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日本共産党の「政権論」批判 かけはし1998.9.7号

安保問題「凍結」=安保維持打ち出す
「安保検事論者との連合政権」論は村山社会党的右転換への第一歩だ

平井純一

不破委員長のインタビュー

 7月参院選で自民、民主に次ぐ第三党へと躍進し、「総与党構造」に組み込まれなかった事実上唯一の政党としてその存在感を高めてきた日本共産党の新しい「政権論」が大きな注目を集めている。
 初の小選挙区・比例代表並立制の下で闘われた1996年の総選挙での躍進、昨年都議選の勝利と第21回党大会を経て、日本共産党はそれまでの野党に対する「オール自民党政治」という批判を後景に退け、野党共闘の積極的推進者として振る舞ってきた。「消費税を3%に下げる」という一点での自由党への共闘の申し入れや、通常国会会期末に自由党、民主党と共同で内閣不信任案を提出したことなどは、共産党の議会活動の新しいイメージを印象づけた。
 そして、参院選で自民党が大敗した直後には、自民党内政権たらい回しを許さず国会解散・総選挙に追い込むための「選挙管理内閣」を打ち出し、国会での内閣首班指名投票では第一回投票から菅直人民主党代表と記名し、野党共闘に最も積極的な姿勢を示して、この「新しいイメージ」を定着させたのである。
 その上で選挙管理内閣にとどまらない新たな「暫定政権」構想が、不破哲三委員長によって明確化されることになった。その内容は、「しんぶん赤旗」8月25日付の二面分にわたる緊急インタビュー「日本共産党の政権論について――不破哲三委員長にきく」の中で展開されているが、最大の特徴はマスコミでも取り上げられているように「安保条約の廃棄」という共産党の主張を当面「凍結」するということにある。
 参院選の結果を論評した本紙7月20日号1面の文章(「立ち往生する自民党支配体制を追いつめ戦争立法と労基法改悪を阻止する闘いを」)の中で、われわれは「共産党はすでに、『民主党との政権協力』の可能性をも考慮する方向に一歩踏み出しつつある。当面それは『選挙管理内閣』に限定されるだろうがそこにとどまる保障はないのである」とやや慎重に書いた。しかし共産党の動きは、われわれの予測したテンポをも超えて急速である。

安保堅持論者との暫定政権

 不破の言うことを聞いてみよう。不破は、総選挙で自民党が衆院で多数を失えば「日本共産党をふくむ野党の連合政権ということが、政権の一つの方向として、いやおうなしに問題にならざるをえない情勢がすすんでいる」ととらえる。これはその通りである。では共産党は、そうした情勢にどのように対処しようというのだろうか。
 不破は、「民主連合政権」ができない条件であっても一定の情勢の下では「暫定政権」=「よりまし政権」を作ろうというのが共産党の1970年代、80年代を通じた一貫した立場であったと説明し、ただ「こういうよびかけを理論的な提唱としてはうけとめても、政権問題を現実の政治問題として身近にとらえるという問題意識は弱かった」としている。しかし共産党が「孤立」せざるをえなかった力関係は大きく変化した。と言っても、ただちに党が政権目標として掲げている「民主連合政府」を樹立する条件が存在するわけではない。
 「民主連合政府」は、「日米安保条約破棄」が政策的柱の一つになっている。だが「最近の世論調査では……だいたい安保反対の声は三割前後かそれ以下という場合が多い。この面からも、国民の世論がもっともっと成熟してゆかないと、民主連合政府をいまの問題として日程にのぼせうる条件はできない」。また現在国会で、日米安保廃棄の立場に立っているのは共産党以外にはない。「そういう意味では、現在は、民主連合政府を現実にめざす条件が、国民世論のうえでも、政党関係のうえでも、まだないことは明白です」。
 だが「民主連合政権」がいますぐできないからといって、そういう条件ができるまで政権問題にかかわらないという態度を取ることはできない、と不破は述べる。
 「国民の生活や民主主義にかかわる重大な点で、自民党政治を少なくとも部分的には打倒できる、そしてその分野では国民の利益にかなう政策を実行する政府をつくれるという条件があるなら、その実現に積極的に力をつくす」というのが「暫定政権」構想である、と不破は主張する。
 こうした「暫定政権」を実現するには、野党間の「政策共闘」が必要だが、それはまだ本格的には実っていない。「しかし政策体系がちがう政党のあいだでも、国民の利益にかなう一致点というものはありうる」。
 ここで不破は、自由党と共産党が参院選で緊急政策としてともに「消費税の3%への減税」を掲げたことを取り上げ、「こういう一致点は、さまざまな党のあいだで、また減税の問題にかぎらず、金融対策の問題についても、ガイドラインなど安保条約にかかわる問題についても、それを探求できる可能性と条件があります」と述べる。
 「そういう一致点をひろい視野で探求し、その点を共同で追求する、あるいは共同でその実現をめざすという政策共闘は、当面の国会活動のうえで、たいへん重要な意味を持っています。同時に、この政策共闘は、政権連合への地ならしとしても、意義が大きいと思います」。
 ここで最大の問題は、政党としては共産党のみが掲げている安保条約破棄の立場をどうするのか、ということに当然なる。共産党が加わる「暫定政権」は「安保廃棄論者と安保維持・堅持論者とのあいだの連合政権」だからである。
 この問題についての不破の意見は簡単明瞭だ。「政権としては安保条約などの問題での立場や見解の相違は留保する」ということである。「安保条約の問題を留保するということは、暫定政権としては、安保条約にかかわる問題は『凍結』する、ということです。つまり安保問題については、(イ)現在成立している条約と法律の範囲内で対応する、(ロ)現状からの改悪はやらない、(ハ)政権として廃棄をめざす措置をとらない、ということです」。
 つまり安保について「留保」したり「凍結」する「暫定政権」とは、言葉を変えれば現行安保条約やそれにもとづく諸法律を承認する「安保維持政権」ということであり、共産党もそうした政権の成立をめざし、その政権に参加するということなのである。

反安保闘争を抑制する力学

 「安保維持」の「暫定政権」に共産党が加わるということについては、旧社会党が参加した細川内閣や村山内閣で失敗したことの繰り返しにはならないか、という疑問が当然出てくるだろう。この疑問に不破は次のように言い訳している。
 「細川内閣とは、自民党政権の基本政策の継承を方針とした内閣」であり、また村山社会党の場合も「自民党の安保政策に『右へならえ』をして、安保批判の立場を安保堅持政策にきりかえ、日米安保共同宣言や新ガイドラインまで安保改悪路線を自民党と共同で推進してきた」。しかし「安保問題でも、政権として留保するということは、自民党の安保堅持政策を継承するということとは、根本的に違います。そして、この分野でも、現在進行中の改悪が阻止されれば、それが国民にとって『よりましな』役割をはたすことも明白です」。「たとえ暫定政権であっても、私たちが関与するこの政権が、安保改悪政権にならないということを、政権問題でなによりも重視する」。
 そして安保問題を政権として「凍結」するということは、「安保問題の解決を将来にもち越すということ」であり、「日本共産党として、安保条約破棄という方針を凍結するということではありません」とも語っている。
 しかしこれは、「安保維持政権」が「安保堅持政権」や「安保改悪政権」に比べて「よりまし」と言うことを語っているにすぎない。なによりも共産党が安保について「留保」=「維持」する「暫定政権」の政策協定を誠実に追求するということになった場合、党として安保について「留保」するわけではない、という主張は、ほとんど意味を持たなくなるであろう。党はむしろ「暫定政権」の協定を守るために、政権内部や議会内で反安保の主張を引っ込めるにとどまらず、「安保廃棄」をめざす議会外の大衆運動を抑制することになる。共産党が影響力を持つ大衆団体でも、反安保の主張と運動の組織化は無視されることにならざるをえない。
 「暫定政権」が現行安保を維持するものである以上、現行安保そのものに対して闘っている沖縄の反米軍基地闘争などは、共産党も参加する「暫定政権」として抑圧する対象以外のものではなくなっていくだろう。それは「暫定政権」ができてからの話ではない。「安保の問題については留保=凍結」した「暫定政権」を当面の現実的獲得目標とする以上、反安保の主張と運動を抑制する力学は、すでに今日の段階から発動されることになるのである。「暫定政権」をめざす諸政党の政策共闘のために「一致点での共同という問題に、たがいに誠実に対応しあう経験をつうじて、政党間の信頼関係をきずくこと」が自己目的化された場合、反安保がひっこめられることになるはむしろ当然なのである。

今こそ反安保闘争の強化を

 不破は「いま問題になっているガイドラインは、既定の条約にも法律になってもおらず、改悪の作業が進行中で関連立法が国会に提出されている問題ですから、当然『凍結』の対象にはいります」「これは、問題の性質上、かりにこれから自民党政権のもとで強行成立させられるようなことがあったとしても、暫定政権のもとで、そのまま既成事実扱いするわけにはゆかないものです」と述べ、新ガイドラインをそのまま受け入れるわけではないとしている。
 しかし「暫定政権」を構成する政策協定の対象となる諸政党は、基本的に新ガイドラインや周辺事態法案を受け入れている政党である。「安保にかかわる問題」についても一致点を探求できる可能性と条件がある、と主張する不破は、具体的に新ガイドラインや周辺事態法案に関して、民主党、さらには自由党などとどの点で「一致点」を見いだそうというのだろうか。
 自由党は「国際貢献」のための海外派兵をいっそう積極的に推進する立場であり、新ガイドラインについても当然のこととしてそれを支持している。民主党もせいぜいのところ、「周辺事態」が起こった場合の自衛隊の米軍に対する「支援・協力」にあたって「国会承認」を要求する程度である。新ガイドラインや関連諸法案について「そのまま既成事実扱いするわけにはゆかない」というあいまいな言い方は、他の野党の見解を見た場合、「最善」の場合でも「国会承認」を取り付けて米軍への戦争協力を進めるということになるしかないだろう。あるいは新ガイドラインが「憲法と現行安保の枠内」のものであるという主張を追認するものになるだろう。
 もちろん、この「暫定政権」構想が他の野党に受け入れられる可能性は現在のところ、それほど大きなものではない。なによりもこうした構想を受け入れた場合、最大野党の民主党の分裂がもたらされることはほぼ確実であろう。
 しかし、それが他のブルジョア野党に拒否されればされるほど、共産党がその主張を「受け入れられる」ものに変えていくという力学が働くことになる。「現実に政権を担いうる政党」への共産党への路線修正は、いかに共産党が否定しようとも、ブルジョア政治の枠組みを安保・外交政策の分野でも「継承」する方向に導くことになる。それは日本共産党が批判する、NATO軍事同盟を承認したイタリア共産党と今日の左翼民主党の道であり、また村山社会党の道でもある。
 不破は、この「政権論」が「党の路線変更」ではなく、61年綱領策定以後の一貫した方針の継続であると強調している。こうした説明は、党内においても「安保凍結」の「暫定政権」構想への批判が決して少なくないことを示している。
 こうした重大な提起が、幹部会決定でもなく、ましてや中央委員会決議でもなく、委員長個人へのインタビューという形でなされていること自身、「党運営のルール」として異常なものがあると言わなければならない。
 共産党の「暫定政権」あるいは「よりまし政権」論は、ある意味では不破の語るように61年綱領の下で一貫したものであり、資本主義の枠内での「民主的改良」という路線の貫徹である。反安保意識や大衆運動の後退の中で、それをどのように再生するかということではなく、「世論の未成熟」という口実でこの後退の現実を追認し、政権構想をもっぱら選挙主義・議会主義的に純化した結果が、「安保凍結=維持」の「暫定政権」提案となったのである。
 われわれは、日本共産党が総与党化構造に組み込まれてこなかった結果、事実上の「唯一の力ある野党」として大きな躍進を遂げてきたが、それは「ルールある資本主義」という主張に代表されるように「左翼リベラル」に転化する危険性を増幅させるものである、と分析してきた。また共産党を運動的に統制する社会運動の圧力がきわめて弱体であることが、同党の右へのさらなる移行の背景にあるとも捉えてきた。
 われわれは、「安保廃棄」の主張に確信を持って闘ってきた共産党員に訴える。今回の不破委員長インタビューは、長年にわたる反安保の闘いに水をさすものではないのか。新ガイドライン・周辺事態法案の攻撃がかけられている今日だからこそ、そして沖縄の反米軍基地闘争が重大な局面に入っているいまだからこそ、反安保の主張と実践をいっそう強化すべき時ではないのか。そのためにも、「安保凍結=維持」の政権構想、すなわち現状の政治的枠組みの下での「政権担当能力」を自己目的化するだけの構想を批判する論議を積極的に党内外において作りだしていくべきではないのか。
 われわれは、新ガイドライン・戦争立法に反対し、沖縄の反基地闘争に連帯する共同の闘いをさらに広範なものとしていく中から、「反安保の放棄」に反対していくことを共産党の活動家に呼びかけたい。   


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