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    かけはし2020年7月20日号

香港自治の死:弾圧を超えて


區 龍宇(アウ・ロンユー)へのインタビュー(2)

聞き手/アンシュリー・スミス



 中国と米国との「新冷戦」は世界的なヘゲモニーをめぐる闘いであり、そこには進歩的なものは何もない。米中の覇権抗争から独立した民衆自身の闘いをどう作るのか。ここに焦点を当てて區龍宇は問題を提示する。

2 対決は回避できない

スミス このことはアメリカ・中国間の新冷戦の中にどのように組み込まれているのか? ワシントンはどのように反応するだろうか? また、それは香港に対する北京の計画にどのような影響をもたらすだろうか?

區龍宇 ポンペオ国務長官は、香港はもはや中国からの高度な自治を享受してはいないと議会に報告した。トランプ政権は、香港に与えてきたアメリカとの貿易での優遇特権を破棄するかもしれない。もう一方では、北京とその香港での傀儡(かいらい)は、「われわれは十分に強力なのだからお前たちには従わない」という傲慢な反応を煽り立てている。
彼らの議論の一つは、今日では中国の興隆によって、香港のGDPは中国のほんの一部になっているのだから、北京にとっての香港の重要性はどっちみち小さくなっており、たとえアメリカが香港経済を弱体化させたとしても、中国はそのことで傷つかない、少なくともそんなには傷つかないというものだ。しかしながら、これは一方的な見方である。香港には、それ以外の多くの面で、中国が依存しなければならない優位性がまだ存在している。最近、イギリス香港ウォッチは『なぜ香港は重要なのか』というレポートを発表したが、その中でこの依存関係について次のように述べている。
―中国の直接投資の流れの三分の二近くが香港経由で成立している。
―二〇一〇?一八年における中国本土企業の新規株式公開のうち、七三%が香港を拠点としている。一九九七年以降、中国企業は香港で三三五〇億ドルの資金調達をおこなった。
―香港ストックコネクト[訳注:中国本土と香港との株式取引相互乗り入れ制度のこと]は、西側投資家が中国本土市場にアクセスするための優先的経路にますますなっている。二〇一六年から二〇一九年九月にかけて、香港経由で九五〇億ドルが中国本土の資本市場に流れ込んだ。
これらは直接的な依存をカバーしているに過ぎない。間接的な要因、あるいは重要な国際協定も存在している。香港によって、中国は膨大な額の外貨を獲得できているのである。
もう一方では、アメリカもまた、香港における利害関係を確固たるものにしてきた。在香港アメリカ商工会議所が国家安全法に憂慮を表明したとき、香港政府は、アメリカが香港においてもっとも多い貿易黒字を享受している―その額は二〇〇九?一八年に二九七〇億ドルにのぼる―ことや香港との貿易によって二一万人の雇用がアメリカ労働者にもたらされていることを指摘した。
これに加えて、中国とアメリカの間には貿易の相互依存がある。両国はそれぞれにとって上位三位内に入る貿易相手国である。両者の分離は両国にとって苦痛をともなうものとなるだろうが、その苦痛はまた非対称的なものだ。経済学者・劉遵義(ローレンス・J・ラウ)によるアメリカ・中国間の貿易戦争に関する著書によれば、二〇一七年のアメリカの輸出依存率はわずか一二・一%で、中国の一八・一%よりも小さい。中国のアメリカへの財の輸出額はGDP比としては過去一〇年間減少を続けてきたが、二〇一七年には依然としてGDPの三・四%を占めている。これはアメリカから中国への財の輸出額がGDP比でわずか〇・九七%に過ぎないのと対照的である。
しかし、いまや両国は、自国の経済動向よりも、お互いに対決しあうことの方が重要だと考えているように思える。双方にとっていま重要なことは、世界的覇権を争うことなのである。
私は「新冷戦」という言葉を用いるのにはためらいがある。その言葉は、香港で主流となっている言動の中で広く用いられている。しかし、それは誤解を招く恐れがあるものだ。「古い」冷戦については、アメリカは北京と台湾の対立において、中国国民党支配下の台湾を支持していた。アメリカはまた、香港人民を弾圧していたイギリス植民地政府を支持していた。彼らのいわゆる「自由世界」は労働者人民にとってはそれほど自由ではなかった。むしろ初めから最後まで反動的だったのだ。
他方では、一九四九年における中国共産党は決して正真正銘の社会主義勢力ではなかった。中国共産党の基本的な民主主義的権利に対する軽視はすでに存在していた。しかしながら、土地改革を実行し、半封建的抑圧からある程度まで女性を解放した新たな結婚法の制定などの真の改革を実施したのも共産党政権だった。だから、その体制は進歩的な要素と後退した要素の両方を併せ持っていた。
対照的に、いまアメリカと中国との間で新たに起こっている対立は、「古い冷戦」とは非常に異なっている。それが異なっているのは、アメリカ帝国と北京政府の双方ともに大きく変化したからである。ただし、後者の方がより大きな変化を遂げた。今日の中国共産党は、政治的権力と経済的権力との融合、結社・言論の自由を人々が享受することへの敵意、外国人嫌悪、ナショナリズム、社会ダーウィニズム(訳注1)、全体主義国家の礼賛、思想の「統一」などにおいて、いまやファシスト国家と比肩すべきものとなっている。もう一方では、台湾は今日では、人民の数十年間にわたる民主化闘争のおかげで、少なくとも自由民主主義、多元的政党政治、労働運動発展のスペースを有している。香港もまた、広い範囲での政治的自由を享受している。
アメリカに関して言うと、進歩的な体制へと進化することはなかったが、その力は「大中華圏」地域(中国本土・台湾・香港)ではより弱いものとなっている。アメリカはもはや軍隊を台湾に駐留させていないし、香港の中国への返還は一九九七年に完了した。アメリカはもはや、台湾人民や香港人民に対する直接の圧制者ではない。われわれは、アメリカが民主主義や人権を支持するにあたっての言辞を懐疑的に扱わなければならないし、アメリカの政策は疑いを持って論じなければならない。
他方では、中国共産党体制は中国本土人民と香港人民にとって直接の圧制者である。なおその上で、共産党政府は、台湾の武力制圧まで含めて、ますます声高に台湾に脅しをかけてきた。それゆえ、「古い」冷戦とは異なって、現在のアメリカ・中国間の争いの中で、一方では、アメリカ帝国は以前と同じように反動的であり、「大中国圏」地域ではその影響力という点においてより弱いとしても、もう一方では、覇権を得ようとする中国の野心の中には進歩的なものはまったくないのである。それゆえ、私はこの新たな争いを述べるのに「新冷戦」という言葉を使いたくはない。この新たな争いにおいて、香港人民は、北京に対する闘いをアメリカ政府からは独立して進めなければならない。それは容易なことではないだろうが。

3 中国の分断統治戦略


スミス 明らかに、中国政府は「テロリスト」と呼ぶ少数派と何百万人を数えるもっと広範な運動とに運動を分断したがっている。中国政府はこの分断統治戦略に成功するだろうか?

區龍宇 北京が自らの協力者、たとえば香港の実力者や大企業のある特定のグループにも背を向けて、その姿勢を転換した後では、その有効性は疑わしい。習近平は二〇一二年に権力の座に就いたが、北京の対香港政策の特徴の一つは傲慢さと硬直性だった。新たな路線では、「われわれと一緒にいない者はすべてわれわれの敵である」に代わって、「私の前に膝まずかない者はすべて私の敵」とされている。北京は、香港における中国支持者の間で、ほんのちょっとでも独立してものを考える兆候があれば、決してそれを許容できないのだ。
過度に単純化することを恐れずに言えば、結論として、この新たな路線は北京に「一国二制度」という約束を破棄させるだろう。北京は、李嘉誠(訳注二)をリーダーとする香港の実力者のグループでさえ、二〇一四年の雨傘運動以降、抗議行動参加者を非難する際にそれほど熱心でなかったという理由で攻撃対象にし始めている。この背後にあるのは、より根本的な闘争である。北京の官僚資本主義は、成長が鈍化する時期には、中国本土と香港の両方で、民間資本から市場シェアを奪い取ることでしか、拡大し続けることができないのである。
香港の実業家階級は、中国資本のパートナーを失うことを死ぬほど恐れている。この問題は、実業家階級にだけ当てはまるものではない。北京が自らの約束を過去十年間に次から次へと破ってきたのを目撃した何百万人もの人々にとって、そして昨年は逃亡犯引き渡し条例に反対して抗議行動に参加し、北京が自らの協力者をどのように取り扱うかを見てきた人々にとって、賢明な人なら誰でも「われわれは北京についてこれ以上何を信用できるのか」と自問することだろう。
この前の日曜日(五月二四日)と水曜日(二七日)の「違法な」抗議行動において、人々が目撃したのは、その規模が二〇一九年のものと比べてかなり小さかったこと、および中高年の参加者が減っていたことの二点であった。その勢いは今年後半で増すかもしれないし、そうでないかもしれない。香港労働組合連盟(HKCTU)は五月二七日のストライキを呼びかけた。その日は国歌条例の二回目の審議が行われる日であり、人民代表大会が「香港における国家安全を守る決定」を可決した次の日だった。しかし、何も起こらなかった。
ますます厳しくなっている弾圧のもとで、運動の勢いは低下している。もし士気喪失が始まっているとすれば、しかしながら、これは北京の分断統治戦略がうまくいっているからではない。国家安全法が施行されることにともない、多くの人々が差し迫った結果を恐れている。若者たちはより勇敢だが、政党政治や組織という考え方を否定してきた。つまり、彼らが完全武装している国家装置とどのようにして対決できるのかを考えるのは難しいことなのである。(つづく)


案内

8・6ヒロシマ平和へのつどい2020

被爆・敗戦75年 今、
     問われる民主主義            (8/5、広島市)

 私たちは、新型コロナウイルス感染症(COVID―19)のパンデミックのさなかに被爆75年を迎える。
 この現象は、命より経済を優先させる政策が、公衆衛生体制を破綻させていることを明らかにした。
 安倍政権は、市民に対し、監視社会・同調圧力・他者を排除する風潮をさらに強めた。
 日本社会は、日本軍国主義によるアジア太平洋侵略戦争の加害、アメリカによる広島・長崎への原爆無差別大量虐殺の責任、天皇の戦争責任を追及してこなかった。
 その根底には、民主主義と共存しない天皇制を維持したアメリカの被占領国家として「戦後民主主義」が始まったことがある。
 私たちは、広島・長崎の被爆と世界の被曝の経験から「核と人類は共存できない」と訴え続けてきた。
 トランプ政権はINF(中距離核戦力全廃条約)を昨年8月に一方的に破棄し、来年2月には「新戦略兵器削減条約」を失効させ、使用可能な小型核兵器の開発を強行している。
 安倍政権は、核兵器禁止条約に反対し、沖縄の新基地建設を強行し、福島原発事故による被害を隠ペいし、今なおアメリカの核攻撃・原子力体制に依存し、原子力政策を推し進めている。
 私たちは、長崎・福島・沖縄・朝鮮半島・アジアの民衆と連帯し、民主主義・平和主義に立脚して、命と尊厳が守られる社会、北東アジアの平和を創ることを被爆地ヒロシマから訴える。

8・6ヒロシマ平和へのつどい2020 被爆・敗戦75年 今、問われる民主主義
日 時:8月5日(水)18:00〜20:00(17:30開場)
場 所:広島市まちづくり市民交流プラザ 北棟5階研修室ABC
〒730―0036 広島市中区袋町6番36号/広島電鉄市内電車「袋町」電停から徒歩約3分
アクセス→http://www.cf.city.hiroshima.jp/m-plaza/kotsu.html
※新型コロナウイルスの感染状況によっては、会場や内容が変更になる可能性があります。
その場合は、ホームページでお知らせいたします。

プログラム:
第1部:問題提起
・「被爆・敗戦75年 ヒロシマから」/西岡由紀夫さん(ピースリンク広島・呉・岩国世話人)
・「2020年 朝鮮半島をとりまく情勢」/尹康彦(ユン・ガンオン)さん(在日韓国民主統一連合広島本部副代表委員)
第2部:記念講演「危機の時代とナショナリズムに躓く民主主義」/小倉利丸さん(批評家・元富山大学教員・現代資本主義論)

参加費:1000円
主 催:8・6ヒロシマ平和へのつどい2020実行委員会
http://8-6hiroshima.jpn.org/tudoi/tudoi.html
連絡先:広島市中区堺町1―5―5―1001/TEL090―4740―4608 FaX082―297―7145
E-Mail:86tudoi.hiroshima@gmail.com

★賛同団体(2020年5月31日現在)ピースリンク広島・呉・岩国/第九条の会ヒロシマ/東北アジア情報センター/人民の力協議会/環境社会主義研究会/在日韓国民主統一連合広島本部/ピースサイクル全国ネットワーク/郵政産業労働者ユニオン中国地方本部




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