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    かけはし2021年1月25日号

国民議会への国民の期待は消失


ベネズエラ

選挙の幻想

チャベス主義での統合は不確か

パトリック・ギローダット

危機の中での国民議会選挙


  2020年12月6日、ベネズエラの国民議会(AN)選挙がおこなわれた。2015年以降、国民議会は与党連合(GPP)の敗北を受けて、野党議員が多数を占めてきた。この敗北を克服するために、マドゥロ大統領は2017年に国民議会の役割を果たす制憲議会(ANC)を新たに創設することを決定した。この策略は政治危機をさらに深化させ、右派を過激化させた。右派は制憲議会を独裁であるとして非難した。
 右派の中では、フアン・グアイドとレオポルド・ロペスに率いられたもっとも過激で暴力的な部分が優位に立って、フアン・グアイドは2019年1月23日にカラカスでの会議中に自らを共和国大統領に任命した。アメリカやフランスなどの帝国主義国は、彼を急いで「正当な大統領」として承認した。
 2014年や2017年と同じように、暴力的な反マドゥロ抗議デモの期間中には、政権と極右野党の双方が強硬な姿勢をとった。
 しかし、壊滅的な経済政策と2015年以降にアメリカが課した制裁が結びついた結果としての経済危機の影響が、国民の最大の関心事となっている。80%近くの人々が貧困の中で生活しており、最低賃金は2013年から19年の間に20分の1にまで落ち込み、GDPも2015年以降に目まぐるしく低下したことで、ベネズエラの人々は飢えと悲惨さを経験している。これとともに、インフレは制御不能となり、2016年の274%から2018年には13万60%まで達し、その後2019年には7374%まで低下した。新型コロナウイルスがこれに加わり、アメリカの制裁により医療機器の輸入が禁止されているため、国民に打撃を与えている。
 政権に反対する野党の動員が止まっても不思議ではない。これは二つの結果をもたらした。一つ目は、野党の一部による政権との妥協の試みである。これに参加したのは、主にベネズエラの歴史的な二つのブルジョア政党、民主行動党(AD)とキリスト教社会党(COPEI)だが、2013年の大統領候補であるエンリケ・カプリレスが率いる正義第一党(PJ)も部分的には含まれている。

政権、右派、左派の選挙対応

 ある出来事によって、マドゥロは反対派を分裂させることができた。それは2020年5月3日のマクトーへの傭兵上陸未遂事件である。この日、マドゥロ政権打倒を目的として数隻のボートが上陸し、すぐさまベネズエラ軍に逮捕された。アメリカの報道によれば、この作戦はアメリカの警備会社シルバーコープがおこなったもので、フアン・グアイドの直属の側近が契約したものだった。
これは、右派の一部にとって、選挙戦に復帰するために当局と交渉する絶好の機会となった。彼らは政権転覆の試みを失敗とみなしたからである。マドゥロは二面作戦をおこなった。つまり、野党の一部と交渉しようとすると同時に、最高裁の力を借りて野党を制圧するという作戦である。数週間のうちに、民主行動党、キリスト教社会党、正義第一党、民衆意思党(VP)だけでなく、みんなの祖国党(PPT)、トゥパマロのようないくつかの左翼政党でも、選出されていた指導部は解散させられ、「融和的」指導部に交代させられた。
これを受けて、すべての右派政党は選挙のボイコットを呼びかけた。ベネズエラ聖公会はこの呼びかけを非難した。カプリレスと政府の間で秘密の交渉がおこなわれたあと、カプリレスは選挙プロセスへの参加を表明した。カプリレスが再び立場を変え、グアイド率いる「タカ派」に加わるためには、欧州連合(EU)の「介入作戦」が必要だった。
しかし、右派の危機は深く、右派政党の多くの指導者が選挙プロセスへの参加を決めた。これに歯止めをかけるため、アメリカ財務省は、選挙に参加したいと発言した複数の野党関係者に制裁を加えることを決定し、2020年9月22日にポンペオ国務長官がそれを伝えた。
これにもかかわらず、約30の全国政党と50以上の地域組織が12月6日の選挙に登録した。これらの組織は選出された指導部を奪いとられた。有権者の選択肢は主に、与党GPP、民主同盟(「歴史的」右派の一部による連合体)、統一ベネズエラ(右派)、左派連合の「民衆の革命的オルタナティブ」(主にPCV[ベネズエラ共産党]、PPT、トゥパマロで構成)の四つの主要連合だった。
ベネズエラ政府は、投票に不正がないことを証明するために、投票が確実に円滑に運営されるようにオブザーバーを派遣するよう欧州連合に要請したが、これは拒否された。これにもかかわらず、ホセ・ルイス・サパテロ(スペイン元首相)をはじめとする200人の著名人がこの呼びかけに積極的に応じた。
選挙プロセスに対抗するために、ボイコットを呼びかけた右派は12月7日から12日まで、インターネットや投票所で「国民投票」をおこなうことを決めた。それゆえ、国民議会選挙が実施されたのは、人口の大部分に影響を与える暴力的な社会危機と右派の混乱をともなう政治危機を特徴とする状況の中においてだった。

独立した左派も厳然と存在

 考えられていることとは逆に、ベネズエラ左翼は、マドゥロのベネズエラ統一社会党(PSUV)や、PSUVおよびそれに付随するいくつかのグループを統合したGPPだけという訳ではない。左翼は[それ以外にも]存在しており、多くの場合PSUVの元メンバーで構成されている。
ここで元メンバーというのは、ホルヘ・ジョルダニ(元計画大臣)、ヘクター・ナバロ(元教育大臣)、グスタボ・マルケス(元産業貿易大臣)、アナ・エリサ・オソリオ(元環境大臣)などである。また、さまざまな団体の中に結集した活動家や知識人のネットワークも存在する。たとえば、制憲議会の創設を糾弾するために設立された「憲法防衛市民プラットフォーム」や、「オリノコ鉱業アーチに反対するプラットフォーム」(オリノコは、ポルトガルと同等の面積を持つ経済特区で、国内外の企業による資源開発を促進するために、税金、社会、環境、先住民族の権利が撤廃されている)などである。
この非公式なグループには、マレア・ソシアリスタ[第四インターナショナルと友好関係にある]だけでなく、『アポレア』[ベネズエラの左翼系ニュースサイト]出身のアニメ制作者もいる。マレア・ソシアリスタは、12月6日の選挙での白紙投票を呼びかけていた。
そして、われわれには「民衆の革命的オルタナティブ」(APR)がある。2020年8月11日に設立されたAPRは、その要求分野を説明する綱領的なプレスリリースを発表している。それは、第一に帝国主義の侵略と汚職との闘い、次に尊厳ある生活と労働条件のための闘い、最後に民衆的・革命的民主主義の急進化への関与、そして社会主義社会を作り出すことを目標としている。この連合は、労働者・農民・民衆基盤の社会的動員を主張している。APRとマレア・ソシアリスタの間の大きな違いは、APRの声明では政権批判が汚職と闘うという呼びかけに限定されているという事実に主に起因している。
この独立左翼の三番目のアクターは、公営企業や民間企業で闘争をリードする労働組合員と労働者である。経済危機の暴力にもかかわらず、ズリア州の石油労働者、医療、電気、国営石油海運会社(PDVマリーン)、国営ベネズエラ電話会社(CANTV)、フェロミネラ[ベネズエラ最大の鉄鉱石生産会社]などでの闘争など、多くの社会的闘争が全国各地で起こっている。すべての労働者は、生活条件の悪化だけでなく、しばしば政府による唯一の対応になっている労働組合への弾圧を非難してきたが、恣意的な拘留、組合施設への侵入、厳しい刑罰によって中断を余儀なくされてきた。
この左翼は、その違いを超えて、ヨーロッパのチャベス主義信奉者の視野には入ってこない。彼らは、ベネズエラをマドゥロとアメリカとの闘争に限定して理解しているからである。自らの生存のために毎日戦い、右派を代弁者とするブルジョアジーと権力の座にあるボリブルジョアジー[ベネズエラのチャベス―マドゥロ政権によって生み出された新興ブルジョアジー]の両方から自由な社会を夢見ている本当の民衆の姿を見失うことになってしまうのだ。
この見当違いの視点は、特に12月6日の選挙結果を承認するように欧州連合(EU)に求める奇妙なアピールの中に見出される。このアピールには国際的な著名人が署名しているが、その中にエクアドルのラファエル・コレア前大統領(彼は、労働組合・農民・先住民組織がおこなった行動を犯罪視し、テロリズムに同一視し、教員組合の解散を求めたことさえある)やフランスのジャン=リュック・メランションが含まれている。メランションは「過剰な政治的提案」を想起しているが、ベネズエラ政権が強制的に右派政党やいくつかの左翼政党の指導部を交代させたことを忘れている。もしフランス政府が彼の党である「不服従のフランス」指導部を解散させ、それが選挙に参加できるようにするために、彼が候補者になることを禁じたとしたら、メランションは何と言っただろうか?

右派の危機と政権基盤の弱体化


主要野党の指導者が不在で、投票への参加を認められた右派政党が小さなグループでしかないことを考えると、選挙結果についての主な関心事は選挙プロセスに対する国民の支持を確認することだった。新型コロナウイルスの流行が再燃するという特殊な条件のもとで、社会危機・食料危機の只中でおこなわれた選挙であることがわかっていたからである。マドゥロは、これらの再編成された右派政党が、選挙への信頼を高めるのに十分な有権者を惹きつけることに賭けたのだった。
こうした状況の中で、右派は知恵を絞って12月6日以降に「国民投票」を実施することにしたが、「国民投票」の組織化は詐欺的なものである。右派には二つの解答がある。一つは、「国民投票」が国会議員選挙の投票者数を上回る結果を記録することで、議会選挙の違法性を主張できるというものであり、もう一つは、「国民投票」参加者数が選挙の投票者数を下回ってしまい、彼らが不正を叫ぶということである。どちらの場合も、国際舞台では彼らは勝利を収めるのだ。
アメリカの民主党・共和党議員は選挙結果を待つことなく、マドゥロによる選挙の「不正」を非難した。それに先立って、同じような非難が欧州連合(EU)と米州機構(OAS)によっておこなわれた。
12月7日朝、結果はマドゥロにとって冷水のシャワーだった。全国選挙管理委員会のインディラ・アルフォンソ委員長は、最初の声明で、投票率が前回(2015年)の国会議員選挙が74%だったのに対して約31%しかなかったと述べた。
選挙運動の終盤にはPSUVの支持者が動員され、すべての都市で集会が開かれたにもかかわらず、政府が望んでいた50%を超える投票率は達成されなかった。
ちなみに、2015年のGPPの総得票数は562・5万票で、得票率は40・9%だった。2020年にはかろうじて430万票で、投票数の68・4%を獲得し、有権者の21%を占めた。立候補が認められた右派は110万票で投票数の約18%だった。右派は2015年には56・2%を獲得していた。これは、ボイコットの呼びかけが右派支持の有権者の間で広く浸透していたことを示している。APRについて言えば、20万票弱、投票数の2・7%にとどまった。
GPPは第一党に有利な特に複雑な投票制度のため、国民議会を構成する277人の国会議員のうち、250議席以上の安定多数を確保すると予想されている。医療的・社会的な障害が投票率の低さを説明しているが、それ以上に政治的な説明も存在する。近年、政府は動員の難しさを経験しており、GPP候補者を支援するための集会が全国各地で何度も開催されたが、2012年にチャベスが最後の選挙運動をおこなったときのような大規模な集会には遠く及ばないものだった。
政府陣営の動員力の弱さは、とりわけ2017年における右派の暴動の際に際立っていた。数カ月にわたって右派が街頭に進出したのに対して、マドゥロの党は大規模な反対デモをおこなうことができなかった。これは社会的・人道的危機の単純な結果ではない。民衆階級の間では、社会的ニーズを満たしていない政府に対する不信感があるのだ。マドゥロがアメリカによる制裁の影響を永遠に繰り返し語っても、国民を完全に納得させることはできない。というのは、深刻な貧困があっても、そのことによってボリブルジョアジーがシステムから大きな利益を得られなくなることはないからである。
しかし、こうした結果はまた、右派に危機を生じさせた。カプリレスは、2020年12月9日のBBCワールドチャンネルとのインタビューで、グアイドの正当性を疑問視し、いまや「野党は指導者を持っていない」と述べた。彼はボイコット戦略を公然と批判し、野党は「資本をゴミ箱に捨てた」として、戦略を変えなければならない、さもなければその代わりに消滅してしまうと主張した。
今回の選挙によって、マドゥロは確かに全権を掌握し、右派に危機を生じさせた。しかし問題は残っており、この状況の中では、マドゥロが右派に社会的・人道的危機の責任を負わせることは難しいだろう。国民のかなりの部分が依然としてマドゥロを信頼しているとすれば、この部分の有権者は選挙を減るたびに減少していく。政府が決定した新たな経済政策が、ベネズエラ国民をチャベスモ[チャベス主義者]と再統合する方向に進むかどうかは定かではない。

ボリバル革命の成果清算の危険


たとえチャベスモに資本主義に疑問を呈するという目的がなかったとしても、その初期には、民衆ミッションであれ、国営石油会社(PDVSA)の買収であれ、先住民族への権利付与であれ、もっとも貧しい社会階層の利益になるような決定をおこなっていた。これが2007年まではチャベスモの選挙結果が良好であったことを説明している。
しかし、2008年から2009年にかけて、とりわけマドゥロが政権を握るようになってからすべてが変わった。社会プログラムの資金が削減された。そして、経済を自由化し、何よりも下層階級の搾取を加速させるために、二つの重要な法律が可決されたのである。
一つ目は2016年に可決された投資保護法で、右派政権なら誰でも署名できるような法律である(ちなみに右派の野党は反対していない)。二つ目は、2020年10月8日から施行されているより新しい法律、つまり「国家発展および人権保障のための反封鎖法」である。この法律によって、行政機関は、あらゆる分野で「障害を克服し、一方的な強圧的措置によって生じた損害を補償するために」法規範に反することができる。行政機関はまた、すべての医療、社会保障、基本的サービス、必要不可欠な財のために、民間かどうかにかかわらず、あらゆる形態の資金調達を決めることができる。
より広い意味では、この法律の23条では、「国際私法の商業的慣行に特有のメカニズム」にしたがって、すべての公有財産を再編成する可能性を規定し、公営企業や混合企業の財産、経営、機能に関するすべての規則は、行政機関だけで変更可能であることを明記している。また、国際的な民間投資を強化する条文や、公営企業を含む企業における私人の保護を強化する条文もある。この法律は、支配を維持するために、この法律が憲法上の規定および施行されているすべての基本法の規定よりも上位にあることを明記した経過措置を実施している。
これは、説明責任なしに統治するための本当の白紙委任をマドゥロに与えることである。ベネズエラ人が国民議会を選出する気にならないのも不思議ではない。国民議会の役割は、どこか他の場所で決められた決定に拍手を送ることだからである。
2020年12月14日
(パトリック・ギローダットは、人類学の博士号を持つ労働組合活動家。『ウーゴ・チャベスとボリバル革命―社会変革のプロセスの約束と課題』(共著)の著者でもある。2016年にベネズエラに長期間滞在した。)
(『インターナショナル・ビューポイント』1月2日)

 


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