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    かけはし2020年9月21日号

安倍長期政権退陣の背景を問う


日本政治情勢とわれわれの課題(討論のために)・上

労働者・市民はいかに闘うべきか

@コロナパンデミックと新自由主義=
グローバル資本主義の深刻な危機

 当初、安倍政権や資本家階級やエコノミストのほとんどがコロナパンデミックは四〜五月の二カ月間でほぼ終息して、経済活動は緩やかに回復し、二一年にはGDP(国民総生産)もプラスに急上昇するだろうと楽観主義的な予想を立てていた。その根拠となったのは、コロナ感染拡大が先行した中国の武漢ロックダウンが四月八日に七六日ぶりに解除されたことや、宗教団体による集団感染が発生した韓国での感染鎮静化を目撃していたからであった。
 しかしコロナパンデミックは夏に入っても終息することなく全世界に拡大し、終息の予想すらできない状況になっている。日本でも第二波が猛威を振るっている。
 ILO(国際労働機構)は四〜六月期だけで推定、世界の三億五〇〇万人分の仕事が失われたと発表した。特に石油などのエネルギー関連や鉱物資源が深刻な打撃を受けた。
 IMF(国際通貨基金)はコロナによる二〇〜二一年の経済的損失は世界で約一三〇〇兆円になると試算した。また、財政出動は世界で約一一四四兆円に達すると発表している。米国は三二〇兆円規模の経済対策を実施し、またFRB(連邦準備銀行)は二二年までゼロ金利の継続を示唆し、国債購入も「必要な量」とした。安倍政権は五七・五兆円の経済対策を実施し、日銀は年八〇兆円枠を撤回し「無制限」の国債購入を表明した。EUは九〇兆円規模の経済対策を決めて、ECB(欧州中央銀行)とBOE(イングランド銀行)も国債購入の拡大を決めた。

世界恐慌を超える四〜六月
期のマイナスGDP

 一九二九〜三三年の世界大恐慌で米国は、最大値でGDP三〇%のマイナスと失業率二五%を記録した。その後、三〇〜三二年は三年連続で年四〜五%のマイナス成長を記録している。
今回のコロナ危機で米国は、四〜六月期のGDPが前年同期比で一〇・九七%、年率で三二・九%のマイナスを記録した。。GDPの三分の二を占める個人消費は三四・六%のマイナス(リーマン危機の〇八年一〇〜一二月期で八・四%のマイナス)だった。
EUは一二・一%のマイナスを記録し、年率で四〇・二%のマイナスとなり、年率でドイツが三四・七%、フランスが四四・八%のマイナスだった。
日本は七・八%のマイナスで、年率では二七・八%のマイナスで、個人消費は八・二%のマイナス(オイル危機の七四年一〜三月期では六・〇%のマイナス)、輸出は一八・五%のマイナスで、リーマン危機の〇九年一〜三月期の一七・八%のマイナスを上回った。GDPのマイナスは一九年一〇〜一二月期から3四半期連続となった。
中国は三・二%のプラスだった(一〜三月期は六・八%のマイナス)。

日本経済にもたらした
コロナ危機の状況

 八月六日までに発表があった東証上場企業八七三社(全体の六五・七%)の四〜六月期決算のうち、七五・九%が前年同期比でマイナスとなった(一〜三月期は六一・四%)。特に運輸、レジャー関連は売り上げが消失に近い。一方、「巣ごもり需要」で任天堂が前年比で六・四倍の利益を上げ、日清食品も利益を倍増させた。
東京商工リサーチは一〜六月のコロナ関連倒産企業数は四〇〇一件で、この内、負債総額が一〇〇〇万円以上が三〇四件だったと発表した。内訳は飲食四九、宿泊三九、アパレル三六件などで、東京が七三件と突出している。
厚労省の発表によると、八月末現在でコロナ関連の解雇・雇い止めは五万人超だが、実際はもっと多いとしている。製造、宿泊、飲食、小売り、旅行運送などで拡大した。また失業予備軍であるコロナ関連の「休業者」は四月の労働力調査によると四二三万人。七月にその数は二二〇万人(前月比で一六万人減)と発表しているが、減少した相当数が失業者に移行したか、職探しをあきらめた非労働力人口になっていると考えられる。現在の休業者のうち八六万人が非正規職であり、今後急激に失業者が増えることになるだろう。
財務省の発表によると、一〜六月上半期の貿易収支は二兆二三九五億円のマイナス。輸出は前年比で一五・四%、輸入は同一一・六%それぞれマイナスとなった。

航空業界

 JAL・ANAともに二一年度の新規採用中止を発表した(内定は取り消さないとしている)。
JALの四〜六月期決算は九三七億円の赤字を計上した(前年は一二九億円の黒字)。赤字額は経営破綻前の〇九年四〜六月期の九九〇億円に次ぐ規模。売り上げは七八・一%減で、旅客収入は国際線で九七・九%、国内線で八五・一%それぞれ減少している。国際線は九割が減便のままだ(現在一五九カ国・地域との渡航が禁止されている)。
ANAも同期一〇八八億円の赤字を計上した。六月までに計一兆円の融資を確保していたが、さらに五〇〇〇億円の調達に向けて日本政策投資銀行とメガバンク三社と協議を始めている。毎月六〇〇〜七〇〇億円の支出が発生していて、社員の一時帰休対象を四万三五〇〇人まで拡大した。保有機の退役など構造調整を強いられている。また国際線を統合して「一社化」にすることも検討されている。

JR各社


JR東の二〇年四〜六月期の決算は一五五三億円の赤字を計上した(前年は九一五億円の黒字)。これは東日本大震災後の一一年一〜三月期の六一四億円の赤字を上回る過去最高となった。鉄道事業は航空と同様に人件費、車両・設備関連費などの固定費の割合が高い。売り上げは五五・二%のマイナスで、新幹線は八割超のマイナス。ホテルやデパート業も苦戦している。
JR東海の同期の赤字は七二六億円になった(前年は一三一三億円の黒字)。売り上げは七二・七%のマイナスで、新幹線は八四%のマイナスを記録している。
JR西の同期の決算は七六七億円の赤字になった(前年は四二五億円の黒字)。「会社発足以来の最大の危機」として、人件費・広告費など五〇〇億円の経費削減をするとしている。
JR九州の同期は五一億円の赤字で(前年は一二三億円の黒字)、七月の九州豪雨の処理もあり経営はさらに苦しくなる。

自動車業界


自動車の国内売り上げ台数は、昨年一〇月の消費税率引き上げ後から九カ月連続で前年比のマイナスを記録してきた。トヨタの四〜六月期の決算は一五八八億円の黒字(前年比で七四・三%のマイナス)で、売り上げで四〇・四%のマイナスを計上した。またコロナの影響で八一〇〇億円の利益が吹き飛んだが、中国市場の回復に救われている。
他社の同期の決算はホンダが八〇八億円の赤字、日産が二八五五億円の赤字、マツダが六六六億円の赤字、三菱が一七六一億円の赤字などとなった。特に日産が深刻である。日産はゴーン時代の過剰設備投資(約三割が過剰)による負担が重くのしかかり、コロナ前から経営が悪化していた。すでにみずほ銀行・日本政策投資銀行などから約八〇〇〇億円の融資を受けているが、政投銀から受けた一八〇〇億円の融資のうち一三〇〇億円に政府の保証がついた。日産がこれを返済できずに経営破綻すれば、保証分の八割にあたる約一〇〇〇億円を政府が税金で負担するということになる。過去にも〇九年にJALが経営破綻して、四七〇億円の税金による負担が発生している。
また金融関連もコロナの影響を受けている。大手銀行五グループの四〜六月期決算は、全グループで四四二二億円の赤字を計上した(前年同期比で四七・八%のマイナス)。企業倒産で不良債権が増えたのが要因だ。六月末での貸出金は全グループで三三七兆円で、三月末から四・四%増えている。金融業界は五月以降の中小・零細企業に対する「無利子・無担保融資」は国の保証(無利子期間三年・元金返済猶予期間五年)があるが、二三年以降にも企業倒産の拡大と大企業の経営破綻を含んだ大型の不良債権が発生するのではないかと警戒している。そうした状況が拡大すれば、現在のコロナ産業危機は金融危機に転化することになるだろう。

A第二次安倍政権の崩壊とその結末
―― 安倍官邸主導政治の終焉


八月二八日、安倍晋三首相は首相官邸で記者会見を行い辞任を発表した。持病の潰瘍性大腸炎の再発を「辞任の理由」としているが、歴代最長政権の樹立をレガシーに、出口の見えないコロナ危機で火だるまになる前に政権を投げ出して逃げ出したというのが本当の理由だろう。
同時にそれは、内閣人事局(一四年五月に内閣官房に設置され、府省庁の事務次官や局長らの人事を首相や官房長官が主導して決定する)の権力をもって維持されてきた官邸主導の「安倍一強」独裁政治の終焉を意味している。
官邸主導の安倍政治は霞が関全体が官邸の下僕・下請けと化して、内閣官房へ出向くことが官僚の出世コースとなった。それにとどまらず森友問題では官僚が政権私物化にまで奉仕させられ、一方では無能呼ばわりされるなど、官僚のプライドは傷つけられて耐え難いほどボロボロになっていたのである。安倍は権力維持のために人事権をフル活用してきたが、コロナ危機への本格対策を前にして官僚の気分は「安倍とはやってられない」と、自分たちをフル活用してくれる首相待望論に大きく傾いたのであった。
首相官邸政治を主導してきたのは経産省出身で「鬼番頭」の今井尚哉首相秘書官兼首相補佐官と「大番頭」の菅義偉官房長官だった。今井は経産政策局長と内閣官房幹部を併任する新原浩朗や広告大手の電通と手を組みながら、アベノミクス成長戦略の看板政策を取りまとめてきた。今井の発想は世論対策優先でもっぱら内閣支持率を上げようとすることだった。今井は権威をかさに官僚を怒鳴り散らして実権を振るう典型的な「鬼番頭」であった。
医療・保育・介護など多々あるエッセンシャル・ワーク(必要不可欠な労働)に重大な混乱と打撃を与えた全国一律の一斉休校要請と、税金の無駄遣いだと総すかんを食らったアベノマスクの全国配布は、今井らの発案だった。この愚策で今井は致命的な墓穴を掘ってしまったのである。菅は初期のコロナ対策決定過程からははずされていたのだが、「GoToトラベル」を主導することになった。菅の論理は自殺者の増加を例にあげながら、「命より経済」ではなくて「経済こそ命」だとするもので、コロナ対策の政府方針を完全に転換させてしまった。

アベノミクス
の破綻


第二次安倍政権の最大の課題は、一九九七年から続く長期の「デフレからの脱却」だった。様々挙げられたスローガンのそのほとんどが看板倒れとなったが、「アベノミスク」の狙いは年率二%の官製インフレを作り出すことであった。そのために毎年最大八〇兆円の国債を発行して日銀がそれを買い支えて、市場に現金を拡大させるというものであった。
日銀は白川の時代から国債を購入していたが、黒田に替わった一三年四月から国債の大量購入を始めた。「ベースマネー(資金供給量)を二六〇兆円増やして二倍にすれば、インフレが起こり二%目標は数年で達成できる」と考えた。また一六年九月には一〇年物国債の金利を〇%に固定した。しかし、インフレどころか「デフレからの脱却」もまったく実現できなかったのである。
失敗した原因は明らかである。超低金利によって企業の資金借り入れコストが低くなったために、企業や小売業が低価格競争を継続できる経済環境が生み出されたことである。また政策金利が下がると家計に行く利子が消えて、逆に企業の借入金利が下がるために所得は家計から企業に流れる。こうして企業は内部留保金をため込んだのである(一二年の三〇四兆円から一八年には四六三兆円に増加)。日本は米国やEUよりも早い時期から超低金利政策を続けてきた。二〇年近く日本の企業はぬるま湯につかり続けてきたために、まさにインフレにシフトしない構造になっていたということである。
また一九九七年以降、労働者の実質賃金はほぼ横ばいか緩やかに低下している。その最大の要因は非正規職の増加である。全労働者総数に占める非正規職の割合は、九七年に二三%だったのが一八年には三八%にまで増加している。その間、労働生産率は二〇%ほど上昇していて、その利益は企業と株主の懐に入っているのである。安倍政権最初の五年間で企業の経常利益は七三%増加し、株主への支払配当金は六六%増加している。その間、支払人件費の伸びは五%(消費者物価は四・三%上昇)にとどまった。労働分配率(人件費の割合)は七二%から六六%に低下している。
アベノミクスによる金融緩和と財政出動によって円安となり、また世界的な「カネ余り」が拡大して輸出関連企業などの株価はうなぎ上りになった。第二次安倍政権発足時から株価は二・四倍に上昇した。しかしその実態は日銀や公的年金積立金を運用する独立行政法人(GPIF)による大量の株購入である。巨額の「公的マネー」が日本の株を購入して株高を下支えしているのである。まさに現在の株価は政府と日銀が主導する「官製相場」なのである。
本来はインフレやバブルを抑制する役割を果たさなければならないはずの中央銀行としての日銀が、「株バブル」を作るという異常な状況が続いてきたのである。現在、日銀が保有する国債は三月末時点で四八五兆円で、それは国債発行高の約四六%であり、これにコロナ対策費を加えるとGDP比で一〇〇%を超えて、国債の半分以上を日銀が保有していることになる。
財政法では日銀が政府から直接国債を購入する「財政ファイナンス」を禁じているが、日銀は政府から市場に売られた国債に一%の上乗せをして購入するという手口で法を逃れている。こうしたことが無制限に続けば通貨が下落して、ハイパーインフレが起こるとされている。また下落した円をドルに替えるなどして日本から資金が逃げ出すとも指摘されている。例えば日本のGDPをドル建てでみた場合、一二年は六・二兆ドルだったのに対して一六年は四・九兆ドルと、約二〇%減少しているのである。これは円がドルに対して安くなったからに他ならない。一九年に三一八八万人を記録したインバウンドの拡大は、「日本が安くなった」ことを背景としているのである。
こうして借金地獄とゼロ金利地獄の「泥沼」にはまってしまった日本資本主義は、財政・金融ともに破綻状態の重症なのである。それに超少子高齢化と人口減少という地獄が加わり、そこにコロナ危機が襲いかかったのである。
第二次安倍政権は法人税(三七%から二九・七四%まで引き下げた)と金持ち所得減税、そして消費税率の二度にわたるアップ(五%から一〇%)はしっかりと実施している。また七月の内閣府の発表によると、一二年一二月から続いた景気拡大期間は一八年一〇月に終わっていた。それは七一カ月という長期に及ぶものではあったが、成長率は年平均で一・一%ほどであった。「昨年一〇月の消費税増税で景気低迷が鮮明になり、それにコロナが追い打ちをかけた」としている。

安倍外交はど
うだったのか


第二次安倍政権が力を入れてきた外交も、米国第一主義の政策をとるトランプ政権の登場などもあって総崩れになったと言わなければならない。とりわけトランプが仕掛けた米中貿易戦争と新冷戦のはざまで、地政学的に板挟みとなったのが日本と韓国であり、若干意味合いが違ってくるかもしれないが香港・台湾もその影響を受けている。ここでの安倍外交はトランプのご機嫌伺いをしながら、一方では中国とは本気でケンカをしたくないというスタンスであった。しかし次の大統領選で仮にバイデンに代わったとしても、米国の対中強硬政策は変わらない。それは米中平和共存体制が崩壊して、新しい危機の時代が始まっているからであり、次の世界覇権をかけた非和解的な戦いだからなのだ。
一方、中国との関係は米中対立が深刻化するなかで、日本との関係を悪化させたくない中国の対日政策に救われた格好になっている。一九年の日本の対中輸出入額は三三兆一三五七億円で、全体の二一・三%を占めた。中国進出企業は一万三六〇〇社で、対中関連ビジネス企業は三万社以上である。韓国は対中経済関係や朝鮮との関係も考慮しながら中韓首脳会談を呼び掛けるなど、より積極的な対中政策を打ち出している。その背景にはTHAADミサイルの配備をめぐって中国から受けた手痛い報復措置の経験があるし、現在の深刻な日韓対立も抱えているからだ。
安倍外交はTPPからの米国の離脱、北方領土をめぐるロシアとの外交、原発と石炭火力発電を世界的に売り込む外交、朝鮮の核・ミサイル開発と日本人拉致問題の解決、軍隊「慰安婦」や徴用工問題での韓国との対立の激化などことごとく失敗している。拉致問題などはすべてがトランプ頼みで、そもそも自身の手で解決する気などなかったのだろう。また韓国との関係も「和解の道」を探ることなく、旧宗主国というメンツから対立を煽っている。その背景にあるのは「日本はアジアのNO1でなければならない」とする時代遅れのナショナリズムである。GDPではとうの昔に中国に追い抜かれ、一人当たりのGDPも半導体やスマホの開発・製造などで成長してきた韓国と台湾に今にも追いつかれようとしている。近隣諸国との友好的な関係を築こうとしてこなかった安倍外交は、独り相撲とトランプ追従に終始するしかなかったのである。

軍事政策


弾道ミサイルの能力向上によって、米国のミサイル防衛戦略の限界が露呈した。現行のイージス艦八隻体制とパトリオットによる二段構えのミサイル防衛体制の見直しが迫られている。「敵基地攻撃能力の保持」を抑止力としようとしているが、その発想方法は核武装による抑止論と一体である。宇宙戦・サイバー戦・電磁戦などの新分野にも力を入れようとしている。また東中国海における対中国封じ込め政策として、岩国と佐世保を本土拠点として沖縄を始めとする琉球列島でのミサイルとレーダー基地建設を着々と進めている。しかし自衛隊の抱える最大の問題は、圧倒的な人員不足である。F35を一〇〇機買っても乗る隊員がいないのが現状だ。コロナ危機による不況と失業の増加は、隊員獲得のためのリクルートのチャンスだと思っているに違いない。      (つづく)
(高松竜二)



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