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    かけはし2020年4月13日号

闘争伴い社会的不満が拡大中


ブラジル

隔離される権利掲げ

シルヴィア・フェレーロ、ワルド・マーメルスタイン

 

 まだ国際ニュースの見出しにはなっていないが、ブラジルは災厄の中心地の一つとして登場するかもしれない。社会的格差、レイシズムとセクシズム、国家による残虐な弾圧、トランプ流の極右大統領という致命的な組み合わせは、数十万人の人々を危険にさらしている。しかし、ブラジルの労働者階級と社会運動は自らを守るために、隔離される権利を求めてストライキで闘っている。ここでは、ブラジルの社会主義者が、進行中の新型コロナウイルスに関する国際的な報道の一部として、『ノー・ボーダー・ニュース』(NBN)からの質問に答えている。

破滅的大統領に
支配階級も反旗


 ――ブラジル政府は危機にあたってどんな具体的措置を講じてきたのか? 政府は責任を持って行動してきたのか、それとも準備していなかったのか? ウイルスを封じ込め、新型コロナウイルスに感染した人々に対処するために、政府がとっている措置について手短に述べてほしい。非常事態なのか、学校は閉鎖されているのか、など。
 
 ジャイル・ボルソナロ大統領は、最初は社会が抱いた懸念を「過剰反応」だと非難するなど(具体的措置をとることを)きっぱりと否定してきた。三月一五日、何名かの彼の個人的スタッフにすでに症状が出ていたにもかかわらず、彼はあえて右翼のデモに行って、人々に触り抱擁さえした。ボルソナロが冷淡な態度をとった結果として、実体経済における明白な経済的影響(新型コロナウイルスの流行が始まる前でも、今年のブラジルのGDPは四%低下すると予想されていた)と結びつき、主要政党からの中央政府への猛烈な批判が巻き起こった。その中には、下院議長からの批判も含まれている。それゆえ、最新の連邦政府支持率は二五%と過去最低になり、「まったく支持しない」が四一%を記録している。保健相はようやく遅ればせながら、感染を防ぐ方法についての基礎的な情報を拡散するなどの措置を採用した。
 その一方で、先週、地方政府や州政府は先行して「社会的距離」をとるように推奨しはじめた。いくつかの州ではすべての学校の休校や不要不急のビジネス機能の縮小という措置をとりはじめた。しかし、今日になってもなお、ブラジリアの連邦政府はこうした決定をまったく行っていない。しかしながら、地方政府や州政府も、中国やイタリア、最近のアルゼンチンのように他の国々が採用した「ロックダウン」という方法はとっていない。今までのところ、一般的な公的とりくみによってでは、衛生用品やマスクを人々に大規模に供給することができていない。同様に、大規模な検査も行われてはいない。

本来的能力殺す
破壊的医療政策


――ブラジルの医療システムは危機に対してどのように対応してきたのか? ブラジルの医療システムの最大の弱点と強みは何か?

 大統領は、流行の悲惨な側面を否定するために国民向け演説を使った。そして大統領は、主な感染地域を調べるために、流行の進行を追跡する大規模な検査を選択しなかった。病院で重篤な症状を示しているわずか数千人だけが検査を受けた。同時に、大統領は州知事(たとえば流行の中心地域であるサンパウロやリオデジャネイロの州知事)が採用している感染抑制策を誹謗中傷し、それらを「愚かだ」と呼び、すでに採用されている不要不急の公的活動を停止する措置を「雇用の殺人者」と言って非難した。ブラジルのいかなる地域においても完全な隔離は行われておらず、マスクや衛生用品といった市場からほとんど姿を消してしまった品物を人々に無料で配給する措置もまったくとられていない。
ブラジルには、独裁体制終焉後の一九八九年に創設された非常に重要な公的医療システムがあり、四万近いプライマリ・ケアセンターがある。しかし、このシステムは過去数十年間にわたって深刻な予算不足の状態にある。二〇一七年には、緊縮政策の名の下に今後二〇年間、すべての社会的投資を凍結するという憲法修正条項(EC95)が可決され、事態はさらに悪化した。もっとも孤立した貧しい人々が影響を受けたのである。さらに悪いことに、ブラジルが世界で七番目に格差のひどい国であることを強調しておかなければならない。人口の三分の二は最低賃金の二倍以下の収入しかない(現在の最低賃金はおよそ月二〇〇ドル程度)。人口の六%はスラム(ファベーラ)に住んでおり、五〇%は屋内に水道が引かれていない。
それゆえ、すでに医療危機の以前から景気後退に入っていた経済状況において、流行の影響は破滅的なものとなるだろう。他方では、もし公的医療システムに大規模な投資が行われ、何千人もの人々が直接雇用され、公的医療システムのプライマリ・ケア施設を使って、コミュニティの中で直接仕事をするようになれば、それは病気と闘う上で強力なツールとなりえるだろう。

中央政府は混乱
大企業救済のみ


――極右・保守からリベラル・社会民主主義にいたる各政党の新型コロナウイルスについての公式の政治的反応を述べてほしい。もし該当すれば左翼政党についても。

 大統領は、全国的対応の緊急性を否定することや地方政府の他の施策を攻撃することに時間を費やしてきた。そして今日の時点でも、人々を隔離するという、何百万の生命を救うための措置を何ら講じてはいない。他方では、政府は何十億レアルも使って大企業を助けることに奔走した。政府は、大企業が労働者の賃金を五〇%削減することにお墨付きを与える一方で、二〇〇〇万人以上はいる不安定労働者には二〇〇レアルを三カ月間支給することしか約束していない。
地方政府や州政府は多くの活動を停止した。たとえば、新自由主義的な右翼政党が掌握しているサンパウロにおいては、すべての不要不急のビジネス活動を停止した。しかし、地方政府や州政府は全面的封鎖にまでは言及しなかった。それが数え切れない生命を助ける道なのだが。

賃金保障・隔離
労働組合の要求


――労働組合は危機にどのように対応してきたのか?とりわけ公共部門、教育、医療の労働組合はどうか?

今日の労働組合の主な闘いは、すべての部門の労働者が賃金を失うことなしに隔離される権利をもたなければならないということである。大学の授業は停止され、教員は大学労働者のすべてと同様に自宅に送られた。公立学校では、冬休みが近づいていたので、教員は賃金を受け取っている。しかし、学校にいる下請け労働者は、正規公務員ではないためにレイオフされた。私立学校はいまオンライン授業をおこなっている。しかしながら、同じ権利を求めて闘っている部門は他にもある。
金属労働者は工場を止めることや賃金削減・レイオフをしないことを要求して交渉中である。サンホセ・ドス・カンポスのチェリー自動車工場では、労働者の闘いによって解雇を無効にすることができた。サンパウロの地下鉄労働者は、以前から事情や病気を抱えている労働者やリスクの高いグループに属する労働者と同じように、六〇歳以上の労働者が自己隔離するのを認めるよう要求した。同時に、彼らはいまも列車の交通量を削減するために闘っている。
建設産業は労働者のレイオフをおこなっていないが、いくつかの労働組合は金銭的損失なしで仕事を停止する権利を求めて闘っている。フォルタレザやセアラ州では、労働者は一五日の停止をかちとった。しかし、現実には大半の労働者は、銀行労働者やコールセンター労働者を含めて、まだ自らを隔離させる権利を持ってはいない。銀行労働者・コールセンター労働者は先週、サンパウロの本社前で抗議活動を行い、自らの仕事を不可欠な労働には含めないこと、それゆえ仕事を離れるのを認めることを要求した。
家事労働者や日雇い労働者の子どもたちは、賃金支払いを保留することなしに雇い主が自分たちの両親を義務から解放することを求めて闘っている。リオデジャネイロのある家事労働者は、イタリアから帰国した雇い主からコロナウイルスを感染させられたのに、この雇い主が仕事から離れるのを許可しなかったために死亡した。ブラジルでは、六三〇万人の家事労働者がいるのだ。

くらし維持へ
社会運動奮闘


――社会運動(学生、フェミニスト、環境保護、移民、先住民など)は危機にどのように対応してきたのか?

この瞬間にも、先住民の集落で組織された動員とキャンペーンが行われている。それはAPIB(ブラジル先住諸民族協会)に指導され、自分たちの集落のための薬品や食料、生活必需品を購入する資金を要求するものだ。
中央の労働組合連合、「恐れを知らぬ人民戦線」、ブラジル民衆戦線は、三月一八日に予定していた政府反対の街頭デモを中止したが、ほとんど毎晩八時に起きているポット・バンギングによる抗議を支援し、呼びかけている。毎晩八時には、各州の州都のそれぞれの地区で、自宅の窓やバルコニーから身を乗り出して、何千もの人々がボルソナロへの反対を大声で叫ぶのだ。その一方で、ホームレス労働者運動(MTST)は、すべての自宅差し押さえや土地再所有事業の停止を要求している。

――社会的正義、全国的な医療、失業手当のための緊急経済措置、家賃や借金の支払い停止などを要求する活動は存在しているのか?

貧困地区におけるいくつかの大衆運動や黒人運動は、正式な労働契約なしに働く人々や失業中の人々のために食料や薬品を集めている。これらのグループは政府に対して、ボルソナロが約束した悪名高い二〇〇レアルに代わって、彼ら一人一人に最低賃金相当額を支払うように要求している。

予想シナリオ
複雑で爆発的


――新型コロナウイルスによる危機の影響について最後に一言を。これからの何週間、何カ月間に、それは全国政治にどのように影響を与えると考えているか?

ブラジルでは新たな政治状況が現れた。ボルソナロのばかげた言明や彼が最大の社会・医療的難題のさなかにブラジルを指導する能力を欠いていることに対して、社会的不満が増大している。このプロセスはさまざまな方向へと発展していくかもしれない。それは、非公式な議会体制(非公式にブラジル大統領を追放する)、大統領弾劾、ボルソナロ にさらなる権力を付与する一種のクーデターにまで及んでいる。感染拡大と差し迫っている経済・社会危機、そして中央政府によってすすめられているウルトラ新自由主義的政策とが結びついて、きたるべき何週間、何カ月で、より複雑で爆発的なシナリオが作り出されるかもしれない。

 ▲シルヴィア・フェレーロはフェミニスト、教育者で、サンパウロのレデ地区で歴史を教えている。社会主義自由党(PSOL)全国執行委員会メンバーであり、二〇一八年連邦議会選挙ではサンパウロのPSOL候補者だった。ワルド・マーメルスタインは、かつて政治犯として投獄されていた。長期にわたって労働者階級のオルガナイザーであり、レジステンシア―PSOL(PSOL内の分派の一つ)の指導者。
(『インターナショナル・ビューポイント』二〇二〇年三月号)



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