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    かけはし2020年6月8日号

ネオファシズムの論理が大虐殺への道を準備


ブラジル

「グリペジンハ」―ちょっとした風邪

新型コロナウイルスへの直面がボルソナロの正体をむき出しに

ミシェル・レヴィ

 現在のコロナウイルスパンデミックでは、ブラジルが世界第二位の感染国になった。そこでは特に貧困層での感染が顕著であり、それを放置するボルソナロ大統領の姿勢が問題になっている。以下の二つの記事は、それを大量虐殺として厳しく糾弾し、国際的批判の必要を訴えている。(「かけはし」編集部)

世界でも際立つネオファシスト

 近年のもっとも衝撃的な現象の一つは、世界中での極右・専制主義・反動的政府の著しい台頭である。そのうちのいくつかでは、ネオファシスト的傾向が見られる。たとえば、安倍晋三(日本)、モディ(インド)、トランプ(アメリカ合衆国)、オルバン(ハンガリー)、ボルソナロ(ブラジル)がよく知られた例である。彼らのうちの何人かはコロナウイルスのパンデミックにばかげた対応をしたのは驚くべきことではない。
 彼らはその危険性をまったく拒否するか、過小評価したのだ。最初の数週間には、トランプと彼のイギリスの追随者であるボリス・ジョンソンが、「集団免疫」が全国的に効果を及ぼすために、もちろん何十万人もの死者と引き換えに、すべての人々をウイルスに感染させることさえ提案した。しかし、危機に直面して、この二人は方針変更せざるをえなかった、ボリス・ジョンソンの場合は、彼自身が感染して重症になった。
 それゆえ、ブラジルの場合は特別である。というのは、政府のトップにいるボルソナロは否定的立場を維持していて、コロナウイルスを「ちょっとした風邪」だと見なしているからである。これは薬の歴史ではなく、政治的錯乱の歴史に書かれるに値する定義ではある。しかし、この錯乱はその論理を持っている。それはネオファシズムの論理である。

21世紀の特徴備えた新たな現象


 ネオファシズムは、一九三〇年代のファシズムの繰り返しではない。それは二一世紀の特徴を備えた新たな現象である。たとえば、警察独裁の形態をとらずに、いくつかの民主的形態、たとえば選挙、複数政党制、報道の自由、議会の存在などを尊重する。当然のことだが、それは可能な限り、用いることのできる専制的・弾圧的手法でこうした民主主義的自由を制限しようとする。それはドイツの親衛隊やイタリア・ファシスト党のような突撃隊に頼ることはしない。
 これはボルソナロにとっても真実である。彼はヒトラーでもムッソリーニでもない。そして彼は一九三〇年代のブラジル版ファシズムだったプリニオ・サルガドの全体主義にも基準を置いていない。古典的なファシズムは経済における大規模な国家の介入を擁護したが、ボルソナロのネオファシズムは新自由主義と完全に同一視され、昔のファシズムが持っていた「社会主義的」見せかけなしに、寡頭支配層に好まれる社会・経済政策を押し付けることを目標としている。
 この新自由主義の原理主義的バージョンがもたらす結果の一つは、すでに従前の政権による政策で相当弱体化していたブラジル公共医療サービス(SUS)の解体である。こうした状況のなかで、コロナウイルスの結果としての医療危機は、もっとも貧しい人々にとって悲劇的な結果をもたらすだろう。
 ブラジルのネオファシズムのもう一つの特徴は、その超国家主義的で愛国主義的な言葉遣いにもかかわらず、それが経済・外交・政治・軍事的観点からみて、完全にアメリカ帝国主義に従属していることである。これはまたコロナウイルスへの対応でも現れた。ボルソナロと彼の閣僚たちはドナルド・トランプにならって、感染症の流行について中国を非難したのである。
 ボルソナロが古典的ファシズムと共通している点は、専制主義、政府の独裁的形態の嗜好、(「神話」的)救世主崇拝、左翼や労働運動への嫌悪である。しかし、彼は大衆的政党や突撃隊を組織することはできない。当分の間、ファシスト独裁、全体主義国家、議会閉鎖、労働組合・反対政党の非合法化を実現することもできない。

魔術と迷信と反啓蒙主義

 ボルソナロの権威主義は、エピデミックへの「対処方法」に現れている。彼は議会、州知事、自らの閣僚に反対して、危機の劇的な結果を限定しようとするのに不可欠となる最低限の衛生措置(ロックダウンなど)すら拒否するという非理性的な政策を押し付けようとしている。彼の姿勢はまた、(ファシズムに典型的な)社会ダーウィニズム、つまり強者生存の痕跡を有している。もし何千人もの弱者―健康状態の良くない高齢者―が死ねば、それは支払うべき対価なのである。「ブラジルは立ち止まることはできない!」というわけだ。
ボルソナロ主義者のネオファシズムに特有の観点は、その無条件支持者である福音派ネオ・ペンテコステ教団のもっとも反動的部分と連合した、反啓蒙主義であり、科学への侮蔑である。この態度は地球平面説に匹敵するもので、たとえそのイデオロギーが宗教原理主義(たとえばイスラム国!)であったとしても、他の専制主義的体制にはこれと同じようなものは存在しない。マックス・ウェーバーは、倫理的原理にもとづく宗教と聖職者の超自然的力への信仰である魔術とを区別した。ボルソナロと彼のネオ・ペンテコステ司祭の友人たち(シラス・マラファイア、エディール・マセドなど)の場合、それはまさに魔術と迷信である。「聖職者」と「断食」でパンデミックを止めようというのだから。
ボルソナロは、全体としては彼の殺人的なプログラムを押し付けることはできていないが、大統領と軍民の閣僚たちとの予測できない交渉を通じて、その一部―たとえば規制の緩和―を押し付けるかもしれない。

ボルソナロ容認の対価は大惨事


今のところ「夜明けの宮殿」(大統領官邸)に就任している悪意ある人物の妄想的な行為や彼が公的医療に押し付ける脅威にもかかわらず、かなりの割合のブラジル人が多かれ少なかれ彼をいまだに支持している。最近の世論調査によれば、彼に投票した有権者の一七%が自分たちの投票を後悔したとのことだ。そして、過半数の人々が彼を大統領職から追放するのに反対している。
ネオファシズムに反対する左翼とブラジル大衆勢力の闘いはまだ端緒的段階にある。この歪んだ政治体制を打倒するには、数回の大規模な抵抗運動以上のものが必要となるだろう。確かに、いつかは必ずブラジル人民はこのネオファシストの悪夢から解き放たれるだろう。しかし、それまでに支払うべき対価とは何だろうか?
四月二日、ボルソナロは「人口の七〇%がコロナウイルスに感染するだろう。これは避けられないことだ」と重大な言明をおこなった。もちろん、(最初はトランプやボリス・ジョンソンによって提唱され、のちに放棄された)「集団免疫」の論理によれば、このことはおそらく起こるのかもしれない。しかし、ボルソナロが隔離措置を拒否する政策、つまり「ブラジルは立ち止まることはできない」を何とか押し付けたとすれば、それは「避けられない」だろう。
その結果は何だろうか? ブラジルにおける新型コロナウイルスの死亡率は、現在のところ感染者の七%である。簡単な算術計算で次のような結論が導かれる。(1)もしブラジル人の七〇%が感染すれば、感染者は一億四千万人になる。(2)一億四千万人のうち死亡率が七%とすると、約一千万人になる。(3)もしボルソナロが彼の政策を押し付けたとすれば、その結果は一千万人のブラジル人が死ぬことになるのだ。
国際法の用語では、これは大量虐殺といわれるものである。これに匹敵する犯罪によって、ニュルンベルグ裁判によって何人かのナチ高官が絞首刑の判決を受けたのだった。

ブラジル

PSOL下院議員呼びかけの書簡 5月28日

ジャイール・ボルソナロはブラジルと世界にとっての脅威である

 この書簡は、国境を超えて人類を守っているすべての人々に宛てられたものである。新型コロナウイルスのパンデミックは、国籍・民族・社会階級にかかわりなくすべての人間を攻撃する。しかし、特権を持つ一%には入っていない圧倒的多数の人々はずっと脆弱である。世界のほとんどすべての政府は、この悲劇に立ち向かうために医療・経済・政治的対策をとっているが、ワクチンがないために、ソーシャル・ディスタンスをとることが生命を救うためのもっとも重要な方法である。
 ブラジルでは、広範囲な検査はおこなわれておらず、患者の過小報告は悲惨なものとなっている。それに加えて、医療システムは病床・集中治療室・医療用品の不足によって崩壊している。ウイルスに対する戦争の最前線にいる医療専門家は設備の不足に苦しんでいて、生命を救うために疲労困憊になって働いている。感染・死亡した医療労働者の数は驚くべきものである。
 そして、もっとも弱い立場の人々に三ヶ月間配られる一〇〇ドル/月少しの政府緊急措置は支払いが遅れていて、多くの人々が放置されたままであり、受け取ることができた人々も銀行で果てしない行列に並ばされている。
 ブラジル人民は、地球上で六番目に多い新型コロナウイルス死亡者数に苦しんでいて、ブラジルはラテンアメリカにおけるパンデミックの流行中心地となっている。そのブラジル人民が直面している医療・経済危機は「自然要因」によるものではない。ジャイール・ボルソナロ大統領による故意の政策の産物である。ボルソナロはコロナウイルスの否定論者であり、専制主義者である。彼は就任以来、反科学の十字軍を率いてきたが、ソーシャル・ディスタンスの必要性を絶えず攻撃している。ボルソナロは、ブラジルのエリート層の重要な部分ととともに、公的医療を犠牲にして「医療市場」を提唱している。エリート連中はその状況を利用して、民主的スペースをますます閉鎖し、アマゾンでの森林伐採を増やし、先住民の居住地域を侵略し、脅威を与え、先住民をウイルスに無防備なままに放置している。彼らは教育・文化・科学を攻撃し、先住民の生活維持と発展のために必要なリソースを削減しているのだ。
 ボルソナロの政策と姿勢はわれわれの国民医療を危険にさらしているが、同時に世界的な医療への脅威ともなっている。いくつかの国ではすでに、ある種の防疫包囲網をブラジルの周囲に作り始めている。それはその危機をさらに深刻化させるかもしれない。
 それゆえに、この書簡の作成者は、ボルソナロに対する弾劾請願書を提出した。これまでに、約三〇のそのような請願書が社会のさまざまな分野から出されている。そして、それは芸術家、知識人、社会運動、著名人からますます支持を集めている。ボルソナロは、彼の演説や行動のたびごとに政治的・組織的に孤立するようになっている。そのことによって、ますます自らの極右的基盤を固め、民主主義やブラジル憲法と衝突する独裁主義的な道をさらに進んでいっている。
 世界的な医療科学雑誌の一つである『ランセット』によって五月九日に発表された論説は、「ブラジルにおける新型コロナウイルスへの対応でもっとも大きな脅威は大統領のジャイール・ボルソナロである」と警告している。その記事は「ボルソナロは彼の路線を全面的に変える必要がある。さもないと次は彼の番になるだろう」と結論を述べている。
 われわれ、世界中から賛同署名した者は、ジャイール・ボルソナロおよび彼が人民に対しておこなっている大量虐殺政策を非難する。すべての国家指導者のなかで、彼はもっとも犯罪的な向こう見ずであり、世界医療にとっての危険人物の代表例なのである。

呼びかけ
社会主義と自由党(PSOL)所属の一〇人の下院議員(人名略)

賛同署名(略)
賛同者は約三〇〇人にのぼり、その中にはパルラスール(南米共同市場議会)の議長・議員、欧州議会議員(欧州統一左派・北方グリーンレフトグループ、欧州緑の党・欧州自由連盟グループ、社会主義・民主主義進歩連盟グループ所属)、先住民問題のための国際ワーキンググループのメンバー、スペイン・ポルトガル・スイス・スウェーデン・トルコ・チリ・メキシコの国会議員・州議会議員・自治体首長・地方議員・政党指導者・社会運動活動家・研究者のほか、オーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルグ、イギリス、ペルー、エクアドル、アルゼンチン、ボリビア、ベネズエラ、パキスタン、フィリピン、アメリカ合衆国の団体・個人が含まれている。


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