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    かけはし2020年5月18日号

失業・恐慌に抗する労働者・
貧しい人々の国際的連帯を



資本主義世界システムの最悪危機

コロナウィルス危機と中国

 武漢市で最初の感染者が確認されたのが昨年の一二月一日で、武漢市当局が「原因不明の肺炎」を正式発表したのが一二月三一日だった。新型コロナウイルス発生から五カ月超、感染は世界中に拡大して人々の命と健康を、そして生活を脅かしている。ここでは現在までの経済的な影響を中心に中国、米国、日本の順で時系列的になるかもしれないが整理したい。
 習近平が感染封じ込めのための「重要指示」を出したのが一月二〇日で、湖北省の武漢市を都市封鎖したのが一月二三日からであった(四月八日に解除)。中国当局は新型コロナウイルスの正式発表の遅れに続いて、春節による一〇億人単位の人々の大移動を止めることに失敗した。これによってウイルスは中国国内ばかりではなく、瞬く間に世界中に拡大することになったのである。
 中国で感染爆発が発生していた当初、欧米各国などは対岸の火のごとく傍観していたようだが、それは自らが作り出してきた新自由主義的なグローバル資本主義に対する楽観主義的な過小評価であったことに気づかされることになる。都市封鎖の拡大と外出・移動の制限でいまや世界資本主義経済は惨たんたる状態にまで追い込まれることになった。最大の問題はこの新型コロナ状況がいつまで続くのかまったくわからないというところにある。またワクチンや薬の開発にもどれ程の時間が必要なのか予想すらできないのである。
 IMF(国際通貨基金)によると、二〇一九年の中国のGDP(国内総生産)が世界に占める割合は一六・三%であった。世界中の自動車・家電・スマホなどの組み立て工場が集積し、部品供給網(サプライチェーン)による世界的な連鎖のまさに要として位置してきた。その中国で住民の移動制限が四〇都市にまで拡大して、中国経済は約二カ月間停止することになった。武漢に三工場があるホンダ、世界販売の三割が中国である日産を始め、オムロン、京セラ、パナソニックの上海工場も止まり、ユニクロ、イオンも湖北省での休業や営業縮小を余儀なくされた。
 中国の一〜二月の貿易統計によると、輸出は前年同期比で一七・二%のマイナス、輸入は四・〇%のマイナスで、収支は七八〇〇億元のマイナスとなった。また中国国内での二月の新車販売台数は前年同月比で七九・一%のマイナスを記録している。同月の航空会社の旅客数も八四・五%、航空貨物も二割のマイナスになるなどして、業界再編が避けられなくなっている。後日発表された一〜三月の貿易統計も同程度の数値だった。
 三月一六日に発表された中国一〜二月の主要三統計は中国経済の低迷ぶりをよく表している。工業生産は前年比で一三・五%、個人消費は小売り二〇・五%、飲食四三・一%、ネット関連三・〇%、固定資産投資が二四・五%、設備投資が二六・四%、公共事業が三〇・三%で、すべてがマイナスとなった。
 こうして中国の一〜三月のGDPは前年同期比で六・八%のマイナスになった。一九九二年以降、初のマイナスを記録することになったのである。「世界の工場」である中国の受けた(受けている)打撃は巨大である。こうして見ると武漢の都市封鎖解除も政治的な判断だと言えるだろう。中国でも感染の危機が過ぎ去ったわけではないからだ。ロシアと国境を接する黒竜江省では、ロシアから帰国する中国人から感染者が大量に出ている。また香港やマカオと接していて貿易拠点となっている広東省の広州市でも、外国人バイヤーなどを介しての感染拡大が懸念されている。さらに「中国の方が安全」だと富裕層の留学生が続々と帰国し始めている。人が動けばウイルスも動くということだ。現在も実質上北京は「封鎖」されたままだ。

米国の「非常事態」宣言


 米国で新型コロナに最初に反応したのは株式市場だった。二月二九日に初の死者が確認され、翌日にニューヨーク州で初の感染者が確認されてからだった。株価は一週間足らずで三五〇〇ドル超下落し、株暴落などで金融市場は大混乱に陥った。そうした事態に対して真っ先に動いたのがFRB(米連邦準備制度理事会)だった。FRBは株式市場の金融資金が国債市場に流入するのを食い止めようと、三月三日に政策金利を〇・五%引き下げたのに続いて、一五日にも一%引き下げて政策金利を年〇・〇〇〜〇・二五%とし、「ゼロ金利」を復活させたのである。しかしそれでも株暴落を食い止めることができず、二月一二日に付けた史上最高値の二万九五五一ドルから三月二〇日には、三年四カ月ぶりの安値水準でトランプ政権下での最安値となる一万九一七四ドルとなり下落率は三五・一%となった。
 またFRBは三月一五日に、今後数カ月間で米国債など金融資産七四兆円の購入を決めた。さらに四月九日には、米企業・地方政府に対して最大二五〇兆円の資金提供を実施することを発表した。そして四月二九日には、「ゼロ金利」と市場に大量のカネを流す「量的緩和」を米国債と住宅ローン担保証券の購入で、無制限に実施する方針を発表した。そうした金融政策は「成長が軌道に乗ると確信するまで」継続される。FRBは今回の実体経済が打撃を受けている「コロナ恐慌」を金融恐慌に転化させないために、際限なくいくらでも金融市場にカネをぶち込むことを明らかにしたのである。それは一一月に大統領選挙を控えたトランプの意向でもある。
 トランプが「国家非常事態」を宣言したのは三月一三日だった。その後、感染者と死亡者は爆発的に拡大した。米国には国民皆保険制度がなく医療費が高いために、ニューヨーク市での感染率や死亡率は黒人とヒスパニック系が高く、死亡率は白人の約二倍だ。
 実体経済が停止するなかでレイオフも燎原の火のごとく拡大した。港湾労働者のレイオフから始まり、自動車・航空会社の状態が深刻化し、人員削減や無給休暇・工場停止が拡大した。全米で店舗休業や工場停止が拡大し、異常なペースで失業者が急増する。州政府の失業給付資金が底をつくのではないかと懸念も出始めた。こうした事態に対して「早急に手を打たなければ失業率は二〇%に達する」と、最初に危機感を表明したのがムニューシン財務長官だった。「雇用統計と株価」はトランプ政権が「成果」として最重視してきた経済指標だからだ。株もダメ雇用もダメでは大統領選への影響があまりにも大きいからである。
 しかし「解雇の嵐が吹いている」と言われるほど失業者が急増を続けた。全米レストラン協会は、現状が三カ月続けば経営破綻などで五〇〇万人が失職するという予想を発表した。また737MAXの墜落事故で航空機の納入停止が続くボーイング社は、資金繰りが悪化して米政府に対して六・六兆円の公的資金と銀行融資を要請した。ボーイング社の関連企業は一万七〇〇〇社で、雇用は二五〇万人にもおよぶ。さらに外食チェーンの利用禁止、レジャー施設も休業、ホテルの稼働率もニューヨークなどでは一〇%にまで低下した。GMなど自動車三社も全米の工場の休業に入った。
 米労働省は四月二日、三月二八日までの一週間の失業保険申請件数がその前週から三三四万件増えて、過去最大の六六四万件になったことを発表した。この数字はリーマン危機で最大だった〇九年三月の約一〇倍だ。翌日の発表によれば、三月の米国の雇用は前月から八七万人減少して、失業率は三・五%から四・四%に増加した。雇用者数の減少は九年半ぶりである。その後も百貨店大手のメ―シーズが従業員一三万人の大半をレイオフしたり、GEも航空エンジン部門の二六〇〇人を一時帰休するなど大量解雇の波が襲い続ける。
 セントルイス連邦準備銀行は最悪で四七〇〇万人が解雇されて、失業率は三二%になるとする試算を発表した。この数字は一九二九〜三三年の世界大恐慌時の二五%を上回っている。米労働省は四月一八日までの五週間で提出された失業保険申請件数が二六〇〇万件になっていることを発表した。これはリーマン危機時の七倍である。
 五月八日に発表された四月(一二日を含む週に集計)の雇用統計(速報値)によると、前月比で失業者が二〇五〇万人増加して、失業率は一四・七%になった。これは一カ月間だけで米国労働者の八人に一人が失業したことを示している。米国ではリーマン危機後の一〇年間で株バブルと土地バブルが進行して、特に家賃の高騰が深刻な社会問題にもなっている。ニューヨークやロスアンゼルスなどの大都市部では1LDKのマンションの家賃が月三〇〜四〇万円なのがざらで、失職は住居を失うことと直結している。五月の失業率はさらに上昇するのは必至である。
 また米商務省の発表によると一〜三月期のGDPは、一・二%のマイナス(年率換算で四・八%のマイナス)を記録した。これで〇九年七月から一一年間続いた米国史上最長の景気拡大が終了することになった。米議会予算局は四〜六月期のGDPは九・九%のマイナス(年率換算で三九・六%のマイナス)を予測している。
 米議会は三月二五日までにGDPの一〇%に当たる、総額二四〇兆円規模のコロナ経済対策法案を可決した。その内容は@四月から個人への現金給付(成人一三万円、子供五・四万円)A最大四カ月間、失業前の給与の一〇〇%を補償B中小企業へのつなぎ融資を全額政府が保証C雇用を維持した企業に対して最長八週間分の給与額の返済免除(政府による給与支払いの肩代わり)D航空業界などの産業支援というものだ。
 米国は政府と議会、FRBが一体となって財政赤字拡大には目をつむり、なりふり構わずの財政出動を実施しようとしている。コロナ恐慌がいつまで続くのかは全くの未知数であり、米国に限らないが「コロナとの泥仕合」にいつまで耐えられるのかという事態になっている。

危機は日本を直撃


 日本経済はコロナパンデミック以前から急激な下降に入っていた。内閣府が発表した一九年一〇〜一二月期のGDP(改定値)は、前年同期比で一・七七五%のマイナス(年率換算で七・一%のマイナス)だった。政府も日本経済は「危険水域に入り込みつつある」とし、特に消費税増税後から三カ月連続の自動車販売の不振が際立っていることを指摘している。三月二六日に発表した政府の月例経済報告では、六年九カ月ぶりに「景気後退局面入りと景気悪化」を明記するに至った。
 日本も米国と同様に株価の暴落に対する日銀の対応が先行した。日本の株価は一月二〇日に年初来高値二万四〇八三円を記録していたが、三月一三日には一万七〇〇〇円を割り込んだ。日銀は三月二日の総裁談話で上場投資信託(ETF)を一日当たり過去最大規模となる一〇〇〇億円の購入を発表した。さらにETFの年間購入目標六兆円、社債三・二兆円、コマーシャルペーパー(PC)二・二兆円購入することを明らかにした。株価が大暴落した一三日には二〇〇〇億円の国債買い入れを実施して株を買い支えている。また一九日にはETFの購入を一二兆円に倍増させ、年間九〇〇億円としてきた不動産投資信託買い入れを一八〇〇億円に倍増させた。
 日銀内では「金融政策はコロナに効かない」という見方が支配的で、市場からも「金融緩和してもコロナが収束しない限り経済の悪化は止まらない」「今は財政出動など政府主導で」という見方が根強いようだ(「毎日新聞」から)。しかし日銀総裁の黒田は政府に国債を増発させて日銀がそれを買い入れることを繰り返して、金融危機を回避しようとしているのだ。
 安倍政権のコロナ対策は極めて後手後手だったと言わなければならない。三月二四日に東京オリ・パラの一年延期が決まるまでPCR検査もほとんど実施されてこなかったし、四月七日の「緊急事態宣言」発令後になってようやく対策が実施され始めたと言ってもいいだろう。しかしコロナパンデミックによる経済的影響は、武漢市封鎖後からアジア、アメリカ、ヨーロッパへと東回りで世界中に拡大した。
 観光庁の発表によると、一月の訪日外国人旅行者は一月下旬から日中航空路線で七割減少し、韓国人旅行者も引き続き減少しているものの、前年同月比で一・一%のマイナスにとどまった。しかし二月は五八・三%のマイナス、三月は九三%のマイナスまで落ち込んでいる。しかもインバウンドの四・六倍の消費額(二一・九兆円)となる日本人の国内旅行や修学旅行のキャンセルなどで観光関連産業(宿泊・飲食・土産・娯楽イベント・スポーツ・旅行業・百貨店や免税店・バス・タクシー・鉄道・船・航空など)は深刻な影響を受けることになった。
 航空業界では各社が国際線の九割、国内線の七割を減便している。ANAは一〜三月期に五八七億円の赤字(前年同期比三九億円の黒字)になった。固定費だけでも月一〇〇〇億円が蒸発し、一時帰休は全社員の九割にあたる四万二〇〇〇人にまで拡大する。JALは一〜三月期に二二九億円の赤字(同、四四二億円の黒字)になった。この大手二社も含めて各航空会社に対する巨額の金融支援がなければ確実に経営破綻するし、航空機余剰で世界的な業界再編は避けられないだろう。欧州最大のLCC・フライビーや豪州大手のヴァージン・オーストラリアはすでに破産した。イタリアのアリタリア航空は六月に完全国有化される。米国は総額六・二兆円の支援を決めている。五月末までに多くの会社が破綻すると言われている。
 実体経済が停止状態となるなかで製造業への影響も深刻だ。スマホ市場は5Gの販売本格化を狙っていたが、中国での生産・販売が事実上止まったために戦略の練り直しになった。自動車八社は二月の中国での生産実績が前年同月比で八六・七%のマイナスで、国内生産も一〇%のマイナスになった。深刻なのは国内新車販売台数の減少だ。三月は前年比で九・三%、四月は二八・六%減少して、昨年一〇月から七カ月連続の減少を続けている。世界的な人員と生産のリストラが不可避になっている。また二月に呉と八幡の高炉閉鎖を決めている日本製鉄は、鋼材需要急減の影響で鹿島と和歌山の高炉二基の一時休止を発表している。これにより約三万人の一時帰休を実施した。
 世界経済の停止は原油価格を急落させた。一バレル六〇ドルほどだった価格が一〇〜二〇ドル台まで下落した。一バレル五〇ドルを採算ベースとする米国のシェールオイル業者は確実に経営破綻するばかりでなく、サウジを除く産油国も採算が取れず資産の売却や借金の増大に走るしかない。オイルマネーの逆流が始まろうとしている。
 また産油国に限らず、金融市場がドル買いに走っているためにいわゆる新興国からの資金流出が進んでいる。四月一五日時点での対ドル通貨は一九年末と比べると、南アが三三・五%、ブラジルが三〇・四%、メキシコが二七・一%、インドネシアが一二・一%、タイが一〇%安くなるなどしている。コロナ恐慌がデフォルトなどによる債務危機と通貨危機を爆発させるかもしれない。
 さらには四月二〇日時点で、一三カ国が農産物の輸出規制を実施している。ロシアとウクライナは四〜六月の小麦に輸出枠を設定した。ベトナム・カンボジア・ミャンマーはコメの輸出規制に入った。その影響でタイ米が一トン当たり四〇〇ドルから五八二ドルに値上がりしている。これは経済的に脆弱なアフリカ諸国や難民への深刻な打撃となるだろう。
 コロナパンデミックによる様々な制限のなかで、人々との連帯をどのように作り出せるのか模索していこう。    (高松竜二)



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