される。「新型コロナウィルス対策と経済の両立」「デジタル社会の実現、サプライチェーン」に続く三番目のセクション「グリーン社会の実現」を本稿では宣言≠ニ呼ぶ。「成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力」とはじまる五五〇字の文章だ。
 「排出を全体としてゼロ」とは「カーボンリサイクルをはじめとした、革新的なイノベーション」で収支バランスをとるということ。カーボンリサイクルとは石炭火発や製鉄の高炉などから排出したCO2を回収し、貯蔵や再利用するという技術。「実用化を見据えた研究開発を加速度的に促進する」とあるが、三〇年後までにカーボンニュートラル℃タ現を保証するものではない。
 「規制改革などの政策を総動員し、グリーン投資の更なる普及」や「世界のグリーン産業をけん引」など、いくつ目かの「Go To ナントカ」に誘引するかのようだ。宣言≠ヘ新型コロナウィルス対策に書かれた「国民の命と健康を守り抜きます。その上で、社会経済活動を再開」というような前提は何もなく、ただただ経済を語る。約六二〇〇字ある所信表明の中で、「気候変動による命や環境の危機」を感じさせる文言は一つもない。

五年遅れのゼロ宣言


 二〇一五年開催のCOP21で、二〇年以降の温室効果ガス排出の枠組みを定めた「パリ協定」が採択された。批准した各国は二〇年までにどれだけ温暖化ガスを削減するかの約束(NDC)を提示しなければならない。日本はこれまで、「二〇三〇年までに二〇一三年比二六%削減」「二〇五〇年までに八〇%削減」をその約束値としてきた。
 二〇一三年は、大震災による原発停止の代替で火力発電の稼働率が高まり、二酸化炭素の排出量がピークとなった年である。パリ協定の目標は、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して二度より充分低く抑え、一・五度に抑える努力を追求すること。日本の目標をすべての国が採用すると、三度から四度上昇するとNGOなどから批判されてきた。またパリ協定では、五年ごとに目標を更新し、深堀りする義務を負う。宣言≠フタイミングはこの期限ぎりぎりだった。
 国連のグテーレス事務局長は菅首相に電話をし、宣言≠ヨの賛意を示したという。グテーレスは特定こそしなかったが、「石炭中毒」の国々の弊害を昨年末から公言してきた。「化石賞」受賞常連の日本は自らが指摘されたと考えた。グテーレスは日本が目標を戻すことにくさびを打ったのだろう。中国はこの九月、習近平の国連総会ビデオ演説で「二〇六〇年排出ゼロ」を示した。韓国は一〇月二八日、文大統領が「二〇五〇年排出ゼロ」政策への転換を国会演説で明らかにしている。

米国の政権交代で変わるもの

 経産省の基本政策小委員会が一〇月一三日に開かれ、新たな「エネルギー基本計画」の策定作業がはじまった。この審議会資料には「二〇五〇年排出ゼロ」表現はなく、首相用に取り置きされたようだ。前回までは業界から聞き取った数値を積み上げて三〇年の削減目標や電源構成比をつくったが、今回は五〇年を目標とした数字を決め、これに業界の協力を求めるという提案が行われ、委員の賛意を得た。五〇年目標は二週間後、審議会の外での宣言≠ノよって規定された。
審議会では二つのエピソードがあった。
一つは「バイデンが大統領になったら」という前提での事務局提案があったこと。バイデン陣営の公約は次のような内容だ。@パリ協定への復帰(就任日に誓約)、A二〇五〇年までの温室効果ガス排出実質ゼロ(法律を制定し、温室効果ガス排出主体がコストを負う。気候投資を四年間で二兆ドル、化石燃料への補助金制度の停止。雇用促進と経済成長)、B発電では三五年までに炭素排出ゼロ(再エネ、二酸化炭素の回収・有効利用・貯留、小型原子炉)、EV導入促進、ビルからの排出削減(三五年までに排出五〇%減)、C他国に対して、気候変動対策を求める(温室効果ガス排出削減目標の引き上げ、国境炭素税の導入、貿易協定締結の際は気候変動対策を条件付け、中国には排出させない、排出の多い事業への各国への補助を行わない)。
トランプ政権の四年間でも、カリフォルニアなどの州政府による排出規制が進み、EV専業のテスラの時価総額がトヨタを抜くなど、気候投資では日本を大きく引き離していた。大統領がどちらに転んでも、大幅に遅れた国内での気候投資を強めたいというのが宣言≠フ背景でもある。
米国は世界最大の石油・ガスの産出国である。トランプは選挙戦終盤、バイデンは「フラッキング(高圧の流体を岩盤に注入して岩石を破砕し、シェールガス・石油を採掘する方法)に反対」「エネルギー産業の死刑を意味する」と油田地帯のオハイオやペンシルベニア、フロリダなどでキャンペーンを重ねた。その結果、前回の得票を大幅に上回る支持票を掘り起こした。バイデンは「油田は閉鎖しない。フラッキングも禁止しない」と反論してきた。

政策決定の民主化のために


もう一つのエピソードは、前回までの審議会では冒頭あいさつだけで退出していた経産大臣が、今回は終了まで参加していたこと。菅の指示があったのか、あるいは「首相は具体的な事例を示して説明しないと政策を理解できない」と梶山大臣が主体的に考え、首相への説明に活用するために終了まで参加したのか、それとも委員の監視・圧力なのか……。
審議会は委員の発言回数や時間に制限があり、決定は合議制だ。少数派が少数意見を発言するには想像以上の圧力を排しないとならない。原発については、再稼働や新増設、廃炉の跡地に新設するリプレース、新型炉、小型炉の研究・開発・実用化が必要との意見は多出する一方、原発には触れない、触れられない委員も在籍する。
会議はWeb中継され、しばらくはアーカイブが視聴できる。消極的方法だが、視聴者となって監視の姿勢を示すだけでも政府への圧力となり、少数派を勇気づけることになる。
省庁の審議会では、厚労省が障害者に関連する審議会には当事者参加を原則とするなど、課題によって委員構成に特徴がある。だが、それはごく少数だ。課題や省庁の姿勢、あるいは政権の姿勢を見極め、審議会をボイコットするか、少数派の発言の機会の場とするかの判断、戦術の選択が必要だ。

軽薄な賛辞・安易な便乗


一〇月二八日、超党派議員連盟「気候非常事態宣言決議℃タ現をめざす会」は、国会内で総会を開催、脱炭素社会にむけた取り組みを抜本的に強化するとした宣言決議案を決定、早期の全会一致採択をめざすと報じられた。議連の共同代表でもある共産党の小池書記局長は、「党派を超えて、『気候危機であり、非常事態である』という認識を共有することに画期的な意義がある」「具体的な対策についても党派を超えて知恵を出し合い、世界の危機を打開する決意だ」と述べたという。
この議連の結成は今年二月。気候変動問題の取材を続けてきた大手紙の科学部記者は議連の活動について「五年遅かった」とツイートしている。パリ協定と並走すべきだったという指摘だろう。非常事態が昨日今日に始まったはずはない。
一方、同じ大手紙の元政治部記者でジャーナリストの山田厚史さんはYouTube番組で、金子勝慶応大名誉教授が以前から主張してきたがやっと政府方針になったという意味の発言をした。これはこれとしてジャーナリズム的な視点では残念な事実だ。潤沢な広告収入に依存で身についた習い性が染みついたままなのだろうか。
菅首相は就任以来、番記者とのパンケーキ懇談会を行ったが、従来の官邸主催の記者会見を開いていない。一方、内閣記者会主催のグループインタビューには三社の事前質問に限るという条件付きで出席を二回した。国会開会直前の一〇月二三日には、「新聞・通信各社の論説委員」「在京民放各社の解説委員」「内閣記者会加盟報道各社のキャップ」らと懇談をそれぞれ三〇分ずつ行うなど、報道機関への締め付けやコントロールを強めようとしている。

一〇年遅れたエネルギー政策

 日本は国内で石炭火力発電所の建設を継続している。施設の法定耐用年数は四〇年として減価償却する。二〇五〇年以降も運転を続け、「座礁資産」とさせないため、これらの発電所が排出した温暖化ガスを差し引きゼロにしようとするのが宣言≠フ目的の一つだ。方法としてはこれから「カーボンリサイクルをはじめとした、革新的なイノベーション」を実現するという不確定なもの。確定がまず見込めるのは、「宣言」による開発予算だろう。この臨時国会での「宣言」は、コロナ対策の第三次補正予算に組み込むという宣言だったのかもしれない。
日本で再生可能エネルギーによる発電設備の普及が遅れたのは、太陽光も風力も不安定電源だという内容の再稼働推進派の妨害キャンペーンによる影響が大きい。震災後の民主党政権下で自然エネを定額で買い取るFIT制度ができ、「FITバブル」が発生、自然エネルギー市場に異業種が参入、メガソーラーは斜面を切り開き、巨大風車はトレーラー用に広げた林道で稜線まで運ばれる。また、送電網が不足を理由に参入が制限される。英国での原発建設にとん挫した日立製作所は欧州の配電事業に目をつけた。国ごとに違う電源構成の広域を配電するのは一朝一夕にはできない。日立は欧州最大手のスイス企業を傘下に収めた。東芝は従来から燃料電池の開発に重点を置き、水素インフラの普及が見込まれることから、船舶用の燃料電池に力を入れることができるようになった。
スペースジェット開発を縮小した三菱重工は宣言′縺Aデンマークの民間大手ヴェスタス社との合弁会社を設立、東電はデンマーク国営電力オーステッド社と提携して洋上風力市場の確保の基盤づくりを進めている。オーステッド社はこうした出資により、日本国内一〇電力を合わせた時価総額を超えた。長崎県五島沖に続き今年七月、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子沖、の四海域が洋上風力の「促進区域」に選定された。いずれおとずれる好条件での入札レースに臨んでいる。
高レベル放射性廃棄物の最終処分の文献調査に応募した寿都町長の戦略は次のようなものでもあった。文献調査によって寿都町沿岸と近海の条件を調べてもらい、洋上風力誘致の材料とするというもの。処分場のデザインは、海岸近くに地上施設をつくり、陸地の地下ではなく、海底の地下に処分エリアを設けるというもので、洋上風力の好材料が得られれば、道の同意も必要な第二段階の詳細調査には進まないというものだ。
経団連はすでにこの六月、新プロジェクト「チャレンジ・ゼロ」を開始、これが「新たな資本主義」だと名乗っている。宣言≠ヘ、安倍政権が進めてきたインフラ輸出の展望がなくなり、新たな産業基盤を政府も財政出動しての育成を財界に約束するものだ。安倍のインフラ輸出政策は、人口減少により避けられない国内の市場縮小から企業収益を維持拡大する政策としてはじめられた。原発や火発に偏った国内産業の保護政策により、太陽光発電産業は衰退し、風力も国内開発から退いた。福島原発事故後、脱原発と温暖化対策の両立を目指す世界的潮流に逆らった結果、資本主義として一〇年分遅れた。それを気づかせたのがここ数年の台風被害の拡大で、これによる支払いが膨らんだ保険業界の危機意識は強く、メガバンクの政策転換に影響を及ぼしている。

反石炭火発の共同行動を

 一〇月二八日からの衆参本会議での代表質問を聴くと、新・立憲と共産党は原発再稼働や新増設に対する質問に重きを置き、他は「新しい資本主義」の賛意が中心だ。経産大臣の経験がある世耕自民党参議院幹事長は、原発再稼働やリプレース、小型炉などの研究開発の推進をせよという直球を首相に投げた。一一月一日からはじまった予算委員会の質疑も同様の傾向、原発の賛否は超党派にはならず、それ以外は条件付きではあれ超党派であった。
COP26は一年延期され、来年一一月一日から開催される予定だ。今回の宣言≠烽bOP26を射程としている。それまでに新「エネルギー基本計画」がまとめられる。気候危機にかかわるNGOの多くは、菅政権の宣言≠ノ対抗する声明≠ナ、二〇三〇年までに石炭火力を止めさせることを一致して訴えている。これらのNGOは様々な共同行動をよびかけ、九月に開始した「Japan Beyond Coal-石炭火力のない未来に-」には、釧路、仙台、横須賀、宇部で石炭火発に反対する住民団体も参加している。
私たちはこれらの行動を支持し、共同行動に積極的に参加する。反原発運動内の「温暖化懐疑論」の誤りを指摘するという困難な課題にも立ち向かう。「新しい資本主義」の反エコロジー的性格を批判するなかから「エコロジー社会主義」の豊富化を進めていく。
(一一月八日 斉藤浩二)



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