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    かけはし2020年6月8日号

黒人の命を守る闘争に連帯を


コロナ危機下の軍事化・独裁化
の強まりにグローバルな抵抗を


差別と警察支配に怒りが爆発

 五月二五日にミネソタ州ミネアポリスでジョージ・フロイドさんが警察官によって殺害された事件をきっかけに全米で黒人差別や警察による人権侵害に対する怒りの行動が拡大している。米国内の運動に連帯して世界各地で大規模な集会・デモが行われている。
 ミネアポリスは一九六〇年代の黒人公民権運動やアメリカン・インディアン・ムーブメント(AIM)でも大きな役割を果たし、歴史的にリベラル民主主義の影響力が強い。しかしミネアポリス市はその当時から治安維持のために警察予算の拡大と警察官の増員を続け、同市警察は「犯罪率の高い地域」(黒人やアジア系の貧困層が居住する地域)に警官を重点的に配置するなどの措置を強化し、警察官による強圧的な職質、軽微な違反行為での逮捕・拘留・家宅捜査、過剰な警備と警察官による暴力などへの批判が高まった。一九八〇年の市長選挙では「警察署のプロフェッショナル化」を主要公約にしたドナルド・M・フレーザーが当選し、警察改革に着手した。しかし警察官組合の強力な抵抗、白人の間での黒人やアジア人、インディアンへの差別とLGBTの人たちへの偏見(警察官の人権侵害は主にこの人たちに向けられていた)、麻薬関連の犯罪への不安などによって改革は進まなかったどころか警察の予算と人員は一層拡大された。

フロイドさんの最後の叫び胸に


 現在のニューヨーク市でも、警察改革を主要公約にしたデブラシオ市長の下で、同じことが繰り返されている。民主党市長の下でさえこの状態である。
 その結果、全米で警察官による殺人は年間一〇〇〇人を超えており、その大部分が免責されている(処分を受けた場合でも警察官組合による手厚い救済がある)。その一方で凶悪犯罪の検挙率は低い。つまり、警察は市民を守るためにではなく、マイノリティーの人々を抑圧し、白人や企業の安全を守るために活動している。最新の技術を駆使した監視やプロファイリング、刑務所の民営化と刑務所労働の搾取など警察は一大「産業」と化している。
 警察の暴力に対する怒りが蓄積されてきた背景については米国「ソリダリティー」の同志によるレポート(6面)に詳しい。
 現在の世界的な抗議行動のシンボルとなったジョージ・フロイドさん(事件当時四六歳)はテキサス州ヒューストンで生まれ育ち、二〇―三〇代にはヒップホップの世界での活躍を夢見ていた。就職難の中、小さな犯罪で五年の懲役、服役後に新天地を求めてミネアポリスへ移住し、バスの運転手や警備員として働いていた。この間、どんな犯罪にもかかわっていない。三月にロックダウンのために失職、事件当日は偽の二〇ドル札を持っていたとして逮捕された。容疑が事実だったかどうかも不明、事実だったとしても凶悪な事件ではないし、しかも多勢に無勢であり、暴力的な制圧の必要など全くなかった。
 抗議デモに参加している全世界のマイノリティーたちは、彼のこの生涯に自分たちが経験した苦しみを重ねているだろう。「お願いだ、息ができない」「殺さないで」というフロイドさんの最後の叫びはそのまま彼ら彼女らが日々心の中で叫んでいることかもしれない。
 コロナ危機の真っただ中で起こった事件であることも、抗議行動の世界的な広がりの大きな背景となっている。ロックダウンの中で警察は警備に名を借りた恣意的な不審尋問や逮捕を拡大し、平和的な抗議デモに対しても容赦なく催涙弾を浴びせた(催涙ガスがウイルスに対する免疫力を奪うことを熟知した上での殺人的行為である)。大部分の警察官は郊外や他地域から募集され、特別に訓練を受け、特権的意識あるいは差別意識が強いと言われている。市内の貧困地区の住民たちにとっては「占領軍」にほかならない。こうした警察官の訓練はイスラエルの治安当局やセキュリティー企業との提携の下で実施されていることも指摘しておく必要があるだろう。
 多くの人々が感染の危険を冒しながら、今決起しなければ「コロナ後」の世界が絶望でしかないことを感じているのだろう。若者を中心に多くの白人たちも怒りの声を上げている。抑圧に加担することを拒否し、差別のない社会への転換、侵略と奴隷制にさかのぼる過去の歴史に関する謝罪・和解を目指していく決意が込められている。これまで何度も繰り返されてきた人種主義的暴力、抗議の闘い、融和策と口約束、疲弊と闘いの鎮静、忘却と無力感というサイクルを超えて、根本的な変革への道を開くことが意識されている。「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命を守る運動)」を中心に、「ウーマンズ・マーチ」、中南米移民を支援する運動、反戦運動の活動家たちを含む広範が結集していることはそのような発展の可能性を示している。 

米国分裂と極右ファシスト台頭

 抗議運動は平和的に行われているが、一部ではデモ隊と警察官の衝突やデモ参加者による破壊行為が伝えられている。大部分は警察官の過剰警備と挑発によるものであり、一部には極右派がデモ隊に潜入して挑発行為を行っているようだ。
トランプは警察官の行動は適正であるとして、鎮圧のためには州兵や軍の出動を辞さないと公言している。上記の背景を考えればこれは大統領による内戦の宣言に等しい。また、暴動の責任は「アンティファ」(反ファシズム運動)にあるとして「アンティファ」を国内テロ組織に指定する意向を表明した。つまり「テロとの戦争」を米国内でも始めるということだ。
コロナ危機が全世界に拡大する中、米国のトランプ、イスラエルのネタニヤフ、インドのモディ、ブラジルのボルソナロをはじめとする極右政権は好戦的・独裁的な政策を一段とエスカレートしている。
国連のグテレス事務総長が三月二三日に「世界のあらゆる場所での即時停戦を呼び掛ける」と訴え、国連加盟の約七〇カ国や多くの非政府機関がそれを支持している中、トランプは中国との冷戦を意識した好戦的な政策を連発している。WHOからの脱退、ベネズエラのクーデター未遂への関与、イランへの経済封鎖の継続と軍事挑発。国内においては一一月大統領選挙に向けた民主党への攻撃が危険なレベルまでエスカレートしている。民主党知事のいくつかの州でロックダウン解除を要求する極右派グループが武装デモを行い、州庁舎へ乱入する事件が相次いだが、トランプはツイッターで支持を公言し、民主党州政府の打倒を呼びかけた。現在の警察官の暴力に抗議するデモに対しても民主党知事や市長の対応が甘いとして、近隣の共和党系知事・市長や連邦の介入を促している。
ネタニヤフはコロナ危機の真っ只中でも入植地の拡大を進め、ガザ地区への包囲を継続して、パレスチナの人々を感染に対して無防備な状況に曝している。
モディはイスラム教徒への迫害を強めており、またカシミールの軍事支配を強化する一方、ロックダウン中の外出を厳しく規制して、軍による支配を強化した。
ボルソナロは貧困地区や先住民族居住地域を無防備な状況に曝し、また、アグリビジネスや資源開発のためにアマゾンの破壊を加速している。
トランプはこれらの政権との緊密な連携の下で、反中国を煽るだけでなく、国連をはじめとする国際機関を無視して戦後の米国・西欧を主軸とした世界秩序そのものを破壊しつつある。一一月大統領選挙においては小差で敗北した場合に敗北を認めず居座る可能性すらある。武装極右勢力の登場や軍・警察の動きは不吉な予兆でもある。国際的にも極右勢力間の連携は強化されており、上記の四カ国のほかにEUを離脱した英国やオーストラリアを含めた新たな枢軸が形成されている。米国は中国やロシアとの直接の戦争を回避するために局地的な核戦争を可能にする戦術核兵器の配備を進めようとしている。
軌を一にして、中国習近平体制もコロナ危機に乗じて香港の民主運動を解体し、香港の自治を破壊しようとしている。ロシア、トルコでも帝国の復活というノスタルジーと共に強権支配が強まっている。EU諸国でも独自の軍事力の強化が謳われ、軍事費や武器取引、難民追い出しのための連携などが拡大している。
アメリカの帝国の崩壊はトランプ政権の下で加速し、コロナ危機の中で国内の分裂が臨界点に達している。パンデミック後の世界が、感染症や環境破壊へのグローバルな対応に背を向けて米中冷戦の下での軍拡・強権化・分断・監視社会というディストピア(逆ユートピア)に向かうのか、偏狭なナショナリズムを超え、環境と共生するエコロジー社会主義に向かうのか、その最初の攻防が始まっている。
一一月大統領選挙に向けてトランプの政策と最も鮮明な対決軸を提供し、若者を中心とする急進的左派を結集してきたサンダース氏は、民主党の予備選挙においてウォルストリートや巨大グローバル企業の利益を代表する右派勢力の結束と包囲を打ち破ることができず、撤退を余儀なくされた。トランプの対立候補となるバイデンはトランプの政策の根幹となる対中国政策や中東政策、中南米政策において基本的にトランプと変わらず、対ロシアや対北朝鮮政策ではトランプよりも好戦的である。
しかし、コロナ危機と警察官の暴力の問題で一層明らかになった米国社会の分裂は、二大政党制の枠組みを超えてグローバルなコロナ危機や気候危機と結びつき、グローバルな階級闘争の新しい枠組を準備しつつある。トランプ政権との闘いの中で連携を強めてきた草の根の社会運動と民主党予備選挙においてサンダースの勝利を目指してきた広範な人々のネットワークがその基盤となっている。
全世界の連帯運動に呼応し、全国で「ブラック・ライブズ・マター」に連帯する運動を!
(六月七日、小林秀史)

 

 

 




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