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    かけはし2021年1月1日号

事故の過小評価を許さない


福島第1原発

燃料デブリ即時取り出し方針の転換を

原発と民主主義は両立せず!

米国ハンフォードに学んで復興?

 福島第一原発廃炉工事の過酷な現実を矮小化する福島県でのシンポジウムや国際会議などの企画が連続的に開催されている。昨年1月の「ハンフォードに学ぶ浜通りの復興・創成国際シンポ」に続き今年1月25日にも「米国ハンフォードの知見に学ぶ福島浜通りの復興創生」がいわき市の東日本国際大学で開かれる。
 ハンフォードとは、米国西海岸最北部のワシントン州東南部のコロンビア河畔にあり、長崎に投下された原爆「ファットマン」や米ソ軍拡競争時代にプルトニウムが作られた場所だ。1500平方キロメートルもあるサイトの地下には約2億1200万リットルもの放射性廃棄物が貯蔵タンクに入った状態で埋められている。さらに中低レベルの放射性廃液や汚染衣服・工具類など固形廃棄物を含めた投棄個所は1400に上る。1989年からは、敷地内の除染事業が始まり1万人以上の労働者が危険な作業に取り組んでいる。その一方で、高等教育・研究機関などが作られ、放射能汚染地区から米国でも有数の繁栄都市となしえた先進事例として喧伝されている。
 「国際シンポ」は、福島原発の廃炉と浜通りでのイノベーションコースト構想による復興と成長が、核汚染の下で可能であるように思わせる舞台装置なのだろう。しかし、ハンフォードサイトの解体・除染が完了するまでには少なくともあと50年が必要で、さらに1000億ドル以上がかかるという。労働者被ばくの増大と深刻化を伴ってである。
 福島原発はどうだろうか。破壊された原子炉にロボット投入のテレビ画像が茶の間に届いてから数年が経つが、その後の前進の報は途絶えている。今、汚染水の海洋放出の理由に貯留タンクが廃炉作業の邪魔になることを経産省は上げても、いつどのように邪魔になる日が来るのかを示せてはいない。ロボットテストフィールドや廃炉資料館、伝承館、など巨費を投じた施設や研究センターをつくっても、避難住民は戻ってこないし、小中学校の休校・廃校は増えるばかりだ。私たちは、こうしたシンポの欺瞞性を逐一明らかにしていく必要がある。

惨事便乗型ビジネス

 もう一つは、国際放射線防護委員会・日本原子力研究開発機構が主催するオンライン国際会議(2020年12月開催)だ。会議のテーマは「東京電力福島第一原発事故の教訓等」と打ち出したが、「事故発生の為の防御をしても事故は発生する。しかし福島やチェルノブイリの経験の伝承は将来原発事故が発生した場合の復興の原動力となる」を大意とする宣言を採択した。
ここには現在福島で実行されている攻撃の意味が含まれている。原発利用維持を図る勢力(東京電力・政府・国際放射線防護委員会等)は、福島原発事故を奇貨として、原発推進政策に利用する意図の下施策を実行しているのである。
その陰で廃炉工事作業員の被ばく線量の上昇が発生しており、現行廃炉工程の見直しが迫られているはずである。しかしそれだけではない。地下水汚染、人体への影響等の事故の被害は調査もなく無視されているのである。廃炉に向けた「国立研究法人」建設も打ち出されているが、それも惨事便乗ビジネスの一部である。

怒る県民、海洋投棄に固執する菅政権


菅政権は10月28日に予定していた汚染水の海洋投棄の閣議決定を延期した。もちろん、海洋投棄を撤回したのではなく反対の声が鎮静化するのをうかがっているのだ。脱原発県民会議が呼びかけた経済産業省宛の汚染水放流反対署名は昨年末時点で44万筆を越えた。
同会議は12月6日には、奥田修司審議官(原子力災害対策本部、廃炉・汚染水対策チーム廃炉・汚染水対策官)を招きトリチウム水放出問題の説明会を開催した。新地町の漁師小野さんが「9年も我慢してやっと本格操業の時に放出するのはやめよ」と訴えたのをはじめとして17人が質問に立った。
今回の資料として配布されたものは、従来とほとんど同じものだった。処理水の中の核種についての記述がなく、再浄化が必要な処理水の「フィルタの不具合などにより処理できなかったもの等」の100倍〜2万倍の2万倍が削除されたままだったので、「意見交換をしても方針や説明内容への反映がなされていない」「今回どのような立場でこの説明会に来ているのか」と問う声が出た。「経産省の立場として来ていて方針に反映させる」とは言っていたが、ガス抜きの意図も見え隠れしている。
ただし、奥田審議官が、2015年8月25日の「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わず、多核種除去設備した水は発電所敷地内のタンクに貯蔵いたします」との東電回答及び同様の経産大臣回答について「国も認識している」と認めたことは成果であった。「関係者」に福島県民全員を含めるかどうか、意見交換会を県内各自治体で開催をとの要求に対しては明言しなかった。

隠蔽、無責任、利益第一主義打破へ

来る1月31日には、「これ以上海を汚すな市民会議」よびかけによる「どうなっちゃうの福島の海 市民の目で見る汚染水」と命名した「漁業協同組合員と市民の対話集会」が予定されている。汚染水問題には、福島第一原発事故を契機として世に知らしめた、東京電力・政府の諸問題が内包されている。それは「隠蔽体質」「無責任体質」「利益第一主義」の3点であり、事故後も改まることがなく継続している。
政府東電が虎視眈々と狙っている放流水の呼称がまず隠ぺい体質を示している。東京電力は経済産業省が主催した「対策委員会」の会議に当初タンク保管水が含む核種をトリチウム以外を小ポイントの文字で記す小細工をした。そしてこの問題が指摘されるまでトリチウム水と表記し後に処理水と改めたのである。正確に呼称するなら処理水は汚染水なのである。
現在も「処理水」表記は継続している。また、東京電力はタンク保管水(汚染水)の前処理方針を打ち出している。前処理とは放射性物除去工程の繰り返し及び希釈だ。しかしデータの正確性はここでは担保されていない。すなわち放流水は、依然として東京電力またはその関連会社による計測なのである。
放流(海洋投棄)の責任の所在を曖昧にしていることに、無責任体質があらわされている。東京電力は「政府の方針に従い」とし、政府は、「実施は東電」としている。本来汚染水問題は原発事故により生じたので一義的には責任は東京電力にあり、政府には監督義務が存在している。双方共責任は免れ得ないのである。
そして汚染水の海洋投棄選定の理由「最も安価」は利益第一主義であり、環境破壊の致命的欠点である。眼前の利益への拘泥が後の大損害に対する想像力の欠如及び無視と併存している。
東京電力は現前の利益に拘泥し津波対策を行わなかったことで3・11事故を招き、汚染水対策の先送りが問題の深刻化に拍車をかけたという一連の事態から全く学んでいない。汚染水海洋投棄の実施を仮定しても、それは汚染水問題の一時しのぎでしかなく、デブリの冷却水との接触及び炉内への侵入水を止めない限り汚染水の増加は続くのである。

廃炉完了に多くの難問

汚染水問題は今後も続く被災者への攻撃の形をも暗示している。それは廃炉完了を口実としている。しかし廃炉工事の完了には幾つかの疑問点が存在している。第1には工事の完了時の姿(サイトの景色)が描かれていないことである。
そして第2には廃棄物(核汚染物質)の処理である。工事の進行によって増加する核汚染廃棄物の処理もまたデブリ除去問題に劣らない難関なのである。使用済み核燃料と共に、核汚染廃棄物もまた、「安定的な保管が困難」「搬出先が決められない」等々の難問を抱えている。本来廃棄物の処理方法が定まらないのなら原発の利用は即時停止すべきである。しかし現在進行中の処分先探し等の廃棄物対策の目的は原発利用維持なのである。
原子力学会(廃棄物検討分科会中間報告)は昨年9月「国際基準からみた廃棄物管理」とする文書を公開した。同文書は廃棄物対策として、クリアランス(廃棄物の再利用)・限定再利用(例―サイト内への埋設)・減容化(焼却と分離)等の諸施策の導入を提言している。
これらの施策は国際基準を口実にした安全基準の裾切りを目的としている。また同文書は廃炉完了を口実に、事故炉を「廃炉」、通常炉を「廃止措置」とする新たな呼称を提言する共に「廃炉」工事の完了時について規程の導入を併せて推奨し、それを「エンドステート(最終目的地)」としている。
そして同書はエンドステートに至るまで幾つかの工程を想定している。またそれぞれの工程について、各々の工程による幾つかの過程に至るまでの、所要年数を算定している。その一例では、解体を地上部分に留め、その部分の撤去及び除染が終了するまでの所要年数を100年。サイト内の一部が利用可能になるまでに300年と想定している。しかもこれとて計算の前提は、40〜50年後のデブリの全量回収実現である。正しく廃炉の最終形の見通しは非常に長期的なのである。
現実を無視した廃炉工程の矛盾は原発廃炉作業員へ転嫁されている。福島第一原発における2018年度労働者被爆人数は1万708人に上り約9割が下請け労働者である。(平均1_最大は下請け19・6_)それは2位の高浜原発5086人の2倍という正に大量被ばくである。(出典「脱原発情報」558号、2018年度発電用原子炉における労働者被爆データ)、現在遂行されている方針(即時デブリ取り出し)により廃炉作業労働者は大量被ばくを強いられているのである。

許せない現実を歪曲美化する研究


こうした現実をよそに廃炉工事の過酷な現実をも歪曲し美化する試みも又進行している。昨年1月「ハンフォードに学ぶ浜通りの復興・創成」とする国際シンポジウムはハンフォードを核汚染から有数の発展と評価した。そして7月末福島イノベーションコースト構想促進事業として東日本国際大学福島復興創成研究所は訪米した。
訪問団の報告書は「ハンフォード」地区の汚染の経過を、プルトニウム精製の継続(マンハッタン計画から冷戦期まで)と指摘する。汚染の原因は日常の作業によるものとする一方、事故及び被害についての記述はない。専らの関心は復興に向けられ、過去の放射能汚染地域から、現在では、全米でも有数の繁栄都市(全米で6番目の人口増加率、全米312都市の中で最高の雇用上昇率)と評価。その要因として「平等」透明化・地元中小企業優先活用ルール化等を挙げ、「福島でも横の連携機関・産官学のコーディネーター役が必要」と提言までしている。
被害の現実に注ぐ視点は欠落している。他方「犠牲区域」のアメリカ(岩波書店)はハンフォード訪問団報告への根本的な批判を加えている。同書は、この地域について、ハンフォード地区は砂漠地帯にあって3本の河川交差地域であり、先住民族の聖地であった。この地は先住民族の集団にとって精神的文化的なアイデンティティの一部であり他の部族との交流交易を行う大事な場所でもあった。「1945年アメリカ空軍による意図的に放射性物質を空中に放出する人体実験の暴挙」との告発は、「汚染の原因は日常の作業との報告」への反論であり、シアトルのダウンタウン在住弁護士発言「核開発と民主主義は両立しない」は訪問団の報告が復興の要因として指摘する「平等・透明化」が虚構に過ぎないことを示している。
福島原発事故被害の矮小化を許してはならない。福島原発廃炉工程表を見直せ。燃料デブリ即時取り出し方針は転換せよ。(浜西)



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