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    かけはし2020年8月31日号

「内戦的状況」煽るトランプ


米大統領選

コロナ危機下で深まる米国の分裂

広がる抵抗から階級闘争勢力形成へ

トランプ再選阻止ファシズム許すな

死者16万人全国で感染が拡大

 米国のコロナウイルス感染による死者数(ジョンズ・ホプキンス大学の集計による)が七月二九日に一五万人を超えた。二月二九日に国内で最初の死者が報告され、五四日後の四月二三日に死者数が五万人、さらに三四日後の五月二七日に一〇万人を超え、その後六三日目のことである(八月一一日現在の死者数は一六万六〇二七人)。
 三月初めから感染が爆発的に拡大したニューヨークでは七月には一日の新規感染者数が一桁となり、収束が伝えられているが、カリフォルニア、フロリダなど西部と南部の州では感染拡大が続いている。
 中国・武漢におけるコロナウイルス感染の発生が全世界への拡大の兆しを見せはじめた一―二月に、米国では一一月大統領選挙に向けた共和・民主両党のキャンペーンが本格的に始まっていた。米中の「経済戦争」とそれによって一挙に促進された経済危機、イランとの軍事的緊張を背景に、トランプ政権は「米国第一主義」と反中国・反移民によって極右・保守勢力の結束を強化するという戦略を突き進んでいた。一方、民主党の予備選挙ではサンダース候補の圧倒的人気に危機感を強めた右派と中道派の有力候補たちの共闘によってバイデン元副大統領が同党の大統領候補への指名を確実にした。
 当時も現在もトランプ大統領の関心は一一月の大統領選挙であり、すべての政策が大統領選挙での勝利という目的に関連付けられている。
 米国内における感染の拡大は米国の医療制度の脆弱さを直撃し、トランプの無策と冷酷な市場の論理が犠牲を拡大した。最初に感染が拡大したカリフォルニア州とニューヨーク州が三月一九日と二二日にそれぞれロックダウンを宣言した時点でも、トランプは感染による犠牲は限定的であるという見通しに立って行動していた。
 トランプは三月一一日に感染が拡大する欧州二六カ国(英国・アイルランドは対象外)からの入国制限を発表、同一三日には国家非常事態を宣言し、コロナ対策に最大五〇〇億ドルの連邦政府予算を支出すると発表した(民主党も基本的に同意)。失業給付、個人現金給付、学生のローンの金利免除、医療機関への支援・検査の拡大(無料)などに大規模な支出が実施された。こうしてトランプは世界で最も強力な対策を実施していると豪語していたが、結果は悲惨だった。犠牲は黒人や中南米からの移住者に集中している。また、ワシントン在住の科学ジャーナリストのエド・ヨン氏によると、六月中旬現在では感染による死者の四〇%が養介護施設での感染に関連している(「Zネット」八月九日付)。病院・医療施設、物流・倉庫、食肉加工などの感染の危険が高い必須労働(エッセンシャルワーク)では、マスク・保護服や換気設備も不足する中で、多くの労働者(大半は黒人と中南米などからの移住者)が犠牲になった。
 世界最大の経済力、最高の医療技術を誇っていたはずの米国で、こうした悲惨の多くは避けられたはずである。

武装デモ煽動から治安部隊の派遣へ


 世界的なパンデミックと国内での感染拡大に伴うロックダウンは米国経済に未曽有の打撃を与えた。すでにトランプの「米国ファースト」の政策による国際的経済摩擦等の影響で製造業が壊滅的打撃を受け、ハイテク分野も中国との競争で劣勢に立たされている中での三月中旬から四月にかけての全国的な経済活動の停止は、数百万人の失業と貧困の拡大をもたらし、社会的不安が全国を覆った。
 民主党の大統領選予備選挙で敗北したサンダース議員が主要公約の一つとして掲げていた国民皆保険制への支持が高まり、バイデン候補を支持した民主党の中道派もコロナ対策でのトランプの無策への批判を強める中、一一月大統領選挙に向けて劣勢に陥ったトランプは、起死回生のため非常に危険な賭けに打って出た。
 四月中旬からテキサス、イリノイ、フロリダ、テネシー、インディアナ、アリゾナ、コロラド、モンタナ、ワシントンなどの各州で、ロックダウン解除を求めるさまざまな規模の集会が開かれた。トランプは民主党知事の各州における規制は「厳しすぎる」と述べ、ロックダウン抗議のデモを支持する姿勢を示した。四月三〇日にはミシガン州の州都ランシングでデモ参加者の一部が銃を掲げ、州議会前を一時的に占拠した。「アメリカ愛国者集会」と銘打ったこのデモは州内企業に対しても、州政府の命令を無視して五月一日に事業を再開するよう呼びかけた。同州では四月一六日にも約三〇〇〇人がデモを行っている。「自由のためのミシガン連合」など四つのグループがフェースブックで暴力や性差別を煽る宣伝を繰り返した(フェースブック社はそのうち一つのグループのページを削除した)。その後、武装デモは他のいくつかの州にも広がったが、トランプは「武装は合衆国憲法で認められている権利」として支持し、民主党の州政府の追放を呼びかけた。
 これ以降トランプは、コロナウイルスの感染拡大を放置し、ロックダウンによる経済への打撃、困窮、疲弊に対する人々の不満、不安、怒りを中国やWHO、民主党、リベラル派のメディアへと向かわせることで大統領選挙に向けて支持層を固めるという戦略を暴走する。政権内でもトランプのやり方に批判的な有力者を次々と解任し、憲法に定められた大統領の権限を逸脱する行動を重ねてきた。
 五月二五日にミネアポリスで起こった警察官によるジョージ・フロイドさんの殺害を契機に一挙に全国に広がった「ブラック・ライブズ・マター」(黒人の命を守る運動)は、トランプと白人優位主義者のファシスト的攻撃との闘いを一挙に全面的な階級対決の局面へと押し上げた。「ブラック・ライブズ・マター」運動の背景とこの運動がもたらしたものについては本紙六月一五日号の拙稿を参照していただきたい。
 この闘いは警察の暴力や人種差別に対する抗議として一気に全国化し、その主張と行動は先鋭化した。六月七日、ミネアポリス市議会の議員九人(過半数)が市警察への予算拠出を打ち切って警察を解体する意向を表明した。シアトルでは六月八日から「ブラック・ライブズ・マター」運動を支持する活動家たちがキャピトル・ヒル地区の警察署とその周辺地区を占拠し、「キャピトル・ヒル自治区」を宣言した。この自治区は三週間にわたって部分的な二重権力的状況を作り出した。
 また、若者を中心に多くの白人が連帯の行動に参加したことをきっかけに、米国の建国以来の人種差別の歴史を再検証する動きが広がり、各地で白人優位主義者や奴隷主の肖像や記念碑を撤去し、建物や通りの名前を変更する動きも広がった。
 こうした動きはトランプの支持基盤である白人優位主義者の心胆を寒からしめた。建国以来、さまざまな変遷を経ても根本から揺らぐことのなかった白人優位主義が内側から崩壊を始めたのである。KKK(クー・クラックス・クラン)などの極右集団やFOXニュースなどの右翼メディアの扇動を背景に、トランプはこれらの運動を「アンティファ」(反ファシズム運動)やテロ組織による反国家的な行動であると非難し、州政府の反対を無視してオレゴン州ポートランドに連邦の治安要員(「麻薬撲滅」を名目に強権的・超法規的な捜査・検挙を繰り返してきた国境警備隊など)を投入し、デモの鎮圧と活動家の検挙にあたらせた(国土安全保障省の下のこれらの機関は州警察の管理が及ばない)。
 「ニューヨーク・タイムズ」(七月二〇日付)はコラムニストのミシェル・ゴールドバーグによる「トランプによる米国都市の占領が始まった―まだこれをファシストと呼ぶべきでないのか?」と題するコラムを掲載した。「ザ・ネーション」誌電子版(七月二九日付)によるとウィスコンシン州のジョシュ・カウル検事総長は、トランプが同州のミルウォーキー市(民主党全国大会の開催が予定されている)に連邦治安要員を派遣すると発表したことに対して、「この政権の下で、特に最近数週間、われわれは大統領がファシスト的戦術を採用しているのを目撃している」と非難した。このように「ファシズム」が現実の問題として有力メディアや司法関係者の話題にも上っているのである。

社会分裂渦中での11月大統領選挙


 米商務省経済統計局の発表によると、今年の四―六月期に米国経済は三二・九%縮小した(GDPの四半期ごとの統計を取り始めた一九四七年以来最悪)。四月には失業人口は二〇〇〇万人を超え、過去八〇年で最悪の数値を記録した。
 トランプは八月八日にコロナウイルスに関連する追加的経済対策を実施する大統領令に署名した。これには七月に失効した失業給付金の上乗せの復活(当初の週六〇〇ドルを週四百ドルに減額)、年収一〇万ドル以下を対象にした給与税の徴収停止、連邦機関が財政支援する賃貸住宅からの立ち退き猶予、連邦政府が融資する学生ローンの利払い免除延長などの措置が含まれる。
 しかし、経済回復の見通しが立たない状況の中で、一一月大統領選挙に関する各種世論調査では民主党のバイデン候補の優位が広がっている。二〇一六年の選挙においてもトランプは得票数では民主党のヒラリー候補に三〇〇万票近い大差で負けている。今回は一六年の勝利に寄与した中西部でトランプへの期待が失望に変わっており、苦戦が予想される。
 その中で、一一月大統領選挙においては「どちらが勝つか」よりも、トランプが負けた場合に負けを認めて円滑な政権交代が行われるのかどうかに大きな注目が集まっている。
 トランプが民主党の州政権に対する武装デモを容認し、民主党州政権の追放を公然と扇動しているのは不吉な兆候である。
 トランプは七月一九日に放送されたFOXニュースのインタビューの中で、選挙に敗れた場合に選挙結果を受け入れるかという問いに対し、「単純にイエスとは言えない」、「選挙で不正が行われれば辞めない」と言明した。
 コロナウイルス対策をめぐっても大統領選挙の前哨戦が激しく闘われている。焦点は郵便投票をめぐるトランプの強硬な抵抗である。民主党は米郵政公社(USPS)への二五〇億ドルの支援と、同公社が業務を行う郵便投票のための三五億ドルの支援を要求している。トランプは七月三〇日に発信したツイートで「大統領選で郵便投票が広範に導入されれば、歴史上、最も不正確で詐欺的な選挙になるだろう」と述べ、郵便投票に反対し、コロナウイルス拡大が収束するまで選挙日程を遅らせるよう提案しており、民主党が要求する支援が拒否された場合に郵便投票の実施は困難になる。
 二〇〇〇年一一月の大統領選挙では共和党のブッシュと民主党のゴアの双方が勝利を主張し、フロリダ州における再集計や連邦最高裁での審議の末に、投票から三一五日目にゴアが敗北を認める形で終結した。トランプが圧倒的大差で敗北しない限り、今回もそのような紛糾は必至である。しかもトランプは敗北しても新大統領の就任までの期間、権力を保持する。上院の多数は共和党であり、連邦最高裁も共和党が支配している。そして連邦治安部隊による超法規的な治安活動も本格的な「出番」に向けた舞台稽古に力が入っている。
 したがって今から大統領選挙、そしてその後の数週間に何が起こるかは予断を許さない。

「新冷戦終結」とコロナ後の社会

 トランプが大統領に就任した二〇一六年一月以降、世界は地政学的に大きく変貌し、コロナ危機はそれをさらに加速させている。一一月大統領選挙でどちらの陣営が勝利するかに関わりなく、米国と世界はこの新しい現実、「コロナ後」の社会がどの方向へ進むのかをめぐる新しい政治的・社会的闘争の力学によって大きく規定される。
ATTACフランスなどの社会運動団体がオンラインで開催してきた国際セミナー「パンデミック後の世界」の第四回「戦争と冷戦―軍事化とパンデミック」(五月二一日)で米国在住の研究者のタビタ・チョウは次のように指摘している。「ハル・ブランズ(ジョン・ホプキンス大学の教授で、ネオコン系のシンクタンクの研究員)は、『アメリカがパンデミックによって経済が停止し、ペンタゴンの予算が今後数年にわたって制約されるこの時に、国内ではイデオロギーの対立を超えて中国敵視が広がっている』と述べています(『ブルームバーグ・オピニオン』五月六日付)。パンデミックをきっかけに、トランプ政権だけでなく民主党の大統領候補も含めて、そして軍事エリートの間で、中国との冷戦がはじまるのかどうかという議論ではなく、中国との冷戦は始まるという共通認識の下で、それがいつどのように始まり、それにどのように勝利できるのかが主要な議論になってきました。中国と米国の対立は単に軍事的対立ではなく経済戦争、ハイテク戦争、外交、資源などあらゆる面にわたっています。この間、EUを離脱した英国が米国との関係を一層深める一方で中国がEUに接近するなど、両国は多くの国にどちらの側につくのかという選択を迫っています。サイバー戦争の危険も指摘されています。中国と米国の軍事的衝突は非常に大きなリスクをもたらします。同時に経済紛争も大きなリスクをもたらしています。東南アジアやアフリカ、南米で両国が競合しています。すべての緊張がリスクを高めます。その中で米国で反中国のナショナリズムが台頭し、中国でも反米ナショナリズムが台頭しているのは非常に危険なことです。米国における中国バッシングが中国国内での中国ナショナリズムに利用されています」(ATTAC関西グループのブログより)。
この枠組みの中で、共和党と民主党主流の間には気候危機関連のエネルギー政策をめぐる対立以外では大きな違いはない。外交政策においては対ロシア、対北朝鮮などでむしろ民主党主流の方が強硬で、好戦的である。トランプが極右的な愛国主義と白人優位主義を強めれば強めるほど、民主党主流は国内の社会的分裂を回避するためにトランプに対してますます宥和的な姿勢に傾くだろう。ウォール街や有力ロビーからの信頼を得るために、党内左派やブラック・ライブズ・マターなどの社会運動の影響を排除しようとするだろう。
これが米国の特殊な選挙制度の狭隘である。同じ階級的基盤に立つ二つの政党しか選択できず、長年にわたって労働者階級の独立的な政治表現が妨げられてきた。今、ファシズムの危機が眼前に迫っている中で、米国の労働者階級と左派はトランプの再選(あるいは選挙の延期や選挙結果の否認)を阻止することと、資本主義の危機に対する真の対案を掲げる独立した階級的な政治勢力として登場することの二つの大きな課題に同時に直面している。トランプの再選は、世界を核戦争や気候変動やウイルス感染による破滅へと導く力を保持する世界最強の国が、さらに四年間、圧倒的にパワーアップされた独裁者の専制下に置かれることを意味する。しかもこの独裁者はイスラエル、ブラジル、インド、英国、オーストラリアと連携して世界の地政学を書き換えようとしている。軌を一にして中国とロシアにおいてナショナリズムの台頭と強権化が進んでおり、宇宙空間や北極まで覆う軍事的緊張が増している。トランプの再選を阻止し、ファシズムへの流れを打ち砕くことに米国だけでなく、世界の未来がかかっている。
トランプ政権の下の四年間、米国の労働者階級と左派はMeToo、ブラック・ライブズ・マターなどの新たな流れと結びつきながら、民主党内でもサンダース議員を支持する大きな流れを形成し、連邦および州の議会にパワフルな左派議員を次々と誕生させてきた。一一月大統領選挙とその前後の決定的な闘いの中で、この流れが資本主義の危機に対する真の対案を掲げる独立した階級的な政治勢力に向かうか否かが試される。   (小林秀史)



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